ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日

文字の大きさ
25 / 38

魔法少女コスチューム

しおりを挟む
 ナオがココと一緒になって作り上げた、魔法少女のコスチュームがいよいよ完成しました。
 とりあえずロッテとお揃いで作りたかったので、ロッテにお願いして許可を貰っています。

「完成だね」

「完成しましたねぇ」

 ナオとココは出来上がった魔法少女のコスチュームをみて、感無量になってしまいました。

 徹底的にこだわったのはパニエで、チュールをたっぷりと使ってギャザーで膨らみを持たせています。
 しかも見えても可愛いをコンセプトに、レースのフリルが裾部分を覆っていますし、所々にリボンもあしらわれているという凝りようなのです。

 基本色はナオが青みがかったピンク、ロッテは紫がかった水色です。
 どちらの色も薄紫を基調として、ナオはより赤味を、ロッテはより青味を持たせたものなので、色違いではあっても、統一感がでました。

 ふんわりとしたノースリーブワンピースに、騎士服にそっくりな丈の短い上着を羽織る仕様になっています。
 ナオは膝上丈を主張したのですが、こちらでは女性が足をさらす習慣がないので膝丈のスカートになりました。

 生足というのは抵抗感が強いために、オーバニーブーツを着用します。
 このブーツも白で統一しました。

 パニエのリボンや、頭につけるリボンは、それぞれのイメージカラーで揃えました。
 髪形もナオはツインテール。
 ロッテはポニーテールと決めているんです。

 こうして甘辛ミックスの、愛らしい魔法少女のコスチュームが完成したのです。

「うん、後はポージングだね」
 
 ナオがそう言えば、ココは首を傾げました。

「ポージングってなんですの?」

「決めポーズなんだよね。決め台詞だって魔法少女には欠かせないだよ。ただねぇ、かなりくさいセリフになるからロッテがやってくれないかもしれないのよねぇ」

 それを聞いて少し引き気味のココが質問しました。

「ちなみにどんなセリフが……」

「うーん。大地の精霊とか華麗にはばたくみたいに名乗りの前に冠をつける系。それとかご機嫌ななめだわ、お仕置きよ、ショータイム、みたいに相手に覚悟しろって言う系もあるかな」

「……」

「あっ。呪文を唱える系もあるのよ。シャランだのルルルだの、ドレミとかフルルとかその辺適当で」

「それ、本当にいります?」
 
 ココの目はすでに、あきれ返ったものになっています。

「だってね。なんかその方が萌えない? でも私たちの魔法って呪文とか必要ないんだよなぁ。だったら決め台詞。決め台詞だよね」

「ナオ、それ絶対にいらないと思いますよ。」

「だってココ。魔法のステッキだって使わないんだよ。タンバリンも、コンパクトも、スマホもなしなんだよ。変身する訳じゃないから変身呪文も使わないし、決め台詞ぐらい欲しいじゃないかぁ」

 ナオの魂の叫びは、誰にも理解されませんでした。

「ところで、ナオ。この服って、きっと王都で流行ると思うわ。可愛らしいし、実際に陰陽の姫が魔法で活躍すれば、きっとオペラや歌になるだろうしね。なので量産させようと思うの。シャルム商会で。かまわないかしら」

 ココはナオよりも1歳だけ年上でしたから、ちょっぴりお姉さん風を吹かせてそう言いました。

「もちろんだわ。ココ&ナオの最初の作品になりそうね。それが売れれば他のコスチュームも発表できるわ。魔法少女として、私も成果をあげるわね」

 
 さていよいよロビンへの衣装のお披露目です。
 ロビンは魔法少女衣装が出来たら、セディに防御魔法陣をかけて貰うから連絡しろって言ってましたものね。
 だから当然、連絡してもいいんですよね。

 ナオは軍務で忙しいロビンに気を使って、手紙などでも楽しい話ばかり書いてきましたし、相談事や厄介事はなるべく聞かせないようにしてきたのです。

 セディに魔方陣をお願いするのだって、ロッテに頼みさえすれば簡単です。
 けれどもナオはこの魔法少女服を見せて、ロビンとのデートを勝ち取りたかったのでした。


 その日の夜、夕食に間に合う時間にロビンがかえってきました。
 ロビンの顔を見たのは、1ヶ月前です。
 ナオには長すぎる1ヶ月だったのです。

「ロビン、ロビン、ロビン」

 ロビンにまとわりついて離れようとしないナオを、ロビンは笑って宥めました。

「大丈夫だ。今夜は一緒に寝れるからな。時間ならたっぷりあるぞ」

 ロビンにそう言われて、やっとナオは少し落ち着くことができました。
 目を離したらそのままロビンが消えそうで、ずっとロビンの周りをチョロチョロしていたんです。

 ロビンはナオを抱き上げて、ゆったりと膝に座らせました。
 ナオはまるで子供みたいに、何度もロビンの顔を見上げています。

 恋の駆け引きのいろはすら知らないらしいナオは、天然にロビンを喜ばせていました。
 キラキラした目に喜びを一杯に表してすり寄る新妻を、嫌う男がいるでしょうか?

「ナオ、よく頑張ったな。王がお礼を言っていたぞ。あれも色々と拗らせた御仁だが、ようやく素直になれたようだ。王妃がココの後見に付いたそうだな」

「はい、ロビン。勝手にことを進めてごめんなさい。煩わしたくはなかったんです。だって結局は過去の恋愛の遺産ですものね」

 ロビンは嬉しそうにナオを髪をわしゃわしゃと撫でました。
 ナオは迷惑そうに、髪を撫でつけて整えます。

「確かに過去の亡霊に囚われていらしたのだな。王も王妃も」


 そうなんです。
 婚約パーティでの出来事が貴族たちの目に入らない筈はないのです。
 当然王妃さまだって知っていました。

 現王の御世は、だから夫婦の仲も臣下との関係もぎくしゃくとして始まったのでした。
 けれどようやく、過去を清算することができました。

 王妃も王の誠意ある謝罪と愛の告白を受け入れましたし、王も王妃に対して誠実に向き合いました。
 その証として王妃はココの後見を表明したのです。

 こうして王女の身分こそ持たないものの、ココはその高貴な血筋に相応しい扱いを受けていますし、たぶん王妃にとって目障りなリムも、王都から遠く離れた田舎で幸せに暮らしています。
 過去の亡霊は安らかに眠ってしまいました。


「ご褒美をあげないといけないな。ナオは何が欲しいのかな」

 ロビンが突然そんなことを言ったので、ナオは慌ててロビンの膝がら滑り降りてしっかりとロビンの顔を見ました。

 凄いチャンスです。
 ナオはごくんと咽喉をならしました。

「あのね、私と1日一緒にいて欲しいの。ロビンとデートしたいの」

 そう一息に言ったあと、ナオは慌てて付け加えました。

「あっ。忙しければいいの。別に半日でも、無理なら数時間でも……」

 だんだん語尾が小さくなって、それにつれて元気もなくなっていきます。

「いいとも。明日はオフにしてきた。今夜から明後日の朝まで僕は君だけのものだ。連絡も取り継がないように言いつけてある」

 ナオは一瞬耳を疑いました。
 聞き違いでしょうか?
 王国の守護神ロビンが、1日休暇を取るって言ったんですか?

 そのうちようやく間違いなく明日はロビンと1日中一緒にいられると悟ったのでしょう。
 ナオは見たことがないような、純真な笑顔を見せました。

 よほど嬉しいらしく、声も出ませんでしたが、ナオの喜びは見えない尻尾をブンブン振っている犬みたいに明らかでした。

 ロビンはそんなナオが愛しくてたまらないようです。
 そこに執事が食事の用意が出来たと言いに来たので、ロビンがナオの手を取って食卓に着かせてやりました。

 食事をしている間も、ナオは楽し気にココやリムのこと、魔法少女の衣装のこと、ソサエティーの活動のことなどを話して聞かせました。

 ロビンはそれにいちいち頷いてやっていましたが、どうやらとうとう辛抱が出来なくなったらしく、いきなりナオを抱えあげました。

 そうして耳元に小さく囁きました。

「一緒に風呂に入ろう。約束だろ」

 その瞬間ナオは首筋まで真っ赤になりましたが、それでもこくんと頷きました。


 プレシュス辺境伯の館の風呂は、どの離宮でも実に凝っています。
 異界渡りの姫君が、よほどの風呂好きであったらしく、蒸気風呂や岩盤浴まで出来る贅沢使用なのです。

 ナオたちは湯着を身に着けて、さっそく岩盤浴を楽しむことにしました。
 温かな寝床で、ゆっくりと汗をだしていると、心の澱まで流れていくようです。

「ナオ、オレはお前を得てとても幸せだと思っているよ。こんな風にただ女といるだけで心が落ち着くなんてことは、昔のオレには信じられない事だろうなぁ」

「ナオ、お前は素直だなぁ。心のままに行動するなんて貴族としてはデメリットでしかないはずなのに、それでもお前はオレにとって得難い伴侶なんだ」

 ロビンは理屈では貴婦人としての理想から程遠いナオが、自分にとってはかけがえのない伴侶であることにジレンマを感じているようです。

 今までは全てを計算しつくして行動をしてきたロビンにとって、理屈の外にいるナオは不思議ちゃんでしかありません。
 
 それなのに、ロビンはナオの為なら、きっと計算外の行動をとってしまうでしょう。
 その時ナオがロビンの手をそっと握りしめました。

「それはね、ロビン。きっと運命なんだよ。私たちは運命が導いた番なんだよ。だからこんなにも求めあうのかも知れないよ。本当に愛し合っているから、こうして長く離れてても気持ちが変わらないんだよ」

 ナオの運命説にロビンは苦笑しました。
 けれども、心の奥底で納得もしていたのです。

 ロビンはむくりと起き上がって、ナオを促しました。

「さぁ、もう十分に汗をかいた。汗を流しに行こう」

 ナオもこくんと頷いてロビンの手をとりました。
 夜は始まったばかりです。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

処理中です...