ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日

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王太子の結婚と移動遊園地

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「そんなにソワソワしなくたって、お前も式典の列席者なんだぞ」

 ロビンがすっかり舞い上がってしまっているナオに、呆れたように声をかけています。

「だって、ロビン。本物の王子さまの結婚式なんだよ。しかもリリーがお姫様になるんだもの。すごいよねぇ。まさか王子様の結婚式に出席する日が来るなんて思わなかったよ。しかも王都中でお祭りが開催されてるのよ。お祭りって大好きなの」

 もう言葉の後ろにハートマークがくっついていますし、いかにも貴婦人らしい姿はすっかり影を潜めて、素のままのナオがそこにいました。

「午前中の結婚式と夜におこなわれる結婚披露パーティには必ず出席することになるから、昼間は王都で遊ぶかね? そのつもりなら用意は整えてあるが」

 それを聞くなりナオはロビンの首にかじりつきました。

「すごいわロビン。ありがとう。だーい好きよ」

 ロビンはナオを抱きとめると、苦笑するしかありません。
 そうしないと、どうせこっそりひとりで抜け出したに違いないのです。
 ナオはどうも自分の防御魔法に自信を持ちすぎるきらいがあります。


 午前中にそれこそ目の前で王朝絵巻のような麗々しい結婚式を見せられて、ナオの顔は興奮のあまり紅潮しています。

 王太子殿下の結婚式とあって各国の王様や王子さまも式典に出席しているので、その美々しさにうっとりとしているのです。

「ねぇ、ロビン。マール大公がいらっしゃるわ。おひとりってことは、まだお妃さまが決まらないのね」
 
 ナオは見知った王族を見つけて嬉しそうにロビンにささやきました。
 ロビンにとっては居並ぶ王族など、いずれもやっかいな奴らでしかないのに、ナオにとっては王族というだけで興奮の対象になるようです。

 王子様に憧れる少女の気持ちはわからないでもないし、可愛らしいといえるかもしれませんが、ロビンは少しナオに意地悪をしてやりたくなりました。

「そんなに王や王妃に憧れるなら、お前を王妃にしてやっても良いぞ。どの国が欲しいんだね」

 さすがに周囲に聞こえないようにナオの耳元でささやけば、ナオはたちまち蒼白になりました。

「いらない、いらない。国なんて欲しくないからね。絶対に獲っちゃ駄目だからね。ロビン」

 慌ててそう言ったナオはロビンの表情を見ると、どうやら揶揄われただけだと察して、ロビンの耳元にささやき返しました。

「意地悪ロビン。覚えてらっしゃいよ」

 ロビンはにやけそうになる顔を隠そうとして、その大きな手で口元を覆います。
 そんなプレシュス辺境伯の姿は他国の人々には、何かを企んでいるような表情に思えて戦々恐々とするのでした。



 そんなバカげた印象を植え付けてしまったとは、まったく気が付かないナオは、ため息をつくような美しいショーが終わると、さっそく街に繰り出そうとじれています。

 ロビンの今回の変装は、田舎からやってきたお上りのお役人夫婦といった設定です。
 精一杯に洒落たつもりでも、洋服は古ぼけていて流行遅れですが、それでも一応上質な生地は使っているのです。

 ナオはその衣装を見ながら、しみじみと感心していました。
 ロビンが映画監督になれば、かの巨匠みたいに細部にこだわるんだろうなぁという、斜め上の感心でしたけれども。

 どうせ影だってついているだろうし、それになんといっても戦士としても名高いロビンがエスコートをしているのですから、ナオは街中を自由に闊歩しています。

 驚いたことにロビンはこの王都の隅々までよく知っていて、売り子や芸人たちに実に気安く声をかけていきます。
 その様子はいかにもお上りさんが王都を満喫するようにしか見えません。

「ロビンってすごいわねぇ。素晴らしい俳優さんになれるわよ」

 ナオに褒められて、ロビンは苦笑するしかありません。
 俳優は正体がばれても命を取られることはありませんが、ロビン率いる影の者は正体がばれれば、ひっそりと殺されてしまうこともあるのですから。

「さぁ、夜まではたっぷりと時間があるが、ナオはどこに行きたいんだ?」

「もちろん、移動遊園地よ。ずっと移動遊園地に興味があったんだけど、なかなか実際に見ることができなかったんですもの」

 ナオが言う移動遊園地は、世界中のお祭りを巡っている魔術師や魔法師の一団です。
 魔法や魔術を使って、世にも不思議な舞台を演出したり、メリーゴーランドやジェットコースターに似た遊具を体験させてくれるのです。

 かなり広い場所が必要なので、移動遊園地は運河のほとりの普段は閑散としている広場に設置されています。
 ナオはほとんどロビンを引きずるようにして移動遊園地に向かっています。
 ロビンとしては子供騙しとしか思えない仕掛けに、なんで一応本人だって魔法師でもあり魔術師でもあるナオが、そんなに夢中になるのかさっぱりわかりません。

 なんだか今日のナオは、まるで子供みたいです。
 いいや、まだまだ子供だったなと、ロビンは思い直しました。
 普段のナオはきっと、ロビンの妻としてかなり背伸びをしているのでしょう。
 そう気づくと、ロビンはますますナオが愛しくなるのでした。



「着いたぁー」

 広場の入り口には『ファンタジアへようこそ』の横断幕が掲げられていて、この先が非日常への入り口だと示しています。

 入口で5銀貨を支払って入場する仕組みなので、子供たちが気楽に遊ぶことができない値段設定ですが、そこは心配ありません。

 会場に入り込むことのできる隙間はいたるところにあって、子供なら誰だって移動遊園地に潜り込む方法を、代々の兄貴分から伝承されているのです。

 ですから入り口からこうして正規の値段で入場するのは、ナオたちみたいな大人や、裕福な大人に連れられてきた子供たちです。

 そうして懐に余裕のある者たちは、まさか正規金額だけ払って入場したりはしません。
 無償で楽しんでいる子供たちの分を、寄付として支払うのが粋な大人のやり方とされているのです。

 ロビンは大金貨を1枚渡しましたが、それはいかにも粋がりたい田舎者の背伸びに見えて、受付の男の失笑をかっていました。


 ファンタジアに足を踏み入れると、ナオ達は自分が小人になってしまったような錯覚に陥りました。
 そこかしこに咲いている見知った花々は、ナオの背丈の遥か上にありますし、色鮮やかなキノコたちだって、まるで小さな家ぐらいの大きさがあります。

 いいえ、どうやらキノコはお家みたいです。
 なぜなら、扉があるんですもの。
 ナオはピンクのキノコを選んで、中に入ってみました。
 キノコの中には、円形の形に椅子が並べられています。

「ロビン、どうやらこの椅子に座れって言っているみたいよ」
 
 ナオはそう言ってロビンと一緒にその椅子に腰をかけました。
 椅子にすわるなり、ベルトがあらわれて、がちりと身体を椅子に固定してしまいます。
 バァン! と扉と窓が一斉に開いて、外が丸見えになりました。

 次の瞬間、キノコの家は、猛スピードで、ファンタジアの中を飛んでいきます。

「キャァー」

 ナオが思わず悲鳴をあげたのは、目の前に大きな木が現れたからです。

「ぶつかるぅーー」

 ナオは大声で叫びましたが、キノコの家は、その大木をひらりとさけると、ぐんぐんと空にのぼっていきます。
 ある程度上昇すると、どうやら満足したらしいキノコは、ゆらゆらと空を散歩します。

「まぁ、すてき」

 上空からはファンタジアの景観を一目で見渡すことができ、おどろおどろしい幽霊屋敷や、沢山のぷにゅぷにゅしたボールと戯れる子供たち、見たことがない珍獣がいる森などがあって、ナオはこれからの冒険に心が浮き立ちました。

 けれどものんびりとしていたのは、ほんのしばらくの間だけです。
 いきなり、キノコの家は、まるで失速でもしたみたいに、急降下をはじめたのです。
 ベルトでがっちりと身体を椅子に固定されていなければ、ナオやロビンは空に落っこちてしまったことでしょう。

「キャァー」

 悲鳴をあげているというのに、ナオの目は楽しそうに輝いています。
 やれやれ、これはまるで子供だなぁと、ロビンはのんびりとナオを眺めるよりほかにすることがありません。
 この子供だましを楽しむには、ロビンは本物の窮地を経験し過ぎていたのです。

 キノコの家が珍獣の森におりると、ここまでとばかりに、ナオとロビンをぺいっと外に放り出し、帰ってしまいました。

「放り出すなんて失礼なキノコだわ」

 ナオはぶつぶつと文句をいいかけましたが、周りに集まってきたピンクや黄色、水色やオレンジ色の、もふもふとした手の平サイズの珍獣たちを見ると、あっという間に機嫌を治してしまいました。

 ふわふわした毛皮の中から小さな丸い瞳がナオを見つめて、ちぃちぃと可愛らしく鳴いています。
 ナオが救いあげて撫でてやると、我も我もとナオに群がって撫でてもらいたがるのでした。

 ロビンには1匹たりとも近寄らないのは、大人げないロビンがこの小さな生き物に殺気を放って、近寄らないように威嚇していたからです。

 ナオはそれと気づくとロビンを自分の隣に座らせて、自分がロビンの膝の中にすっぽりと納まってしまいました。
 そうなると、ロビンとしても殺気を放つことができません。
 そんなことをしたら、チビどもと遊びたいナオが、がっかりしてしまいますからね。

 という訳で、いつの間にか、ロビンの頭にも肩にも小さなもふもふが群がっています。

 ナオがそんなロビンの顔をみて大笑いをするので、ロビンはとうとう不機嫌な声で、そろそろ次へ移動するぞと言いました。
 けれどナオはロビンがもふもふに群がられたときに、ちょっぴり口元が緩んだのを知っています。
 
 名残惜し気にもふもふたちと別れて、ドンドンと森を進むと、巨大な猫が現れました。
 ふわふわの巻き毛は真っ白で、どこから見ても猫ですが、小さな翼がついています。
 ケット・シーにしては大きすぎるし、喋る様子もありません。

 猫は2人を見ると、尻尾を器用に使ってナオとロビンを自分の背中に乗せてしまいました。
 そのままふわふわとのんびりと浮遊していきますから、落っこちる心配はなさそうです。
 ちょっぴり悪戯気をだしたナオが、落っこちそうな素振りをすると素早く尻尾で支えてくれましたから、やはりこの猫は遊覧船みたいにふわふわと森を見学させてくれるみたいです。

 猫の背中でナオとロビンは珍獣の森を堪能しました。
 恐ろし気な8つの頭をもつ蛇も、緑色の巨大な牙をもつ狼も、猫の背中にいるかぎり襲ってくることはありません。
 突然空から巨大な鳥が飛んできたり、どうやったらあんなに伸びたのかわからないぐらい長い首をもつ珍獣が、ゆったりと草を食んだりしています。

 
 真っ白な翼をもつ猫は、子供たちが遊んでいる遊具の場所までくると、やっぱりペイっとナオたちを放り出しました。
 最後のぺいっさえなければ、素晴らしい案内人なのになぁとナオは思いました。

「ナオ、まさか遊具で遊びたいとは言い出さないだろうね。そろそろ戻って仕度をはじめないとアンジェが発狂するぞ」

 ロビンに言われてナオは自由時間の終わりを知りました。
 またプレシュス辺境伯夫人としてのお仕事が始まります。

「ええ、勿論ですとも旦那様。さぁ帰りましょう」
 ナオはするりとロビンの腕に手を絡ませました。

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