11 / 22
アルカの決意
しおりを挟む
「ほほぅ、アルカさま。昨日とは見違えるように意欲的になられましたなぁ。これは良い傾向ですぞ。ご褒美に伝書鳩を務めて差し上げたいのですが、お届け物はございますかな?」
マーク博士が穏やかに促してくれたので、ようやくアルカはこっそり本の間に隠し持ってきた品物を取り出す勇気が持てました。
マーク博士にすれば、まったくわかりやすい程そわそわしていたくせに、いざ授業も終わりとなってもなかなか言い出せない様子のアルカにとうとう助け船を出したというところです。
本来なら自分から言い出すまで知らん顔をしてやろうかと思っていたのですが、それこそ真剣に授業を受けていましたし、そうなってみれば自分の考えをしっかりと持っていることもわかったので、今日は少しおまけというところでしょう。
「マーク博士。これは私が刺繍をしたハンカチなのです。出来れば王子殿下に使って頂きたくって……お渡し願えますか?」
このハンカチは刺繍の授業の折に作ったものですけれども、刺繍やマナーなどはベル母さまから教えて貰っていたので、実はかなりの腕前なのでした。
メアリーなどはまるで山だしの娘でも来たかのように思っていますけれども、基本的なことはしっかりと教えていたベルなのです。
それがなかなか実を結ばなかったのは、ひとえにアルカの性格によるところが大きいでしょう。
堂々としていれば簡単にできることなのに、すっかりパニックになってしまって軒並み失敗を重ねていたのですから。
もしもベルが生きていたら、いったいどうしてそうなったのか? と、目を丸くしたに違いありません。
「畏まりました。けれどもアルカさま。お手紙はないのですか? 殿下だってお手紙をお待ちしているでしょうに」
「あの、なんとお返事を書いていいかわからなくて……きっとこの次には書いてまいりますから、今回はどうぞこれだけ渡してくださいませ」
そう言いながらアルカは顔が赤くなってくるのを感じていました。
でも赤面症は気にすれば気にするほど酷くなるのものですから気にしないでくださいとアンに言われていたので、アルカは意識して堂々と振る舞いました。
そうして先ほど習った歴史上の王様の名前を呪文のように心の中で唱えていると、どうやら幾分ましになってきたようです。
そんなアルカの様子は年配のマーク博士には好もしく映りました。
少しばかり気弱ですがこの少女の芯の部分には、しっかりとした性根があるようです。
これはなかなか素晴らしい貴婦人に成長しそうだ。
殿下もうかうかしていると横からかっさらわれることだっておるかも知れませんぞ。
マーク博士は密かに能天気なアルファナイト殿下を思い浮かべて、ほくそ笑みました。
マーク博士が出ていかれるとアルカの昼食の時間になります。
いつもは私室に食事を運んでもらうアルカですが、今日は少し様子が違いました。
「ニーナ、私はこのまま少し自習を続けるので昼食はいらないわ。その代わりお茶とフィンガーサンドウィッチをお願いします」
「アン。少し質問があるのだけれど、お昼が終わったら午後の授業の前に時間が取れるかしら?」
これは驚くべき変化です。
なぜならアルカはいつだって周囲に言われるままに行動していたのですから。
「アルカさま。厨房では食事の支度をしておりますのよ。急な変更は迷惑ですわ」
ニーナが少しきつくアルカに言いましたが、アルカはのほほんと躱してしまいます。
「それを上手に伝えるのが侍女の仕事なのではなくて? こんな簡単な変更事項にすら対応できないくらい王宮侍女というのは無能なのかしら? 出来ないということならばしかたがありませんわ。私も無能な部下は必要ありませんの」
アルカの言うのはある面では事実です。
一流と言われるスタッフは主の意向を言われる前に忖度できるほどで、言われた時には準備が整っていたりもするものです。
しかし王族が予定を変更させることが、多くの人々に迷惑をかけるという面があるのも事実ではあります。
しかしアルカはあえてここは強く出ることにしたようです。
無能と言われてニーナたちは絶句しました。
たしかにこのくらいのこと、我儘と言うレベルですらないのですから。
「畏まりました。すぐにご用意いたします」
ニーナが引き下がるとアンがにっこりして言いました。
「アルカさま。私も別に昼食はけっこうですから、このままお仕え致しますわ」
「いいえ、アン。私は少し自習をしたいからアンはきちんと食事はとって頂戴。教えて頂きたいのは自分の感情をコントロールする方法なのよ。コツがあるって言ってたでしょう?」
「はい。アルカさま。それでは先に食事を済ませてしまいますわ」
アンが控えの間に下がるとそこでは、ニーナやジャンヌ、マリーが大騒ぎしています。
「どういうことなの。私たちを無能扱いなんて! 自分は下賤の身の上のくせに大きくでたわね」
ジャンヌがいきり立つのをニーナは冷静に抑えました。
「いいこと。出自がどうあれあの娘が公女として私たちの主の地位についているのは事実なのよ。しかも毎日すごい勢いで変わろうと努力しているわ。少なくとも王宮侍女のプライドにかけて二度と無能呼ばわりはさせないわ。あなた達もいいわね。ここで無能のレッテルを張られたら私たちの出世の目はなくなるのよ」
ニーナにそう言われてジャンヌもマリーも蒼白になってしまいました。
確かに王宮侍女としてみれば、無能と言われても仕方がないような対応をしてきたことは確かです。
感情に流されて幼い振る舞いをしてきたのは、どうやら自分達の方でした。
「なかなかやるじゃないの。いいわ。これからは本気で仕事をしてあげる。みんな。アルカなんかに負けないわよ。あの子が成長するなら私たちはもっと先を歩いていくのよ」
いつの間にか侍女たちはアルカを一応ではあっても、主としてたてることにしたようです。
身分やこねだけで王宮侍女になれるわけではないという、いい意味の自尊心が彼女たちを本道に立ち戻すことに成功したようです。
それを見てアンはこっそりと安堵の息を吐きました。
この先王妃さまが君臨することになる王宮で、アルカさまが無事に公女としての公務をこなせるようになるためには優秀な側近が必要なのですから。
いっぽうナイトはマーク博士がいやに楽しそうな様子なのに気が付きました。
「マーク博士、いったいどうなされたのですか。どうやらかなりご機嫌な様子ですが」
「私の機嫌がよい理由はアルカ公女殿下にあるのですよ。殿下のお手紙を頂いてからアルカ公女は目に見えて成長なさいましたからね。健気なものじゃありませんか。たかが殿下の手紙ぐらいでああも発奮するなんてねぇ。乙女心ですかな」
「アルカが元気になったんならそれは嬉しいけれどね。おかしいね。そんなにたいしたことなんて書いていないのになぁ」
「あまりつれない朴念仁では恨まれまずぞ。そうそうアルカ嬢から殿下にプレゼントを与かっております。なんでもアルカ嬢は刺繍の授業で、殿下のためにハンカチに刺繍をしたようですぞ」
アルカの刺繍は竜の文様を巧みに織り交ぜたものでした。
ハンカチとしての機能を損なわないような小さな刺繍であるがゆえに、その難易度はかなりのものです。
「へぇー。これは見事だなぁ。アルカにこんな特技があるなんて知らなかったよ。刺繍だけなら誰にも負けないんじゃないか?」
「褒めるべきところはそこですか? 殿下。乙女が心を込めて刺繍を縫い留めたというのに、その言われようではアルカさまがお可哀そうですな」
「な、なんだよ。それじゃぁまるでアルカが僕に気があるようじゃないか!」
そう言ったナイトは、マーク博士の訳知り顔を見て頬を染めました。
「そんなんじゃないぞ。アルカと私はいわば兄妹みたいなもんだからな。邪推してはアルカに失礼だ」
そう言いながらもいかにも大切そうにハンカチをしまうのをみて、マーク博士は満足しました。
「どうでしょうかな。それはともかくアルカ嬢は殿下のお手紙を待ち望んでいるようですぞ。よろしければこの私目が伝書鳩になりますから、時々はお手紙を書いてさしあげてはいかがですか」
「うん。まぁ、そんなことでアルカが元気になるなら、時々なら書いてやってもいいかな。別に深い意味はないからな。勘違いするなよ。あくまでアルカの為なんだからな」
そうやって言い募ればつのるほど、動揺がダダ漏れになっていることに気づかないナイトなのでした。
まぁ全く恋に無頓着だったナイトが、どうやら少しばかり意識し始めたのかもしれません。
それならけっこうなことだとマーク博士は思いました。
だってアルカの一途な想いを見ていると、つい応援したくなるではありませんか。
王族が恋で相手を選べるわけではないと知っていたとしても……。
ところでその夜、随分夜が更けてきたというのに、アルカはベッドの脇の机でうんうん唸っています。
マーク博士が言っていた手紙を書こうとするのですが、最初の一文字すら書けないのです。
「えっと。どうしよう? なんて書けばいいの?」
うんうんと唸っていると遠慮がちに寝室の扉がノックされました。
アルカはが返事をすると、そろそろとマリーが顔を覗かせました。
「アルカさま。まだおやすみにならないのですか? 明日も予定が詰まっておりますのに」
「まぁ、マリー。今日はあなたが宿直だったのね。ごめんなさい心配をかけたかしら。すこし考え事をしていたら眠れなくなっただけよ。だからマリーも早くおやすみなさい」
「眠れないようでしたら、入眠作用のあるハーブティーをお入れいますわ。ガウンを羽織ってお茶になさいませんか。よろしければお話をお聞きしますよ」
「ありがとうマリー。そうさせてもらうわ」
マリーはアルカにガウンを着せてやりながらいまさらのようにアルカの肩が華奢なのに気が付きました。
マリーは17歳ですがアルカはまだ14歳です。
自分が14歳のころは、まだまだ両親の庇護の元ぬくぬくと過ごしていたなぁ。
そう思うとマリーは自分がアルカを馬鹿にして冷たい態度をとってきたことが恥ずかしくなりました。
この少女を守ってやれるのはアルカ付きとなった侍女である自分達しかいないのに、アルカは王宮にきて味方もなく心細くておどおどしていたのでしょう。
「さぁ、アルカさま。ゆっくりお飲みになってくださいね」
「マリーも一緒に座ってくれる?」
不安そうに見上げるアルカの瞳はとても澄んで真っすぐなものでした。
そうか。
この少女はこんな目をしていたのか。
マリーは少しづつこの少女のことを知っていこうと決意しました。
「ありがとうございます。このミーシャティは甘味をいれなくても、ほんのりと甘さが感じられるので私の好物なのですよ。甘味をとると太ってしまいますからね」
「あら。マリーはとてもスタイルがいいのに、そんなことを気にしているの?」
「だって私の母親がかなりふくよかな人なのですもの。私も太りやすい性質かも知れませんでしょう。このスタイルをキープするのはこれでけっこう大変なんですよ。アルカさまは王宮にきてから随分お痩せになりましたね」
そうなんです。
王宮に入ってひと月しかたたないというのに、少女の身体はげっそりとやつれていました。
私はこんなことにも気が付かなかったのか。
確かに無能と言われても仕方がなかった。
マリーは自分が情けなくて唇をかみしめていましたが、アルカは人が側にいることが心地よいらしくふんわりと笑顔を見せていました。
マーク博士が穏やかに促してくれたので、ようやくアルカはこっそり本の間に隠し持ってきた品物を取り出す勇気が持てました。
マーク博士にすれば、まったくわかりやすい程そわそわしていたくせに、いざ授業も終わりとなってもなかなか言い出せない様子のアルカにとうとう助け船を出したというところです。
本来なら自分から言い出すまで知らん顔をしてやろうかと思っていたのですが、それこそ真剣に授業を受けていましたし、そうなってみれば自分の考えをしっかりと持っていることもわかったので、今日は少しおまけというところでしょう。
「マーク博士。これは私が刺繍をしたハンカチなのです。出来れば王子殿下に使って頂きたくって……お渡し願えますか?」
このハンカチは刺繍の授業の折に作ったものですけれども、刺繍やマナーなどはベル母さまから教えて貰っていたので、実はかなりの腕前なのでした。
メアリーなどはまるで山だしの娘でも来たかのように思っていますけれども、基本的なことはしっかりと教えていたベルなのです。
それがなかなか実を結ばなかったのは、ひとえにアルカの性格によるところが大きいでしょう。
堂々としていれば簡単にできることなのに、すっかりパニックになってしまって軒並み失敗を重ねていたのですから。
もしもベルが生きていたら、いったいどうしてそうなったのか? と、目を丸くしたに違いありません。
「畏まりました。けれどもアルカさま。お手紙はないのですか? 殿下だってお手紙をお待ちしているでしょうに」
「あの、なんとお返事を書いていいかわからなくて……きっとこの次には書いてまいりますから、今回はどうぞこれだけ渡してくださいませ」
そう言いながらアルカは顔が赤くなってくるのを感じていました。
でも赤面症は気にすれば気にするほど酷くなるのものですから気にしないでくださいとアンに言われていたので、アルカは意識して堂々と振る舞いました。
そうして先ほど習った歴史上の王様の名前を呪文のように心の中で唱えていると、どうやら幾分ましになってきたようです。
そんなアルカの様子は年配のマーク博士には好もしく映りました。
少しばかり気弱ですがこの少女の芯の部分には、しっかりとした性根があるようです。
これはなかなか素晴らしい貴婦人に成長しそうだ。
殿下もうかうかしていると横からかっさらわれることだっておるかも知れませんぞ。
マーク博士は密かに能天気なアルファナイト殿下を思い浮かべて、ほくそ笑みました。
マーク博士が出ていかれるとアルカの昼食の時間になります。
いつもは私室に食事を運んでもらうアルカですが、今日は少し様子が違いました。
「ニーナ、私はこのまま少し自習を続けるので昼食はいらないわ。その代わりお茶とフィンガーサンドウィッチをお願いします」
「アン。少し質問があるのだけれど、お昼が終わったら午後の授業の前に時間が取れるかしら?」
これは驚くべき変化です。
なぜならアルカはいつだって周囲に言われるままに行動していたのですから。
「アルカさま。厨房では食事の支度をしておりますのよ。急な変更は迷惑ですわ」
ニーナが少しきつくアルカに言いましたが、アルカはのほほんと躱してしまいます。
「それを上手に伝えるのが侍女の仕事なのではなくて? こんな簡単な変更事項にすら対応できないくらい王宮侍女というのは無能なのかしら? 出来ないということならばしかたがありませんわ。私も無能な部下は必要ありませんの」
アルカの言うのはある面では事実です。
一流と言われるスタッフは主の意向を言われる前に忖度できるほどで、言われた時には準備が整っていたりもするものです。
しかし王族が予定を変更させることが、多くの人々に迷惑をかけるという面があるのも事実ではあります。
しかしアルカはあえてここは強く出ることにしたようです。
無能と言われてニーナたちは絶句しました。
たしかにこのくらいのこと、我儘と言うレベルですらないのですから。
「畏まりました。すぐにご用意いたします」
ニーナが引き下がるとアンがにっこりして言いました。
「アルカさま。私も別に昼食はけっこうですから、このままお仕え致しますわ」
「いいえ、アン。私は少し自習をしたいからアンはきちんと食事はとって頂戴。教えて頂きたいのは自分の感情をコントロールする方法なのよ。コツがあるって言ってたでしょう?」
「はい。アルカさま。それでは先に食事を済ませてしまいますわ」
アンが控えの間に下がるとそこでは、ニーナやジャンヌ、マリーが大騒ぎしています。
「どういうことなの。私たちを無能扱いなんて! 自分は下賤の身の上のくせに大きくでたわね」
ジャンヌがいきり立つのをニーナは冷静に抑えました。
「いいこと。出自がどうあれあの娘が公女として私たちの主の地位についているのは事実なのよ。しかも毎日すごい勢いで変わろうと努力しているわ。少なくとも王宮侍女のプライドにかけて二度と無能呼ばわりはさせないわ。あなた達もいいわね。ここで無能のレッテルを張られたら私たちの出世の目はなくなるのよ」
ニーナにそう言われてジャンヌもマリーも蒼白になってしまいました。
確かに王宮侍女としてみれば、無能と言われても仕方がないような対応をしてきたことは確かです。
感情に流されて幼い振る舞いをしてきたのは、どうやら自分達の方でした。
「なかなかやるじゃないの。いいわ。これからは本気で仕事をしてあげる。みんな。アルカなんかに負けないわよ。あの子が成長するなら私たちはもっと先を歩いていくのよ」
いつの間にか侍女たちはアルカを一応ではあっても、主としてたてることにしたようです。
身分やこねだけで王宮侍女になれるわけではないという、いい意味の自尊心が彼女たちを本道に立ち戻すことに成功したようです。
それを見てアンはこっそりと安堵の息を吐きました。
この先王妃さまが君臨することになる王宮で、アルカさまが無事に公女としての公務をこなせるようになるためには優秀な側近が必要なのですから。
いっぽうナイトはマーク博士がいやに楽しそうな様子なのに気が付きました。
「マーク博士、いったいどうなされたのですか。どうやらかなりご機嫌な様子ですが」
「私の機嫌がよい理由はアルカ公女殿下にあるのですよ。殿下のお手紙を頂いてからアルカ公女は目に見えて成長なさいましたからね。健気なものじゃありませんか。たかが殿下の手紙ぐらいでああも発奮するなんてねぇ。乙女心ですかな」
「アルカが元気になったんならそれは嬉しいけれどね。おかしいね。そんなにたいしたことなんて書いていないのになぁ」
「あまりつれない朴念仁では恨まれまずぞ。そうそうアルカ嬢から殿下にプレゼントを与かっております。なんでもアルカ嬢は刺繍の授業で、殿下のためにハンカチに刺繍をしたようですぞ」
アルカの刺繍は竜の文様を巧みに織り交ぜたものでした。
ハンカチとしての機能を損なわないような小さな刺繍であるがゆえに、その難易度はかなりのものです。
「へぇー。これは見事だなぁ。アルカにこんな特技があるなんて知らなかったよ。刺繍だけなら誰にも負けないんじゃないか?」
「褒めるべきところはそこですか? 殿下。乙女が心を込めて刺繍を縫い留めたというのに、その言われようではアルカさまがお可哀そうですな」
「な、なんだよ。それじゃぁまるでアルカが僕に気があるようじゃないか!」
そう言ったナイトは、マーク博士の訳知り顔を見て頬を染めました。
「そんなんじゃないぞ。アルカと私はいわば兄妹みたいなもんだからな。邪推してはアルカに失礼だ」
そう言いながらもいかにも大切そうにハンカチをしまうのをみて、マーク博士は満足しました。
「どうでしょうかな。それはともかくアルカ嬢は殿下のお手紙を待ち望んでいるようですぞ。よろしければこの私目が伝書鳩になりますから、時々はお手紙を書いてさしあげてはいかがですか」
「うん。まぁ、そんなことでアルカが元気になるなら、時々なら書いてやってもいいかな。別に深い意味はないからな。勘違いするなよ。あくまでアルカの為なんだからな」
そうやって言い募ればつのるほど、動揺がダダ漏れになっていることに気づかないナイトなのでした。
まぁ全く恋に無頓着だったナイトが、どうやら少しばかり意識し始めたのかもしれません。
それならけっこうなことだとマーク博士は思いました。
だってアルカの一途な想いを見ていると、つい応援したくなるではありませんか。
王族が恋で相手を選べるわけではないと知っていたとしても……。
ところでその夜、随分夜が更けてきたというのに、アルカはベッドの脇の机でうんうん唸っています。
マーク博士が言っていた手紙を書こうとするのですが、最初の一文字すら書けないのです。
「えっと。どうしよう? なんて書けばいいの?」
うんうんと唸っていると遠慮がちに寝室の扉がノックされました。
アルカはが返事をすると、そろそろとマリーが顔を覗かせました。
「アルカさま。まだおやすみにならないのですか? 明日も予定が詰まっておりますのに」
「まぁ、マリー。今日はあなたが宿直だったのね。ごめんなさい心配をかけたかしら。すこし考え事をしていたら眠れなくなっただけよ。だからマリーも早くおやすみなさい」
「眠れないようでしたら、入眠作用のあるハーブティーをお入れいますわ。ガウンを羽織ってお茶になさいませんか。よろしければお話をお聞きしますよ」
「ありがとうマリー。そうさせてもらうわ」
マリーはアルカにガウンを着せてやりながらいまさらのようにアルカの肩が華奢なのに気が付きました。
マリーは17歳ですがアルカはまだ14歳です。
自分が14歳のころは、まだまだ両親の庇護の元ぬくぬくと過ごしていたなぁ。
そう思うとマリーは自分がアルカを馬鹿にして冷たい態度をとってきたことが恥ずかしくなりました。
この少女を守ってやれるのはアルカ付きとなった侍女である自分達しかいないのに、アルカは王宮にきて味方もなく心細くておどおどしていたのでしょう。
「さぁ、アルカさま。ゆっくりお飲みになってくださいね」
「マリーも一緒に座ってくれる?」
不安そうに見上げるアルカの瞳はとても澄んで真っすぐなものでした。
そうか。
この少女はこんな目をしていたのか。
マリーは少しづつこの少女のことを知っていこうと決意しました。
「ありがとうございます。このミーシャティは甘味をいれなくても、ほんのりと甘さが感じられるので私の好物なのですよ。甘味をとると太ってしまいますからね」
「あら。マリーはとてもスタイルがいいのに、そんなことを気にしているの?」
「だって私の母親がかなりふくよかな人なのですもの。私も太りやすい性質かも知れませんでしょう。このスタイルをキープするのはこれでけっこう大変なんですよ。アルカさまは王宮にきてから随分お痩せになりましたね」
そうなんです。
王宮に入ってひと月しかたたないというのに、少女の身体はげっそりとやつれていました。
私はこんなことにも気が付かなかったのか。
確かに無能と言われても仕方がなかった。
マリーは自分が情けなくて唇をかみしめていましたが、アルカは人が側にいることが心地よいらしくふんわりと笑顔を見せていました。
1
あなたにおすすめの小説
異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……?
しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし!
危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。
彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。
頼む騎士様、どうか私を保護してください!
あれ、でもこの人なんか怖くない?
心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……?
どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ!
人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける!
……うん、詰んだ。
★「小説家になろう」先行投稿中です★
【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-
いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、
見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。
そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。
泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。
やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。
臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。
ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。
彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。
けれど正人は誓う。
――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。
――ここは、家族の居場所だ。
癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、
命を守り、日々を紡ぎ、
“人と魔物が共に生きる未来”を探していく。
◇
🐉 癒やしと涙と、もふもふと。
――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。
――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました
六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。
「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」
彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。
アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。
時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。
すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。
そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。
その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。
誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。
「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」
「…………え?」
予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。
なぜ、落ちぶれた私を?
そもそも、お会いしたこともないはずでは……?
戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。
冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。
彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。
美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。
そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。
しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……?
これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる