最後の日に

かずのこ

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最後の日に

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如何して、こんなことになったんだろう。
もう取り返しのつかない光景を目の前に、僕は膝をついた。涙が頬を伝う。
あの時に戻れたなら、僕はどんな物でも喜んで差し出すだろう。せめてあと少しでも早く手を伸ばしていたら。未来はいくらでも変わっていただろう。
だが、そんなことは最早後の祭りだ。改めて顔を上げ、目の前の山を見る。夜が明ければ、僕の命は絶えるだろう。時計は既に零時を回っている。あと7時間弱か…ぽつりと呟いた。いっそのこと眠ってしまうか?なんて馬鹿げた考えが脳裏を掠める。いや、そんなことは許されない。ただでさえ僕は、やるべきことを放棄した碌でなしなのだ。例え命があと僅かだろうと、この戦いを続ける義務がある。そうだ!僕は信じられている!仲間に!恩師に!愛する家族に!
…僕は自嘲的な笑みを浮かべて首を振った。その仲間達を裏切ったのは誰だ?心の中の悪魔が囁いた。もう諦めろと。お前は終わりだと。

……本当にそうか?

悪魔がいるなら、また天使も存在するらしい。
天使は呼びかけた。
諦めるな!まだ時間は残されている!皆は待っているのだ!勇者が闇を討ってくれるのを!さぁ立ち上がるのだ!勇者よ!
勝ったのは天使だった。
僕はゆらりと立ち上がり、歩き出した。目の前に聳え立つ山へと向かう為に。

…カレンダーは8月31日を示している。
が、今日は9月1日。夏休みも終わり、2学期最初の日だ。
即ち、宿題の提出日。
彼は莫大な量のワークやプリントの山ー勿論のこと未記入ーを前に、それでも目に炎を宿して
必死に鉛筆を走らせていた。

                     𝑭𝒊𝒏.
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