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緑の雫
リハート男爵は、それこそ飛ぶようにしてプレシュス辺境伯の館にやってきました。
親子のそして祖父と孫との対面は、感動的なものだったようです。
ナオは家族がすっかり落ち着く頃合いを見計らって、応接の間に入っていきました。
部屋には暖かな空気に満ちています。
リハート男爵に知らせたのは、良い結果になりました。
けれど困ったのはこの館の主が不在であることです。
ナオは女主人としてこの場に臨んでいる訳ですけれど、これがロビンにとってはもろ刃の剣になりかねないことである自覚は持っています。
何しろかの君、言ってしまえば国王の隠し子とその母親を、預かっていることになるのですから。
「プレシュス辺境伯夫人。この度は娘をお助けいただきありがとうございました。孫娘との対面まで叶うとは思ってもみませんでした」
リハート男爵は、孫娘のような年齢のナオに深々と頭を下げています。
「リハート男爵さま。私のほうこそお嬢様に助けていただいたのです。今ではリムは私の大切な腹心なので、出来ればこのままお勤めいただきたいのです。お孫さんのココ嬢も一緒に」
リムはずっと修道院に入っていたことになっていましたから、リハート男爵令嬢として正式にナオの側仕えとして勤務することになりました。
けれどもココについてはリハート家としても正式に孫とは認める訳にはいかなかったので、リムの養女として同じくナオの付き人になります。
ナオはリムとココにはしばらく休暇を与えて、リハート家に帰宅させることにしました。
男爵夫人や兄妹たちだってリムやココに会いたいでしょうから。
リハート男爵は、修道院でのリムの扱いが惨いことになっていたことを、全く知らなかったようで、ずっと行方不明の娘を案じていたのです。
リハート男爵がリムを修道院に入れたのだって、王太子妃が誕生するという時期に娘を愛人に出仕させれば。いずれ娘の命は儚くなってしまうだろうと予想したからなのだそうです。
そこまで聞いて、ナオはシャルムの旦那にはココへの支度金として十分な金品を渡して帰宅させ、リムの家族を自分のプライベートルームに招待しました。
「さぁ、この部屋ならどんな内緒話も外に漏れることはないわ。リム。きちんと話してちょうだい。ココのお父さまのこと」
そのことはリハート男爵もココもずっと知りたかったことです。
ナオの予測では、あの見事なエメラルドを下賜していることといい、正式な愛人にすると言ったことといい、かの君は、本気でリムを愛していたのではないかと思うのです。
「私は王宮でのパーティに参加したのは、あの婚約披露パーティが初めてでした。あの夜は王都中の貴族の娘に招待状が届いたのです」
ナオは若き日を思い出すように話し始めました。
「私は婚約者のエスコートでパーティに参加していましたが、途中で疲れてしまって少し外の空気を吸いに外にでました」
「婚約者はちょうどダンスを踊っていたので、目で合図を送って外にでたんです」
どうやらそこに王太子殿下がいたようです。
そうして、それが信じられるかどうかは別として、その場で2人は恋に落ちてしまったというのです。
「なんということだ!」
そこまで聞いてリハート男爵は怒りだしました。
てっきり娘は狼藉の被害者だと思っていたのです。
「リム、お前はなんてことをしたんだ。あのパーティは殿下の婚約披露パーティだぞ。どの口で婚約者のいる殿下に恋をしたなどと言えるのだ」
既に過去のことだというのに、リハート男爵の怒りは収まりません。
「ごめんなさい。お父さま。私が馬鹿だったのです。殿下は婚約は破棄できないけれども、愛するのは私だけだと誓われたのです。そしてその夜、殿下の部屋で私たちは結ばれました。殿下はおばあ様の形見のペンダントを、私に下さったのです」
「なんと! それではあのペンダントは国宝である『緑の雫』じゃないか。600年前の異界渡りの王妃が額飾りとしていた宝玉だ。プレシュス家から王家が譲り受けたとされ、代々の王妃が所蔵する宝玉だぞ」
リハート男爵の言葉に、ココは自分のペンダントを取り出して、真っ青になって見つめています。
「では、私は愛する2人を引き裂いたというのか?」
そのリハート男爵の言葉にリムは反論しました。
「いいえ、もしも殿下の愛人になっても私は幸せではありません。王妃様がこれを知ればどれほど苦しまれるでしょう。結婚前から愛人を作るなんて、いくら何でもあんまりです。王太子は廃嫡されたかもしれません。これでよかったのです。お父さまは私の罪から私を救って下さいました」
でも、もしかしたら王はそうは思わなかったのかも知れません。
愛する娘と引き離されて優秀な弟たちが臣下に下り、プレシュス辺境伯という目の上のたんこぶにはロビンという優秀な男がいる。
王は王位よりも愛を欲っしたのかもしれないのです。
心に別の女性を思っている男と結婚した王妃さまは、なにを思っていらしたのでしょうか?
リムの告白は、重苦しい空気をもたらしました。
娘と会えた喜びを満面にたたえていたリハーム男爵も、今は娘の顔を見たくないという風情です。
「リハーム男爵。過去は変えられません。リムは十分苦しみましたし、ココだってこのような立派な家族を持ちながら、孤児として育ったのです。全ては過去の出来事です。どうか目の前にいる愛しい娘と不憫な孫を見て下さい。過去に囚われるのは愚か者のすることです」
ナオの言葉にリハーム男爵は、のろのろと顔をあげました。
そうして涙に溢れたリムの慙愧の表情と、真っ青になって自分を見つめるココの姿を目にしました。
リハーム男爵は、黙って娘と孫を引き寄せて、しっかりと胸に抱きました。
2人の女も初老の男に、しがみついています。
こうして許しの時間がゆっくりと過ぎていきました。
「これが国宝だとわかってしまえば、到底自分で持っていることなんて出来ません。どうかあるべき場所に返して下さい」
そう言われて『緑の雫』を渡されても、ナオだって困ってしまいます。
もうここまで大きな話は、ロビンにぶん投げてしまおうか?
そう思ったナオですが、ロビンが今どれほどの心労があるか、どんなに激務の中にいるかを思えば、国王の若き日の恋愛沙汰の後始末をさせるわけにはいかないと考え直しました。
結局、ナオは任せなさいとばかりに国宝を預かってしまいました。
ココはペンダントなんてなくても、既に家族と出会えているのです。
ただ一人、自分の父親を除いてですけれども。
リハーム男爵と一緒に、リムとココも里帰りをしてしまいました。
ナオは自分の魔法少女の衣装は、いつになったら出来上がるのかと、哀しくなってしまいます。
そうしてこんな場合に、そんなことを考える自分がおかしくなってしまいました。
「さて、どうしようかなぁ」
ナオは手の平にのこる国宝級の宝玉を見つめました。
国王に返すしかない訳ですけれど、物がものですしね。
国王に非公式に面会なんて出来るものなのでしょうか?
こんな話を表に出す訳にはいかない以上、どうしてもナオは密かに国王に謁見する必要があります。
そうしてナオが頼ったのは、いつものようにロッテでした。
ロッテはナオの頼みを聞くと眉を顰めました。
だって人妻である若い女性が、国王と秘密裏に会いたいというのです。
しかも秘密を黙っているのが一番苦手なはずのナオが、頑として理由を言わないのですから。
それでもロッテは人脈を駆使して、王宮の奥にある庭園の見学を取り付けてくれました。
ナオが庭を見学している時に、偶然に王があらわれてそこに咲いている花を所望し、ナオが花を王に捧げるという趣向です。
ロッテが話術を駆使して、どうやらナオは王に何か渡したいものがあるということまで白状させたので、この方法をとることになったのです。
そうして約束の日時、ナオはしんとした奥庭で、ひとり佇んでいました。
本当に王はやってきてくれるでしょうか?
『緑の雫』を渡したら激怒しないでしょうか?
ドクン。ドクンという心臓の脈動が痛みとして感じられるぐらい、静かな時間が過ぎていきます。
やがて庭園に人影が現れました。
金色の髪と青紫の瞳。
「そこの女、お前の顔の近くにある花は珍しいものだな」
ナオは黙ってそ花を一輪手折り、花に首飾りを掛けて膝まづくと、その花を陛下に捧げました。
陛下はじっと『緑の雫』をみていましたが、するりと受けとると、ナオの横を通り過ぎていきます。
「懐かしい花を得た。この花について少し話を聞きたい。ついて参れ」
ナオは陛下から少し下がって、その後をついていきます。
庭園の全てを見渡せる東屋につくと、陛下は腰を降ろしました。
ナオは東屋の外でひざまずいて、陛下の言葉を待ちました。
「この花はどこで?」
「私は異世界から壁外に落ちました。そこでたった一人で八百屋を切り盛りしていた女人に助けられましたが、その花はその女性の娘御が持っていたものです」
「娘と申したか?」
「はい、女性は修道院で密かに女児を出産しましたが、顔を見ることも叶わず女児は連れ去られました。女性は女児を探して修道院を抜け出しましたが、女児を見つけ出すこと叶わず、壁外で細々と命を繋いでいたのです」
「女児はどこに」
「女性の父によって王都の商人のもとで健やかに育ちました。今は2人揃って父親のところで安息が与えられております。落ち着けば2人は私の側仕えとして勤めてくれることになっております」
「明日、女性の父のもとに、女児の父が訪れるだろう。詫びたいことがあるそうだ」
翌日密かにココは父と対面することができました。
リムと王は静かに語り合っていましたが、そこには恋情はすでになく、ただ懐かしい友情があるだけでした。
王は王妃を愛していると告白し、リムはそれを祝福したのです。
リハーム男爵は、長年の忠誠が認められ伯爵に叙せられ、王宮近くに館が与えられました。
ほどなく神秘的な青紫の瞳を持つレティシア・ココ・リハーム伯爵令嬢が、さっそうと社交界にデビューしたので、リハーム男爵の出世と併せて、ココの出生の秘密は暗黙の了解事項になっています。
そうしてリムはと言えば、ある人物の後妻として嫁いで行ってしまいました。
それは田舎の男爵家でしたけれども、リムには懐かしい場所だったのです。
若いリムは、華やかな場所に目がくらみ美しい王子と恋におちました。
けれども、それはいわゆる若気の至りであったのでしょう。
とっても長い回り道をしましたが、リムの赤い糸はずっと最初の約束の人物と繋がっていたようでした。
ナオの付き添い人は、とうとうまたアンジェひとりになりましたが、友人は一人増えました。
ココが『お話の学び舎』ソサエティーの一員になったので、今やココとナオは顔を突き合わせては、魔法少女の衣装のデザインを考えています。
ココとナオは、この世界にコスプレ風の可愛らしい衣装を流行させたいと考えているのです。
ブランド名は『ココ&ナオ』
いずれ王都の女性たちは『ココ&ナオ』の服に夢中になる筈です。
そしてこの頃から王と王妃の仲睦まじさが噂されるようになり、猜疑心が深いと言われていた王が、和やかな顔をするようになっていったのです。
親子のそして祖父と孫との対面は、感動的なものだったようです。
ナオは家族がすっかり落ち着く頃合いを見計らって、応接の間に入っていきました。
部屋には暖かな空気に満ちています。
リハート男爵に知らせたのは、良い結果になりました。
けれど困ったのはこの館の主が不在であることです。
ナオは女主人としてこの場に臨んでいる訳ですけれど、これがロビンにとってはもろ刃の剣になりかねないことである自覚は持っています。
何しろかの君、言ってしまえば国王の隠し子とその母親を、預かっていることになるのですから。
「プレシュス辺境伯夫人。この度は娘をお助けいただきありがとうございました。孫娘との対面まで叶うとは思ってもみませんでした」
リハート男爵は、孫娘のような年齢のナオに深々と頭を下げています。
「リハート男爵さま。私のほうこそお嬢様に助けていただいたのです。今ではリムは私の大切な腹心なので、出来ればこのままお勤めいただきたいのです。お孫さんのココ嬢も一緒に」
リムはずっと修道院に入っていたことになっていましたから、リハート男爵令嬢として正式にナオの側仕えとして勤務することになりました。
けれどもココについてはリハート家としても正式に孫とは認める訳にはいかなかったので、リムの養女として同じくナオの付き人になります。
ナオはリムとココにはしばらく休暇を与えて、リハート家に帰宅させることにしました。
男爵夫人や兄妹たちだってリムやココに会いたいでしょうから。
リハート男爵は、修道院でのリムの扱いが惨いことになっていたことを、全く知らなかったようで、ずっと行方不明の娘を案じていたのです。
リハート男爵がリムを修道院に入れたのだって、王太子妃が誕生するという時期に娘を愛人に出仕させれば。いずれ娘の命は儚くなってしまうだろうと予想したからなのだそうです。
そこまで聞いて、ナオはシャルムの旦那にはココへの支度金として十分な金品を渡して帰宅させ、リムの家族を自分のプライベートルームに招待しました。
「さぁ、この部屋ならどんな内緒話も外に漏れることはないわ。リム。きちんと話してちょうだい。ココのお父さまのこと」
そのことはリハート男爵もココもずっと知りたかったことです。
ナオの予測では、あの見事なエメラルドを下賜していることといい、正式な愛人にすると言ったことといい、かの君は、本気でリムを愛していたのではないかと思うのです。
「私は王宮でのパーティに参加したのは、あの婚約披露パーティが初めてでした。あの夜は王都中の貴族の娘に招待状が届いたのです」
ナオは若き日を思い出すように話し始めました。
「私は婚約者のエスコートでパーティに参加していましたが、途中で疲れてしまって少し外の空気を吸いに外にでました」
「婚約者はちょうどダンスを踊っていたので、目で合図を送って外にでたんです」
どうやらそこに王太子殿下がいたようです。
そうして、それが信じられるかどうかは別として、その場で2人は恋に落ちてしまったというのです。
「なんということだ!」
そこまで聞いてリハート男爵は怒りだしました。
てっきり娘は狼藉の被害者だと思っていたのです。
「リム、お前はなんてことをしたんだ。あのパーティは殿下の婚約披露パーティだぞ。どの口で婚約者のいる殿下に恋をしたなどと言えるのだ」
既に過去のことだというのに、リハート男爵の怒りは収まりません。
「ごめんなさい。お父さま。私が馬鹿だったのです。殿下は婚約は破棄できないけれども、愛するのは私だけだと誓われたのです。そしてその夜、殿下の部屋で私たちは結ばれました。殿下はおばあ様の形見のペンダントを、私に下さったのです」
「なんと! それではあのペンダントは国宝である『緑の雫』じゃないか。600年前の異界渡りの王妃が額飾りとしていた宝玉だ。プレシュス家から王家が譲り受けたとされ、代々の王妃が所蔵する宝玉だぞ」
リハート男爵の言葉に、ココは自分のペンダントを取り出して、真っ青になって見つめています。
「では、私は愛する2人を引き裂いたというのか?」
そのリハート男爵の言葉にリムは反論しました。
「いいえ、もしも殿下の愛人になっても私は幸せではありません。王妃様がこれを知ればどれほど苦しまれるでしょう。結婚前から愛人を作るなんて、いくら何でもあんまりです。王太子は廃嫡されたかもしれません。これでよかったのです。お父さまは私の罪から私を救って下さいました」
でも、もしかしたら王はそうは思わなかったのかも知れません。
愛する娘と引き離されて優秀な弟たちが臣下に下り、プレシュス辺境伯という目の上のたんこぶにはロビンという優秀な男がいる。
王は王位よりも愛を欲っしたのかもしれないのです。
心に別の女性を思っている男と結婚した王妃さまは、なにを思っていらしたのでしょうか?
リムの告白は、重苦しい空気をもたらしました。
娘と会えた喜びを満面にたたえていたリハーム男爵も、今は娘の顔を見たくないという風情です。
「リハーム男爵。過去は変えられません。リムは十分苦しみましたし、ココだってこのような立派な家族を持ちながら、孤児として育ったのです。全ては過去の出来事です。どうか目の前にいる愛しい娘と不憫な孫を見て下さい。過去に囚われるのは愚か者のすることです」
ナオの言葉にリハーム男爵は、のろのろと顔をあげました。
そうして涙に溢れたリムの慙愧の表情と、真っ青になって自分を見つめるココの姿を目にしました。
リハーム男爵は、黙って娘と孫を引き寄せて、しっかりと胸に抱きました。
2人の女も初老の男に、しがみついています。
こうして許しの時間がゆっくりと過ぎていきました。
「これが国宝だとわかってしまえば、到底自分で持っていることなんて出来ません。どうかあるべき場所に返して下さい」
そう言われて『緑の雫』を渡されても、ナオだって困ってしまいます。
もうここまで大きな話は、ロビンにぶん投げてしまおうか?
そう思ったナオですが、ロビンが今どれほどの心労があるか、どんなに激務の中にいるかを思えば、国王の若き日の恋愛沙汰の後始末をさせるわけにはいかないと考え直しました。
結局、ナオは任せなさいとばかりに国宝を預かってしまいました。
ココはペンダントなんてなくても、既に家族と出会えているのです。
ただ一人、自分の父親を除いてですけれども。
リハーム男爵と一緒に、リムとココも里帰りをしてしまいました。
ナオは自分の魔法少女の衣装は、いつになったら出来上がるのかと、哀しくなってしまいます。
そうしてこんな場合に、そんなことを考える自分がおかしくなってしまいました。
「さて、どうしようかなぁ」
ナオは手の平にのこる国宝級の宝玉を見つめました。
国王に返すしかない訳ですけれど、物がものですしね。
国王に非公式に面会なんて出来るものなのでしょうか?
こんな話を表に出す訳にはいかない以上、どうしてもナオは密かに国王に謁見する必要があります。
そうしてナオが頼ったのは、いつものようにロッテでした。
ロッテはナオの頼みを聞くと眉を顰めました。
だって人妻である若い女性が、国王と秘密裏に会いたいというのです。
しかも秘密を黙っているのが一番苦手なはずのナオが、頑として理由を言わないのですから。
それでもロッテは人脈を駆使して、王宮の奥にある庭園の見学を取り付けてくれました。
ナオが庭を見学している時に、偶然に王があらわれてそこに咲いている花を所望し、ナオが花を王に捧げるという趣向です。
ロッテが話術を駆使して、どうやらナオは王に何か渡したいものがあるということまで白状させたので、この方法をとることになったのです。
そうして約束の日時、ナオはしんとした奥庭で、ひとり佇んでいました。
本当に王はやってきてくれるでしょうか?
『緑の雫』を渡したら激怒しないでしょうか?
ドクン。ドクンという心臓の脈動が痛みとして感じられるぐらい、静かな時間が過ぎていきます。
やがて庭園に人影が現れました。
金色の髪と青紫の瞳。
「そこの女、お前の顔の近くにある花は珍しいものだな」
ナオは黙ってそ花を一輪手折り、花に首飾りを掛けて膝まづくと、その花を陛下に捧げました。
陛下はじっと『緑の雫』をみていましたが、するりと受けとると、ナオの横を通り過ぎていきます。
「懐かしい花を得た。この花について少し話を聞きたい。ついて参れ」
ナオは陛下から少し下がって、その後をついていきます。
庭園の全てを見渡せる東屋につくと、陛下は腰を降ろしました。
ナオは東屋の外でひざまずいて、陛下の言葉を待ちました。
「この花はどこで?」
「私は異世界から壁外に落ちました。そこでたった一人で八百屋を切り盛りしていた女人に助けられましたが、その花はその女性の娘御が持っていたものです」
「娘と申したか?」
「はい、女性は修道院で密かに女児を出産しましたが、顔を見ることも叶わず女児は連れ去られました。女性は女児を探して修道院を抜け出しましたが、女児を見つけ出すこと叶わず、壁外で細々と命を繋いでいたのです」
「女児はどこに」
「女性の父によって王都の商人のもとで健やかに育ちました。今は2人揃って父親のところで安息が与えられております。落ち着けば2人は私の側仕えとして勤めてくれることになっております」
「明日、女性の父のもとに、女児の父が訪れるだろう。詫びたいことがあるそうだ」
翌日密かにココは父と対面することができました。
リムと王は静かに語り合っていましたが、そこには恋情はすでになく、ただ懐かしい友情があるだけでした。
王は王妃を愛していると告白し、リムはそれを祝福したのです。
リハーム男爵は、長年の忠誠が認められ伯爵に叙せられ、王宮近くに館が与えられました。
ほどなく神秘的な青紫の瞳を持つレティシア・ココ・リハーム伯爵令嬢が、さっそうと社交界にデビューしたので、リハーム男爵の出世と併せて、ココの出生の秘密は暗黙の了解事項になっています。
そうしてリムはと言えば、ある人物の後妻として嫁いで行ってしまいました。
それは田舎の男爵家でしたけれども、リムには懐かしい場所だったのです。
若いリムは、華やかな場所に目がくらみ美しい王子と恋におちました。
けれども、それはいわゆる若気の至りであったのでしょう。
とっても長い回り道をしましたが、リムの赤い糸はずっと最初の約束の人物と繋がっていたようでした。
ナオの付き添い人は、とうとうまたアンジェひとりになりましたが、友人は一人増えました。
ココが『お話の学び舎』ソサエティーの一員になったので、今やココとナオは顔を突き合わせては、魔法少女の衣装のデザインを考えています。
ココとナオは、この世界にコスプレ風の可愛らしい衣装を流行させたいと考えているのです。
ブランド名は『ココ&ナオ』
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