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決選前夜の星降る里
エマ―ジング大草原には、既に王太子殿下を総司令官として、全ての陣容が揃っていました。
王太子直属の騎士様たちは、貴族家領主の救援要請や、領地の視察などの名目をつけて小隊ごとに少しずつ王都から抜け出して、ここエマージング大草原に集結していたのです。
しかもアンバー公子は密かに多くの騎士や兵を募集して、この日に向けて訓練を重ねてきたのです。
アトラス王国は侵略を進めてきましたが、そうなれば最も不足してくるのが食料です。
シルフィードベル王国の食糧庫と言われるヒル伯爵家を侵略の拠点として狙うであろうことは、ロビンでなくても予見できたでしょう。
とはいえそれがわからぬバルザック将軍ではなく、王都が王太子殿下ご成婚に準備を進めていて、エマージング大草原方面が手薄な隙をつく形で進軍してきました。
けれどもこの読み合いはロビンが一枚上手をとりました。
だってこうしてシルフィードベル王国の精鋭は、ここエマージング大草原に集結しているからです。
草原といっても今は真冬なので草木は枯れ果てていますから、軍馬を養うためにもアトラス王国としてはヒル伯爵領を占拠したいところです。
一方こちらの王太子軍にはヒル伯爵家によって物資の支援を受けているので、長期戦になったらバルザック軍に勝ち目はありません。
ですから明日の総力戦に全てをかけてくるだろうとロビンは予想しています。
全ては明日。
兵士も騎士様方も、明日に向けてどんどんと士気が高まっています。
そこで王太子殿下から兵士たちの士気向上のために、陰陽の姫君達によるパフォーマンスの依頼が届きました。
いよいよ魔法少女のお披露目なのですが、やはりロッテがダダをこねています。
「ナオ、どうしてもこの服じゃなきゃダメかなぁ。今日は戦闘じゃないんだよ」
「ロッテ、いい加減にしてよ。王太子殿下は士気向上のパフォーマンスをご所望なんだから、戦闘服で複合魔法を披露するしかないでしょう?」
「いいわよ。着るわ。着ればいいんでしょう。けれど絶対に変なポーズやセリフは言いませんからね」
「わかった。セリフもパフォーマンスもナオに任せてちょうだい。ロッテは横に立っているだけでいいよ」
そうして全軍が整列するなか王太子殿下の檄が飛び、そのままシルフィードベル王国の守護姫のパフォーマンスという流れになってロッテとナオが登場しました。
青みがかった銀色の髪をポニーテールにしたロッテと水色の髪をツインテールにしたナオの姿は、魔法少女のコスプレの斬新さも相まって兵士たちの度肝を抜きました。
「遥か異世界より光と共に舞い降りし陰陽の姫! 美緒と奈緒」
ナオは高らかに名乗りを挙げると「複合魔法! 癒し」と叫びました。
そうしてロッテとナオは両手をしっかりと握りしめ、疲労回復、体力増強の癒しの魔法を発動します。
柔らかな水色のひかりがふわふわと兵士や騎士たちにまとわりついて、やがてその身体を暖かく包み込みます。
水色の光が身体に溶け込むように消え去ると、兵士たちの疲れはすっかり取れて、身体が軽くなりました。
それを確認すると軍隊からは、ウォーという地鳴りのような声と、ドンドンという勇ましい足音が鳴り響きました。
「王太子殿下!」
「陰陽の姫!」
口々に陰陽の姫ぎみと、その守護を得た王太子殿下を称える声が大草原に轟きました。
こうしてナオ達のパフォーマンスは大成功のうちに幕をおろしたのですが、パフォーマンスの間中ロビンは遠慮なく笑い声を洩らし、セディが肩を震わせながら笑い声を抑えていたことを、ロッテは見逃しませんでした。
「なにが大成功よ。いい笑いものじゃないの。セディなんて絶対に笑ってたんだから!」
ロッテがプリプリと怒っているのに、ナオはのんびりとしたものです。
「本番前にそんなに体力を使わないの。 第一そんなに怒ってばかりだと皺になるわよ」
その言葉はどうやら鬼門だったらしく、「出て行け!」という叫び声とともにクッションが飛んできたので、慌ててナオはロビンの天幕に避難しました。
ナオは恐ろしく目立つ衣装を着ていても、すっかりと気配を消して自然に人々の中に溶け込んでしまえるので、ナオがこっそりと天幕に忍び込んだのを気づいたのは、王家の血を色濃く引く人々、王太子殿下、セディ、ロビンだけでした。
ナオは天幕の隅っこに、自分のクッションでテリトリーを作り上げてると、すっぽりと居心地よくそこに納まってご機嫌になっています。
それを見るとナオに気が付いた人々も、そのまま興味を失ってしまいました。
ナオがロビンを大好きで、隙あればロビンの近くに行こうとしている姿は、瞬く間に陣営の風物詩になっていたからです。
ナオの方は、こんな最前線にあってもカッコよくて素敵な旦那様の働く姿を見ていられれば、それだけで幸せなのでした。
ロビンが放置しても文句も言わず、ロビンが相手をすれば尻尾を振って飛んでいくナオは、はっきり言ってちょろい女の典型です。
けれども家族に恵まれず、ファーザーコンプレックスをこじらせているナオにとってはロビンだけが大事な家族だったのです。
ロビンの声に耳を澄ましながら、ナオは眠ってしまったようです。
作戦会議は終わったらしく、いつの間にかロビンがナオの側に寝そべっていました。
「ロビン、もうお仕事終わったの?」
「ナオ、何時だと思っているんだ。そろそろ食事の時間だろ。天幕に戻っておかないと従卒が探し回ることになるぞ」
「うん、じゃぁロビン。また明日ね」
ナオは素直にロビンの天幕を出ていきました。
戦場で他人に迷惑をかける訳にはいきません。
けれどロビンも天幕の外に一緒に出てきていました。
「ナオ、送っていこう。食事が済むころに迎えにいくよ。本物の星空を見たことがないだろう?このエマージング大草原は星降る里とも言われているんだ。この季節には多くの星が降ってくる。見せてやろう」
「でも、夜襲に備えなくていいの?」
「セディが陣を張った。夜襲があってもすぐに対応できるさ。それにオレがバルザックならそんな小細工はしないだろうね。バルザック将軍は自分の強さに自信を持っている。だから正々堂々と挑んでくるだろう」
ナオはそれを聞くと心配になってしまいました。
「ロビン、勝てるかしら?」
「勝つさ。自信家ってのはね。案外と脆いものがあるからね。バルザックの自信がこの戦いの趨勢を決めてしまっているんだ。ナオ、知らなかったのかい?私は勝てる状況でなければ戦わないんだ。けっこう陰険なんだよ」
ナオはすっかり上機嫌となって、陰陽の姫君に提供されている天幕に入っていきました。
入れ違いにセディが出ていきましたから、ロッテもデートに誘われたのかも知れません。
「ロッテ、今、セディにあったんだけど、もしかして今夜デートに誘われた?」
「ええ、流星雨が降るらしいわね。セディが一緒に見ようって言ってくれたの。ナオもロビンとデートなの?」
「うん、食事が済んだら迎えに来てくれるんだって。それに明日は勝てるって言ってたよ」
「そう、ロビンがそう言い切るなら安心ね。実はセディも同じことを言ってたわ。きっと男たちは私たちが怖がっているんだと思っているんでしょうね」
そう言ってロッテは苦笑しました。
「でも、私は怖いわ。初めて戦争に参加するんですもの。ロッテだって本当は怖いのでしょう?」
「そうね、私も実は怖いの。明日のことを考えると不安で胸が締め付けられそうよ。セディなんて平気な顔をしているのにね」
ナオはロッテも自分と同じように不安なんだと思うと、何だか肩の力が抜けてきました。
男たちだって、そんなことはようく判っていてデートに誘ってくれたのでしょう。
セディとロビンが自分の番を迎えに来た時、番たちは昼間よりはずっと落ち着いていました。
ロビンは自軍と敵軍が見渡せる小高い丘にナオを案内してくれて、用意していた寝袋を取り出してナオを誘いました
「星を見るなら寝転がるのが一番だ。ずっと上を向いていると首が痛くなるからね。この寝袋なら2人潜り込める。さぁおいで。夜は冷え込むからな」
ナオはもぞもぞと寝袋に潜りこむと、夜空を見上げました。
するとすぐに次々と星が降ってきます。
「綺麗だわ。ロビン、どうして今夜こんなに星が降るってわかったの。願い事が間に合わないくらいどんどん星が降ってくるわ」
「あぁ、薔薇の街にある占星術師の塔には、先読みの巫女と呼ばれている占星術者がいてなぁ。星をみるのが巧なのだ。この場所とこの日時を指定したのも先読みの巫女なんだ。その時に言っていたのさ。開戦の前の夜には、エマージング大草原には星々が次々と流れ落ちるだろうってね」
「それは預言者ということなの。それとも未来視の能力なのかしら。巫女様には未来が視えるの?」
「さぁ? どうなんだろうね。先読みの巫女の家系には稀に未来視の力を持つ者が生まれるようだがね。ナオのことも先読みの巫女が予言していたんだよ。異界渡りの姫は2人現れる。ひとりは光の、ひとりは闇の加護を受けるもので姫たちは2人でひとりなのだとね」
「まぁ、ロビン。だったらどうしてその時に迎えに来てくれなかったのよ。私は随分回り道をしてしまったわ」
「先読みの巫女は、ナオがオレの番だなんて教えてくれなかったんだ。きっと回り道をしないと、明日の勝利が確定しないからではないのかなぁ。それでもナオにはずっと影をつけて守って来たんだからな」
「まぁ、それはやっぱり陰険だわ。私がズルズルと闇に取り込まれていくのを放置するなんて。陰険ロビンね」
その言葉を聞くとロビンは愉快そうに尋ねました。
「それで、ナオ。陰険ロビンは嫌いになってしまったのかな。私の大事な姫君には嫌われたくないんだがなぁ」
「ずるいわ、ロビン。私がロビンを好きなのを知っていて、そうやって意地悪を言うのね。大嫌いよ」
「本当?ナオ。僕はナオが大好きなんだけどなぁ」
「もう、ロビンったら、私だってロビンを愛しているわ」
こうなってしまっては、見ているのもつらいバカップルでしかありません。
ロビンを監視していた目も、うんざりしたらしく気配を消してしまいました。
色ボケロビンの行状は、今頃バルザック将軍の元に届いていることでしょう。
ロビンだけでなく、最強の魔術師セディも、すっかり婚約者の虜になっているということも。
明日の戦を前にして軍師と魔術師がこぞって色ボケしていると知って、バルザック将軍はさぞかし大笑いをしたことでしょう。
王太子直属の騎士様たちは、貴族家領主の救援要請や、領地の視察などの名目をつけて小隊ごとに少しずつ王都から抜け出して、ここエマージング大草原に集結していたのです。
しかもアンバー公子は密かに多くの騎士や兵を募集して、この日に向けて訓練を重ねてきたのです。
アトラス王国は侵略を進めてきましたが、そうなれば最も不足してくるのが食料です。
シルフィードベル王国の食糧庫と言われるヒル伯爵家を侵略の拠点として狙うであろうことは、ロビンでなくても予見できたでしょう。
とはいえそれがわからぬバルザック将軍ではなく、王都が王太子殿下ご成婚に準備を進めていて、エマージング大草原方面が手薄な隙をつく形で進軍してきました。
けれどもこの読み合いはロビンが一枚上手をとりました。
だってこうしてシルフィードベル王国の精鋭は、ここエマージング大草原に集結しているからです。
草原といっても今は真冬なので草木は枯れ果てていますから、軍馬を養うためにもアトラス王国としてはヒル伯爵領を占拠したいところです。
一方こちらの王太子軍にはヒル伯爵家によって物資の支援を受けているので、長期戦になったらバルザック軍に勝ち目はありません。
ですから明日の総力戦に全てをかけてくるだろうとロビンは予想しています。
全ては明日。
兵士も騎士様方も、明日に向けてどんどんと士気が高まっています。
そこで王太子殿下から兵士たちの士気向上のために、陰陽の姫君達によるパフォーマンスの依頼が届きました。
いよいよ魔法少女のお披露目なのですが、やはりロッテがダダをこねています。
「ナオ、どうしてもこの服じゃなきゃダメかなぁ。今日は戦闘じゃないんだよ」
「ロッテ、いい加減にしてよ。王太子殿下は士気向上のパフォーマンスをご所望なんだから、戦闘服で複合魔法を披露するしかないでしょう?」
「いいわよ。着るわ。着ればいいんでしょう。けれど絶対に変なポーズやセリフは言いませんからね」
「わかった。セリフもパフォーマンスもナオに任せてちょうだい。ロッテは横に立っているだけでいいよ」
そうして全軍が整列するなか王太子殿下の檄が飛び、そのままシルフィードベル王国の守護姫のパフォーマンスという流れになってロッテとナオが登場しました。
青みがかった銀色の髪をポニーテールにしたロッテと水色の髪をツインテールにしたナオの姿は、魔法少女のコスプレの斬新さも相まって兵士たちの度肝を抜きました。
「遥か異世界より光と共に舞い降りし陰陽の姫! 美緒と奈緒」
ナオは高らかに名乗りを挙げると「複合魔法! 癒し」と叫びました。
そうしてロッテとナオは両手をしっかりと握りしめ、疲労回復、体力増強の癒しの魔法を発動します。
柔らかな水色のひかりがふわふわと兵士や騎士たちにまとわりついて、やがてその身体を暖かく包み込みます。
水色の光が身体に溶け込むように消え去ると、兵士たちの疲れはすっかり取れて、身体が軽くなりました。
それを確認すると軍隊からは、ウォーという地鳴りのような声と、ドンドンという勇ましい足音が鳴り響きました。
「王太子殿下!」
「陰陽の姫!」
口々に陰陽の姫ぎみと、その守護を得た王太子殿下を称える声が大草原に轟きました。
こうしてナオ達のパフォーマンスは大成功のうちに幕をおろしたのですが、パフォーマンスの間中ロビンは遠慮なく笑い声を洩らし、セディが肩を震わせながら笑い声を抑えていたことを、ロッテは見逃しませんでした。
「なにが大成功よ。いい笑いものじゃないの。セディなんて絶対に笑ってたんだから!」
ロッテがプリプリと怒っているのに、ナオはのんびりとしたものです。
「本番前にそんなに体力を使わないの。 第一そんなに怒ってばかりだと皺になるわよ」
その言葉はどうやら鬼門だったらしく、「出て行け!」という叫び声とともにクッションが飛んできたので、慌ててナオはロビンの天幕に避難しました。
ナオは恐ろしく目立つ衣装を着ていても、すっかりと気配を消して自然に人々の中に溶け込んでしまえるので、ナオがこっそりと天幕に忍び込んだのを気づいたのは、王家の血を色濃く引く人々、王太子殿下、セディ、ロビンだけでした。
ナオは天幕の隅っこに、自分のクッションでテリトリーを作り上げてると、すっぽりと居心地よくそこに納まってご機嫌になっています。
それを見るとナオに気が付いた人々も、そのまま興味を失ってしまいました。
ナオがロビンを大好きで、隙あればロビンの近くに行こうとしている姿は、瞬く間に陣営の風物詩になっていたからです。
ナオの方は、こんな最前線にあってもカッコよくて素敵な旦那様の働く姿を見ていられれば、それだけで幸せなのでした。
ロビンが放置しても文句も言わず、ロビンが相手をすれば尻尾を振って飛んでいくナオは、はっきり言ってちょろい女の典型です。
けれども家族に恵まれず、ファーザーコンプレックスをこじらせているナオにとってはロビンだけが大事な家族だったのです。
ロビンの声に耳を澄ましながら、ナオは眠ってしまったようです。
作戦会議は終わったらしく、いつの間にかロビンがナオの側に寝そべっていました。
「ロビン、もうお仕事終わったの?」
「ナオ、何時だと思っているんだ。そろそろ食事の時間だろ。天幕に戻っておかないと従卒が探し回ることになるぞ」
「うん、じゃぁロビン。また明日ね」
ナオは素直にロビンの天幕を出ていきました。
戦場で他人に迷惑をかける訳にはいきません。
けれどロビンも天幕の外に一緒に出てきていました。
「ナオ、送っていこう。食事が済むころに迎えにいくよ。本物の星空を見たことがないだろう?このエマージング大草原は星降る里とも言われているんだ。この季節には多くの星が降ってくる。見せてやろう」
「でも、夜襲に備えなくていいの?」
「セディが陣を張った。夜襲があってもすぐに対応できるさ。それにオレがバルザックならそんな小細工はしないだろうね。バルザック将軍は自分の強さに自信を持っている。だから正々堂々と挑んでくるだろう」
ナオはそれを聞くと心配になってしまいました。
「ロビン、勝てるかしら?」
「勝つさ。自信家ってのはね。案外と脆いものがあるからね。バルザックの自信がこの戦いの趨勢を決めてしまっているんだ。ナオ、知らなかったのかい?私は勝てる状況でなければ戦わないんだ。けっこう陰険なんだよ」
ナオはすっかり上機嫌となって、陰陽の姫君に提供されている天幕に入っていきました。
入れ違いにセディが出ていきましたから、ロッテもデートに誘われたのかも知れません。
「ロッテ、今、セディにあったんだけど、もしかして今夜デートに誘われた?」
「ええ、流星雨が降るらしいわね。セディが一緒に見ようって言ってくれたの。ナオもロビンとデートなの?」
「うん、食事が済んだら迎えに来てくれるんだって。それに明日は勝てるって言ってたよ」
「そう、ロビンがそう言い切るなら安心ね。実はセディも同じことを言ってたわ。きっと男たちは私たちが怖がっているんだと思っているんでしょうね」
そう言ってロッテは苦笑しました。
「でも、私は怖いわ。初めて戦争に参加するんですもの。ロッテだって本当は怖いのでしょう?」
「そうね、私も実は怖いの。明日のことを考えると不安で胸が締め付けられそうよ。セディなんて平気な顔をしているのにね」
ナオはロッテも自分と同じように不安なんだと思うと、何だか肩の力が抜けてきました。
男たちだって、そんなことはようく判っていてデートに誘ってくれたのでしょう。
セディとロビンが自分の番を迎えに来た時、番たちは昼間よりはずっと落ち着いていました。
ロビンは自軍と敵軍が見渡せる小高い丘にナオを案内してくれて、用意していた寝袋を取り出してナオを誘いました
「星を見るなら寝転がるのが一番だ。ずっと上を向いていると首が痛くなるからね。この寝袋なら2人潜り込める。さぁおいで。夜は冷え込むからな」
ナオはもぞもぞと寝袋に潜りこむと、夜空を見上げました。
するとすぐに次々と星が降ってきます。
「綺麗だわ。ロビン、どうして今夜こんなに星が降るってわかったの。願い事が間に合わないくらいどんどん星が降ってくるわ」
「あぁ、薔薇の街にある占星術師の塔には、先読みの巫女と呼ばれている占星術者がいてなぁ。星をみるのが巧なのだ。この場所とこの日時を指定したのも先読みの巫女なんだ。その時に言っていたのさ。開戦の前の夜には、エマージング大草原には星々が次々と流れ落ちるだろうってね」
「それは預言者ということなの。それとも未来視の能力なのかしら。巫女様には未来が視えるの?」
「さぁ? どうなんだろうね。先読みの巫女の家系には稀に未来視の力を持つ者が生まれるようだがね。ナオのことも先読みの巫女が予言していたんだよ。異界渡りの姫は2人現れる。ひとりは光の、ひとりは闇の加護を受けるもので姫たちは2人でひとりなのだとね」
「まぁ、ロビン。だったらどうしてその時に迎えに来てくれなかったのよ。私は随分回り道をしてしまったわ」
「先読みの巫女は、ナオがオレの番だなんて教えてくれなかったんだ。きっと回り道をしないと、明日の勝利が確定しないからではないのかなぁ。それでもナオにはずっと影をつけて守って来たんだからな」
「まぁ、それはやっぱり陰険だわ。私がズルズルと闇に取り込まれていくのを放置するなんて。陰険ロビンね」
その言葉を聞くとロビンは愉快そうに尋ねました。
「それで、ナオ。陰険ロビンは嫌いになってしまったのかな。私の大事な姫君には嫌われたくないんだがなぁ」
「ずるいわ、ロビン。私がロビンを好きなのを知っていて、そうやって意地悪を言うのね。大嫌いよ」
「本当?ナオ。僕はナオが大好きなんだけどなぁ」
「もう、ロビンったら、私だってロビンを愛しているわ」
こうなってしまっては、見ているのもつらいバカップルでしかありません。
ロビンを監視していた目も、うんざりしたらしく気配を消してしまいました。
色ボケロビンの行状は、今頃バルザック将軍の元に届いていることでしょう。
ロビンだけでなく、最強の魔術師セディも、すっかり婚約者の虜になっているということも。
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