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アルカ呼び出しを受ける
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アルカと侍女たちの息もぴったりと合うようになってきたころ、久しぶりに女官長がアルカの元にやってきました。
「殿下。今月行われる王の結婚式並びに王妃立后と王太子宣下。これらの公式行事とそれに続くパーティで殿下には正式に社交界にデビューして頂きます。かなり無理なスケジュールを組みましたけれども、よく努力なさいましたね。さすがはベルの秘蔵っ子だけのことはあります」
真正面からこうも堂々と褒められてアルカは気恥ずかしくてたまりませんが、そこはマナーの先生の教え通り平静を装います。
もしかしてマナーを学んで貴婦人になるってことは、自然であることとは対極になるんじゃないかしら? そう考えてアルカは自分が鋳型にでも嵌められていくような窮屈さを感じてしまいました。
「殿下。殿下はもしかするとマナーを学ぶことで自分らしさがなくなる、と憂えていらっしゃるのではございませんか?」
図星をつかれて思わずうなずいてしまいそうになったアルカは、すんでのところでそれを抑え込みました。
私も随分成長したものだわ。
アルカは密かに自画自賛していましたが……
「殿下はまだまだわかりやすいですよ。そろそろそんな悩みを持ちそうな時期ですからね。よろしいですか。マナーは基本です。基本がしっかりできるようになれば無意識に行動していても、自然にマナーを外さずに自由に振る舞えるようになるのですよ」
なんという高度な技を要求してくるのでしょうか? この女官長は……
アルカは公女らしく振る舞うことで必死だというのに。
「そのお手本が王妃さまになられるジェニーさまです。ジェニーさまは結婚式と王妃立后にそなえて既に王宮入りをされておりますのよ。そのジェニーさまが殿下を招待されております。私はその為にまいりましたの。ついていらして下さい」
すぐさまニーナが反応しました。
「殿下。それではお召し替えを」
ニーナは少し時間をおくことでアルカを落ち着かせ、その間にジェニーさまにお会いするための心構えをレクチャーしようとしたのです。
しかし
「いいえ。殿下はそのままで結構ですよ。ジェニーさまがお急ぎでとおっしゃっていますのでね。私が付き添いますからケイさまも同行はご遠慮くださいませ」
アルカの付添人としてアルカを補助しようとした侯爵夫人まで排除しようとする女官長に、ケイは眉を顰めました。
「メアリー。あなたが付き添うのはジェニーさまの私室の前までではなくて? そうなればこの娘はたった一人であのジェニーさまと対峙することになるわね。まだこの娘には荷が重いとおもうのだけれども」
親し気に名前を呼ぶことで私的な会話を試みたケイの目論見は、ぴしゃりと拒絶されてしまいます。
「侯爵夫人。ジェニーさまはすでに王妃としてこの王宮にいらしています。結婚前に自分の庇護下に入る殿下と私的にお会いしたいと望まれるのは当然のこと。アルカ様。いらしてくださいますね」
アルカは覚悟を決めました。
いつまでも誰かに守ってもらう訳にはいかないのですから。
「はい。メアリー。皆はここで待っていてください。私も少しは成長したのですからそこまで心配しないでほしいの」
こうなっては誰も女官長を止めることはできません。
それに女官長は既に宣言していたではありませんか。
公式にアルカを守ることはない。と……
アルカも足を踏み入れたことのない王宮の奥深くに王妃さまの私室は用意されています。
ジェニーさまは未だ正式に立后する前だというのに、すでに王妃として君臨しているようでした。
厳めしい大扉の前には、近衛兵たちが立っています。
「姫様の思し召しでアルカ殿下をお連れしました」
女官長がそう言うと近衛は既に聞いていたらしくおおように頷きました。
「それでは殿下のみお入りください。部屋までは女騎士がご案内いたします」
王妃の間の外は近衛騎士が、内側は女騎士が守っているらしく大扉の内側には女騎士が控えていてうやうやしくアルカを案内していきます。
一国の王妃というのはここまで権威のあるものなのだ。
アルカは感心しました。
実のところ未婚の貴族の娘は結婚によってその身分が大きく変化するので、ここまで大げさに守られることはありません。
男系主義のアストリア王国では当主が亡くなっても女児には継承権がありません。
しかし一時的とはいえその妻が当主の任を肩代わりすることは認められています。
それほど妻という地位は高いものなのです。
ですから当主が妻以外の女を妾としてもった場合には、その女性は妻の召使という立場になります。
けして家族という位置づけにはなりません。
あくまでも使用人なので当主の子供を産んだ場合は、多くの妻はその子を自分の子供として引き取ります。
中には家族としては認めず使用人の私生児として扱う妻もいますが、どう扱うかの決定権は当主ではなく妻にありました。
とはいえ口さがない噂雀の醜聞を恐れて多くの妻は、一応は鷹揚なところを見せて子供を引き取るのが一般的です。
もし王妃となるジェニーがアルカの出生の噂を信じてアルカが王の私生児だと思っていたとしたら、最悪使用人のように扱われる可能性があります。
いったいジェニーは何を思ってアルカを呼びつけたのでしょうか?
アルカが案内された部屋は思ったよりもずっと装飾が少なく、落ち着きのある部屋でした。
けれどもその調度品のひとつひとつがシンプルではあっても、恐ろしく高価な品物です。
さすがに公爵家の姫君。
ジェニーは正真正銘のお姫様なのでしょう。
部屋には誰もいませんが、もしかしたら覗き穴があるのかもしれません。
アルカは誰もいない筈の部屋で、品定めするような視線を感じて思わず身震いしました。
カタンというかすかな音がして思わずアルカが振り返ると、そこには女神さまかと思えるような美しい女性が立っています。
やはりここは隠し部屋のひとつなのでしょう。
アルカは素早く丁寧に礼をして、頭を下げたままの姿勢で女神の言葉を待ちました。
「ふぅん。なるほどねぇ。そこまで馬鹿ってわけでもないようね。頭を挙げなさいアルカ」
アルカが姿勢を正すとジェニーはすこし失礼ではないかと思う位熱心にアルカを見つめていましたが、すぐに嫌な顔になります。
「どういうことなの。姿隠しの魔法を使うなんて! いくらなんでも失礼でしょ」
「恐れながらこの魔法は私が先の王妃さまに掛けられたもので、自分では解除できないのでどざいます」
アルカは慌てて訂正しました。
まさか王妃さまに自分の姿を誤魔化していると思われたくはありません。
「ベルがそんなことを? まったく相変わらず突拍子もないことをするのね。アルカとにかく座りなさい。お茶は出さないわよ。私も自分の連れてきた侍女たちがいまいち信用できないのでね。あなただって毒殺されたくはないでしょう」
いきなり物騒なことを言い出したジェニーにアルカは目を丸くしましたが、おとなしく席に着きました。
「ジェニーさまはなんだかベルかあさまに、少し似ておいでですね」
思わずアルカがそういうと、こんどこそジェニーは盛大に顔をしかめました。
「やめてよね。あの腹黒魔女と一緒にされてはかなわないわ。あの魔女に比べたら私なんて天使みたいなものよ。信じられないかもしれないけれど私とベルは友達だったのよ。まぁ悪友って言った方がいいかもしれないけどね。だからアルカ。あなたを引き取ったことはベルから聞いているわ。全くベルは好んで厄介事を拾いこむ癖があるから」
「すみません」
アルカは小さくなってしまいました。
アルカだって自分がどうやら大変な厄介事を抱えていそうなこと位は、理解しているのです。
「あぁ、ごめんなさい。あなたにあたった訳じゃないのよ。ついベルに文句を言いたくなっただけ。しかし思ったよりも面倒そうねぇ。わざわざ姿隠しの魔法をかけるなんて」
「あの。それだけではなくて、どうやら記憶封じの魔法もかけられているらしくて……」
アルカはおずおずとそう申告します。
なぜかはわかりませんけれど、すっかりジェニーを信頼してこの人になら本当のことが話せると思ったのです。
確かに女官長の言った通りです。
ジェニーはさっきから貴婦人としての佇まいを全く崩していません。
いっそ優雅といっても良いぐらいです。
それなのに見事なぐらい本音をずばずば投げかけてきて、それがちっとも嫌味になっていないのです。
ベルかあさまそっくりだ。
アルカはやはりそう思ってしまいました。
きっと悪友というのは本当のことでしょう。
ジェニーはベルと同じ匂いがします。
「まぁ。いいわ。どうせベルのことだもの。必要になれば解除されるでしょうね。それよりアルカ。あなたナイトが好きなのでしょう?」
いくら何でも直球を投げつけすぎです。
アルカは真っ赤になりました。
「いや。意地悪で言ってるんじゃないのよ。私も陛下が好きなんだなぁ。それこそ5歳で父上に連れられてあのころ王子だった陛下に出会ってからずっとね」
驚いて固まっているアルカに目もくれずにジェニーは自分語りを続けました。
「いずれ王妃になるって父上に言われてから、それこそ王妃に相応しくあろうと必死で頑張っちゃったわけなのよねぇ。まさかいきなりベルにかっさらわれるなんて思わないじゃない?」
「けど本当なら憎らしい恋敵なのにベルはいい娘だったわ。反発しながらもひかれあって私たちはいい悪友だった。だのにベルは10年前に自分の命を見捨てたの。しかも陛下をお願いね。あなたにしか頼めないの。なんて言うのよね。目の前にいたら私がベルをぶっ殺してやりたいわよ」
「けどまぁ。目の前にいるのは昔の私そっくりの恋に悩む娘っ子なのだからねぇ。いいの? アルカ。ナイトは王太子だし政略結婚することもあるわよ。いきなりベルみたいな女が現れてかっさらってしまうかもしれないわ」
ジェニーにそう言われてアルカはまるでジェニーが親しい女友達のような気分になってしまいました。
「だってジェニーさまは今でも陛下が大好きなのでしょう? 政略結婚と言われようが本当に好きだから嫁いでいらっしゃるのね。ジェニーさまの想いを裏切った人だというのに。なら私も今はナイトを好きでもいいと思うんです」
「今はかぁ。私もそう思っていた。今だけの気持ちだって。いずれ心変わりするかもって。けどどうやら忘れられないらしい。世間からは愛されない花嫁。ベルの後釜。見捨てられた花嫁。そこまで言われても陛下の側にいられればそれでいいと思える自分がいるの。女なんてつまらないものね」
「いいえ、いいえ。そういう恋に一途になれるのって、きっと神様から遣わさた恩寵ですわ。だっていくら苦しくったって心が温かいのですもの」
そのアルカの言葉を聞いてジェニーは微笑みました。
お互い苦しい恋をしているもの同士、2人は得難い友になったのです。
とはいえウェルズ公爵家の意向はそれとは別ものです。
現にジェニーが警戒してお茶も用意させないぐらいですからね。
ウェルズ公爵家に忠誠を誓うあまりアルカを弑する計画をたてるものがいないとは限らないのでした。
アルカとジェニーの友情はベルとジェニーとがそうであったように、なかなか世間的には信じて貰えないもののようです。
「殿下。今月行われる王の結婚式並びに王妃立后と王太子宣下。これらの公式行事とそれに続くパーティで殿下には正式に社交界にデビューして頂きます。かなり無理なスケジュールを組みましたけれども、よく努力なさいましたね。さすがはベルの秘蔵っ子だけのことはあります」
真正面からこうも堂々と褒められてアルカは気恥ずかしくてたまりませんが、そこはマナーの先生の教え通り平静を装います。
もしかしてマナーを学んで貴婦人になるってことは、自然であることとは対極になるんじゃないかしら? そう考えてアルカは自分が鋳型にでも嵌められていくような窮屈さを感じてしまいました。
「殿下。殿下はもしかするとマナーを学ぶことで自分らしさがなくなる、と憂えていらっしゃるのではございませんか?」
図星をつかれて思わずうなずいてしまいそうになったアルカは、すんでのところでそれを抑え込みました。
私も随分成長したものだわ。
アルカは密かに自画自賛していましたが……
「殿下はまだまだわかりやすいですよ。そろそろそんな悩みを持ちそうな時期ですからね。よろしいですか。マナーは基本です。基本がしっかりできるようになれば無意識に行動していても、自然にマナーを外さずに自由に振る舞えるようになるのですよ」
なんという高度な技を要求してくるのでしょうか? この女官長は……
アルカは公女らしく振る舞うことで必死だというのに。
「そのお手本が王妃さまになられるジェニーさまです。ジェニーさまは結婚式と王妃立后にそなえて既に王宮入りをされておりますのよ。そのジェニーさまが殿下を招待されております。私はその為にまいりましたの。ついていらして下さい」
すぐさまニーナが反応しました。
「殿下。それではお召し替えを」
ニーナは少し時間をおくことでアルカを落ち着かせ、その間にジェニーさまにお会いするための心構えをレクチャーしようとしたのです。
しかし
「いいえ。殿下はそのままで結構ですよ。ジェニーさまがお急ぎでとおっしゃっていますのでね。私が付き添いますからケイさまも同行はご遠慮くださいませ」
アルカの付添人としてアルカを補助しようとした侯爵夫人まで排除しようとする女官長に、ケイは眉を顰めました。
「メアリー。あなたが付き添うのはジェニーさまの私室の前までではなくて? そうなればこの娘はたった一人であのジェニーさまと対峙することになるわね。まだこの娘には荷が重いとおもうのだけれども」
親し気に名前を呼ぶことで私的な会話を試みたケイの目論見は、ぴしゃりと拒絶されてしまいます。
「侯爵夫人。ジェニーさまはすでに王妃としてこの王宮にいらしています。結婚前に自分の庇護下に入る殿下と私的にお会いしたいと望まれるのは当然のこと。アルカ様。いらしてくださいますね」
アルカは覚悟を決めました。
いつまでも誰かに守ってもらう訳にはいかないのですから。
「はい。メアリー。皆はここで待っていてください。私も少しは成長したのですからそこまで心配しないでほしいの」
こうなっては誰も女官長を止めることはできません。
それに女官長は既に宣言していたではありませんか。
公式にアルカを守ることはない。と……
アルカも足を踏み入れたことのない王宮の奥深くに王妃さまの私室は用意されています。
ジェニーさまは未だ正式に立后する前だというのに、すでに王妃として君臨しているようでした。
厳めしい大扉の前には、近衛兵たちが立っています。
「姫様の思し召しでアルカ殿下をお連れしました」
女官長がそう言うと近衛は既に聞いていたらしくおおように頷きました。
「それでは殿下のみお入りください。部屋までは女騎士がご案内いたします」
王妃の間の外は近衛騎士が、内側は女騎士が守っているらしく大扉の内側には女騎士が控えていてうやうやしくアルカを案内していきます。
一国の王妃というのはここまで権威のあるものなのだ。
アルカは感心しました。
実のところ未婚の貴族の娘は結婚によってその身分が大きく変化するので、ここまで大げさに守られることはありません。
男系主義のアストリア王国では当主が亡くなっても女児には継承権がありません。
しかし一時的とはいえその妻が当主の任を肩代わりすることは認められています。
それほど妻という地位は高いものなのです。
ですから当主が妻以外の女を妾としてもった場合には、その女性は妻の召使という立場になります。
けして家族という位置づけにはなりません。
あくまでも使用人なので当主の子供を産んだ場合は、多くの妻はその子を自分の子供として引き取ります。
中には家族としては認めず使用人の私生児として扱う妻もいますが、どう扱うかの決定権は当主ではなく妻にありました。
とはいえ口さがない噂雀の醜聞を恐れて多くの妻は、一応は鷹揚なところを見せて子供を引き取るのが一般的です。
もし王妃となるジェニーがアルカの出生の噂を信じてアルカが王の私生児だと思っていたとしたら、最悪使用人のように扱われる可能性があります。
いったいジェニーは何を思ってアルカを呼びつけたのでしょうか?
アルカが案内された部屋は思ったよりもずっと装飾が少なく、落ち着きのある部屋でした。
けれどもその調度品のひとつひとつがシンプルではあっても、恐ろしく高価な品物です。
さすがに公爵家の姫君。
ジェニーは正真正銘のお姫様なのでしょう。
部屋には誰もいませんが、もしかしたら覗き穴があるのかもしれません。
アルカは誰もいない筈の部屋で、品定めするような視線を感じて思わず身震いしました。
カタンというかすかな音がして思わずアルカが振り返ると、そこには女神さまかと思えるような美しい女性が立っています。
やはりここは隠し部屋のひとつなのでしょう。
アルカは素早く丁寧に礼をして、頭を下げたままの姿勢で女神の言葉を待ちました。
「ふぅん。なるほどねぇ。そこまで馬鹿ってわけでもないようね。頭を挙げなさいアルカ」
アルカが姿勢を正すとジェニーはすこし失礼ではないかと思う位熱心にアルカを見つめていましたが、すぐに嫌な顔になります。
「どういうことなの。姿隠しの魔法を使うなんて! いくらなんでも失礼でしょ」
「恐れながらこの魔法は私が先の王妃さまに掛けられたもので、自分では解除できないのでどざいます」
アルカは慌てて訂正しました。
まさか王妃さまに自分の姿を誤魔化していると思われたくはありません。
「ベルがそんなことを? まったく相変わらず突拍子もないことをするのね。アルカとにかく座りなさい。お茶は出さないわよ。私も自分の連れてきた侍女たちがいまいち信用できないのでね。あなただって毒殺されたくはないでしょう」
いきなり物騒なことを言い出したジェニーにアルカは目を丸くしましたが、おとなしく席に着きました。
「ジェニーさまはなんだかベルかあさまに、少し似ておいでですね」
思わずアルカがそういうと、こんどこそジェニーは盛大に顔をしかめました。
「やめてよね。あの腹黒魔女と一緒にされてはかなわないわ。あの魔女に比べたら私なんて天使みたいなものよ。信じられないかもしれないけれど私とベルは友達だったのよ。まぁ悪友って言った方がいいかもしれないけどね。だからアルカ。あなたを引き取ったことはベルから聞いているわ。全くベルは好んで厄介事を拾いこむ癖があるから」
「すみません」
アルカは小さくなってしまいました。
アルカだって自分がどうやら大変な厄介事を抱えていそうなこと位は、理解しているのです。
「あぁ、ごめんなさい。あなたにあたった訳じゃないのよ。ついベルに文句を言いたくなっただけ。しかし思ったよりも面倒そうねぇ。わざわざ姿隠しの魔法をかけるなんて」
「あの。それだけではなくて、どうやら記憶封じの魔法もかけられているらしくて……」
アルカはおずおずとそう申告します。
なぜかはわかりませんけれど、すっかりジェニーを信頼してこの人になら本当のことが話せると思ったのです。
確かに女官長の言った通りです。
ジェニーはさっきから貴婦人としての佇まいを全く崩していません。
いっそ優雅といっても良いぐらいです。
それなのに見事なぐらい本音をずばずば投げかけてきて、それがちっとも嫌味になっていないのです。
ベルかあさまそっくりだ。
アルカはやはりそう思ってしまいました。
きっと悪友というのは本当のことでしょう。
ジェニーはベルと同じ匂いがします。
「まぁ。いいわ。どうせベルのことだもの。必要になれば解除されるでしょうね。それよりアルカ。あなたナイトが好きなのでしょう?」
いくら何でも直球を投げつけすぎです。
アルカは真っ赤になりました。
「いや。意地悪で言ってるんじゃないのよ。私も陛下が好きなんだなぁ。それこそ5歳で父上に連れられてあのころ王子だった陛下に出会ってからずっとね」
驚いて固まっているアルカに目もくれずにジェニーは自分語りを続けました。
「いずれ王妃になるって父上に言われてから、それこそ王妃に相応しくあろうと必死で頑張っちゃったわけなのよねぇ。まさかいきなりベルにかっさらわれるなんて思わないじゃない?」
「けど本当なら憎らしい恋敵なのにベルはいい娘だったわ。反発しながらもひかれあって私たちはいい悪友だった。だのにベルは10年前に自分の命を見捨てたの。しかも陛下をお願いね。あなたにしか頼めないの。なんて言うのよね。目の前にいたら私がベルをぶっ殺してやりたいわよ」
「けどまぁ。目の前にいるのは昔の私そっくりの恋に悩む娘っ子なのだからねぇ。いいの? アルカ。ナイトは王太子だし政略結婚することもあるわよ。いきなりベルみたいな女が現れてかっさらってしまうかもしれないわ」
ジェニーにそう言われてアルカはまるでジェニーが親しい女友達のような気分になってしまいました。
「だってジェニーさまは今でも陛下が大好きなのでしょう? 政略結婚と言われようが本当に好きだから嫁いでいらっしゃるのね。ジェニーさまの想いを裏切った人だというのに。なら私も今はナイトを好きでもいいと思うんです」
「今はかぁ。私もそう思っていた。今だけの気持ちだって。いずれ心変わりするかもって。けどどうやら忘れられないらしい。世間からは愛されない花嫁。ベルの後釜。見捨てられた花嫁。そこまで言われても陛下の側にいられればそれでいいと思える自分がいるの。女なんてつまらないものね」
「いいえ、いいえ。そういう恋に一途になれるのって、きっと神様から遣わさた恩寵ですわ。だっていくら苦しくったって心が温かいのですもの」
そのアルカの言葉を聞いてジェニーは微笑みました。
お互い苦しい恋をしているもの同士、2人は得難い友になったのです。
とはいえウェルズ公爵家の意向はそれとは別ものです。
現にジェニーが警戒してお茶も用意させないぐらいですからね。
ウェルズ公爵家に忠誠を誓うあまりアルカを弑する計画をたてるものがいないとは限らないのでした。
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