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エマージング大草原のサーガ
王都に戻ったナオ達は、陛下から勲章を賜ったり、マール大公との謁見があったりと公式行事をこなすのに精一杯というような生活が続いていました。
マール大公はロビンが言う通りまだ8歳の少年大公で、ナオやロッテに会うとわかりやすく顔を輝かせていました。
少年大公は戦場で防御や癒しの魔法を使うナオやロッテを見て、すっかりファンになっていたのです。
できれば口説きたいと思っていたのに、2人とも売約済みなんてついていないと、何度も繰り返して側近の咳払いを誘っていました。
「可愛らしい少年大公だったわね」
ロッテからすればマール大公は可愛い男の子にしか見えないようです。
「でもやっぱりすごい美形だったよね。柔らかい金髪にしなやかな身体。あのアイスブルーの瞳も素敵だったわ。さすがにエマージング大草原のサーガの主人公のひとりだけはあるわよね」
ナオにかかれば大公陛下も、アイドル扱いです。
今、王都では『エマージング大草原のサーガ』が大流行しています。
サーガと言うだけあって、様々なヒーローやヒロインが活躍しますが、亡国の王子であるマール大公のお話は、マール大公が独身であることもあって、若い女性に大人気なのです。
先陣を切って突撃し敵将であるバルザック将軍を打ち取ったスティーブン王太子。
自領に押し込められてと見せかけて、密かにバルザック将軍打倒の軍勢を作り上げていたアンバー公子。
エマージング大草原を決戦の場に選んで上手く誘導し、王太子を守護して敵将を打つようにサポートした軍師ロビン。
飛行魔法で敵の真っ只中に攻撃魔法を放った魔術師セディ。
複合魔法で兵を守り切った陰陽の姫君たち。
『癒しの手』ソサエティーを率いて軍をサポートしたジェシカ。
戦の趨勢を預言した先読みの巫女。
ざっと並べるだけでもこれだけのヒーローやヒロインがいるのですから、オペラ座は常に大盛況ですし、エマージング大草原のサーガを唄う吟遊詩人は、大人気です。
おかげでココ&ナオの服が売れに売れて、増産が追い付かない状況なのです。
ナオ達はこの機を逃さず、次々に新作を発表していて、ココもナオもたっぷりと潤っていました。
もちろんシャルム商会は、ココ&ナオの独占販売権を握っていたので、大儲けしています。
ココは高貴な血筋をひいているというのに、商人の家で育ったせいか商才に恵まれていて社交だって主目的が商売のためという徹底ぶりです。
ココを後見した王妃さまは、そんなココのありように苦言を呈していますけれど、ある意味安堵もしてるのでした。
陛下の血をひいていても、やはり王族とは認めがたい行状はその母親の血のせいだろうと思うことができるからです。
だからココ&ナオは社交界から排除されることなく、色物扱いではあっても市民権を得ることができたのでした。
「ナオ、次の服のアイデアを出してよ。私たちがファッション界の流行の発信者にならなきゃいけないんだからね」
「わかってるって。どうしようかなぁ。次は和テイストを入れてみようか?」
「そーすると重ね着ファッションかなぁ。着物って色を重ねるのでしょう?」
「それでもいいけどって。あれ? ココって異世界人じゃないのに、なんで着物とか知っているの? コスプレファッションだってすぐに理解したし……」
ナオはココって少し変だとは思っていたのです。
コスプレフェスとしか思えない風景を、夢で見たと言っていましたしね。
ココはペロッっと舌を出しました。
「バレたか。私ってどうやら前世の記憶があるみたいなんだよねぇ。ナオに会って話した時、なんかそれって知っているぞってことが多くて、そのうちそうかぁ、私は前世日本人だったんだなぁって思ったの」
「じゃぁココは転生者なの?」
ナオがきっとそうだろうと思って聞いてみるとココは否定しました。
「そう言うんじゃないんだよね。前世自分がどこの誰かもわからないしね。ただ、こうなんていったらいいのかなぁ。デジャヴっていうの? あぁ、私これ見たことある。知っているって感覚なんだぁ。だからきっと前世はナオと同じ世界にいたんじゃないかなぁって思うの」
「デジャヴねぇ。その言葉だってここの世界の言葉じゃないもの。きっとココは前世は日本人だったんだろうね。記憶がなくて残念だね」
「いやだ。前世の記憶なんてあっても仕方ないじゃない。ココはココなんだしさぁ。今の環境、すっごく気に入っているんだもの」
「ココは結婚しないの? モテるんでしょ?」
「私は結婚は未だ考えられないかなぁ。だって仕事が楽しいんだもの」
ここにロッテがいれば、そんなこと言っていると婚期を逃すぞと脅すところでしょうが、ナオはあぁそうかと頷いただけでした。
ナオはさっさと仕事の目途をつけてプレシュス辺境伯領に帰国したくてたまらないのです。
王都にいればナオもロビンも仕事に追われてすれ違うばかりです。
ナオはやればできる子ですが、ロビン大好きっこでもあるので、ロビンとずっと一緒にいたいのです。
だというのに、ナオの友達が次々と結婚式を挙げるので式に出席するためにナオは王都を離れられないのでした。
「最初は結婚式って凄く感動したけれど、こう毎週、毎週、結婚式ばかりだと、もうお腹いっぱいだわ」
ナオがそんな愚痴をこぼすと、ロビンがナオを引き寄せて笑いました。
「いいのか? 今週はお前の親友のロッテの結婚式だろうが」
「えぇ、ロッテの結婚はしっかりお祝いしないとね。ナオが言うのは一般的な結婚式のことよ。あの戦争以降、結婚式で潰れなかった週末ってあったかしら? もうお腹いっぱいになっても仕方ないと思うわ」
ナオはぷんとむくれてしまいます。
ロビンがやれやれという顔をすると、奥方のご機嫌を取りました。
「ほら、あとひと月もすれば王太子殿下の結婚式だ。それが済めば領地に帰ろう。2人きりでのんびりしようじゃないか。もしかしたらナオは疲れてしまったのかも知れないね。明日は休みにして、また薔薇の街にでも行ってみるか?」
ロビンの提案に、たちまちナオはご機嫌を治しました。
まぁ、ナオのご機嫌を取るのはとっても簡単です。
ロビンが一緒にいさえすればいいのですから。
ロビンとしては先読みの巫女の様子を見ておきたいという目論見がありました。
この王都で政務をみているのはクレメンタイン公爵家です。
エルが宰相をやっているのは、行政担当がクレメンタイン公爵家だからです。
マクギネス公爵家は司法を担当していました。
だからアンバー公子は規格外なのです。
謹厳実直で決まりを守ることに重きをおくマクギネス公爵家の跡取りが、新しい物事を取り入れることに熱心なのですから。
そうしてプレシュス辺境伯は外交と防衛を担当しているので、各国に密偵を放つのもお仕事の一環です。
プレシュス辺境伯のもとに優秀な影が揃っているのは、そういう理由があるからです。
そのプレシュス辺境伯の直感が、先読みの巫女に会っておけと警告を発しているのでした。
もともと占星術は星の巡りを、読み取ることで、天候、冷害、災害などの予測をするためのものです。
ですから占星術師の塔の長は、毎日の予報を宰相閣下の元に届けることになっています。
ただし占星術師の中に、ごくまれに先読みの力を持つ者が生まれる時があります。
そうして先読みの巫女の預言は代々、プレシュス辺境伯の元に届けられてきました。
これは先読みの巫女がプレシュス王家が保護してきた一族であるからで、その伝統にのっとって慣例的に行われてきたのです。
さすがに王家もこのような秘儀をプレシュス家に独占させる訳もなく、プレシュス家に届けられる預言の内容は、王家の影によって速やかに王家の知る処になります。
先読みの巫女は陰陽の姫の預言や、エマージング大草原での戦闘についての預言も、隠すことなくロビンに報告してきています。
だけどもロビンは、なんとなく先読みの巫女に異変が起きているのではないかと思えてしかたがないのです。
先読みの巫女にナオを会わせてみよう。
ロビンはそう思いました。
主筋であるロビンが会っても、先読みの巫女は本音を語らないでしょう。
しかし能天気なナオとなら先読みの巫女は本当のことを話すかもしれません。
それに先読みの巫女とナオは同じ年齢です、
女の子は女の子同士の方がいいに決まっています。
そんな目論見を、ロビンは何もいいませんでした。
先入観なくナオを巫女に引き合わせたいからです。
明日のロビンとデートが出来るとあって、すっかり上機嫌のナオを見て、ロビンはなるほどと思いました。
先読みの巫女とナオは、こんなところがとても良く似ているのです。
人の思惑の裏側を読もうとしない。
真っすぐに人の言葉をそのまま受け止めるナオは、たしかにちょろいかもしれませんが、常に人の言葉の裏を読み続けてきたロビンにとって、心安らぐ存在でした。
そうして先読みの巫女も、人の言葉に裏があるなどとは全く思っていないのです。
なるほど、似た者同士とはこのことか。
ロビンは、明日の先読みの巫女とナオとの出会いで、何かが動き出すのではないかと思っていました。
「ねぇ、ロビン。どうしたの? なんか難しい顔しているよ?」
いつの間にか自分の考えに没頭していたロビンは、自分の顔を心配そうにのぞき込んでいるナオを見て、にっこりと笑いかけました。
「ごめんよ。ちょっとぼんやりしていただけだ。そう言えばナオは新しい服を作るんだって? デザイン画を見せてくれないかな」
ナオは途端にロビンの膝から飛び降りると、パタパタと走り出しました。
「ちょっと待ててね。すぐにスケッチブックを取ってくる」
そんなものは、メイドにでも取りにやらせればいいだろうに。
そう言いかけてロビンは、その言葉を飲み込みました。
これがナオなのです。
ロビンはナオによって随分救われているのです。
好意に、真っすぐな好意で返してくれる存在。
純粋にロビンを見つめるナオ。
ナオがいなければ、いつか俺は魔王になっていたかもしれないな。
スケッチブックを手に、ロビンの元に駆け込んだナオを両手を広げて受け止めたロビンは、ぎゅっとナオを抱きしめました。
「ロビン、苦しいよ。ねぇ、ロビン。ロビンってば。どうしたの? ロビン、だーい好きよ」
ロビンは腕の中の小鳥に、やさしくキスをしました。
マール大公はロビンが言う通りまだ8歳の少年大公で、ナオやロッテに会うとわかりやすく顔を輝かせていました。
少年大公は戦場で防御や癒しの魔法を使うナオやロッテを見て、すっかりファンになっていたのです。
できれば口説きたいと思っていたのに、2人とも売約済みなんてついていないと、何度も繰り返して側近の咳払いを誘っていました。
「可愛らしい少年大公だったわね」
ロッテからすればマール大公は可愛い男の子にしか見えないようです。
「でもやっぱりすごい美形だったよね。柔らかい金髪にしなやかな身体。あのアイスブルーの瞳も素敵だったわ。さすがにエマージング大草原のサーガの主人公のひとりだけはあるわよね」
ナオにかかれば大公陛下も、アイドル扱いです。
今、王都では『エマージング大草原のサーガ』が大流行しています。
サーガと言うだけあって、様々なヒーローやヒロインが活躍しますが、亡国の王子であるマール大公のお話は、マール大公が独身であることもあって、若い女性に大人気なのです。
先陣を切って突撃し敵将であるバルザック将軍を打ち取ったスティーブン王太子。
自領に押し込められてと見せかけて、密かにバルザック将軍打倒の軍勢を作り上げていたアンバー公子。
エマージング大草原を決戦の場に選んで上手く誘導し、王太子を守護して敵将を打つようにサポートした軍師ロビン。
飛行魔法で敵の真っ只中に攻撃魔法を放った魔術師セディ。
複合魔法で兵を守り切った陰陽の姫君たち。
『癒しの手』ソサエティーを率いて軍をサポートしたジェシカ。
戦の趨勢を預言した先読みの巫女。
ざっと並べるだけでもこれだけのヒーローやヒロインがいるのですから、オペラ座は常に大盛況ですし、エマージング大草原のサーガを唄う吟遊詩人は、大人気です。
おかげでココ&ナオの服が売れに売れて、増産が追い付かない状況なのです。
ナオ達はこの機を逃さず、次々に新作を発表していて、ココもナオもたっぷりと潤っていました。
もちろんシャルム商会は、ココ&ナオの独占販売権を握っていたので、大儲けしています。
ココは高貴な血筋をひいているというのに、商人の家で育ったせいか商才に恵まれていて社交だって主目的が商売のためという徹底ぶりです。
ココを後見した王妃さまは、そんなココのありように苦言を呈していますけれど、ある意味安堵もしてるのでした。
陛下の血をひいていても、やはり王族とは認めがたい行状はその母親の血のせいだろうと思うことができるからです。
だからココ&ナオは社交界から排除されることなく、色物扱いではあっても市民権を得ることができたのでした。
「ナオ、次の服のアイデアを出してよ。私たちがファッション界の流行の発信者にならなきゃいけないんだからね」
「わかってるって。どうしようかなぁ。次は和テイストを入れてみようか?」
「そーすると重ね着ファッションかなぁ。着物って色を重ねるのでしょう?」
「それでもいいけどって。あれ? ココって異世界人じゃないのに、なんで着物とか知っているの? コスプレファッションだってすぐに理解したし……」
ナオはココって少し変だとは思っていたのです。
コスプレフェスとしか思えない風景を、夢で見たと言っていましたしね。
ココはペロッっと舌を出しました。
「バレたか。私ってどうやら前世の記憶があるみたいなんだよねぇ。ナオに会って話した時、なんかそれって知っているぞってことが多くて、そのうちそうかぁ、私は前世日本人だったんだなぁって思ったの」
「じゃぁココは転生者なの?」
ナオがきっとそうだろうと思って聞いてみるとココは否定しました。
「そう言うんじゃないんだよね。前世自分がどこの誰かもわからないしね。ただ、こうなんていったらいいのかなぁ。デジャヴっていうの? あぁ、私これ見たことある。知っているって感覚なんだぁ。だからきっと前世はナオと同じ世界にいたんじゃないかなぁって思うの」
「デジャヴねぇ。その言葉だってここの世界の言葉じゃないもの。きっとココは前世は日本人だったんだろうね。記憶がなくて残念だね」
「いやだ。前世の記憶なんてあっても仕方ないじゃない。ココはココなんだしさぁ。今の環境、すっごく気に入っているんだもの」
「ココは結婚しないの? モテるんでしょ?」
「私は結婚は未だ考えられないかなぁ。だって仕事が楽しいんだもの」
ここにロッテがいれば、そんなこと言っていると婚期を逃すぞと脅すところでしょうが、ナオはあぁそうかと頷いただけでした。
ナオはさっさと仕事の目途をつけてプレシュス辺境伯領に帰国したくてたまらないのです。
王都にいればナオもロビンも仕事に追われてすれ違うばかりです。
ナオはやればできる子ですが、ロビン大好きっこでもあるので、ロビンとずっと一緒にいたいのです。
だというのに、ナオの友達が次々と結婚式を挙げるので式に出席するためにナオは王都を離れられないのでした。
「最初は結婚式って凄く感動したけれど、こう毎週、毎週、結婚式ばかりだと、もうお腹いっぱいだわ」
ナオがそんな愚痴をこぼすと、ロビンがナオを引き寄せて笑いました。
「いいのか? 今週はお前の親友のロッテの結婚式だろうが」
「えぇ、ロッテの結婚はしっかりお祝いしないとね。ナオが言うのは一般的な結婚式のことよ。あの戦争以降、結婚式で潰れなかった週末ってあったかしら? もうお腹いっぱいになっても仕方ないと思うわ」
ナオはぷんとむくれてしまいます。
ロビンがやれやれという顔をすると、奥方のご機嫌を取りました。
「ほら、あとひと月もすれば王太子殿下の結婚式だ。それが済めば領地に帰ろう。2人きりでのんびりしようじゃないか。もしかしたらナオは疲れてしまったのかも知れないね。明日は休みにして、また薔薇の街にでも行ってみるか?」
ロビンの提案に、たちまちナオはご機嫌を治しました。
まぁ、ナオのご機嫌を取るのはとっても簡単です。
ロビンが一緒にいさえすればいいのですから。
ロビンとしては先読みの巫女の様子を見ておきたいという目論見がありました。
この王都で政務をみているのはクレメンタイン公爵家です。
エルが宰相をやっているのは、行政担当がクレメンタイン公爵家だからです。
マクギネス公爵家は司法を担当していました。
だからアンバー公子は規格外なのです。
謹厳実直で決まりを守ることに重きをおくマクギネス公爵家の跡取りが、新しい物事を取り入れることに熱心なのですから。
そうしてプレシュス辺境伯は外交と防衛を担当しているので、各国に密偵を放つのもお仕事の一環です。
プレシュス辺境伯のもとに優秀な影が揃っているのは、そういう理由があるからです。
そのプレシュス辺境伯の直感が、先読みの巫女に会っておけと警告を発しているのでした。
もともと占星術は星の巡りを、読み取ることで、天候、冷害、災害などの予測をするためのものです。
ですから占星術師の塔の長は、毎日の予報を宰相閣下の元に届けることになっています。
ただし占星術師の中に、ごくまれに先読みの力を持つ者が生まれる時があります。
そうして先読みの巫女の預言は代々、プレシュス辺境伯の元に届けられてきました。
これは先読みの巫女がプレシュス王家が保護してきた一族であるからで、その伝統にのっとって慣例的に行われてきたのです。
さすがに王家もこのような秘儀をプレシュス家に独占させる訳もなく、プレシュス家に届けられる預言の内容は、王家の影によって速やかに王家の知る処になります。
先読みの巫女は陰陽の姫の預言や、エマージング大草原での戦闘についての預言も、隠すことなくロビンに報告してきています。
だけどもロビンは、なんとなく先読みの巫女に異変が起きているのではないかと思えてしかたがないのです。
先読みの巫女にナオを会わせてみよう。
ロビンはそう思いました。
主筋であるロビンが会っても、先読みの巫女は本音を語らないでしょう。
しかし能天気なナオとなら先読みの巫女は本当のことを話すかもしれません。
それに先読みの巫女とナオは同じ年齢です、
女の子は女の子同士の方がいいに決まっています。
そんな目論見を、ロビンは何もいいませんでした。
先入観なくナオを巫女に引き合わせたいからです。
明日のロビンとデートが出来るとあって、すっかり上機嫌のナオを見て、ロビンはなるほどと思いました。
先読みの巫女とナオは、こんなところがとても良く似ているのです。
人の思惑の裏側を読もうとしない。
真っすぐに人の言葉をそのまま受け止めるナオは、たしかにちょろいかもしれませんが、常に人の言葉の裏を読み続けてきたロビンにとって、心安らぐ存在でした。
そうして先読みの巫女も、人の言葉に裏があるなどとは全く思っていないのです。
なるほど、似た者同士とはこのことか。
ロビンは、明日の先読みの巫女とナオとの出会いで、何かが動き出すのではないかと思っていました。
「ねぇ、ロビン。どうしたの? なんか難しい顔しているよ?」
いつの間にか自分の考えに没頭していたロビンは、自分の顔を心配そうにのぞき込んでいるナオを見て、にっこりと笑いかけました。
「ごめんよ。ちょっとぼんやりしていただけだ。そう言えばナオは新しい服を作るんだって? デザイン画を見せてくれないかな」
ナオは途端にロビンの膝から飛び降りると、パタパタと走り出しました。
「ちょっと待ててね。すぐにスケッチブックを取ってくる」
そんなものは、メイドにでも取りにやらせればいいだろうに。
そう言いかけてロビンは、その言葉を飲み込みました。
これがナオなのです。
ロビンはナオによって随分救われているのです。
好意に、真っすぐな好意で返してくれる存在。
純粋にロビンを見つめるナオ。
ナオがいなければ、いつか俺は魔王になっていたかもしれないな。
スケッチブックを手に、ロビンの元に駆け込んだナオを両手を広げて受け止めたロビンは、ぎゅっとナオを抱きしめました。
「ロビン、苦しいよ。ねぇ、ロビン。ロビンってば。どうしたの? ロビン、だーい好きよ」
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