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アルカとお師匠様
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アルカは自分の師匠であり母親代わりでもあったベルの想いを、ナイトに届けられない自分が情けなくって仕方がありませんでした。
フゥとスィが心配してくれているというのに、ぽろぽろと零れ落ちる涙を抑えられないのです。
声を殺して静かに肩を震わせて泣いているアルカにフゥは、そっと声を掛けました。
「アルカ、哀しい時には我慢しないで大きな声で泣いていいんだよ。アルカはいつだって我慢ばかりしているじゃない」
「でも、でも。駄目よ。私が泣く訳にはいかないわ。だってベルはもっともっと辛い思いをしたのだもの。私はベルからナイトを守って! って頼まれたのだもの。約束を守るまで絶対に泣かないってきめたの。だってベルは私を育ててくれたんだから。大事なお師匠さまなんだもの」
嗚咽を必死でこらえてアルカは悲しみを吐き出しました。
フゥとスィに見守られながら、アルカはお師匠さまであるベルとの出会いを昨日のことのように思い出すのでした。
「おかあさま、おとうさま。どこ? おかあさま……」
木漏れ日がちらちらと森を彷徨う少女の姿を照らしています。
少女はもう長い時間、両親の姿を求めて森を彷徨っているのです。
「やれやれ、森がうるさく騒ぐから来てみれば迷い人とはねぇ。しかもまだ幼い。こんな幼子が迷い人になるとしたら、よほどの事情が隠されてると相場は決まっているから、本当なら関わらない方がいいんだけどねぇ」
そんなことを言う女に抗議するように、森の木々がざわざわとざわめきました。
「あぁ、わかっているよ。そんなに文句を言わなくても、あの娘は私が育てるさ。それにしても迷いの森の精霊たちがこぞって助けようとするなんて、あの子はいったい誰なんだろうね」
アルカは森で魔女に出会いました。
魔女は黒い髪と黒い瞳をしていて、それはいかにも闇を纏っているかのようでしたが、魔女からはアルカを守る優しい心が伝わってきました。
「私のことはベルとお呼び。これからは私がお前の母親になってあげるからね。それにお前を優秀な魔女に育て上げよう。だから私はお前のお師匠さまでもあるんだよ」
アルカはその優しくて頼もしい魔女に丁寧な礼をしてみせました。
それは確かにアルカが身分ある娘であることの証左でもあります。
「よろしく。まじょさま。おかあさま。おししょうさま」
少女のおしゃまなカティーシーを見て、ベルは厳しい声で約束をさせました。
「お前には何か秘密があるようだ。その秘密はお前の生存を嫌うかもしれない。だからいいかい。お前の名前はたった今からアルカだよ。何か事情があるからね。そして私はベルと呼べといったろう。忘れないようにしなさい」
「はい、ベル」
アルカは素直にそれを受け入れました。
そうして10年。
アルカはもはや昔、自分が何と呼ばれていたか覚えてはいません。
きっとそれでいいのでしょう。
ベルは最初に約束したように、実の母親のように細やかにアルカの面倒を見てくれましたし、迷いの森の魔女としての魔法の全てをアルカに教えてくれました。
そうしてアルカはいつしかベルの秘密に気が付いていきます。
当然です。
たった二人っきりの家族なのですから。
ベルには自分と同い年の息子ナイトがいること。
ナイトは竜の谷で竜に育てられているけれど、10年たったら竜の国を出ていくことになっていること。
そうして恐ろしいことに、ナイトが竜の国を出るよりも前にベルはきっと死んでしまうということも、アルカは知ってしまったのです。
ベルの胸元には黒い痣があって、それは年々少しずつ大きくなっていきます。
その痣は清浄なベルに相応しくありませんでした。
禍々しい瘴気をまとって、ベルをむしばんでいくのですから。
アルカがその痣について子供心に遠慮して触れないでいるのを見抜いたベルは、ある日その秘密を教えてくれました。
「これは邪瘴と言われるものでね。普通は魔に取り付かれたものが、引き入れるとされているんだよ。もしも邪瘴が人族の世界に入り込めば、その国は恐ろしい災いがおきると言われている。だから邪瘴を持ち込んだものは、邪瘴をその身に全部取り込む呪を施されて殺される決まりなのさ」
あまりの恐ろしい呪いにアルカはガタガタと震えてしまいました。
「大丈夫だよ。アルカ。この邪瘴は私がしっかりと閉じ込めたから悪さはできないよ。私はある国の王妃だったのだけれどね。この黒い髪と瞳のせいで、邪瘴を呼び寄せたのだろうと思われたのさ。悪いことに私が生んだナイトも黒い髪と瞳を受け継いだからね。親子で災いの根を絶つために殺せと神殿は主張したのさ」
「だけどねアルカ。邪瘴を呼び込んだものを殺さないかぎり、邪瘴の根っこは殺せないんだよ。私はこの身体に抱えきれる限りの邪を取り込んだけれどね。それでも10年しか持たないだろう。だから王は私に約束したんだ。きっと10年以内に真犯人を殺して国を救い、私たち母子を救うとね」
「ナイトに邪を取り込ませないために、私は呪の全てを自分で受けた。そしてナイトに会わないという制約をかけたのさ。それでようやく呪を2人分受け入れることが出来たんだ。だけどたぶん、私の身体は10年は持たない。王は私を救うことはできないし、ナイトは二度と母親に会えないのさ」
その話を聞いてアルカは思わず叫んでいました。
「私がいるわ。私がベルの代わりにナイトを守る! もしもベルが死んでしまってもずっと私がベルの大事なナイトを守ってみせるわ。約束します。ベル」
幼いアルカは無意識に魔女の誓約を自分にかけてしまいました。
これでアルカは生涯を、ナイトを見守り、ナイトを守っていくことになったのです。
ベルはアルカの誓約を哀しい顔をして、聞いていました。
自分の養い子は、知らずにとても辛い選択をしてしまったのです。
ナイトはいずれアストリア王国アルファナイト王太子として、日の当たる場所に出て行くことでしょう。
けれどもアルカの住処は、この迷いの森でしかないのです。
ベルはそっと魔力を開放しました。
「アルカの誓約がアルカを苦しめるものになった時、その誓約は迷いの森の魔女ベルの名のもとに消え失せるであろう」
「ベル!」
アルカがいかにも心外そうにベルを非難するような目で見つめました。
そんなアルカをそっと抱きしめて、ベルは言い聞かせます。
「アルカ。可愛い私の娘。私はお前に幸せになって欲しいのさ。だから誓約に条件を付けただけだよ。いいかい。私の願いはお前が笑顔で生きていくことだよ。忘れないで。ナイトには父も祖父もいるのだから、アルカが全てを背負おうとしなくていいのよ。アルカはアルカの幸せを見つけてね」
そんなことがあってから、アルカは毎日竜の谷に飛んでいくようになりました。
そうは言っても、まだまだひよっこ魔女のアルカには、竜の谷へ行くのはとても大変なことです。
毎日ボロボロになって帰ってくるアルカを見かねて、森の精霊獣がアルカの守護精霊になりました。
そうです。
ヒィもスィもフゥもアルカがどれほどナイトを大事に思ってきたかを知っています。
「ベル、今日ナイトはおじい様に剣の訓練を受けていたわ。ナイトは頑張り屋さんなのよ。何度転んでも竜に向かっていくのですもの。ナイトはきっと伝説の竜殺しの騎士様みたいに強くなるわ」
そう報告するアルカの手足のほうが、ナイトよりもずっと酷いけがをしているのですから、ヒィたちがアルカを守ってやろうとしたのも無理はありません。
「ベル。今日、ナイトは竜の子供たちと喧嘩をしたの。大丈夫かなぁ。コテンパンに負けたけどナイトが弱いんじゃないのよ。竜の子供が3人がかりだったんだもの。だからナイトって凄いんだわ」
「ベル、ナイトが本を読んでたよ。声に出して呼んでたけど、アルカよりもずっと難しいことを勉強しているみたいなの。帝王学ってベルは知っているかしら?」
「ベル、ナイトはどうやら水泳も得意みたいよ。まるでお魚みたいに川で泳いでいたの。ナイトってすっごく綺麗だね。それに身体が丈夫みたい。あんな冷たい川、アルカなら10分も泳げないわよ。寒くなるもの。なのにナイトは2時間も川遊びをしてたのよ」
こうして毎日、毎日、竜の谷に通いつめたおかげで、アルカの魔法はぐんぐんと上達していきました。
12歳になった時には、竜の国へ荷物の配達を頼まれるようになって、普通の魔女よりずっと早くアルカは一人前の魔女として認められたのです。
そうやって幼いナイトの成長する姿を思い出しているうちに、アルカの頬に血色が戻り、口元にも微笑みが浮かんできました。
アルカはナイトのことを考えるだけで、心がぽかぽかとあったかくなるのです。
その時、ドンドンドン、ドンドンドンと扉を叩く音がします。
迷いの森の魔女の家を訪ねる人は、あまりいません。
誰だろうとアルカが扉を開けると、そこには立派な騎士様が立っていました。
「失礼します。迷いの森の魔女さまはいらっしゃいますかな。私はアストリア王国騎士団の団長をしているヒューイットと申す者です。迷いの森の魔女さまにお会いしたい」
「それなら私ですわ。私が迷いの森の魔女アルカです」
それを聞くと騎士団長は目に見えて狼狽しました。
「いや、しかしそんな筈はありません。お嬢ちゃんのような小さな魔女さまではなく、もっと年配の魔女さまはいらっしゃいませんか。こちらに住んでいる筈なのですが」
「もしかして先代の迷いの森の魔女ベルのことでしょうか? ベルはちょうど1年と1ヶ月前に亡くなりました。今は私はこの森の魔女なんです」
「そ、そんな。王妃さまがお亡くなりになったというのですか? そんなバカな! そんな訳があるものか。王になんといって報告すればいいのだ!」
騎士団長は思わずアルカの肩を掴んで、大きくゆすぶっていました。
その時強い風が吹いて、騎士団長の身体は吹っ飛んでしまいます。
「アルカに乱暴をしたら許さないからな!」
緑色の可愛らしい子犬が、激しい怒りをあらわにしています。
「良ければ騎士団ごと、水に沈めてやってもいいんだぜ」
水色の愛らしい子猫が、瞳をぎらつかせました。
このままでは大変なことになりそうです。
フゥとスィが心配してくれているというのに、ぽろぽろと零れ落ちる涙を抑えられないのです。
声を殺して静かに肩を震わせて泣いているアルカにフゥは、そっと声を掛けました。
「アルカ、哀しい時には我慢しないで大きな声で泣いていいんだよ。アルカはいつだって我慢ばかりしているじゃない」
「でも、でも。駄目よ。私が泣く訳にはいかないわ。だってベルはもっともっと辛い思いをしたのだもの。私はベルからナイトを守って! って頼まれたのだもの。約束を守るまで絶対に泣かないってきめたの。だってベルは私を育ててくれたんだから。大事なお師匠さまなんだもの」
嗚咽を必死でこらえてアルカは悲しみを吐き出しました。
フゥとスィに見守られながら、アルカはお師匠さまであるベルとの出会いを昨日のことのように思い出すのでした。
「おかあさま、おとうさま。どこ? おかあさま……」
木漏れ日がちらちらと森を彷徨う少女の姿を照らしています。
少女はもう長い時間、両親の姿を求めて森を彷徨っているのです。
「やれやれ、森がうるさく騒ぐから来てみれば迷い人とはねぇ。しかもまだ幼い。こんな幼子が迷い人になるとしたら、よほどの事情が隠されてると相場は決まっているから、本当なら関わらない方がいいんだけどねぇ」
そんなことを言う女に抗議するように、森の木々がざわざわとざわめきました。
「あぁ、わかっているよ。そんなに文句を言わなくても、あの娘は私が育てるさ。それにしても迷いの森の精霊たちがこぞって助けようとするなんて、あの子はいったい誰なんだろうね」
アルカは森で魔女に出会いました。
魔女は黒い髪と黒い瞳をしていて、それはいかにも闇を纏っているかのようでしたが、魔女からはアルカを守る優しい心が伝わってきました。
「私のことはベルとお呼び。これからは私がお前の母親になってあげるからね。それにお前を優秀な魔女に育て上げよう。だから私はお前のお師匠さまでもあるんだよ」
アルカはその優しくて頼もしい魔女に丁寧な礼をしてみせました。
それは確かにアルカが身分ある娘であることの証左でもあります。
「よろしく。まじょさま。おかあさま。おししょうさま」
少女のおしゃまなカティーシーを見て、ベルは厳しい声で約束をさせました。
「お前には何か秘密があるようだ。その秘密はお前の生存を嫌うかもしれない。だからいいかい。お前の名前はたった今からアルカだよ。何か事情があるからね。そして私はベルと呼べといったろう。忘れないようにしなさい」
「はい、ベル」
アルカは素直にそれを受け入れました。
そうして10年。
アルカはもはや昔、自分が何と呼ばれていたか覚えてはいません。
きっとそれでいいのでしょう。
ベルは最初に約束したように、実の母親のように細やかにアルカの面倒を見てくれましたし、迷いの森の魔女としての魔法の全てをアルカに教えてくれました。
そうしてアルカはいつしかベルの秘密に気が付いていきます。
当然です。
たった二人っきりの家族なのですから。
ベルには自分と同い年の息子ナイトがいること。
ナイトは竜の谷で竜に育てられているけれど、10年たったら竜の国を出ていくことになっていること。
そうして恐ろしいことに、ナイトが竜の国を出るよりも前にベルはきっと死んでしまうということも、アルカは知ってしまったのです。
ベルの胸元には黒い痣があって、それは年々少しずつ大きくなっていきます。
その痣は清浄なベルに相応しくありませんでした。
禍々しい瘴気をまとって、ベルをむしばんでいくのですから。
アルカがその痣について子供心に遠慮して触れないでいるのを見抜いたベルは、ある日その秘密を教えてくれました。
「これは邪瘴と言われるものでね。普通は魔に取り付かれたものが、引き入れるとされているんだよ。もしも邪瘴が人族の世界に入り込めば、その国は恐ろしい災いがおきると言われている。だから邪瘴を持ち込んだものは、邪瘴をその身に全部取り込む呪を施されて殺される決まりなのさ」
あまりの恐ろしい呪いにアルカはガタガタと震えてしまいました。
「大丈夫だよ。アルカ。この邪瘴は私がしっかりと閉じ込めたから悪さはできないよ。私はある国の王妃だったのだけれどね。この黒い髪と瞳のせいで、邪瘴を呼び寄せたのだろうと思われたのさ。悪いことに私が生んだナイトも黒い髪と瞳を受け継いだからね。親子で災いの根を絶つために殺せと神殿は主張したのさ」
「だけどねアルカ。邪瘴を呼び込んだものを殺さないかぎり、邪瘴の根っこは殺せないんだよ。私はこの身体に抱えきれる限りの邪を取り込んだけれどね。それでも10年しか持たないだろう。だから王は私に約束したんだ。きっと10年以内に真犯人を殺して国を救い、私たち母子を救うとね」
「ナイトに邪を取り込ませないために、私は呪の全てを自分で受けた。そしてナイトに会わないという制約をかけたのさ。それでようやく呪を2人分受け入れることが出来たんだ。だけどたぶん、私の身体は10年は持たない。王は私を救うことはできないし、ナイトは二度と母親に会えないのさ」
その話を聞いてアルカは思わず叫んでいました。
「私がいるわ。私がベルの代わりにナイトを守る! もしもベルが死んでしまってもずっと私がベルの大事なナイトを守ってみせるわ。約束します。ベル」
幼いアルカは無意識に魔女の誓約を自分にかけてしまいました。
これでアルカは生涯を、ナイトを見守り、ナイトを守っていくことになったのです。
ベルはアルカの誓約を哀しい顔をして、聞いていました。
自分の養い子は、知らずにとても辛い選択をしてしまったのです。
ナイトはいずれアストリア王国アルファナイト王太子として、日の当たる場所に出て行くことでしょう。
けれどもアルカの住処は、この迷いの森でしかないのです。
ベルはそっと魔力を開放しました。
「アルカの誓約がアルカを苦しめるものになった時、その誓約は迷いの森の魔女ベルの名のもとに消え失せるであろう」
「ベル!」
アルカがいかにも心外そうにベルを非難するような目で見つめました。
そんなアルカをそっと抱きしめて、ベルは言い聞かせます。
「アルカ。可愛い私の娘。私はお前に幸せになって欲しいのさ。だから誓約に条件を付けただけだよ。いいかい。私の願いはお前が笑顔で生きていくことだよ。忘れないで。ナイトには父も祖父もいるのだから、アルカが全てを背負おうとしなくていいのよ。アルカはアルカの幸せを見つけてね」
そんなことがあってから、アルカは毎日竜の谷に飛んでいくようになりました。
そうは言っても、まだまだひよっこ魔女のアルカには、竜の谷へ行くのはとても大変なことです。
毎日ボロボロになって帰ってくるアルカを見かねて、森の精霊獣がアルカの守護精霊になりました。
そうです。
ヒィもスィもフゥもアルカがどれほどナイトを大事に思ってきたかを知っています。
「ベル、今日ナイトはおじい様に剣の訓練を受けていたわ。ナイトは頑張り屋さんなのよ。何度転んでも竜に向かっていくのですもの。ナイトはきっと伝説の竜殺しの騎士様みたいに強くなるわ」
そう報告するアルカの手足のほうが、ナイトよりもずっと酷いけがをしているのですから、ヒィたちがアルカを守ってやろうとしたのも無理はありません。
「ベル。今日、ナイトは竜の子供たちと喧嘩をしたの。大丈夫かなぁ。コテンパンに負けたけどナイトが弱いんじゃないのよ。竜の子供が3人がかりだったんだもの。だからナイトって凄いんだわ」
「ベル、ナイトが本を読んでたよ。声に出して呼んでたけど、アルカよりもずっと難しいことを勉強しているみたいなの。帝王学ってベルは知っているかしら?」
「ベル、ナイトはどうやら水泳も得意みたいよ。まるでお魚みたいに川で泳いでいたの。ナイトってすっごく綺麗だね。それに身体が丈夫みたい。あんな冷たい川、アルカなら10分も泳げないわよ。寒くなるもの。なのにナイトは2時間も川遊びをしてたのよ」
こうして毎日、毎日、竜の谷に通いつめたおかげで、アルカの魔法はぐんぐんと上達していきました。
12歳になった時には、竜の国へ荷物の配達を頼まれるようになって、普通の魔女よりずっと早くアルカは一人前の魔女として認められたのです。
そうやって幼いナイトの成長する姿を思い出しているうちに、アルカの頬に血色が戻り、口元にも微笑みが浮かんできました。
アルカはナイトのことを考えるだけで、心がぽかぽかとあったかくなるのです。
その時、ドンドンドン、ドンドンドンと扉を叩く音がします。
迷いの森の魔女の家を訪ねる人は、あまりいません。
誰だろうとアルカが扉を開けると、そこには立派な騎士様が立っていました。
「失礼します。迷いの森の魔女さまはいらっしゃいますかな。私はアストリア王国騎士団の団長をしているヒューイットと申す者です。迷いの森の魔女さまにお会いしたい」
「それなら私ですわ。私が迷いの森の魔女アルカです」
それを聞くと騎士団長は目に見えて狼狽しました。
「いや、しかしそんな筈はありません。お嬢ちゃんのような小さな魔女さまではなく、もっと年配の魔女さまはいらっしゃいませんか。こちらに住んでいる筈なのですが」
「もしかして先代の迷いの森の魔女ベルのことでしょうか? ベルはちょうど1年と1ヶ月前に亡くなりました。今は私はこの森の魔女なんです」
「そ、そんな。王妃さまがお亡くなりになったというのですか? そんなバカな! そんな訳があるものか。王になんといって報告すればいいのだ!」
騎士団長は思わずアルカの肩を掴んで、大きくゆすぶっていました。
その時強い風が吹いて、騎士団長の身体は吹っ飛んでしまいます。
「アルカに乱暴をしたら許さないからな!」
緑色の可愛らしい子犬が、激しい怒りをあらわにしています。
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