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アルカの祈り
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「見つけたぞ! アルカ。この売女め。よくも神聖な誓いを破ってくれたな!」
いつものようにセイレイン王が神殿近くの森にしつらえられた東屋でアルカとともに休息をとっていたときのことです。
いきなり禍々しいオーラを纏った男が乱入してきました。
警備兵が慌てて男を取り押さえようとしたときには、既に男がその腕の中にアルカを捉え、長剣の切っ先をアルカに向けているではありませんか。
「ナイト。ナイトなのね。会いたかったわ。ナイト。どうしてここにいるの」
アルカは剣の切っ先が自分の喉元に突きつけられているというのに、喜色を浮かべて叫んでいます。
「ほほう。これは、これは。アカツキ王が自らやってくるとはのう」
セイレイン大王はにやりと笑うと命令を下しました。
「心配するな。この者は私の友人だ。これは座興だ。人払いをしたい。みな、下がれ!」
いくらなんでもはいそうですかとその場を立ち去るにはナイトの気配は剣呑すぎました。
騎士たちならばだれでも知っている本物の殺気をナイトは纏っています。
それは激しい怒りと憎悪を纏っていました。
騎士たちはこのような男どもを幾人もみてきたのです。
見間違う筈もありません。
「陛下。それはなりません。陛下こそこの場から出てくださいませ。巫女姫は我らが命に代えても必ずお救い致します」
「王の命令が聞けぬと申すか!」
「はい。陛下。場合によれば命令に背くことが忠義となることもございます。命令違反の罪は後程わ我が命に代えてそそぎますゆえ」
「馬鹿か! わしが忠義の者を損なうと思うのか!」
「ほ.ほう。では陛下は私を忠義者と認めてくださったわけですな」
騎士はにんまりと笑いを浮かべました。
それを聞いてセイレインの王も苦笑しました。
「しようのない奴らだ。ではセイレインの国のために兵を引いてくれ。この男は本気だ。対応を誤れば巫女姫を容赦なく殺してしまうであろう。この国には王よりも巫女が必要なのだ。さがれ!」
「王!」
しかし王の毅然とした動かしがたい気迫を見て取って、騎士や兵はその場を退きました。
「王よ、お忘れなきように。民には王が必要なのだ。マイ・ハイネス」
その血を吐くような叫びを背中で聞きながら、セイレイン王は静かにナイトに問いかけた。
「さて。これで我ら3人きりだ。アカツキ王よ」
ナイトは憎々し気に吐き捨てた。
「望むものはアルカとセイレイン王。お主の命だ。よくも我が花嫁を汚してくれたな」
セイレイン王はしげしげとナイトを見つめるとその瞳を憐憫にそめました。
「そなた瘴魔にやられているな。我への憎しみがそなたを闇に落としてしまったか」
「よくもぬけぬけと。この場で不貞の罪をあがなってもらうぞ」
憤るナイトに一陣の強風が吹き、ナイトは壁にたたきつけられました。
ナイトが目を開けばアルカの姿はフゥの背中の上にあります。
「ナイト。誤解よ。私はナイトを裏切ってなんかいないわ。ちゃんと3年たったらナイトの元に戻るって伝言したではないの!」
真っすぐなアルカの言葉はナイトの心には届きませんでした。
もはや遅かったのです。
ナイトの憎しみは魔を呼び、いつしかナイトは瘴魔にい取り付かれてしまっていたからです。
「無様だな。アルカ。この期におよんで命乞いか。オレはアルカ。お前を愛していた。それなのに。それなのに。こんな奴に心を動かされやがって! その罪。命で償ってもらうぞ」
そんな狂乱状態のナイトにセイレイン王が静かに語り掛けた。
「愚かなアカツキ王よ。そなたは、そなたを一途に愛する娘をその手にかけるつもりなのか。たしかに婚姻の席で花嫁を攫ったのは私だ。だが巫女姫はただの一度も我が手を取ることはなかった。このことは騎士の名誉にかけて誓おう。私としてはどれほどその手が恋しいと思ったかわからぬほどであったがな」
「セイレイン王陛下」
アルカはこのような場合だというのに、びっくりしてセイレイン王を見つめてしまいました。
この傲岸で自信家で人を人とも思わぬ男が、己の恋をあからさまに話すなんて!
「ふん。とうとう尻尾を出しやがったな。おとなしく死ね」
ナイトは脱兎のごとく剣をセイレイン大王の胸にめがけて突き刺そうとしました。
そのまま突き進んでいったとしても、セイレイン大王の剣技を持ってすれば、ナイトの剣など簡単にいなせたはずでした。
ところが……
ナイトとセイレイン大王の間に飛び込んだ人物がいます。
その人物の身体に、深々とナイトの剣は突き刺さりました。
「アルカ!」
「アルカ!」
セイレイン大王とネイトが共にそう叫びました。
いったいどうしてか弱い巫女姫が男の修羅場に飛び込んでくると思うでしょうか?
ナイトは自分の剣がアルカを貫いたことで激しく動揺しました。
瘴魔に侵されたとはいえ、ナイトの心の底にはアルカへの愛が満ち溢れていたからです。
その心の隙をアルカは見逃しませんでした。
「全てを滅ぼす焔の精霊よ。ナイトに巣食う瘴魔を焼き滅ぼして! 全ての罪を洗い流す水の精霊よ。ナイトの魂を浄化して! 自由なる風の精霊よ。ナイトに聖なる息吹を与えて!」
精霊獣との誓約に則って魔法を使うアルカにセイレイン大王とナイトが共に叫び声を挙げました。
「やめろ。無理するな!」
その声は見事にハモっていましたから、アルカは苦しい息の下で思わず笑い声をたてました。
「セイレイン大王。私の命に免じてアカツキの国とアカツキ王に許しを! ナイト、私ね。結婚1年目の記念にナイトのハンカチに刺繍をしたの。受け取ってくれる。すこしも妻らしいことが出来なくてごめんね。愛しているわ。ナイト」
精霊たちの渾身の魔法で浄化されたナイトは、死にゆくアルカを抱きしめました。
「アルカ。アルカ。ごめんよ。死ぬなアルカ。死なないでくれ。なんでもするから。なんでもするから。だからアルカ。死なないで!」
「嫌だわナイト。なんで泣くの。私は幸せなのに。すっごく幸せよ。だってナイトに抱かれているんだもの。ナイトの腕ってあったかいわねぇ。ずっとこうしてナイトの腕の中で眠るのが夢だったの」
「馬鹿なことを言うなアルカ。眠るんじゃない。この腕で良ければいくらだってアルカを抱きしめてやるから。だから眠るな。起きろ。目を覚ませ。アルカ」
アルカは嬉しそうに微笑むと最後の力をその手に集めました。
「聖なる神よ。愛しきものを守りたまえ。慈愛溢れる神よ。我が身の祝福をナイトに譲ります。我が愛しき精霊たちよ。大いなる自然の友たちよ。私の力をナイトに」
そう言うとアルカは人差し指でナイトの額にふれました。
アルカの指先から黄金の光が広がってナイトを包んでいきます。
ナイトは世界が自分を優しく包んでいるのを感じました。
すべての者が等しくあるがままにナイトに微笑んでくれます。
「これが……これがアルカ。お前の見ていた世界か。神子とはこうして大自然の息吹とともにあるものなのだな。アルカ? アルカ! どうした。目を開けろ! アルカ。返事をしてくれ。アルカ。僕を愛してるって言ったじゃないか。愛してるなら僕の名前を呼んでくれ。アルカ? アルカ?」
アルカの亡骸を抱きしめて泣き叫ぶナイトの肩にセイレイン大王が手を置きました。
「アカツキ王。いや神子どの。アルカは死んだ。死んだんだ。だからもう呼んでやるな。静かに眠らせてやろうじゃないか」
ナイトはアカツキ王の言葉が理解できませんでした。
「なにを言っているの。アルカは未だこんなに暖かいのに。こんなに優し気に微笑んでいるのに。なぜアルカが死んだなんていうんだよ」
けれどもう一度ひしとアルカを抱きしめようとしてナイトは自分の手が真っ赤に染まっているのに気が付きました。
アルカの身体から流れだした血が、アルカを抱きしめたナイトを赤く染めたのです。
「僕が殺した。僕がアルカを。僕がアルカを殺したんだ……」
そう呟くとナイトはふらふらと立ち上がり森へと入っていきました。
「大丈夫か。あれは。あのまま死にかねない様子だったが……」
アルカの亡骸を丁寧に包み込むとセイレイン大王は部下を呼び寄せます。
「これは!」
「なんということだ。すぐに犯人を捕まえなければ」
騎士たちは儚くなったアルカを見て絶句しました。
「いいや。その必要はない。彼にはアルカの加護がある。彼が次代の神子どのだ。粗略にはするな」
王がそう言えば動揺は広がるばかりです。
「陛下。いったどういうことなのです」
「簡単なことさ。番が己の半身を滅ぼしたまでのこと。神子の半身は無事だ。騒ぐことはない。それよりもアルカを安らかに眠らせれやらねばな」
王は愛し気にアルカを見つめました。
アルカが生きている時には、己の気持ちに固く蓋をしてきましたが、アルカの死によってそのタガははずれました。
それを見ていた人々は厳粛な気分に襲われて我知らずアルカを抱く王に頭を垂れてしまうのでした。
ふらふらと森を彷徨うナイトは本当に死に場所を探していたのです
しかし、奇妙なことにどこに行っても笑顔のアルカの亡霊が現れて愛し気にナイトを見守っているので、どうしても死ぬことができませんでした。
やがてさらさらと小川が流れる野原にたどり着くと、そこには多くの精霊たちが厳しい顔で集まっていました。
殺されるんだろうなぁ。
ナイトは覚悟を決めました。
精霊の愛し子をこの手にかけたのです。
そうなるのは当たり前でした。
しかし……
『半身を失った愛し子よ。常に己の中にあいた大きな穴にヒューヒューと吹きすさぶ風の音を聞きながら、最後までその役目を果たすがよい』
厳かな声が聞こえたかと思うと、ナイトは気を失いました。
次に目を覚ました時、ナイトは知ったのです。
心にぽっかりとあいた寂しさを。
アルカを失ったナイトの心には癒すことのできない穴があいてしまったのです。
寂しい
寂しい
寂しい
けれどこれから死ぬまで、ナイトはこの空洞とともに生きるしかないのでした。
こののち世間は噂することになります。
当代の神子さまはとても慈悲深いが、いつも寂しそうな瞳をしていらっしゃると……
いつものようにセイレイン王が神殿近くの森にしつらえられた東屋でアルカとともに休息をとっていたときのことです。
いきなり禍々しいオーラを纏った男が乱入してきました。
警備兵が慌てて男を取り押さえようとしたときには、既に男がその腕の中にアルカを捉え、長剣の切っ先をアルカに向けているではありませんか。
「ナイト。ナイトなのね。会いたかったわ。ナイト。どうしてここにいるの」
アルカは剣の切っ先が自分の喉元に突きつけられているというのに、喜色を浮かべて叫んでいます。
「ほほう。これは、これは。アカツキ王が自らやってくるとはのう」
セイレイン大王はにやりと笑うと命令を下しました。
「心配するな。この者は私の友人だ。これは座興だ。人払いをしたい。みな、下がれ!」
いくらなんでもはいそうですかとその場を立ち去るにはナイトの気配は剣呑すぎました。
騎士たちならばだれでも知っている本物の殺気をナイトは纏っています。
それは激しい怒りと憎悪を纏っていました。
騎士たちはこのような男どもを幾人もみてきたのです。
見間違う筈もありません。
「陛下。それはなりません。陛下こそこの場から出てくださいませ。巫女姫は我らが命に代えても必ずお救い致します」
「王の命令が聞けぬと申すか!」
「はい。陛下。場合によれば命令に背くことが忠義となることもございます。命令違反の罪は後程わ我が命に代えてそそぎますゆえ」
「馬鹿か! わしが忠義の者を損なうと思うのか!」
「ほ.ほう。では陛下は私を忠義者と認めてくださったわけですな」
騎士はにんまりと笑いを浮かべました。
それを聞いてセイレインの王も苦笑しました。
「しようのない奴らだ。ではセイレインの国のために兵を引いてくれ。この男は本気だ。対応を誤れば巫女姫を容赦なく殺してしまうであろう。この国には王よりも巫女が必要なのだ。さがれ!」
「王!」
しかし王の毅然とした動かしがたい気迫を見て取って、騎士や兵はその場を退きました。
「王よ、お忘れなきように。民には王が必要なのだ。マイ・ハイネス」
その血を吐くような叫びを背中で聞きながら、セイレイン王は静かにナイトに問いかけた。
「さて。これで我ら3人きりだ。アカツキ王よ」
ナイトは憎々し気に吐き捨てた。
「望むものはアルカとセイレイン王。お主の命だ。よくも我が花嫁を汚してくれたな」
セイレイン王はしげしげとナイトを見つめるとその瞳を憐憫にそめました。
「そなた瘴魔にやられているな。我への憎しみがそなたを闇に落としてしまったか」
「よくもぬけぬけと。この場で不貞の罪をあがなってもらうぞ」
憤るナイトに一陣の強風が吹き、ナイトは壁にたたきつけられました。
ナイトが目を開けばアルカの姿はフゥの背中の上にあります。
「ナイト。誤解よ。私はナイトを裏切ってなんかいないわ。ちゃんと3年たったらナイトの元に戻るって伝言したではないの!」
真っすぐなアルカの言葉はナイトの心には届きませんでした。
もはや遅かったのです。
ナイトの憎しみは魔を呼び、いつしかナイトは瘴魔にい取り付かれてしまっていたからです。
「無様だな。アルカ。この期におよんで命乞いか。オレはアルカ。お前を愛していた。それなのに。それなのに。こんな奴に心を動かされやがって! その罪。命で償ってもらうぞ」
そんな狂乱状態のナイトにセイレイン王が静かに語り掛けた。
「愚かなアカツキ王よ。そなたは、そなたを一途に愛する娘をその手にかけるつもりなのか。たしかに婚姻の席で花嫁を攫ったのは私だ。だが巫女姫はただの一度も我が手を取ることはなかった。このことは騎士の名誉にかけて誓おう。私としてはどれほどその手が恋しいと思ったかわからぬほどであったがな」
「セイレイン王陛下」
アルカはこのような場合だというのに、びっくりしてセイレイン王を見つめてしまいました。
この傲岸で自信家で人を人とも思わぬ男が、己の恋をあからさまに話すなんて!
「ふん。とうとう尻尾を出しやがったな。おとなしく死ね」
ナイトは脱兎のごとく剣をセイレイン大王の胸にめがけて突き刺そうとしました。
そのまま突き進んでいったとしても、セイレイン大王の剣技を持ってすれば、ナイトの剣など簡単にいなせたはずでした。
ところが……
ナイトとセイレイン大王の間に飛び込んだ人物がいます。
その人物の身体に、深々とナイトの剣は突き刺さりました。
「アルカ!」
「アルカ!」
セイレイン大王とネイトが共にそう叫びました。
いったいどうしてか弱い巫女姫が男の修羅場に飛び込んでくると思うでしょうか?
ナイトは自分の剣がアルカを貫いたことで激しく動揺しました。
瘴魔に侵されたとはいえ、ナイトの心の底にはアルカへの愛が満ち溢れていたからです。
その心の隙をアルカは見逃しませんでした。
「全てを滅ぼす焔の精霊よ。ナイトに巣食う瘴魔を焼き滅ぼして! 全ての罪を洗い流す水の精霊よ。ナイトの魂を浄化して! 自由なる風の精霊よ。ナイトに聖なる息吹を与えて!」
精霊獣との誓約に則って魔法を使うアルカにセイレイン大王とナイトが共に叫び声を挙げました。
「やめろ。無理するな!」
その声は見事にハモっていましたから、アルカは苦しい息の下で思わず笑い声をたてました。
「セイレイン大王。私の命に免じてアカツキの国とアカツキ王に許しを! ナイト、私ね。結婚1年目の記念にナイトのハンカチに刺繍をしたの。受け取ってくれる。すこしも妻らしいことが出来なくてごめんね。愛しているわ。ナイト」
精霊たちの渾身の魔法で浄化されたナイトは、死にゆくアルカを抱きしめました。
「アルカ。アルカ。ごめんよ。死ぬなアルカ。死なないでくれ。なんでもするから。なんでもするから。だからアルカ。死なないで!」
「嫌だわナイト。なんで泣くの。私は幸せなのに。すっごく幸せよ。だってナイトに抱かれているんだもの。ナイトの腕ってあったかいわねぇ。ずっとこうしてナイトの腕の中で眠るのが夢だったの」
「馬鹿なことを言うなアルカ。眠るんじゃない。この腕で良ければいくらだってアルカを抱きしめてやるから。だから眠るな。起きろ。目を覚ませ。アルカ」
アルカは嬉しそうに微笑むと最後の力をその手に集めました。
「聖なる神よ。愛しきものを守りたまえ。慈愛溢れる神よ。我が身の祝福をナイトに譲ります。我が愛しき精霊たちよ。大いなる自然の友たちよ。私の力をナイトに」
そう言うとアルカは人差し指でナイトの額にふれました。
アルカの指先から黄金の光が広がってナイトを包んでいきます。
ナイトは世界が自分を優しく包んでいるのを感じました。
すべての者が等しくあるがままにナイトに微笑んでくれます。
「これが……これがアルカ。お前の見ていた世界か。神子とはこうして大自然の息吹とともにあるものなのだな。アルカ? アルカ! どうした。目を開けろ! アルカ。返事をしてくれ。アルカ。僕を愛してるって言ったじゃないか。愛してるなら僕の名前を呼んでくれ。アルカ? アルカ?」
アルカの亡骸を抱きしめて泣き叫ぶナイトの肩にセイレイン大王が手を置きました。
「アカツキ王。いや神子どの。アルカは死んだ。死んだんだ。だからもう呼んでやるな。静かに眠らせてやろうじゃないか」
ナイトはアカツキ王の言葉が理解できませんでした。
「なにを言っているの。アルカは未だこんなに暖かいのに。こんなに優し気に微笑んでいるのに。なぜアルカが死んだなんていうんだよ」
けれどもう一度ひしとアルカを抱きしめようとしてナイトは自分の手が真っ赤に染まっているのに気が付きました。
アルカの身体から流れだした血が、アルカを抱きしめたナイトを赤く染めたのです。
「僕が殺した。僕がアルカを。僕がアルカを殺したんだ……」
そう呟くとナイトはふらふらと立ち上がり森へと入っていきました。
「大丈夫か。あれは。あのまま死にかねない様子だったが……」
アルカの亡骸を丁寧に包み込むとセイレイン大王は部下を呼び寄せます。
「これは!」
「なんということだ。すぐに犯人を捕まえなければ」
騎士たちは儚くなったアルカを見て絶句しました。
「いいや。その必要はない。彼にはアルカの加護がある。彼が次代の神子どのだ。粗略にはするな」
王がそう言えば動揺は広がるばかりです。
「陛下。いったどういうことなのです」
「簡単なことさ。番が己の半身を滅ぼしたまでのこと。神子の半身は無事だ。騒ぐことはない。それよりもアルカを安らかに眠らせれやらねばな」
王は愛し気にアルカを見つめました。
アルカが生きている時には、己の気持ちに固く蓋をしてきましたが、アルカの死によってそのタガははずれました。
それを見ていた人々は厳粛な気分に襲われて我知らずアルカを抱く王に頭を垂れてしまうのでした。
ふらふらと森を彷徨うナイトは本当に死に場所を探していたのです
しかし、奇妙なことにどこに行っても笑顔のアルカの亡霊が現れて愛し気にナイトを見守っているので、どうしても死ぬことができませんでした。
やがてさらさらと小川が流れる野原にたどり着くと、そこには多くの精霊たちが厳しい顔で集まっていました。
殺されるんだろうなぁ。
ナイトは覚悟を決めました。
精霊の愛し子をこの手にかけたのです。
そうなるのは当たり前でした。
しかし……
『半身を失った愛し子よ。常に己の中にあいた大きな穴にヒューヒューと吹きすさぶ風の音を聞きながら、最後までその役目を果たすがよい』
厳かな声が聞こえたかと思うと、ナイトは気を失いました。
次に目を覚ました時、ナイトは知ったのです。
心にぽっかりとあいた寂しさを。
アルカを失ったナイトの心には癒すことのできない穴があいてしまったのです。
寂しい
寂しい
寂しい
けれどこれから死ぬまで、ナイトはこの空洞とともに生きるしかないのでした。
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