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ロビンとデート
ナオの隣にはロビンが寝ていました。
ずっとベッドの半分が空っぽで、そんなベッドはとても寒々しかったのです。
ナオはそっと目をあけて、薄明かりの中に浮かぶ夫の顔を眺めています。
こてんと頭を摺り寄せると、ロビンは眠ったっま無意識にナオを抱きしめてくれました。
おかしいなぁ。
物心ついてからは、ずっひとりだったから、友達が彼氏だの恋だのと浮かれていても、ナオはずっと無関心だったのに。
彼氏なんてひとりで生きることのできない女の避難所、ぐらいにしか思っていなかったのに。
今は隣に愛する人のぬくもりがあるだけで、心がほんのりと明るくなってしまうのです。
もっとぬくぬくしていたかったけれど、ナオは潔くおきだしました。
ロビンにサプライズを仕掛けようと計画しているのです。
今日という一日を、ロビンにずっと笑っていて欲しいから。
ロビンの笑顔が大好きだから。
ロビンを起こさないように、そっとナオはベッドから滑りおりました。
ガウンをひっかけて私室にでると、いつだってナオの共犯者であるアンジェが待ち構えています。
「さぁ、若奥様。大急ぎで湯あみを済ませてしまいますよ」
「ええ、準備は出来ている?」
ひそひそと話しているつもりの2人の声は、ロビンには筒抜けでした。
どう考えたところで軍人であるロビンが、いくら自宅でくつろいでいたって、物音がすれば目を開けるに決まっています。
事が起きれば瞬時に目覚めて、敵に対応する癖が、身体に沁みついているのです。
肉食動物のように、起きた瞬間に頭はクリアになっていました。
これがナオだと朝の目覚めは、ぽやんぽやんしていて、目は開いているのに頭はまだ夢の中にいるような、ぼんやりさ加減なのですけれど。
目を覚ましたロビンは、それがどうやらナオがなにやら企んでいる物音だとわかると、自然に口元がほころんでしまいました。
昨夜だってナオは懸命にロビンに応えようとしてくれて、それがたまらなく愛らしかったのです。
「かわいい奥さんは、あの小さな頭で何を企んでいるのかねぇ。じつに楽しみだ」
ロビンは小さく呟いて、狸寝入りをはじめました。
ロビンが待ちくたびれた時、いきなり明るい7色の光が部屋を満たし、楽し気な音楽が鳴り響きました。
ロビンが思わず起き上がると、明るいライトに照らされてナオは澄まして立っていました。
「レッツ、ショータイム」
そう叫ぶとナオはアップテンポの音楽にのせて、アニソンメドレーを歌いだしたのです。
もちろんすべて魔法少女ものばかりです。
ツインテールがステップにあわせて小気味に揺れていますし、アイドル志望のナオはダンスだってボイトレだってそれなりに積んでいるので、なかなか楽しめるショー構成になっています。
ぶっ続けで6曲を踊り終えたナオは、最後の瞬間に治癒魔法をロビンにかけました。
ナオから水色の柔らかい光が、ぽよよんとロビンにまとわりつくと、ロビンの身体はじんわりと暖かくなり、身体の芯に溜まっていた疲労が溶けていきます。
それを見計らったように、ナオは次の魔法を放ちました。
今度はキラキラとしたシャボン玉のようなものがロビンを取り巻くと、的確にロビンの古傷をみつけだしてそこに集まります。
そうしてシャボン玉の光が消えると、ロビンの古傷は跡形もなく消え去り、心なしか皮膚も艶々としていました。
ナオはどうだ! と言わんばかりの顔をしてロビンを見ています。
ロビンはパンパンと大きく拍手をしました。
「ナオ、すごいねぇ。よくもここまで治癒魔法を自分のものにしたね。これなら実戦で十分に仕えるよ」
その言葉を聞いてナオの顔は、ぱぁっと輝きました。
「じゃぁ、私もロビンと一緒に戦争に連れていってくれるのね?」
ロビンの胸に飛び込んできたナオを抱き上げると、ロビンはクギをさしました。
「ただし、その魔法少女の服にはセディに強固な防御魔法陣を仕込んでもらうから、実戦では必ずその服を着る事。そして防御魔法の出番は、戦闘の最初だけだ。後は肉弾戦になるから防御魔法の出番はないよ。そうなったら治癒チームのいる後方支援部隊に合流するんだ。約束できるね」
ロビンはナオが複合防御魔法を成功させたという報告を受けていましたから、最前線に連れていく決意をしていました。
けれどもナオにかすり傷ひとつ負わせるつもりもなかったのです。
「はい、ロビン。いいえ、司令官殿。ちゃんと命令は守りますわ」
ロビンはちゃっかりと自分の懐に潜り込んでしまったナオに、苦笑いをしています。
「けれどナオ、その服は異世界のデザインなのか? こちらの服よりも動きやすそうではあるな。ブーツも太ももまであるんじゃないか? 」
ロビンはしげしげとナオの衣装を眺めて、脱がしてしまいたそうな様子を見せるので、ナオはあわてて、ベッドから飛び降りると、偉そうにいいました。
「さぁ、だんなさま。お着換えしてくださいね。朝食のご用意が整っていますのよ」
そう言いおいて、自分も着替えの為に部屋を出てしまいました。
入れ替わりに従卒が入ってきて、ロビンの着替えを手伝い始めましたが、どうしても言いたかったらしく手をとめることなく、ささやきました。
「旦那様。じつに健気で愛らしい奥様をお迎えなさいましたね」
「あぁ、そうだな。私もそう思っているよ」
しばらくの沈黙のあと、ロビンの佇まいは、いつも軍人の顔に戻りました。
「それで、動いたか?」
「はい、予想の進路をとっているとのことです」
「ふん、私が前線から退いて新妻に鼻の下を伸ばしているという情報が入れば、先ず間違いなく動くと思ったが、どうやら上手くいったようだ。王太子殿下に連絡を。既に軍はエマージング大草原に集結済み。決戦は3日後。明日午後に転移されたし。エマージング大草原にてお待ちしているとな」
「はっ!」
「それとナオとロッテの衣装をセディに預けて、防御強化を頼んでくれ。セディも婚約者の命がかかっているんだ。さぞかし見事な陣を描いてくれることだろう」
「はい、では明日朝にはセディさまやロッテさまと転移されますか」
「あぁ、敵は王太子やセディが王都にいるので安心している筈だからな。王都の軍勢は1兵たりとも移動していないように見えているはずだから当たり前か。今回の勲功第一はアンバーだ。あいつは良くやってくれたよ」
従卒が全て心得て出て行くと、ロビンはまた柔らかな夫の顔に戻って、ゆったりとナオの待つ部屋へと戻っていきました。
ナオはあの思い出の温室に、朝食を用意して待っていました。
この分だと、今日のデートコースもすっかり決まっていそうです。
「ナオ、今日のデートはどこに行きたいんだね」
「運河を船で巡ろうと思っているんです。私は船に乗ったことがないし、川だと思っていたらあの川は運河だったんですってね。歴史がある運河だと聞いています。王都を出る訳にはいかないでしょうから、ほんの1時間ばかりの川遊びのつもりなんです」
「もう冬だというのに、運河かい? まぁ船室は暖かいからいいだろう。ナオが風邪さえひかなければそれでいい。午後はどこか行きたいところでもあるの?」
「王都の中心から1時間も船で下ると、薔薇の街と言われる赤いレンガ作りの街並みが見えてくるんですって。ですから薔薇の街をぶらぶらと散策していたら面白いところが見つかるかも、と思っていたんですけれど。ロビンのおすすめってありますか?」
「薔薇の街は、占星術師の塔があるよ。星々の巡りくる様子を魔術で天井に映し出してくれるので、それを見学することができるが興味はあるかね」
「まぁ、プラネタリウムがあるんですね。嬉しいわ。私、プラネタリウムが大好きなの。薔薇の街にいくことにしてよかったわ」
ナオがそこまで喜ぶとは思っていなかったロビンは狼狽しました。
なるほど女というものは、奇妙なものが好きなのだな。
そう言えばぬいぐるみのような動物を模した、布切れをありがたがったりもするしなぁ。
ロビンはそんな不埒なことを考えていたとは、おくびにも見せずにいいました。
「それはよかった。実は私も大好きでね」と。
ナオはすっぽりと外套にくるまれてしまったので、まるで動くぬいぐるみのようでした。
ロビンはそんなナオが船の手すりにしがみついて、見るもの聞くもの全てに歓声を上げているのを見て、一体なにが面白いのかさっぱりわかりませんでしたが、ロビンとしてはナオさえ満足ならそれで満足なのでした。
結局ナオは船べりでロビンにしがみついたまま、ずっと景色を眺めていたがりましたが、ロビンがナオの身体が冷えるのを警戒して、無理に暖かくしつらえた船室に放りこむという一幕もありました。
そうしたささやかな小競り合いも、甘い空気を纏ってしまうので、お付きの者たちはプレシュス辺境伯夫妻の仲の良さを微笑ましく見守っています。
「まぁ、ロビン。本当にこのあたりの建物のレンガはバラ色をしているのね。なんて可愛らしい街並みなのでしょう」
「そうだね。ここはもう王都のはずれだ。すぐ先には水門があってそのずっと先は海へと繋がっているんだよ」
「海と言えば、プレシュス辺境伯の領土にも海がありましたね。こんど領地に戻ったら、是非港町にも連れていって下さいね。私は港町で生まれたんですよ。育ったのはここでいえば王都なんですけれどね」
ナオの言葉を聞いて、そう言えば母上がナオは海が好きなようだと言っていたなと、ロビンは思い出しました。
「もちろんだよ、ナオ。今度は海を見にいこうね」
薔薇の街は歴史ある街らしくその佇まいは落ち着いていて、そこかしこにある店にも歴史に裏打ちされた個性が滲み出ています。
ナオとロビンは寒かったので、クリームシチューをパイで包んで焼いたものを昼食にしました。
ぐつぐつと煮えたシチューをはふはふと食べると、食事を終えるころにはすっかり身体が温まっています。
そうして訪れた占星術師による星巡りのショーは、季節外れのせいで、ロビンとナオの貸し切りでした。
映し出される星空を見ながら、いつしか2人は引きあうように口づけを交わしていました。
「なるほど、確かにプラネタリウムと言う奴はデートに最適だな」
ロビンはようやく得心したというように呟きました。
「ねぇ、ロビン、何か言った?」
ナオが聞きとがめると、ロビンはグイっとナオを引き寄せていいました。
「君を愛してるって言ったのさ」
そうして2人は星空なんて、もう見てはいませんでした。
ずっとベッドの半分が空っぽで、そんなベッドはとても寒々しかったのです。
ナオはそっと目をあけて、薄明かりの中に浮かぶ夫の顔を眺めています。
こてんと頭を摺り寄せると、ロビンは眠ったっま無意識にナオを抱きしめてくれました。
おかしいなぁ。
物心ついてからは、ずっひとりだったから、友達が彼氏だの恋だのと浮かれていても、ナオはずっと無関心だったのに。
彼氏なんてひとりで生きることのできない女の避難所、ぐらいにしか思っていなかったのに。
今は隣に愛する人のぬくもりがあるだけで、心がほんのりと明るくなってしまうのです。
もっとぬくぬくしていたかったけれど、ナオは潔くおきだしました。
ロビンにサプライズを仕掛けようと計画しているのです。
今日という一日を、ロビンにずっと笑っていて欲しいから。
ロビンの笑顔が大好きだから。
ロビンを起こさないように、そっとナオはベッドから滑りおりました。
ガウンをひっかけて私室にでると、いつだってナオの共犯者であるアンジェが待ち構えています。
「さぁ、若奥様。大急ぎで湯あみを済ませてしまいますよ」
「ええ、準備は出来ている?」
ひそひそと話しているつもりの2人の声は、ロビンには筒抜けでした。
どう考えたところで軍人であるロビンが、いくら自宅でくつろいでいたって、物音がすれば目を開けるに決まっています。
事が起きれば瞬時に目覚めて、敵に対応する癖が、身体に沁みついているのです。
肉食動物のように、起きた瞬間に頭はクリアになっていました。
これがナオだと朝の目覚めは、ぽやんぽやんしていて、目は開いているのに頭はまだ夢の中にいるような、ぼんやりさ加減なのですけれど。
目を覚ましたロビンは、それがどうやらナオがなにやら企んでいる物音だとわかると、自然に口元がほころんでしまいました。
昨夜だってナオは懸命にロビンに応えようとしてくれて、それがたまらなく愛らしかったのです。
「かわいい奥さんは、あの小さな頭で何を企んでいるのかねぇ。じつに楽しみだ」
ロビンは小さく呟いて、狸寝入りをはじめました。
ロビンが待ちくたびれた時、いきなり明るい7色の光が部屋を満たし、楽し気な音楽が鳴り響きました。
ロビンが思わず起き上がると、明るいライトに照らされてナオは澄まして立っていました。
「レッツ、ショータイム」
そう叫ぶとナオはアップテンポの音楽にのせて、アニソンメドレーを歌いだしたのです。
もちろんすべて魔法少女ものばかりです。
ツインテールがステップにあわせて小気味に揺れていますし、アイドル志望のナオはダンスだってボイトレだってそれなりに積んでいるので、なかなか楽しめるショー構成になっています。
ぶっ続けで6曲を踊り終えたナオは、最後の瞬間に治癒魔法をロビンにかけました。
ナオから水色の柔らかい光が、ぽよよんとロビンにまとわりつくと、ロビンの身体はじんわりと暖かくなり、身体の芯に溜まっていた疲労が溶けていきます。
それを見計らったように、ナオは次の魔法を放ちました。
今度はキラキラとしたシャボン玉のようなものがロビンを取り巻くと、的確にロビンの古傷をみつけだしてそこに集まります。
そうしてシャボン玉の光が消えると、ロビンの古傷は跡形もなく消え去り、心なしか皮膚も艶々としていました。
ナオはどうだ! と言わんばかりの顔をしてロビンを見ています。
ロビンはパンパンと大きく拍手をしました。
「ナオ、すごいねぇ。よくもここまで治癒魔法を自分のものにしたね。これなら実戦で十分に仕えるよ」
その言葉を聞いてナオの顔は、ぱぁっと輝きました。
「じゃぁ、私もロビンと一緒に戦争に連れていってくれるのね?」
ロビンの胸に飛び込んできたナオを抱き上げると、ロビンはクギをさしました。
「ただし、その魔法少女の服にはセディに強固な防御魔法陣を仕込んでもらうから、実戦では必ずその服を着る事。そして防御魔法の出番は、戦闘の最初だけだ。後は肉弾戦になるから防御魔法の出番はないよ。そうなったら治癒チームのいる後方支援部隊に合流するんだ。約束できるね」
ロビンはナオが複合防御魔法を成功させたという報告を受けていましたから、最前線に連れていく決意をしていました。
けれどもナオにかすり傷ひとつ負わせるつもりもなかったのです。
「はい、ロビン。いいえ、司令官殿。ちゃんと命令は守りますわ」
ロビンはちゃっかりと自分の懐に潜り込んでしまったナオに、苦笑いをしています。
「けれどナオ、その服は異世界のデザインなのか? こちらの服よりも動きやすそうではあるな。ブーツも太ももまであるんじゃないか? 」
ロビンはしげしげとナオの衣装を眺めて、脱がしてしまいたそうな様子を見せるので、ナオはあわてて、ベッドから飛び降りると、偉そうにいいました。
「さぁ、だんなさま。お着換えしてくださいね。朝食のご用意が整っていますのよ」
そう言いおいて、自分も着替えの為に部屋を出てしまいました。
入れ替わりに従卒が入ってきて、ロビンの着替えを手伝い始めましたが、どうしても言いたかったらしく手をとめることなく、ささやきました。
「旦那様。じつに健気で愛らしい奥様をお迎えなさいましたね」
「あぁ、そうだな。私もそう思っているよ」
しばらくの沈黙のあと、ロビンの佇まいは、いつも軍人の顔に戻りました。
「それで、動いたか?」
「はい、予想の進路をとっているとのことです」
「ふん、私が前線から退いて新妻に鼻の下を伸ばしているという情報が入れば、先ず間違いなく動くと思ったが、どうやら上手くいったようだ。王太子殿下に連絡を。既に軍はエマージング大草原に集結済み。決戦は3日後。明日午後に転移されたし。エマージング大草原にてお待ちしているとな」
「はっ!」
「それとナオとロッテの衣装をセディに預けて、防御強化を頼んでくれ。セディも婚約者の命がかかっているんだ。さぞかし見事な陣を描いてくれることだろう」
「はい、では明日朝にはセディさまやロッテさまと転移されますか」
「あぁ、敵は王太子やセディが王都にいるので安心している筈だからな。王都の軍勢は1兵たりとも移動していないように見えているはずだから当たり前か。今回の勲功第一はアンバーだ。あいつは良くやってくれたよ」
従卒が全て心得て出て行くと、ロビンはまた柔らかな夫の顔に戻って、ゆったりとナオの待つ部屋へと戻っていきました。
ナオはあの思い出の温室に、朝食を用意して待っていました。
この分だと、今日のデートコースもすっかり決まっていそうです。
「ナオ、今日のデートはどこに行きたいんだね」
「運河を船で巡ろうと思っているんです。私は船に乗ったことがないし、川だと思っていたらあの川は運河だったんですってね。歴史がある運河だと聞いています。王都を出る訳にはいかないでしょうから、ほんの1時間ばかりの川遊びのつもりなんです」
「もう冬だというのに、運河かい? まぁ船室は暖かいからいいだろう。ナオが風邪さえひかなければそれでいい。午後はどこか行きたいところでもあるの?」
「王都の中心から1時間も船で下ると、薔薇の街と言われる赤いレンガ作りの街並みが見えてくるんですって。ですから薔薇の街をぶらぶらと散策していたら面白いところが見つかるかも、と思っていたんですけれど。ロビンのおすすめってありますか?」
「薔薇の街は、占星術師の塔があるよ。星々の巡りくる様子を魔術で天井に映し出してくれるので、それを見学することができるが興味はあるかね」
「まぁ、プラネタリウムがあるんですね。嬉しいわ。私、プラネタリウムが大好きなの。薔薇の街にいくことにしてよかったわ」
ナオがそこまで喜ぶとは思っていなかったロビンは狼狽しました。
なるほど女というものは、奇妙なものが好きなのだな。
そう言えばぬいぐるみのような動物を模した、布切れをありがたがったりもするしなぁ。
ロビンはそんな不埒なことを考えていたとは、おくびにも見せずにいいました。
「それはよかった。実は私も大好きでね」と。
ナオはすっぽりと外套にくるまれてしまったので、まるで動くぬいぐるみのようでした。
ロビンはそんなナオが船の手すりにしがみついて、見るもの聞くもの全てに歓声を上げているのを見て、一体なにが面白いのかさっぱりわかりませんでしたが、ロビンとしてはナオさえ満足ならそれで満足なのでした。
結局ナオは船べりでロビンにしがみついたまま、ずっと景色を眺めていたがりましたが、ロビンがナオの身体が冷えるのを警戒して、無理に暖かくしつらえた船室に放りこむという一幕もありました。
そうしたささやかな小競り合いも、甘い空気を纏ってしまうので、お付きの者たちはプレシュス辺境伯夫妻の仲の良さを微笑ましく見守っています。
「まぁ、ロビン。本当にこのあたりの建物のレンガはバラ色をしているのね。なんて可愛らしい街並みなのでしょう」
「そうだね。ここはもう王都のはずれだ。すぐ先には水門があってそのずっと先は海へと繋がっているんだよ」
「海と言えば、プレシュス辺境伯の領土にも海がありましたね。こんど領地に戻ったら、是非港町にも連れていって下さいね。私は港町で生まれたんですよ。育ったのはここでいえば王都なんですけれどね」
ナオの言葉を聞いて、そう言えば母上がナオは海が好きなようだと言っていたなと、ロビンは思い出しました。
「もちろんだよ、ナオ。今度は海を見にいこうね」
薔薇の街は歴史ある街らしくその佇まいは落ち着いていて、そこかしこにある店にも歴史に裏打ちされた個性が滲み出ています。
ナオとロビンは寒かったので、クリームシチューをパイで包んで焼いたものを昼食にしました。
ぐつぐつと煮えたシチューをはふはふと食べると、食事を終えるころにはすっかり身体が温まっています。
そうして訪れた占星術師による星巡りのショーは、季節外れのせいで、ロビンとナオの貸し切りでした。
映し出される星空を見ながら、いつしか2人は引きあうように口づけを交わしていました。
「なるほど、確かにプラネタリウムと言う奴はデートに最適だな」
ロビンはようやく得心したというように呟きました。
「ねぇ、ロビン、何か言った?」
ナオが聞きとがめると、ロビンはグイっとナオを引き寄せていいました。
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