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ナイトと精霊獣とのお茶会
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「アルカ。元気だった。少し痩せたんじゃないの?」
もうすぐナイトとのお茶会に出席できるとあってソワソワとしていたアルカの目の前に、いかにも愛らしい子犬と子猫、そして小鳥が元気よく飛び込んできました。
お手紙の配達をすることになったフゥたちには、毎月きまった時間だけ結界を通り抜ける許可がでていたのです。
フゥが風とともに飛び込んできましたので、窓辺のカーテンがひらひらとまだ風の余波を受けてはためいています。
「まぁ。ヒィ。スィ。フゥ。よく来たわね。そっかぁ。毎月のナイトとのお茶会にはあなた達も出席するのね」
アルカが3匹を抱きしめてほおずりをしていると、ジャンヌが目を輝かせて飛び込んできました。
「まぁ、なんて愛らしいのでしょう。アルカさま、この子たちはいったいどうしたんですの?」
実はジャンヌは愛らしい動物が大好きなのです。
王宮勤めでさえなかったら、きっとジャンヌの部屋は動物の楽園になっていたことでしょう。
「アルカ。この人だれなの」
人懐っこいフゥがさっそくジャンヌの腕に飛び込んで、やさしく毛並みをマッサージされながら目を細めて尋ねました。
「まぁフゥったら。相変わらず甘えん坊さんね。その人は私のお世話をしてくれるジャンヌというのよ。後ろの金髪のお姉さんがニーナ。その横の銀髪のお姉さんはマリー。私の隣にいる亜麻色の髪のお姉さんがアンよ」
「わぁー。良かったねそれじゃぁお友達がいっぱいいるんだ。もう寂しくないね」
フゥがしっぽをパタパタさせながらいかにも嬉し気にそう言ったので、侍女たちは少しきまり悪げに顔を逸らしてしまいました。
そんな侍女たちの様子でだいたいの事情を掴めたであろうスィが、いかにもなにも気が付いていませんよというようなていを装って、この中のボスであると睨んだニーナにすり寄っていきます。
さすがにいつも冷静な態度を崩さないニーナも、愛らしい水色の子猫がすり寄ってきては、思わず笑みがこぼれてしまいます。
そこにヒィがちょんとマリーの肩に飛び乗ってしまいました。
こうして3匹は瞬く間に3人の侍女たちを虜にしてしまいましたから、それを見ていたアンは思わずそのあざとさに舌を巻きました。
「アルカさま。その子たちが王妃さまにお仕えしていた精霊獣でございますか」
知っていたくせに白々しく質問したアンの言葉に、3人の侍女たちは仰天しました。
だって精霊獣の加護などめったなことで得る事などできません。
それが3匹もの精霊獣の加護を受けていたというのですから、さすがに王妃ともなれば違うものだと感心したのです。
「違うよ」
アンの言葉をヒィが一刀両断してみせました。
どうやらアンの作戦を見抜いてそれに乗ることにしたようです。
「僕たちはアルカと契約したんだからな。ベルとも友達だったけどあくまでも僕たちの契約主はアルカだよ」
ヒィーとニーナが小さく悲鳴をあげました。
だったら最初からそう教えてくれればいいのです。
そうすればあんな失礼な態度は取らなかったのに。
ただの田舎娘だと思っていたアルカは、歴代の王妃たちでも持つものが少ない精霊の加護を3匹分も持っているのです。
王族が竜の加護を大事にしたり、精霊の加護を大事にするのは、竜や精霊の加護をえると大自然の営みを味方につけることができて大きな災害が起きにくくなるからです。
日照りや洪水、地震や台風などが猛威を振るうとたちまち作物が取れなくなって、民が飢えてしまいます。
竜や精霊の加護はこのようね天変地異を少なくしてくれるので、王族としては喉から手がでるほど欲しいものなのです。
これはなんとしてもこの少女を守らなければならないと、3人の侍女たちは即座に決断しました。
もともと頑張り屋のアルカに、少しずつ心を開いていたので決断も早かったのです。
そんな彼女らの心の動きなど、精霊獣にはお見通しです。
よくできました! とばかりに彼女たちに甘えてみせました。
まったくどこまでもあざとい精霊たちです。
けれどもその様子を見てアンはほっとしました。
いろいろあったけれどもニーナたちは王宮でも聡明で仕事ができると有名で、将来の女官長候補たちとまで言われているのです。
王妃さまんはそれなりにキャリアのある侍女が仕えることになるとは思いますが、そういった諸先輩がたと十分に張り合えるだけの人材なのですから。
「アルカさま。精霊獣様方をご紹介して頂けませんか」
丁寧にお願いされてアルカは驚いてニーナを見てしまいました。
だってニーナっていつだって、ちょっと怒ったような口調でしか話さないと思っていたというのに、こんなにも優し気に笑えるのですから……
「えっとね。ジャンヌが抱っこしている緑色の犬がフゥ。風を操る精霊なの。ニーナが抱っこしている子猫の名前はスィよ。水を操るの。マリーの肩に乗っているのがヒィ。焔の精霊なのよ」
なんと風・水・火という三大精霊の守護を全て身に着けているとこともなげに言い切ったアルカに、ニーナは密かに頭を抱えてしまいました。
自分がどれだけ貴重な存在か知らないこの無邪気な少女を、これから守っていくことになるのですから。
けれども3人のうちのリーダーであるニーナは、すぐに気を取り直していいました。
「アルカさま。そろそろ王太子殿下のもとに参りませんと、遅刻してしまいますわ。精霊獣様方は私共が抱いてまいりますから、アン、先ぶれをお願いね」
「はい、ニーナ」
アンはアルカたちの先導をしながら愉快で笑い出しそうになるのを必死でこらえています。
そんなアンの肩がふるふると震えているので、ニーナは忌々しくて内心舌打ちをしたい気分です。
たかが侯爵家の侍女に大きな顔をされてしまったのですから。
けれども仕方がないわ。
噂を信じて、きちんと己の主と向き合おうとしなかった自分のミスです。
本来なら解任されても仕方がない失態でした。
アルカのお目付け役のケイはさぞかし面白くなかったろうと思うと、ニーナは身が縮む思いでした。
このような失態は2度目は許されないでしょう。
ニーナは密かに気を引き締めました。
「アルカ公女殿下です。ご案内お願いします」
アンが意気揚々と声をあげるとその様子を微笑ましく思ったのか、王太子殿下の従卒らしい少年が笑うのを堪えるように重々しく案内してくれました。
ナイトはアルカが気を張らなくてもいいように、小さなお部屋にお茶の用意をしてくれたようです。
「アルカ、よく来たね。精霊獣様方もようこそいらっしゃいました。皆さまがたは甘いものがお好きだそうですね。たっぷりとご用意いたしましたからどうぞ楽しんでくださいね」
「殿下、精霊獣様方のお給仕は私共が承りますので、どうぞ両殿下方にはゆっくりとお話をお楽しみください」
ジャンヌがそう提案しましたけれども、実のところは精霊獣に食べさせたくて仕方がないだけなのです。
ナイトはクスッと笑うと、アルカをエスコートしました。
「それじゃぁ僕たちは、こちらのテーブルでゆっくり話をしようよ」
ナイトにさっと手を取られてアルカの頬はバラ色に染まりました。
その様子を好もし気にみたナイトはそっとアルカの髪に口づけを落とします。
「アルカはとても美しくなったね。森で荷物を運んでいる時とは大違いじゃないか」
いえいえ、ナイトのほうこそ昔と全然違います。
アルカは心の中で突っ込みました。
今キスをしましたよね。
例え髪の毛の先だったにしてもアルカの知っているナイトは、さらりとこんな気障な真似をする少年ではありません。
アルカはすっかりボゥっとなってナイトに導かれるままに、席につきました。
ものなれた貴婦人ならばナイトの行動はいかにもぎこちなげなのがわかったでしょうけれども、男の子に初めてキスをもらったアルカにはそんなことはちっともわかりません。
ナイトってば、なんて素敵なの。
本物の王子さまみたい。
絵本で見た通りだわ。
カッコイイ。
そんなアルカの想いはさすがに恋愛に疎いナイトにだって丸わかりです。
ナイトの一挙手一投足を、いかにも愛おしそうにキラキラと憧れの瞳で見つめられて、ナイトもアルカが可愛くなりました。
まったくなんてわかりやすい顔をしているんだろう。
こんなに無防備では、すぐに悪い奴の餌食になってしまいそうじゃないか。
アルカは僕が守ってやらないといけないな。
「アルカ」
「ヒャィ」
アルカは慌てて返事をしようとして舌を噛んでしまいました。
「ちょっとアルカ。大丈夫? 今、舌を噛んだだろう?」
「らいじょうぶれす。ちょっと噛んだらけれしゅから」
「大丈夫じゃないでしょ。ちゃんと喋れてないじゃないか。アルカ舌を出して見せてごらん」
アルカはいきなり舌を出せといわれて、驚いて首をブンブンと振りました。
「いえ、らいじょうぶれすから」
くいっといきなりアルカの下あごをナイトが掴んで持ち上げてしまいます。
「アルカ。何を言っているの。全然ダイジョブじゃなさそうじゃないか。ぐずぐずしないで舌出して!」
アルカはとうとう観念して小さな舌先だけをちろりと唇の外にだしました。
「かわいいなぁ」
それを見てナイトは思わずそう言ってしまいました。
だって顎に手を掛けられたから仕方がないとはいえ、上目づかいに涙目になってふるふると震えながら、ちろりと舌の先を出している少女はいかにも庇護欲をそそります。
「やっぱり、さきっぼを噛んだんだね。赤くなって少し血が滲んでいるじゃないか。まったくアルカってばおっちょこちょいなんだから」
そういうなりナイトはアルカの小さな舌をペロリと舐めたので、アルカは飛び上がってしまいました。
「にゃに、にょあにを。らめれすろ」
アルカの必死の抗議に、とうとうナイトは大爆笑です。
「ごめんごめん。血が出てたから思わず舐めちゃった。もうしないからそんな怖い顔しないでよ。怒ったの?」
アルカがブンブンと首を振ったので、ナイトはにっこりとして仕切り直しをします。
「アルカ、舌を怪我したなら食べるのは無理だね。少し話をしようよ。僕ね……」
ナイトの話を熱心に聞き入っているアルカは幸せそのものでしたし、愛らしい少女が熱心に話を聞いてくれるのでナイトも上機嫌です。
そうしてニーナたちも思いっきり精霊獣にかまえたので、大満足でした。
つまりこの日のお茶会は、誰もがみんな幸せなお茶会だったのです。
もうすぐナイトとのお茶会に出席できるとあってソワソワとしていたアルカの目の前に、いかにも愛らしい子犬と子猫、そして小鳥が元気よく飛び込んできました。
お手紙の配達をすることになったフゥたちには、毎月きまった時間だけ結界を通り抜ける許可がでていたのです。
フゥが風とともに飛び込んできましたので、窓辺のカーテンがひらひらとまだ風の余波を受けてはためいています。
「まぁ。ヒィ。スィ。フゥ。よく来たわね。そっかぁ。毎月のナイトとのお茶会にはあなた達も出席するのね」
アルカが3匹を抱きしめてほおずりをしていると、ジャンヌが目を輝かせて飛び込んできました。
「まぁ、なんて愛らしいのでしょう。アルカさま、この子たちはいったいどうしたんですの?」
実はジャンヌは愛らしい動物が大好きなのです。
王宮勤めでさえなかったら、きっとジャンヌの部屋は動物の楽園になっていたことでしょう。
「アルカ。この人だれなの」
人懐っこいフゥがさっそくジャンヌの腕に飛び込んで、やさしく毛並みをマッサージされながら目を細めて尋ねました。
「まぁフゥったら。相変わらず甘えん坊さんね。その人は私のお世話をしてくれるジャンヌというのよ。後ろの金髪のお姉さんがニーナ。その横の銀髪のお姉さんはマリー。私の隣にいる亜麻色の髪のお姉さんがアンよ」
「わぁー。良かったねそれじゃぁお友達がいっぱいいるんだ。もう寂しくないね」
フゥがしっぽをパタパタさせながらいかにも嬉し気にそう言ったので、侍女たちは少しきまり悪げに顔を逸らしてしまいました。
そんな侍女たちの様子でだいたいの事情を掴めたであろうスィが、いかにもなにも気が付いていませんよというようなていを装って、この中のボスであると睨んだニーナにすり寄っていきます。
さすがにいつも冷静な態度を崩さないニーナも、愛らしい水色の子猫がすり寄ってきては、思わず笑みがこぼれてしまいます。
そこにヒィがちょんとマリーの肩に飛び乗ってしまいました。
こうして3匹は瞬く間に3人の侍女たちを虜にしてしまいましたから、それを見ていたアンは思わずそのあざとさに舌を巻きました。
「アルカさま。その子たちが王妃さまにお仕えしていた精霊獣でございますか」
知っていたくせに白々しく質問したアンの言葉に、3人の侍女たちは仰天しました。
だって精霊獣の加護などめったなことで得る事などできません。
それが3匹もの精霊獣の加護を受けていたというのですから、さすがに王妃ともなれば違うものだと感心したのです。
「違うよ」
アンの言葉をヒィが一刀両断してみせました。
どうやらアンの作戦を見抜いてそれに乗ることにしたようです。
「僕たちはアルカと契約したんだからな。ベルとも友達だったけどあくまでも僕たちの契約主はアルカだよ」
ヒィーとニーナが小さく悲鳴をあげました。
だったら最初からそう教えてくれればいいのです。
そうすればあんな失礼な態度は取らなかったのに。
ただの田舎娘だと思っていたアルカは、歴代の王妃たちでも持つものが少ない精霊の加護を3匹分も持っているのです。
王族が竜の加護を大事にしたり、精霊の加護を大事にするのは、竜や精霊の加護をえると大自然の営みを味方につけることができて大きな災害が起きにくくなるからです。
日照りや洪水、地震や台風などが猛威を振るうとたちまち作物が取れなくなって、民が飢えてしまいます。
竜や精霊の加護はこのようね天変地異を少なくしてくれるので、王族としては喉から手がでるほど欲しいものなのです。
これはなんとしてもこの少女を守らなければならないと、3人の侍女たちは即座に決断しました。
もともと頑張り屋のアルカに、少しずつ心を開いていたので決断も早かったのです。
そんな彼女らの心の動きなど、精霊獣にはお見通しです。
よくできました! とばかりに彼女たちに甘えてみせました。
まったくどこまでもあざとい精霊たちです。
けれどもその様子を見てアンはほっとしました。
いろいろあったけれどもニーナたちは王宮でも聡明で仕事ができると有名で、将来の女官長候補たちとまで言われているのです。
王妃さまんはそれなりにキャリアのある侍女が仕えることになるとは思いますが、そういった諸先輩がたと十分に張り合えるだけの人材なのですから。
「アルカさま。精霊獣様方をご紹介して頂けませんか」
丁寧にお願いされてアルカは驚いてニーナを見てしまいました。
だってニーナっていつだって、ちょっと怒ったような口調でしか話さないと思っていたというのに、こんなにも優し気に笑えるのですから……
「えっとね。ジャンヌが抱っこしている緑色の犬がフゥ。風を操る精霊なの。ニーナが抱っこしている子猫の名前はスィよ。水を操るの。マリーの肩に乗っているのがヒィ。焔の精霊なのよ」
なんと風・水・火という三大精霊の守護を全て身に着けているとこともなげに言い切ったアルカに、ニーナは密かに頭を抱えてしまいました。
自分がどれだけ貴重な存在か知らないこの無邪気な少女を、これから守っていくことになるのですから。
けれども3人のうちのリーダーであるニーナは、すぐに気を取り直していいました。
「アルカさま。そろそろ王太子殿下のもとに参りませんと、遅刻してしまいますわ。精霊獣様方は私共が抱いてまいりますから、アン、先ぶれをお願いね」
「はい、ニーナ」
アンはアルカたちの先導をしながら愉快で笑い出しそうになるのを必死でこらえています。
そんなアンの肩がふるふると震えているので、ニーナは忌々しくて内心舌打ちをしたい気分です。
たかが侯爵家の侍女に大きな顔をされてしまったのですから。
けれども仕方がないわ。
噂を信じて、きちんと己の主と向き合おうとしなかった自分のミスです。
本来なら解任されても仕方がない失態でした。
アルカのお目付け役のケイはさぞかし面白くなかったろうと思うと、ニーナは身が縮む思いでした。
このような失態は2度目は許されないでしょう。
ニーナは密かに気を引き締めました。
「アルカ公女殿下です。ご案内お願いします」
アンが意気揚々と声をあげるとその様子を微笑ましく思ったのか、王太子殿下の従卒らしい少年が笑うのを堪えるように重々しく案内してくれました。
ナイトはアルカが気を張らなくてもいいように、小さなお部屋にお茶の用意をしてくれたようです。
「アルカ、よく来たね。精霊獣様方もようこそいらっしゃいました。皆さまがたは甘いものがお好きだそうですね。たっぷりとご用意いたしましたからどうぞ楽しんでくださいね」
「殿下、精霊獣様方のお給仕は私共が承りますので、どうぞ両殿下方にはゆっくりとお話をお楽しみください」
ジャンヌがそう提案しましたけれども、実のところは精霊獣に食べさせたくて仕方がないだけなのです。
ナイトはクスッと笑うと、アルカをエスコートしました。
「それじゃぁ僕たちは、こちらのテーブルでゆっくり話をしようよ」
ナイトにさっと手を取られてアルカの頬はバラ色に染まりました。
その様子を好もし気にみたナイトはそっとアルカの髪に口づけを落とします。
「アルカはとても美しくなったね。森で荷物を運んでいる時とは大違いじゃないか」
いえいえ、ナイトのほうこそ昔と全然違います。
アルカは心の中で突っ込みました。
今キスをしましたよね。
例え髪の毛の先だったにしてもアルカの知っているナイトは、さらりとこんな気障な真似をする少年ではありません。
アルカはすっかりボゥっとなってナイトに導かれるままに、席につきました。
ものなれた貴婦人ならばナイトの行動はいかにもぎこちなげなのがわかったでしょうけれども、男の子に初めてキスをもらったアルカにはそんなことはちっともわかりません。
ナイトってば、なんて素敵なの。
本物の王子さまみたい。
絵本で見た通りだわ。
カッコイイ。
そんなアルカの想いはさすがに恋愛に疎いナイトにだって丸わかりです。
ナイトの一挙手一投足を、いかにも愛おしそうにキラキラと憧れの瞳で見つめられて、ナイトもアルカが可愛くなりました。
まったくなんてわかりやすい顔をしているんだろう。
こんなに無防備では、すぐに悪い奴の餌食になってしまいそうじゃないか。
アルカは僕が守ってやらないといけないな。
「アルカ」
「ヒャィ」
アルカは慌てて返事をしようとして舌を噛んでしまいました。
「ちょっとアルカ。大丈夫? 今、舌を噛んだだろう?」
「らいじょうぶれす。ちょっと噛んだらけれしゅから」
「大丈夫じゃないでしょ。ちゃんと喋れてないじゃないか。アルカ舌を出して見せてごらん」
アルカはいきなり舌を出せといわれて、驚いて首をブンブンと振りました。
「いえ、らいじょうぶれすから」
くいっといきなりアルカの下あごをナイトが掴んで持ち上げてしまいます。
「アルカ。何を言っているの。全然ダイジョブじゃなさそうじゃないか。ぐずぐずしないで舌出して!」
アルカはとうとう観念して小さな舌先だけをちろりと唇の外にだしました。
「かわいいなぁ」
それを見てナイトは思わずそう言ってしまいました。
だって顎に手を掛けられたから仕方がないとはいえ、上目づかいに涙目になってふるふると震えながら、ちろりと舌の先を出している少女はいかにも庇護欲をそそります。
「やっぱり、さきっぼを噛んだんだね。赤くなって少し血が滲んでいるじゃないか。まったくアルカってばおっちょこちょいなんだから」
そういうなりナイトはアルカの小さな舌をペロリと舐めたので、アルカは飛び上がってしまいました。
「にゃに、にょあにを。らめれすろ」
アルカの必死の抗議に、とうとうナイトは大爆笑です。
「ごめんごめん。血が出てたから思わず舐めちゃった。もうしないからそんな怖い顔しないでよ。怒ったの?」
アルカがブンブンと首を振ったので、ナイトはにっこりとして仕切り直しをします。
「アルカ、舌を怪我したなら食べるのは無理だね。少し話をしようよ。僕ね……」
ナイトの話を熱心に聞き入っているアルカは幸せそのものでしたし、愛らしい少女が熱心に話を聞いてくれるのでナイトも上機嫌です。
そうしてニーナたちも思いっきり精霊獣にかまえたので、大満足でした。
つまりこの日のお茶会は、誰もがみんな幸せなお茶会だったのです。
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