ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日

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ロッテの悲鳴

 美しい星空が消えて、部屋に明かりが戻った時、ナオはすっかりロマンチックな気分に浸っていました。
 だからロビンが船の船室に案内した時だって、まだデート気分だったのです。

「ナオ。明日は一緒に戦場に行ってもらうことになった。だからこの後はセディのところに行って、君たちの戦闘服の強度を確認しておきたい。いいね」

 ロビンにそう言われた時、やっとナオは今がどんな時だったかを思い出しました。
 ナオは自分の甘さを恥じながらも、しっかりと頷きました。

「大丈夫だよ。君はロッテと衣装をつけての魔法の最終チェックをしておいてくれるだけでいいからね。私はセディと打ち合わせがあるが、帰りは一緒だ。勿論今夜も君の隣で眠ろう。明日はいっしょに戦場に転移するよ」

 それを聞いてナオは不謹慎だってわかっていても、今夜ロビンがいることに安堵していました。


「ナオ、一体これはどういうことなの?」
 
 ロッテはナオに会うなり挨拶もしないで、いきなり噛みついてきました。
 普段はおしとやかなロッテのそんな姿に、ナオは目を丸くしました。
 ロッテはあの魔法少女の衣装をしっかりと握りしめているので、どうやらその衣装になにか間違いがあったようです。

 ナオはいつも使っている訓練室に案内されていて、ここで魔法少女衣装を着用して模擬戦闘をすることになっていたはずです。
 なのにロッテは怒りのあまり、真っ赤な顔になっているんです。

「えっと、サイズに間違いがあったのかな? 大丈夫だよ。戦争までまだ時間があるから、作り直せるよ。よければすぐにここに仕立て屋を呼ぶから……」

「冗談でしょ。サイズはピッタリよ。ええ、これでもかってぐらいにピッタリだわ。私が言いたいのは、なんでこんなデザインなのかってことなのよ」

「どうしてそんなに怒っているの? ロッテだって魔法少女は知っているでしょう。だって大昔から魔法少女は活躍してきたんだもの。ロッテが知らないはずないと思ったんだけど」

 呑気なナオの言葉を聞いて、とうとうロッテは脱力してしまいました。

「そうよねぇ。ナオってそう言う子だったわ。私が悪かったのよ。衣装をナオにまかせっきりにするなんて。あぁ、私ってどうしてこう、詰めが甘いのかしら」

 ナオはどうしてロッテがそこまでこの衣装を嫌うのか、全くわかっていませんでした。
 ナオの魔法少女の衣装は、有名なアイドルグループの衣装にだって似ていますし、決して奇妙な物ではないと自負しています。
 第一、この衣装はいずれ王都で売り出すつもりですし、今までの服よりずっと動きやすいのにお洒落だからきっと人気がでると思っています。

「ナオ、いったいこの衣装のどこがそんなに気に入らないの。ちゃんと上着もあるし、これってあのアイドルグループだってよく着ているデザインだよ」

 ロッテはふるふると身体を震わせると、とうとう涙目になってしまいました。

「だからそれがおかしいって言っているのよ。ナオはいいわよ。アイドルの衣装を着たって似合う年頃だもの。でも私は日本では28歳だったの。いい大人なのよ。そんなチャラチャラした服なんて、恥ずかしくて着られるわけないでしょう」

 ナオはぽかんとしてしまいました。
 だってロッテってばこの魔法少女の衣装を着てモデルができるくらいにスタイルだっていいし、美人だし、それに青銀の髪と菫色の瞳になった時、お肌だって髪だって少女と言ってもいいぐらいに若返っているのです。

「ねぇ、ロッテ。アイドルグループにはロッテと同じ年齢でもこの衣装を着ていた人だっていくらでもいるんだよ。アイドル=10代って訳じゃないんだよ。今ではね。30歳ぐらいまでなら十分アイドルをやれるんだってば」

 ロッテにはナオの言葉は、なんの慰めにもなりませんでした。
 そこでナオはロッテに代替案を出してみました。
 ロッテが持っている中で一番動きやすい服に、もう一度セディに魔方陣を付与してもらうことです。

 ナオはロッテとお揃いで魔法少女になることを楽しみにしていましたが、ロッテに意地悪をしたい訳ではないのです。
 そんなに嫌なら、衣装をチェンジすればいいだけですから。

 
 ナオの提案を聞くと、ロッテはすくっと立ち上がって、訓練室を飛び出していきました。
 ナオはやれやれと首をふると、自分の衣装をきっちりと着付けていきます。
 髪をツインテールに結ってしまえば、戦うスタイルの出来上がりです。

 ナオは訓練モードをスタートさせました。
 これは実際には身体にダメージを残さない模擬攻撃を受けて、そのダメージ度を計測することができます。

 いつもの訓練ならきちんと防御魔法を発動させるのですが、ナオはそのままで攻撃を受け続けます。
 魔法攻撃でも、物理攻撃でも、同じ場所に繰り返してダメージを受けなければ、この魔法少女の衣装は立派に攻撃を防御できました。

 ナオたちだってただ黙って攻撃を受け続ける訳ではないので、この魔法少女の衣装を着ていればほぼノーダメージで戦いを切り抜けられそうです。
 その計測結果をセディとロビンに報告するためにまとめているところに、ロッテがしょんぼりと帰ってきました。

「ロッテ、ダメだったの? セディはなんて言っているの?」

 セディはロッテのお願いを歯牙にもかけませんでした。
 魔法少女衣装を着て戦闘に参加するか、それとも王都で留守番するかの2択しかないというのです。

 しかしその理由を聞けば、納得がいきます。
 召喚魔法ほどではありませんが、全攻撃無効化の魔方陣なんて、さすがの天才セディをしても難易度は恐ろしく高かったのです。

 この戦闘にロッテやナオが参加すると言い出す場合に備えて、ロビンは同じ魔方陣を3つセディに注文していました。

 セディはこの魔方陣を3ヶ月かかって作り上げたのです。

「でもロッテ。と言う事はもうひとつ予備があるんじゃ」
 
 ナオはそう言いかけて口ごもりました。

 忘れていましたけれども、戦場にはナオ達よりも、もっと守らなければならない人がいます。
 表向きはロビンは王太子殿下を確実に守ることのできる魔方陣を、セディに発注したのです。
 その魔方陣がなぜか3つになったのは、内緒のことでした。

「そうよ。さすがに私だって殿下の魔方陣を寄越せなんて言えないわ。言ったところでセディが応じる訳もないしね」

 すっかり落ち込んだロッテにナオは厳しく言いました。


「無理なことにあれこれ悩むのは無駄だわ。ロッテ、さっさと訓練をはじめるわよ。私の服では完璧なデータが取れたけど、ロッテの衣装もチェックしないといけないの。さっさと着替えて頂戴」

「鬼、悪魔!」

 ロッテの悲鳴なんて耳を貸さずに、ナオは近くの侍女さん方にロッテの着替えを頼みました。
 侍女さん方はプロらしく、テキパキとロッテに衣装を身に着けさせると、ナオが頼んだ通り髪はポニーテールに結い上げて、大きなリボンで留めてくれました。

 魔法少女姿のロッテは、どこかのスチール写真ばりに決まっていました。
 ロッテだって恥ずかしそうにもじもじすれば、余計に視線が集まって恥ずかしい目にあうことぐらい知っています。

 訓練室にいるのが女ばかりという気安さも手伝って、ロッテはいさましく防御データを取得してしまったのです。

「さぁ、ナオ。こうなったら破れかぶれだわ。このまま複合防御魔法の訓練を始めるわよ」

 気合の入ったロッテの言葉に、ナオもすぐにロッテに同調しました。
 陰陽の姫たちのマナを同調させることで、普通の何倍もの威力を持つ魔法を展開できるのです。
 
 しっかりとお互いの気を同調させるために、ナオとロッテお互いの手を固く繋ぎ合っています。
 そうすることで、2人のマナが融合しやすくなることがわかったからです。


 最後の訓練も無事に終わり、2人は実験結果のデータを持って、セディやロビンたちの元に戻っていきました。

 もちろんしっかり汗を流し、着替えも済ませています。
 ナオだって所かまわず魔法少女姿になりたい訳ではないのですから。

「ほほう、これは素晴らしいね。さすがセディ。これほどとは思わなかった。これで殿下の身の安全は確保できたな」

 ロビンがそう言えばセディは念を押しました。

「いいえ、王太子殿下の安全には、これでいいと言う訳にはいきませんよ。ロビン、殿下の戦闘には常に側に付き添ってくださいね。私は敵陣まで飛行魔法で飛んで、攻撃に回るつもりなので」

「了解しているよ。殿下が結婚されたら、陛下は王位を殿下に譲られるお気持ちのようだ。未来の王はこの私が傷ひとつつけずにお守りしますよ」

 それを聞くとセディはため息をつきました。

「もともと王家とは最も勇猛果敢な騎士でもあるのだから、こうやって姫君を守るようなやり方はどこかおかしいことなんですけれどもね」

「そういうなセディ。いま殿下になにかあったら、この国は大揺れになってしまうだろうが。我々は、殿下を守りつつこの戦に勝利するしかないのだからな」


 その夜ロビンはナオを抱きしめて、その真意を確かめるようにナオの薄紫の瞳を覗き込みました。
 ロビンの紫の瞳は強い意思の力が感じられますが、番であるナオの瞳はどこか儚げな薄い紫色なのです。

「ナオ、いいかい。戦場では怒号が飛び交い、剣戟の凄まじい音がする。男たちが命を懸けているのだからね。死人が山と積まれ、怪我人のうめき声が地に満ちているんだ。そんな地獄にわざわざ行かなくても、私はきっと国もナオも守って見せる。ナオ、王都に残れ!」

 ナオは黙って首をふりました。
 儚げに見えた瞳には、決意の強い光が宿っています。

「こんなところであなたのご無事を祈っていられるほど、ナオは強くないのです。どうかロビン。私をこんなところに残しておかないで。一緒に戦います。きっと戦力になりますから」

 ナオの決意を確認すると、ロビンは愛しくてたまらないというようにナオを抱きしめました。
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