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懐かしのわが家
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ロビンとナオはプレシュス辺境伯の領地である、海沿いのリゾート地にきています。
王太子殿下も結婚されたので、ロビンたちは王都を去って、自分達の城に戻ることにしたのですが、その前に海に遊びにきているのでした。
リゾート地として開発されているここバルホミ海岸は、白い砂浜が続く美しい海が魅力的です。
夏の避暑地として富裕層が集まっているので、自然にそれを目当てに工夫をこらしたお店もできて、そぞろ歩きも楽しめるのです。
「ナオはいつまでそうやって海を眺めているつもりかな。よくも見飽きないものだね」
ロビンがそう言って感心するのですが、ナオは潮騒を聞くのが大好きなのです。
ざざぁと寄せては返す波の音を聞いているだけで、どこか懐かしく感じるのでした。
「ロビンのご先祖さまは、海賊だったりするのかしら?」
シルフィードベル王国のは広大な森林を有する国ですが、海に面した領土も多く持っています。
海賊と言えば島国という印象ですが、これだけ長い海岸線を保有する国ならば、ご先祖様に海賊がいてもおかしくありません。
「どうだろうねぇ、王家なんて元をただせばやんちゃ者が侵略を繰り返して作り上げたものだからね。そういった連中が海へ乗り出して海賊として名をはせてもおかしくはないが……しかしやはり有名な海賊と言えば島国であるラフィック王国が有名だろうね」
「どうしてそんなに海賊にこだわるんだい。ナオは海賊に思い入れでもあるのかな?」
「そうねぇ。なんだかロマンチックな気分がするの。この広大な海をちっぽけな船で冒険するなんてね。誰にも仕えずに、海を領土とするのはいい気分なんだろうなぁって。本物の海賊はやっぱり盗人なんだろうけどね」
そう言っていつまでも海が見える窓辺から離れようとしないナオは、どこか儚げに見えてロビンは、ドキっとしてしまいました。
女の子らしいおセンチと言ってしまうには、ナオの様子はどこか変です。
いつもなら大はしゃぎをして、海で遊びまわりそうなものなのに、ただ静かに海辺を散策するぐらいのことしかしないのです。
ロビンはとうとう医師を呼び寄せました。
ナオはどこも悪くないと言い張りましたが、だったらなぜナオは急に出不精になってしまったんでしょうか?
医師は診察を終えると、辺境伯にお話したい事がありますと言い出しました。
奥方様とお2人でお聞きくださいというのです。
ロビンは自分の不安が的中してしまったのかと、気が遠くなる想いでした。
「閣下、大変喜ばしいご報告でございます。奥方さまのお腹には閣下のお子が宿っております。ここ最近奥方さまのメランコリックな気分も、その影響だと考えられます。まことにおめでとうございます」
なんとナオには赤ちゃんができたのです。
ナオは無意識にそれを察知して、赤ちゃんを守る行動をとっていたのでしょう。
「それで? どっちなんだい? お腹の子供は男の子なのか。女の子なのか」
ロビンはどうやら混乱のあまり何を言っていいのか、わからなくなってしまったようです。
「閣下、らしくございませんぞ。お腹の赤子の性別なんぞ生まれなければわかりますまい。それよりも奥方様に何か言って差し上げなくてよろしいのですかな?」
この報告を聞いて男親が混乱するのを何度も経験してきた医者は、そう言ってロビンを宥めました。
それを聞いてようやくロビンは、赤ちゃんが出来たという事実を実感できたのです。
「ナオ、ありがとう。とても嬉しいよ。身体をいたわっていい子を産んでおくれ。どうしよう。すぐに乳母やナニーの手配をしなければ。子供部屋も必要だし、側仕えだって……」
「ロビン」
ナオはそっとロビンの手をとります。
「おかしいわねロビン。どんなに強敵に囲まれても眉ひとつ動かさないあなたが、赤ちゃんのことでそんなに取り乱すなんて。大丈夫よ。ロビン。赤ちゃんが生まれるのは、もっとずっと先の事ですからね」
「さようでございますね。出産するころには季節は冬に差し掛かっているでしょうな。閣下には気長にお待ちいただかねばなりませんな」
医者もそう言葉を添えてくれましたから、ようやく少しばかりロビンにも落ち着きが出てきました。
「それで、こうやっていつも海風にあたっていても大丈夫なのかな。身体にさわるようなことはありませんか? もういっそ城に戻ったほうがいいのではないか?」
初々しく妻を気遣う辺境伯を見て、医者はにっこりとしました。
「閣下、今は移動をなさらぬほうがよいでしょう。一番不安定な時期ですからね。海風を浴びるのは良い事ですよ。気分も健やかになりますからな。あとひと月お待ちになってから、城に戻られるとよろしいでしょう。そのころには夏の暑さも和らぎますし、お腹の子供も安定いたしますから」
そう言われてロビンは当初の予定よりも長く、夏の離宮に留まることを決めました。
医者も毎日往診すると約束しましたし。ナオは初めての赤ちゃんにしては落ち着いています。
けれどもロビンはすっかり公務から手を引いてしまおうとしました。
「私は随分国の為に尽くしてきた功績がありますからね。そろそろ表舞台から身を引いても良い時期ですよ」
そんな風に我儘ばかり言うようになった旦那様ですが、ナオはそこまでロビンが赤ちゃんを喜んでくれると思っていなかったので、すっかり安堵しています。
「ナオ、ちゃんと食べないと赤ちゃんに栄養がいかなくなるよ」
「ナオ、そんなに動き回ると、赤ちゃんにさわるよ」
「ナオ、もう少し休んでいなさい。君はただの身体じゃないんだからね」
ロビンが小姑並みに口うるさくなってきて、とうとうナオはお母さまに救援を要請しました。
お母さまのお兄さまは病気を克服することができたので、お母さまが山の神殿に戻ってきていたのです。
ナオがいくら大丈夫だといっても、出産経験のないナオの言葉を、ロビンは聞こうとしないのでした。
「母上、大神殿の方がずっと涼しくて過ごしやすいでしょうに、どうしてまたこんな暑い中海辺の離宮にまでいらしたのですか?」
ロビンは自分の母親が父親の死後をほとんど神殿で過ごしていて、ことに熱い夏場には神殿から降りてきたことがないのをよく知っています。
いったい母親はどうしたというのでしょうか?
「ロビン、孫が生まれるというのに私がのうのうと神殿にいられると思いますか? それにどうやらお前は随分と過保護になっているそうですね。妊娠は病気ではありませんよ。あんまりお前が心配しすぎると、かえってナオが窮屈になってしまいます」
「出産の事は女に任せて、ロビン。お前は自分が出来ることをなさい。お仕事を放り出しているんですって?」
母親の熱弁にたじたじとなってしまったロビンは、それでもなんとか抵抗しようと試みました。
「母上、お気持ちは大変ありがたいのですが、赤子はオレの子供です。父親として責任をもって出産に備えてやらないと」
そんなことをぐずぐずというものですから、とうとうロビンは母親から久しぶりにたっぷりとお説教をされてしまいました。
そんな一幕もありましたが、ようやくナオは出産の時を迎えることになりました。
ナオが産室に入ってかれこれ10時間を超えるというのに、いつまでたっても出産の知らせがありません。
ロビンは苛立たし気に、部屋をうろついて執事に叱られています。
「旦那様、初産というのは時間がかかるものです。場合によっては1昼夜かかる者もいるくらいです。少しは落ち着いて座っていて下さい。生まれればすぐに連絡がまいりますから」
「いいや、それにしても遅すぎる。もしやナオに何かあったのかも知れないぞ。ナオが死にかけているのかも知れないじゃないか。ちょっと見てくる」
そう言って産室までやってきたロビンですが、女たちに阻まれて産室にはいることができません。
散々叱られてまたもや部屋でうろうろするということを、繰り返しています。
ナオが産室にはいって15時間が経過した時、ロビンの待ちかねていた嬉しい知らせが飛び込んできました。
それを聞くとロビンは、まっしぐらにナオの元に飛び込んでいきました。
「ナオ、ナオ。無事なんだね。良かったぁ。心配したんだぞ」
そう言うロビンに産婆が、赤子を見せていいました。
「旦那さま、元気な男の子ですよ。水色の髪と紫の瞳。旦那様にそっくりですよ」
そういうと産婆が産湯が終わって、綺麗にされた赤子をナオの横に寝かせてくれました。
ナオとロビンは2人揃って赤子を覗き込みます。
「なんだかくしゃくしゃの顔をしているな。大丈夫なのか? こいつは」
「ロビンったら、生まれたばかりの赤ちゃんはこんなものなのよ。でもほら、頑固そうな眉といい、意思の強そうな顎といいロビン、あなたにそっくりだわ」
「そうでもないぞ。ほら、こっちをじっと見つめる好奇心の強そうな瞳とか、柔らかな髪質はナオ。お前にそっくりだ」
そう言ってふたりは幸せそうに、わが子に見入っています。
次期プレシュス辺境伯は良くも悪くも、ロビンにそっくりでした。
ロビンとナオはこの愛らしい息子に『クリストファー・ソラ』という名前を付けました。
クリストファーというのはロビンの曾祖父である英雄の名前ですし、ソラというのはナオが自分の世界を忘れないように青い空の色から取ったものです。
こうしてこの赤子はクリスという愛称で呼ばれるようになりました。
目下のロビンとナオの関心事は、このクリスが最初に、おかあさまと言うかおとうさまと言うかという点にあります。
「いくらロビンでもクリスの最初の言葉は、おかあさまに決まっていますわ。おとうさまって先に喋った子供の話なんて聞いたことがありませんもの」
「残念だがね、ナオ。こればかりは譲れないね。クリスの最初の言葉は、おとうさまに決まっているよ。ぼくがどれだけ熱心におとうさまと教えていると思うんだい」
いつもこうやって2人は一歩も引かずに言い争うのですが、結局最後には二人とも抱き合ったりキスしたりしてじゃれ合うことになってしまうのです。
プレシュス辺境伯夫妻は典型的なバカップルだというのが、お城勤めをする者の共通の認識になってしまっています。
けれども彼等は、このバカップル夫妻が大好きなのでした。
「ナオさまは異世界からいらしたというが、もしもナオさまがいらっしゃらなかったら、どうなったか考えることもできないね」
「それはそうですとも。あのまるで冷静なお人形のような閣下に、あんなにも豊かな表情があったなんて! 初めてロビン様が照れ笑いをされた時の衝撃は忘れられないね」
「いやいや、クリスさまを忘れてはいけないよ。すくなくともあの子を天使と呼ばなければ、他に誰を天使と呼べるだろう。クリスさまは聖画でみた天使さまにそっくりじゃないか」
ナオは日本では誰にも必要とされませんでしたが。ここプレシュス辺境領では、最も必要とされる人間のベスト3に入っています。
それにナオはロビンとクリスの笑顔があれば他にはなにも望みません。
ただ、毎日ひっそりと感謝の祈りを捧げています。
「神さま。ロビンと巡り合わせて下さってありがとうございます。ロビンとクリスがいつも笑顔でいられますように。そして今日も領民を守ることができますように。ナオは幸せを頂きました。それを分かち合えますように。ありがとうございます」と……
王太子殿下も結婚されたので、ロビンたちは王都を去って、自分達の城に戻ることにしたのですが、その前に海に遊びにきているのでした。
リゾート地として開発されているここバルホミ海岸は、白い砂浜が続く美しい海が魅力的です。
夏の避暑地として富裕層が集まっているので、自然にそれを目当てに工夫をこらしたお店もできて、そぞろ歩きも楽しめるのです。
「ナオはいつまでそうやって海を眺めているつもりかな。よくも見飽きないものだね」
ロビンがそう言って感心するのですが、ナオは潮騒を聞くのが大好きなのです。
ざざぁと寄せては返す波の音を聞いているだけで、どこか懐かしく感じるのでした。
「ロビンのご先祖さまは、海賊だったりするのかしら?」
シルフィードベル王国のは広大な森林を有する国ですが、海に面した領土も多く持っています。
海賊と言えば島国という印象ですが、これだけ長い海岸線を保有する国ならば、ご先祖様に海賊がいてもおかしくありません。
「どうだろうねぇ、王家なんて元をただせばやんちゃ者が侵略を繰り返して作り上げたものだからね。そういった連中が海へ乗り出して海賊として名をはせてもおかしくはないが……しかしやはり有名な海賊と言えば島国であるラフィック王国が有名だろうね」
「どうしてそんなに海賊にこだわるんだい。ナオは海賊に思い入れでもあるのかな?」
「そうねぇ。なんだかロマンチックな気分がするの。この広大な海をちっぽけな船で冒険するなんてね。誰にも仕えずに、海を領土とするのはいい気分なんだろうなぁって。本物の海賊はやっぱり盗人なんだろうけどね」
そう言っていつまでも海が見える窓辺から離れようとしないナオは、どこか儚げに見えてロビンは、ドキっとしてしまいました。
女の子らしいおセンチと言ってしまうには、ナオの様子はどこか変です。
いつもなら大はしゃぎをして、海で遊びまわりそうなものなのに、ただ静かに海辺を散策するぐらいのことしかしないのです。
ロビンはとうとう医師を呼び寄せました。
ナオはどこも悪くないと言い張りましたが、だったらなぜナオは急に出不精になってしまったんでしょうか?
医師は診察を終えると、辺境伯にお話したい事がありますと言い出しました。
奥方様とお2人でお聞きくださいというのです。
ロビンは自分の不安が的中してしまったのかと、気が遠くなる想いでした。
「閣下、大変喜ばしいご報告でございます。奥方さまのお腹には閣下のお子が宿っております。ここ最近奥方さまのメランコリックな気分も、その影響だと考えられます。まことにおめでとうございます」
なんとナオには赤ちゃんができたのです。
ナオは無意識にそれを察知して、赤ちゃんを守る行動をとっていたのでしょう。
「それで? どっちなんだい? お腹の子供は男の子なのか。女の子なのか」
ロビンはどうやら混乱のあまり何を言っていいのか、わからなくなってしまったようです。
「閣下、らしくございませんぞ。お腹の赤子の性別なんぞ生まれなければわかりますまい。それよりも奥方様に何か言って差し上げなくてよろしいのですかな?」
この報告を聞いて男親が混乱するのを何度も経験してきた医者は、そう言ってロビンを宥めました。
それを聞いてようやくロビンは、赤ちゃんが出来たという事実を実感できたのです。
「ナオ、ありがとう。とても嬉しいよ。身体をいたわっていい子を産んでおくれ。どうしよう。すぐに乳母やナニーの手配をしなければ。子供部屋も必要だし、側仕えだって……」
「ロビン」
ナオはそっとロビンの手をとります。
「おかしいわねロビン。どんなに強敵に囲まれても眉ひとつ動かさないあなたが、赤ちゃんのことでそんなに取り乱すなんて。大丈夫よ。ロビン。赤ちゃんが生まれるのは、もっとずっと先の事ですからね」
「さようでございますね。出産するころには季節は冬に差し掛かっているでしょうな。閣下には気長にお待ちいただかねばなりませんな」
医者もそう言葉を添えてくれましたから、ようやく少しばかりロビンにも落ち着きが出てきました。
「それで、こうやっていつも海風にあたっていても大丈夫なのかな。身体にさわるようなことはありませんか? もういっそ城に戻ったほうがいいのではないか?」
初々しく妻を気遣う辺境伯を見て、医者はにっこりとしました。
「閣下、今は移動をなさらぬほうがよいでしょう。一番不安定な時期ですからね。海風を浴びるのは良い事ですよ。気分も健やかになりますからな。あとひと月お待ちになってから、城に戻られるとよろしいでしょう。そのころには夏の暑さも和らぎますし、お腹の子供も安定いたしますから」
そう言われてロビンは当初の予定よりも長く、夏の離宮に留まることを決めました。
医者も毎日往診すると約束しましたし。ナオは初めての赤ちゃんにしては落ち着いています。
けれどもロビンはすっかり公務から手を引いてしまおうとしました。
「私は随分国の為に尽くしてきた功績がありますからね。そろそろ表舞台から身を引いても良い時期ですよ」
そんな風に我儘ばかり言うようになった旦那様ですが、ナオはそこまでロビンが赤ちゃんを喜んでくれると思っていなかったので、すっかり安堵しています。
「ナオ、ちゃんと食べないと赤ちゃんに栄養がいかなくなるよ」
「ナオ、そんなに動き回ると、赤ちゃんにさわるよ」
「ナオ、もう少し休んでいなさい。君はただの身体じゃないんだからね」
ロビンが小姑並みに口うるさくなってきて、とうとうナオはお母さまに救援を要請しました。
お母さまのお兄さまは病気を克服することができたので、お母さまが山の神殿に戻ってきていたのです。
ナオがいくら大丈夫だといっても、出産経験のないナオの言葉を、ロビンは聞こうとしないのでした。
「母上、大神殿の方がずっと涼しくて過ごしやすいでしょうに、どうしてまたこんな暑い中海辺の離宮にまでいらしたのですか?」
ロビンは自分の母親が父親の死後をほとんど神殿で過ごしていて、ことに熱い夏場には神殿から降りてきたことがないのをよく知っています。
いったい母親はどうしたというのでしょうか?
「ロビン、孫が生まれるというのに私がのうのうと神殿にいられると思いますか? それにどうやらお前は随分と過保護になっているそうですね。妊娠は病気ではありませんよ。あんまりお前が心配しすぎると、かえってナオが窮屈になってしまいます」
「出産の事は女に任せて、ロビン。お前は自分が出来ることをなさい。お仕事を放り出しているんですって?」
母親の熱弁にたじたじとなってしまったロビンは、それでもなんとか抵抗しようと試みました。
「母上、お気持ちは大変ありがたいのですが、赤子はオレの子供です。父親として責任をもって出産に備えてやらないと」
そんなことをぐずぐずというものですから、とうとうロビンは母親から久しぶりにたっぷりとお説教をされてしまいました。
そんな一幕もありましたが、ようやくナオは出産の時を迎えることになりました。
ナオが産室に入ってかれこれ10時間を超えるというのに、いつまでたっても出産の知らせがありません。
ロビンは苛立たし気に、部屋をうろついて執事に叱られています。
「旦那様、初産というのは時間がかかるものです。場合によっては1昼夜かかる者もいるくらいです。少しは落ち着いて座っていて下さい。生まれればすぐに連絡がまいりますから」
「いいや、それにしても遅すぎる。もしやナオに何かあったのかも知れないぞ。ナオが死にかけているのかも知れないじゃないか。ちょっと見てくる」
そう言って産室までやってきたロビンですが、女たちに阻まれて産室にはいることができません。
散々叱られてまたもや部屋でうろうろするということを、繰り返しています。
ナオが産室にはいって15時間が経過した時、ロビンの待ちかねていた嬉しい知らせが飛び込んできました。
それを聞くとロビンは、まっしぐらにナオの元に飛び込んでいきました。
「ナオ、ナオ。無事なんだね。良かったぁ。心配したんだぞ」
そう言うロビンに産婆が、赤子を見せていいました。
「旦那さま、元気な男の子ですよ。水色の髪と紫の瞳。旦那様にそっくりですよ」
そういうと産婆が産湯が終わって、綺麗にされた赤子をナオの横に寝かせてくれました。
ナオとロビンは2人揃って赤子を覗き込みます。
「なんだかくしゃくしゃの顔をしているな。大丈夫なのか? こいつは」
「ロビンったら、生まれたばかりの赤ちゃんはこんなものなのよ。でもほら、頑固そうな眉といい、意思の強そうな顎といいロビン、あなたにそっくりだわ」
「そうでもないぞ。ほら、こっちをじっと見つめる好奇心の強そうな瞳とか、柔らかな髪質はナオ。お前にそっくりだ」
そう言ってふたりは幸せそうに、わが子に見入っています。
次期プレシュス辺境伯は良くも悪くも、ロビンにそっくりでした。
ロビンとナオはこの愛らしい息子に『クリストファー・ソラ』という名前を付けました。
クリストファーというのはロビンの曾祖父である英雄の名前ですし、ソラというのはナオが自分の世界を忘れないように青い空の色から取ったものです。
こうしてこの赤子はクリスという愛称で呼ばれるようになりました。
目下のロビンとナオの関心事は、このクリスが最初に、おかあさまと言うかおとうさまと言うかという点にあります。
「いくらロビンでもクリスの最初の言葉は、おかあさまに決まっていますわ。おとうさまって先に喋った子供の話なんて聞いたことがありませんもの」
「残念だがね、ナオ。こればかりは譲れないね。クリスの最初の言葉は、おとうさまに決まっているよ。ぼくがどれだけ熱心におとうさまと教えていると思うんだい」
いつもこうやって2人は一歩も引かずに言い争うのですが、結局最後には二人とも抱き合ったりキスしたりしてじゃれ合うことになってしまうのです。
プレシュス辺境伯夫妻は典型的なバカップルだというのが、お城勤めをする者の共通の認識になってしまっています。
けれども彼等は、このバカップル夫妻が大好きなのでした。
「ナオさまは異世界からいらしたというが、もしもナオさまがいらっしゃらなかったら、どうなったか考えることもできないね」
「それはそうですとも。あのまるで冷静なお人形のような閣下に、あんなにも豊かな表情があったなんて! 初めてロビン様が照れ笑いをされた時の衝撃は忘れられないね」
「いやいや、クリスさまを忘れてはいけないよ。すくなくともあの子を天使と呼ばなければ、他に誰を天使と呼べるだろう。クリスさまは聖画でみた天使さまにそっくりじゃないか」
ナオは日本では誰にも必要とされませんでしたが。ここプレシュス辺境領では、最も必要とされる人間のベスト3に入っています。
それにナオはロビンとクリスの笑顔があれば他にはなにも望みません。
ただ、毎日ひっそりと感謝の祈りを捧げています。
「神さま。ロビンと巡り合わせて下さってありがとうございます。ロビンとクリスがいつも笑顔でいられますように。そして今日も領民を守ることができますように。ナオは幸せを頂きました。それを分かち合えますように。ありがとうございます」と……
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如月刹那さま
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妄想がとまりません。
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素敵なアイデア、ありがとうございます。
今度はクマΣ(´□`;ノ)ノ
しかもぬいぐるみ(*´∀`)♪先が読めないからいつも楽しませてもらっています!!
ナオとローズマリーでナオの愛称がロッテになってますよ…確かロッテは図書館のミオでナオはアイリーンだったような…
如月刹那さま
いつもありがとうございます。
完全な間違いですね。大急ぎで訂正させていただきました。
教えて下さってとても有難いです。
こんなに暖かい感想を頂いてとても嬉しいのです。
ありがとうございました。