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強情っぱりのナイト
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さて森の家に着いたものの、ナイトをどこに寝かせればいいでしょうか?
ほんのしばらく逡巡したもののアルカはナイトを自分のベッドに寝かせました。
「ダメだよアルカ。男の子なんてソファーにでも寝かせればいいんだよ」
ヒィがそんな注意をしてもアルカは聞き入れません。
「だって、怪我人なのよ。シーツだって新しくしているし、ナイトの服には浄化の魔法を掛けたから汚れる心配だってないわ」
それを聞いてヒィとスィが声高に議論を初めてしまいました。
「これってどうなんだろうね。やっぱりまだ情操が育っていないとみるべきなのか?」
「お師匠様が悪かったんじゃないか? 魔法使いとしては一流だったけど女の子を育てたことなんてなかったろう?」
「それにしても危機感がなさすぎだろう? お子様なのかな?」
そこにフゥが自分も混ざろうとして必死に会話に食い込もうとするので、話はますます混沌とするばかりです。
「ねぇ、ねぇ。何の話? アルカのどこが育っていないって? お胸については言わないお約束だったでしょう? そんなこと言ってもいいの?」
アルカはとうとうぶち切れてしまいました。
「うるさーーい! 怪我人の側で騒ぐな。とっとと出て行け!」
アルカの大声に精霊獣たちはあっと言う間に姿を消してしまいました。
その時ベッドからクスクスという笑い声が聞こえてきます。
「いやぁ、たぶんアルカ。君の声が一番騒々しいと思うよ」
アルカが振り返るとナイトが笑いをかみ殺そうと肩を震わせているのが見えました。
「ナイト。なぁんだ気が付いたのね。心配して損したわ。どこか痛いところはないの? 崖から落っこちるなんてナイトらしくないわね」
「うん、少し頭が痛いけどまぁ大丈夫そうだよ。僕はこれでもワンフォースとはいえ竜の血も混じっているからね。人族としては頑丈な方さ」
「そう、なら良かったわ。たっぶりのベリーの砂糖漬けがあるから良ければパイでも食べていく? パイ皮なら保冷室に作り置きがあるから、20分ばかり待ってくれたらすぐに焼いちゃうわよ」
「へぇー。ベリーのパイかぁ。ひとりで暮らしていると甘味なんて果物でしか取れないんだ。ご馳走になっても構わないのか?」
「もちろんよ。どうせお仕事の後にはちょっとばかり何かつまむことにしているんだもの。じゃぁもう少し休んでなさいね。できたら呼びに来るから」
アルカはもう少しでパイを食べるなら手紙を受け取りなさいって、交渉してしまう処でしたが、すんでのところで思いとどまりました。
そんな人の弱みにつけむようなやり方は、きっとナイトを傷つけるでしょう。
アルカは何故ナイトが人族とも竜族とも距離を置こうとしているかを知っていました。
けれどもナイトはアルカがそんなことを知っていると知ったら、今まで以上に心を閉ざすのじゃないかと思ってそれを言えないでいるのです。
まぁ、多くの人はナイトが竜の血にこだわり過ぎているのだと思っていますけれど、そんな簡単なことではないのです。
少なくとも多感な少年にとっては……
アルカはお菓子作りが大好きです。
お菓子の甘い香りを嗅ぐと、心もあまーーく溶けていきそうな気がします。
パイ生地をこねるのがほんの少しだけ手間ですけれど、発酵のいらないパイはとてもお手軽なお菓子です。
失敗する心配がないうえに、焼き立てが飛び切り美味しいのがいいですね。
せっかく焼いたのに、生地をなじませるためにお預けをくらうお菓子よりも、ずっと気楽です。
お茶を入れるためのお湯を沸かすと、パイ生地にたっぷりのベリーの砂糖漬けを詰め込んで、パイ生地を被せて適当にフォークで穴をあけオーブンに放り込みました。
パイが焼きあがるのを待つ間に、薄切りにしたパンに薄くバターを塗って、これまた塩をもみ込んで薄切りにしたキューバ―を挟み込んで一口大に切り分けておきます。
オランジェのジュースとハーブティを用意するころには、オーブンからパイの焼ける良い匂いが漂ってきました。
ひょこんと顔をだしたフゥが、にへらと笑うと歓声をあげました。
「パイだぁーー」
「フゥ、ヒィとスィを呼んできて頂戴。それにナイトもね」
手早くテーブルに5人分のカトラリーをセッティングして、焼きあがったパイを取り出した時には全員が揃っていました。
「わぁーー随分といい匂いだねぇ」
「どうぞ召し上がれ。パイは焼き立てが一番よ」
美味しいものを食べると、不思議と静かになります。
フォークを入れるとサクっとパイの崩れる音がして、それがさらに食欲を掻き立ててくれます。
「あのね、僕きっとこのパイなら1ホールひとりで食べられると思うな。それにキュバーサンドイッチってどうしてこう美味しいんだろうねぇ。パンにキューバ―を挟んだだけなのにさ」
カイトが真面目な顔でそんなことを言ったので、アルカは嬉しくなりました。
それはつまりとっても美味しかったって事ですものね。
それにフゥ、ヒィ、スィとカイトもいつの間にか仲良く談笑しています。
一緒に食事をするだけで、すっかり気を許してしまえるのですから、もっと早くナイトを食事に誘えばよかったかなぁとアルカは後悔しました。
「このパイはなんだか母さんの作ったパイを思い出すよ。母さんのことは僕が5歳の時に別れたから、何も覚えていないと思っていたのに、このパイは母さんを思い出させるんだ」
「それは当然じゃないか。だってアルカにパイ作りを教えたのは……」
ヒィがうかつな発言をしそうになってので、アルカは慌ててヒィを止めました。
けれどもそれは少し遅かったようです。
ナイトの顔色が変わってしまったのです。
「どういうことだ、アルカ。君は僕の母さんを知っているのか? 毎月、毎月、手紙を寄越していたのはやっぱり母さんなのか?母さんは死んだんだって爺様は言ったけど、それはやっぱり嘘なのか? 僕に手紙を寄越すなんて母さんくらいしか思いあたらなかったから受け取らなかったけど、それが正解のようだね」
ナイトはすっかり怒ってしまいました。
アルカはすっと立ち上がると、今まで拒絶されていた手紙の束を持ってきました。
今日の分も合わせて13通。
本当なら、今日ナイトに配達する予定の手紙です。
「ナイト。知りたい答えはきっとこの手紙に全部書いてある筈なの。だから受け取って頂戴。何も知ろうとしないでお母さんを責めるのは少し気の毒でしょう?」
「嫌なこった。言い分があるなら直接会って話せばいい。こうして手紙で済まそうとするのがそもそも気にくわない。しかも10年もなしのつぶてかと思えば、今度は毎月手紙を寄越すなんて子供を何だと思っているんだ!」
「カイト。カイトのお母さまは亡くなったの。いわばこれは遺書だわ。カイトのお母さまは自分が生きている間はカイトと会わない誓約をしたのよ。魔女の誓約は絶対よ。破れば死ぬしかない。だからこうして自分が死んだ後にカイトと話そうとしているのよ」
カイトは立ち上がり、ギラギラとした目でアルカを睨みました。
「なにを言ったかわかってるのかアルカ? つまり僕の母さんは魔女だって言いたい訳だな。おあいにく様。残念ながら僕の母さんは魔女ではなかったよ。君は嘘つきなんだな!」
そう言ってカイトは家を飛び出してしまいました。
アルカは真っ青になって立ちすくんでいます。
カイトはとうとうアルカのことまで誤解してしまいました。
「どうしよう。どうしよう。どうしたらいいの。私、お師匠さまにあんなにカイトのことを頼まれていたのに。なのに少しも役にたてないよ」
アルカはそのままボロボロと涙を流して座り込んでしまいました。
お師匠さまが死んだ時だって、独りぼっちになったってアルカは泣きませんでした。
大丈夫だよって、ヒィたちを逆に励ましてくれたぐらいです。
アルカが独りぼっちになった時、アルカはまだ14歳になっていなかったのに。
スィとフゥがアルカに寄り添って、静かに慰めています。
きっとアルカが泣き止むまで、2人はアルカの側を離れないでしょう。
それを見て取るとヒィはナイトの後を追いました。
「ヘン、いい気なもんだな。さすがに高貴な血をひくお方は違うね。たった一人で頑張って生きてきた少女をあんなに泣かせてご満足かい?」
ヒィは森の中にぼんやりと佇んでいるカイトを見つけるなり、そんな皮肉をぶっつけました。
あんなにアルカを泣かした奴なんて、いかにお師匠様の実の息子だって容赦するつもりはありません。
「アルカはなぁ、迷い子でこの森を彷徨っているところをお師匠様が見つけたんだ。その時はまだ4つくらいの幼子だったよ。それからお師匠様はアルカを自分の後継者として厳しくし育てたのさ。だってお師匠様の命はあと10年と定められていたからね」
「アルカはずっとお師匠様と一緒にお前を見守っていたよ。お前はお師匠様の子供だろう? アストリア王国の暗黒王妃アナベル、その息子アルファナイト王子殿下。違うってのかい?」
そこまで聞いて初めてナイトはヒィを見つめました。
ヒィの真っ赤な翼は怒りのあまり焔を纏って揺らいでいます。
ヒィはアルカを泣かしたナイトを許さないつもりなのでしょう。
「まさか! 母上は処刑された筈だ。アストリア王国に邪瘴をもたらしたとされて……だから僕は国外追放されたんだ」
ヒィは薄ら笑いを浮かべました。
「それは表向きのことさ。アナベル王妃は人間と竜とのハーフだ。竜の娘が人間の魔法使いの作った毒ぐらいでそう簡単に死ぬかよ。それでも延ばせた寿命は10年だった。なぜだかわかるか? あの魔術師が殺したかったのは王位継承権を持つお前だったからだよ。ナイト。お前にも毒杯は与えられたのさ。けれどもお師匠様はお前の毒を無効化した。そして父である竜にお前を託したんだ」
「竜は怒ったね。そりゃそうさ。罪のない娘と孫を殺そうとしたんだ。本来ならアストリア王国は滅ぼされてもおかしくなかったろうね。それを救ったのはお前の父親たるアストリア王とお前の母親たるアストリア王妃さまだ。2人は真実愛し合っていたからね」
「王は10年の猶予を願った。10年の間に邪瘴を持ち込んだ真犯人を見つけ出し、邪瘴を打ち払いみごと王太子としてお前を迎えに来るとね。そして母親はその10年、愛しいわが子に会わないことを誓約した。竜の娘なのだから魔法使いとしても一流だろう。母親は最も愛しいものから自分を遠ざけたし、父親は最愛の妻を亡くしても我が子の権利を守ろうとしたのさ」
「竜ってのは人族を良く知っている。お前の両親が払った犠牲がどれほど辛いことかも理解したんだ。だからお前を竜の谷で静かに育てて、アストリア王国の守護竜であることを辞めなかったのさ。だってアストリア王国は将来、孫であるお前の国になるのだからね」
「知らなかった! おじい様はそんなこと何も言わなかったし、竜たちはほんの少ししか竜の血が流れていない僕を仲間扱いしなかったんだからな!」
もはやナイトの言葉は駄々っ子とそう変わらなかった。
「言っとくがな、ナイト。竜がお前を人族として育てようとしたのは、お前が将来、人族の王となる定めだからさ。竜ってのは欠片でも竜血の入っているものは、それは大事にする生き物だからな」
そこまで言ってヒィはとどめをさした。
「お前の姿を見る事すら許されないお師匠様の代わりに、いつしかアルカはお前を見守るようになっていったのさ。そうしていつだって楽しそうにお前の話をお師匠様に聞かせていたっけな。そんなアルカをお前は泣かせた。おいらがお前を許せる訳ねぇよな」
ほんのしばらく逡巡したもののアルカはナイトを自分のベッドに寝かせました。
「ダメだよアルカ。男の子なんてソファーにでも寝かせればいいんだよ」
ヒィがそんな注意をしてもアルカは聞き入れません。
「だって、怪我人なのよ。シーツだって新しくしているし、ナイトの服には浄化の魔法を掛けたから汚れる心配だってないわ」
それを聞いてヒィとスィが声高に議論を初めてしまいました。
「これってどうなんだろうね。やっぱりまだ情操が育っていないとみるべきなのか?」
「お師匠様が悪かったんじゃないか? 魔法使いとしては一流だったけど女の子を育てたことなんてなかったろう?」
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そこにフゥが自分も混ざろうとして必死に会話に食い込もうとするので、話はますます混沌とするばかりです。
「ねぇ、ねぇ。何の話? アルカのどこが育っていないって? お胸については言わないお約束だったでしょう? そんなこと言ってもいいの?」
アルカはとうとうぶち切れてしまいました。
「うるさーーい! 怪我人の側で騒ぐな。とっとと出て行け!」
アルカの大声に精霊獣たちはあっと言う間に姿を消してしまいました。
その時ベッドからクスクスという笑い声が聞こえてきます。
「いやぁ、たぶんアルカ。君の声が一番騒々しいと思うよ」
アルカが振り返るとナイトが笑いをかみ殺そうと肩を震わせているのが見えました。
「ナイト。なぁんだ気が付いたのね。心配して損したわ。どこか痛いところはないの? 崖から落っこちるなんてナイトらしくないわね」
「うん、少し頭が痛いけどまぁ大丈夫そうだよ。僕はこれでもワンフォースとはいえ竜の血も混じっているからね。人族としては頑丈な方さ」
「そう、なら良かったわ。たっぶりのベリーの砂糖漬けがあるから良ければパイでも食べていく? パイ皮なら保冷室に作り置きがあるから、20分ばかり待ってくれたらすぐに焼いちゃうわよ」
「へぇー。ベリーのパイかぁ。ひとりで暮らしていると甘味なんて果物でしか取れないんだ。ご馳走になっても構わないのか?」
「もちろんよ。どうせお仕事の後にはちょっとばかり何かつまむことにしているんだもの。じゃぁもう少し休んでなさいね。できたら呼びに来るから」
アルカはもう少しでパイを食べるなら手紙を受け取りなさいって、交渉してしまう処でしたが、すんでのところで思いとどまりました。
そんな人の弱みにつけむようなやり方は、きっとナイトを傷つけるでしょう。
アルカは何故ナイトが人族とも竜族とも距離を置こうとしているかを知っていました。
けれどもナイトはアルカがそんなことを知っていると知ったら、今まで以上に心を閉ざすのじゃないかと思ってそれを言えないでいるのです。
まぁ、多くの人はナイトが竜の血にこだわり過ぎているのだと思っていますけれど、そんな簡単なことではないのです。
少なくとも多感な少年にとっては……
アルカはお菓子作りが大好きです。
お菓子の甘い香りを嗅ぐと、心もあまーーく溶けていきそうな気がします。
パイ生地をこねるのがほんの少しだけ手間ですけれど、発酵のいらないパイはとてもお手軽なお菓子です。
失敗する心配がないうえに、焼き立てが飛び切り美味しいのがいいですね。
せっかく焼いたのに、生地をなじませるためにお預けをくらうお菓子よりも、ずっと気楽です。
お茶を入れるためのお湯を沸かすと、パイ生地にたっぷりのベリーの砂糖漬けを詰め込んで、パイ生地を被せて適当にフォークで穴をあけオーブンに放り込みました。
パイが焼きあがるのを待つ間に、薄切りにしたパンに薄くバターを塗って、これまた塩をもみ込んで薄切りにしたキューバ―を挟み込んで一口大に切り分けておきます。
オランジェのジュースとハーブティを用意するころには、オーブンからパイの焼ける良い匂いが漂ってきました。
ひょこんと顔をだしたフゥが、にへらと笑うと歓声をあげました。
「パイだぁーー」
「フゥ、ヒィとスィを呼んできて頂戴。それにナイトもね」
手早くテーブルに5人分のカトラリーをセッティングして、焼きあがったパイを取り出した時には全員が揃っていました。
「わぁーー随分といい匂いだねぇ」
「どうぞ召し上がれ。パイは焼き立てが一番よ」
美味しいものを食べると、不思議と静かになります。
フォークを入れるとサクっとパイの崩れる音がして、それがさらに食欲を掻き立ててくれます。
「あのね、僕きっとこのパイなら1ホールひとりで食べられると思うな。それにキュバーサンドイッチってどうしてこう美味しいんだろうねぇ。パンにキューバ―を挟んだだけなのにさ」
カイトが真面目な顔でそんなことを言ったので、アルカは嬉しくなりました。
それはつまりとっても美味しかったって事ですものね。
それにフゥ、ヒィ、スィとカイトもいつの間にか仲良く談笑しています。
一緒に食事をするだけで、すっかり気を許してしまえるのですから、もっと早くナイトを食事に誘えばよかったかなぁとアルカは後悔しました。
「このパイはなんだか母さんの作ったパイを思い出すよ。母さんのことは僕が5歳の時に別れたから、何も覚えていないと思っていたのに、このパイは母さんを思い出させるんだ」
「それは当然じゃないか。だってアルカにパイ作りを教えたのは……」
ヒィがうかつな発言をしそうになってので、アルカは慌ててヒィを止めました。
けれどもそれは少し遅かったようです。
ナイトの顔色が変わってしまったのです。
「どういうことだ、アルカ。君は僕の母さんを知っているのか? 毎月、毎月、手紙を寄越していたのはやっぱり母さんなのか?母さんは死んだんだって爺様は言ったけど、それはやっぱり嘘なのか? 僕に手紙を寄越すなんて母さんくらいしか思いあたらなかったから受け取らなかったけど、それが正解のようだね」
ナイトはすっかり怒ってしまいました。
アルカはすっと立ち上がると、今まで拒絶されていた手紙の束を持ってきました。
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「ナイト。知りたい答えはきっとこの手紙に全部書いてある筈なの。だから受け取って頂戴。何も知ろうとしないでお母さんを責めるのは少し気の毒でしょう?」
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「カイト。カイトのお母さまは亡くなったの。いわばこれは遺書だわ。カイトのお母さまは自分が生きている間はカイトと会わない誓約をしたのよ。魔女の誓約は絶対よ。破れば死ぬしかない。だからこうして自分が死んだ後にカイトと話そうとしているのよ」
カイトは立ち上がり、ギラギラとした目でアルカを睨みました。
「なにを言ったかわかってるのかアルカ? つまり僕の母さんは魔女だって言いたい訳だな。おあいにく様。残念ながら僕の母さんは魔女ではなかったよ。君は嘘つきなんだな!」
そう言ってカイトは家を飛び出してしまいました。
アルカは真っ青になって立ちすくんでいます。
カイトはとうとうアルカのことまで誤解してしまいました。
「どうしよう。どうしよう。どうしたらいいの。私、お師匠さまにあんなにカイトのことを頼まれていたのに。なのに少しも役にたてないよ」
アルカはそのままボロボロと涙を流して座り込んでしまいました。
お師匠さまが死んだ時だって、独りぼっちになったってアルカは泣きませんでした。
大丈夫だよって、ヒィたちを逆に励ましてくれたぐらいです。
アルカが独りぼっちになった時、アルカはまだ14歳になっていなかったのに。
スィとフゥがアルカに寄り添って、静かに慰めています。
きっとアルカが泣き止むまで、2人はアルカの側を離れないでしょう。
それを見て取るとヒィはナイトの後を追いました。
「ヘン、いい気なもんだな。さすがに高貴な血をひくお方は違うね。たった一人で頑張って生きてきた少女をあんなに泣かせてご満足かい?」
ヒィは森の中にぼんやりと佇んでいるカイトを見つけるなり、そんな皮肉をぶっつけました。
あんなにアルカを泣かした奴なんて、いかにお師匠様の実の息子だって容赦するつもりはありません。
「アルカはなぁ、迷い子でこの森を彷徨っているところをお師匠様が見つけたんだ。その時はまだ4つくらいの幼子だったよ。それからお師匠様はアルカを自分の後継者として厳しくし育てたのさ。だってお師匠様の命はあと10年と定められていたからね」
「アルカはずっとお師匠様と一緒にお前を見守っていたよ。お前はお師匠様の子供だろう? アストリア王国の暗黒王妃アナベル、その息子アルファナイト王子殿下。違うってのかい?」
そこまで聞いて初めてナイトはヒィを見つめました。
ヒィの真っ赤な翼は怒りのあまり焔を纏って揺らいでいます。
ヒィはアルカを泣かしたナイトを許さないつもりなのでしょう。
「まさか! 母上は処刑された筈だ。アストリア王国に邪瘴をもたらしたとされて……だから僕は国外追放されたんだ」
ヒィは薄ら笑いを浮かべました。
「それは表向きのことさ。アナベル王妃は人間と竜とのハーフだ。竜の娘が人間の魔法使いの作った毒ぐらいでそう簡単に死ぬかよ。それでも延ばせた寿命は10年だった。なぜだかわかるか? あの魔術師が殺したかったのは王位継承権を持つお前だったからだよ。ナイト。お前にも毒杯は与えられたのさ。けれどもお師匠様はお前の毒を無効化した。そして父である竜にお前を託したんだ」
「竜は怒ったね。そりゃそうさ。罪のない娘と孫を殺そうとしたんだ。本来ならアストリア王国は滅ぼされてもおかしくなかったろうね。それを救ったのはお前の父親たるアストリア王とお前の母親たるアストリア王妃さまだ。2人は真実愛し合っていたからね」
「王は10年の猶予を願った。10年の間に邪瘴を持ち込んだ真犯人を見つけ出し、邪瘴を打ち払いみごと王太子としてお前を迎えに来るとね。そして母親はその10年、愛しいわが子に会わないことを誓約した。竜の娘なのだから魔法使いとしても一流だろう。母親は最も愛しいものから自分を遠ざけたし、父親は最愛の妻を亡くしても我が子の権利を守ろうとしたのさ」
「竜ってのは人族を良く知っている。お前の両親が払った犠牲がどれほど辛いことかも理解したんだ。だからお前を竜の谷で静かに育てて、アストリア王国の守護竜であることを辞めなかったのさ。だってアストリア王国は将来、孫であるお前の国になるのだからね」
「知らなかった! おじい様はそんなこと何も言わなかったし、竜たちはほんの少ししか竜の血が流れていない僕を仲間扱いしなかったんだからな!」
もはやナイトの言葉は駄々っ子とそう変わらなかった。
「言っとくがな、ナイト。竜がお前を人族として育てようとしたのは、お前が将来、人族の王となる定めだからさ。竜ってのは欠片でも竜血の入っているものは、それは大事にする生き物だからな」
そこまで言ってヒィはとどめをさした。
「お前の姿を見る事すら許されないお師匠様の代わりに、いつしかアルカはお前を見守るようになっていったのさ。そうしていつだって楽しそうにお前の話をお師匠様に聞かせていたっけな。そんなアルカをお前は泣かせた。おいらがお前を許せる訳ねぇよな」
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