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すれ違う想い
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アルカの記憶にあるお父さまやお母さまは、とても慈しみ深い人でした。
アルカが両親の元から引き離されたのは、アルカがたった3歳の頃でしたから、いかに聡い子供だったにしろ曖昧な記憶しか持ってはいません。
それでも記憶の中のお母さまとお父さまはいつも優しく微笑んでいたのです。
教皇である父親が、人々の悲しみを引き起こしてしまったなど、娘としてはとうてい信じられないことです。
アルカがもしもベル母様をしらなければ大王の話など一笑してしまっていたことでしょう。
けれどもアルカの優しいお父さまの知らないところで、悪が密かにはびこっていたのかも知れません。
そうしてそれはいかに知らなかったとはいえ、責任者であるアルカのお父さまがその責めを負うしかないことでもあります。
「フゥ。お願い。頼まれてくれる?」
アルカがフゥを呼び出すと、フゥはアルカの考えがよくわかっていました。
「アルカ。ナイトへのお手紙を届けたいんでしょう。僕に任せて」
「お手紙だと上手く伝わらなかもしれないから、ことだまを作ることにするわ。お願いね」
アルカはそう言うと首飾りをバラバラに断ち切ってしまいました。
首飾りは紐を断ち切られ、バラバラと音をたててアルカの手に集まってきます。
アルカはそのひとつを手の平の上にそぉっと乗せて静かに見つめました。
『ナイト。元気にしている。愛しているわ。私のことは心配しないで頂戴。この国でも神殿を建てて貰って静かに過ごすことが出来ているの。私はこの場所で3年間だけ巫女姫として精霊たちを癒していきます。3年あればこの地の精霊たちに許しを貰えると信じているわ』
『ナイト。憎しみからは何も生まれないと思うの。だからお願い。アカツキの民と国を守って静かにまっていて頂戴。憎しみは持たないで。私はきっと3年たったらアカツキの国に戻ります。だから私を愛してくれるなら待っていて下さい』
ナイトの目の前で小さな宝玉はアルカの言葉を伝え終わると、光が消え失せて元の小さな玉に戻ってしまいました。
ナイトはその小さな宝玉を握りしめると怒りを抑えきれないような低い声で唸りました。
「フゥ。どういうことだ。なぜアルカはあんなくそ野郎をかばう様なことを言うんだ。結婚式場から自分の花嫁を連れ去られたんだぞ! それなのにただ指をくわえて待てというのか? まるで犬のように……」
「フゥ! アルカは一体何を考えているんだ!」
「怒らないでよ。ナイト。アルカは巫女姫なんだよ。巫女というのは自然ととても近しい存在なんだ。人や大地の悲しみに共感するから巫女なんだ。きっとアルカはあの王の悲しみにふれたんだと思うんだ。王の悲しみを癒せれば、大地も悲しみもきっとなくなるよ。ナイト。アルカを信じてあげて」
「フゥ。お前今何を言ったかわかっているのか? アルカがあんな男に心を許したってことなんだぞ! あぁそうか! そう言うことか! 僕なんかよりあいつが良いってことか!」
フゥはびっくりして叫びました。
「違うよナイト! アルカはナイトだけをずっと愛してきたんだ。ただアルカは優しすぎるだけなんだから。誤解しないで!」
フゥの叫びは怒りに染まったナイトにはもはや聞こえなくなっていました。
ナイトは怒りと憎しみにすっかり囚われてしまったのです。
ぞっとしてフゥはナイトから距離をおきました。
ナイトの側に精霊がことのほか嫌う瘴気が取り巻いていたからです。
なさけないことですがフゥは逃げるようにアルカの元に帰ってしまいました。
「アルカ。お帰りなさい。ナイトは元気だった」
いそいそと笑顔で出迎えてきたアルカを見てフゥは本当のことを言えなくなってしまいました。
「うん、元気だったよ。ことだまはちゃんと届けたからね」
そういうなりフゥはさっさと逃げ出してしまいました。
「まぁ、フゥったら。ナイトの事をもっと知りたかったのに。しかたないかぁ。フゥは精霊の中でも一番自由な子供なんだもの」
アルカはフゥからナイトのことをもっと聞きたかったのにと残念に思いましたが、自分の言葉がナイトを激怒させたとは夢にも思わなかったのです。
セイレイン国の王は約束通り離宮を改装する形でアルカの神殿を作ってくれました。
神殿の中でアルカは巫女として精霊を癒し、ひたすら祈りの日々を過ごしていました。
やがてセイレイン国王が、度々アルカの神殿を訪ねる日が多くなってきました。
「困ったことにこの場所はとても居心地がいいんだよ。いったいどうしてなのだろうな。アルカ。お前は私に何かの呪いでもかけたんじゃないのかね。ここに呼び寄せるようなね」
「冗談ばかりおっしゃらないでくださいな陛下。ここには精霊がたくさん集まってきますからね。それできっと心や体が癒されるのですわ。王というものは孤独なお仕事ですからね」
それを聞いてセイレイン国王はにやりとしました。
「ほほう。お前に王の孤独が理解できるというのかね」
「ええ、だって私は全ての罪を背負って処刑された教皇と王妃の娘ですからね。お父さまだって言いたい事は沢山あったと思いますよ」
すました顔でそう言われてセイレイン国王は絶句してしまいました。
アルカの両親を処刑したのは、ほかならぬセイレイン国王なのですから。
「お。お前。一体何を言い出すんだ!」
アルカはクスリと笑いました。
「冗談ですわ。陛下。けれども陛下。陛下は何かあれば全ての責任を一身に背負う覚悟を持っていらっしゃるのでしょう」
「恐ろしい娘だなぁ。お前という奴は。何もかも見通した目をして仇敵である私ですら許してしまう。これが神子という存在なのか」
「私はただの小娘でしかありませんよ。陛下。あまり無駄口をたたいてらっしゃると部下の方々がお困りですよ」
アルカの目線の先には大王を迎えにきたらしい文官が恐縮したような顔をしてアルカに頭を下げていました。
王はそれを認めると黙って帰っていきます。
こうしたことがだんだん増えてそのうち王の側近たちは王が不在だと、当たり前のようにアルカの神殿に迎えにくるようになっていったのです。
神子姫とセイレイン大王は恋仲らしい。
そんな無責任な噂が立つのは当然のことであったのかもしれません。
やがてそれは広く国民の間に広がっていきました。
国民はそんな噂話をしながら、いずれ精霊姫と英雄王が結婚するのを楽しみにするようになっていったのです。
セイレイン王国の首都にある賑やかな酒場に、ひとりの流れ者のが入り込んでいました。
「おぅ親父。この国には神子の姫君がいるって噂を聞いたんだが、それは本当なのかね」
「お客さんはこの国は初めて? 精霊姫は1年前にアカツキ皇国から来てくださったんだけれどね。そのおかげで精霊の加護が戻ってとても助かっているんだよ」
「ほほぅ。それじゃぁ精霊姫はずっとこの国にいるのかい? 噂じゃ3年たてばアカツキ皇国に戻るってことだが」
「お前さん。何を馬鹿なことを言っているんだ。どこでそんないい加減な噂を聞いてきたんだね。帰る訳ないじゃないか。だって神子姫は我らが英雄王と結婚なさるのだからね」
それを聞いて男の顔色はみるみるかわりました。
店主の首をグイグイと締め上げると恫喝します。
「おい親父! いい加減な話ならお前の首をへし折ってやる。性根をすえて返答しやがれ! 本当にアルカは王と結婚するんだな!」
「く、苦しい。離してくれ。アルカってのが巫女姫さまのことなら間違いないことだ。この国の誰にでも聞いてみるがいいよ。みんな同じことを言う筈だ」
男は店主をつき飛ばずと店を飛び出して行きました。
「くっそう! 何が3年待てだ。やっぱり裏切ってやがったか。アルカめ。神殿での誓いを破るとはな。どうなるか覚悟しやがれ!」
そう呟くと王都の闇に消えてしまったのです。
そんな出来事など知らないアルカはせっせと刺繍をしています。
「アルカぁ。何しているの?」
フゥがアルカの膝によじ登ります。
「ダメよフゥ。もうすぐ仕上がるんだから。出来あがったらナイトに届けて頂戴ね。神殿で結婚を誓ってからちょうど1年目なのよ。いわば結婚記念日だわ。だからナイトにプレゼントを贈ってあげたくてハンカチに刺繍をしたのよ」
「えー。アルカ。アルカはまだ結婚してないじゃない。結婚式は中止になったんだもん」
「そうかもしれないけれど、ナイトと愛を誓ったのは本当だもの。私はナイトの妻のつもりよ。だから夫への結婚1年目のプレゼントを贈るのよ」
そう微笑んだアルカの顔はこれ以上ないぐらい幸せそうでした。
アルカが両親の元から引き離されたのは、アルカがたった3歳の頃でしたから、いかに聡い子供だったにしろ曖昧な記憶しか持ってはいません。
それでも記憶の中のお母さまとお父さまはいつも優しく微笑んでいたのです。
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アルカはそう言うと首飾りをバラバラに断ち切ってしまいました。
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アルカはそのひとつを手の平の上にそぉっと乗せて静かに見つめました。
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『ナイト。憎しみからは何も生まれないと思うの。だからお願い。アカツキの民と国を守って静かにまっていて頂戴。憎しみは持たないで。私はきっと3年たったらアカツキの国に戻ります。だから私を愛してくれるなら待っていて下さい』
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ナイトはその小さな宝玉を握りしめると怒りを抑えきれないような低い声で唸りました。
「フゥ。どういうことだ。なぜアルカはあんなくそ野郎をかばう様なことを言うんだ。結婚式場から自分の花嫁を連れ去られたんだぞ! それなのにただ指をくわえて待てというのか? まるで犬のように……」
「フゥ! アルカは一体何を考えているんだ!」
「怒らないでよ。ナイト。アルカは巫女姫なんだよ。巫女というのは自然ととても近しい存在なんだ。人や大地の悲しみに共感するから巫女なんだ。きっとアルカはあの王の悲しみにふれたんだと思うんだ。王の悲しみを癒せれば、大地も悲しみもきっとなくなるよ。ナイト。アルカを信じてあげて」
「フゥ。お前今何を言ったかわかっているのか? アルカがあんな男に心を許したってことなんだぞ! あぁそうか! そう言うことか! 僕なんかよりあいつが良いってことか!」
フゥはびっくりして叫びました。
「違うよナイト! アルカはナイトだけをずっと愛してきたんだ。ただアルカは優しすぎるだけなんだから。誤解しないで!」
フゥの叫びは怒りに染まったナイトにはもはや聞こえなくなっていました。
ナイトは怒りと憎しみにすっかり囚われてしまったのです。
ぞっとしてフゥはナイトから距離をおきました。
ナイトの側に精霊がことのほか嫌う瘴気が取り巻いていたからです。
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「アルカ。お帰りなさい。ナイトは元気だった」
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「うん、元気だったよ。ことだまはちゃんと届けたからね」
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アルカはフゥからナイトのことをもっと聞きたかったのにと残念に思いましたが、自分の言葉がナイトを激怒させたとは夢にも思わなかったのです。
セイレイン国の王は約束通り離宮を改装する形でアルカの神殿を作ってくれました。
神殿の中でアルカは巫女として精霊を癒し、ひたすら祈りの日々を過ごしていました。
やがてセイレイン国王が、度々アルカの神殿を訪ねる日が多くなってきました。
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アルカの両親を処刑したのは、ほかならぬセイレイン国王なのですから。
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アルカはクスリと笑いました。
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