31 / 66
第三章「孤独の幸魂」
第30話 そばに誰かがいる限り
しおりを挟む
夕陽も沈み、遅くなってきたので練習を切り上げて海斗たちは学校を出た。深雪は家から来た迎えの車に乗って帰り、海斗たちは途中まで道が一緒ということもあり、まどかと共に帰宅の途についていた。
「ほんっとにもー。メチャクチャ心配したんだからね」
「あはは、ごめん御琴《みこ》ちん。カイくんも、助けてくれてありがと」
稽古の最中に倒れた美波だが、意識はすぐに戻った。ただ、倒れた瞬間のことは何も覚えておらず、美波自身も何が起きたのかつかめていない状況だった。
「いきなり倒れたので、私もびっくりしました」
「んー、たぶん貧血じゃないかな。最近鉄分取れるもの食べていなかったし」
「あたしも貧血起こすことがあるし、気を付けないとなあ。ねえ、何かいい食べ物知ってる?」
御琴が海斗と美波に尋ねる。こういう時は料理経験の豊富な二人が頼りだ。
「うーん、一般的なイメージだとレバーだけど」
「ひじきや納豆でだって取れるな」
「あとは吸収率をよくするためにビタミンCも一緒に取らないとだね。あと、赤血球を作るためにもビタミンB12と葉酸も必要」
「さすが二人とも。で、そのビタミンとかはどうすればいいの?」
料理を美波に教わり始めたとはいえ、彼女にとって栄養関係は未知の領域だ。まどかも真剣に二人の栄養学講座に聞き入っている。
「そんなに難しくないよー。ビタミンCはピーマンやキウイに多く含まれているし、アセロラジュースにもたっぷりなのです。ビタミンB12は魚介類やチーズ。葉酸は大豆やほうれん草がいいかな」
「御琴ならカツオやマグロがいいんじゃないか? 刺身とか大好きだろ」
「へー、なんかあたしは好きなもの食べていたらいい気がしてきた」
「なるほど、そう考えると園での食事ってちゃんと考えられているんですね……これは参考になります」
「でも、気を付けてね。お茶に含まれてるタンニンは逆に吸収を妨げる効果があるから。あんまり渋いお茶やコーヒーはNGなのです」
いつの間にかまどかはノートを用意し、注意事項もしっかりとまとめ始めていた。
「ふむふむ……神崎先輩も伊薙先輩も凄いなあ。どうやったらそんなに詳しくなれるんですか?」
「誰かのために作ってあげようって思うと、自然と覚えるかもしれないよ。私は最初、いつもお仕事で忙しいお父さんに健康にいいものを食べてもらいたかったからだし」
「うちは父さんも母さんも帰りが遅かったからな。じいちゃんも作れないし、あまりに腹が減って自分で作り始めた」
「あの頃のカイくん、食いしん坊だったからねー」
「成長期だったからだよ。で、自分の食べたいものばかり作ってたら栄養が偏ったんで、好きなもの食べた上で健康も考えられるように勉強したのが始まりだよ」
『……ある意味食い意地が張っているというか、変に真面目というか』
少し離れたところで一行の後をついて来ているミサキが、呆れ交じりで笑っていた。
「それでも、静宮先輩に教わるまで見た目なんてほとんど無視だったな」
「私は、栄養重視で味の組み合わせが良くなかったなー。だから料理部で深雪先輩に教えてもらって良かった」
「むむむ……先輩たちの料理の師匠は会長さんでしたか」
「そうなのよねー、うちらが追い付こうとするなら死ぬほど練習しないといけないわよ……あ、そうだ。練習と言えば、まどかに聞きたいことがあったんだ」
御琴がまどかに向き直る。その表情は真剣そのもの。仲のいい先輩後輩ではなく、運動部の先輩としての顔だった。その雰囲気を察したのか、まどかも少し萎縮気味だ。
「今日の練習、もしかして手抜いてた?」
「い、いえ……違います。私は真剣にやっていました」
「じゃあ聞かせて。今日のまどかはこの間とはまるで別人だった。何本泳いでもあたしに勝てなかったじゃない。もしかして倒れた影響残ってる?」
まどかはかぶりを振って答える。御琴自身、まどかが手を抜くような子だとは思っていない。だからこそ、練習中に抱いた違和感はあまりに不思議なものだった。
「……それが、自分でもわからないんです。あの時は自分でも『できる』って感じがして」
「あの時だけ実力以上の力が出せたってこと?」
「はい。いつもだったら先輩のベストには届かないくらいなんです。二十五秒台なんて絶対出せないのに」
まどかの返答に御琴は考え込む。彼女が嘘や下手な誤魔化しをしているようには見えなかった。彼女自身、土曜日の結果には驚いているのと同時に納得できていないのだ。
「……まあ、本番に強いってこともあるか。でも、いつもあのくらい出せないと上に行くことなんてできないと思うよ」
「はい。目指すはあのタイムが当たり前に出せるようにすることです!」
「よーし、あたしも負けないからね!」
「はい! あ、私は帰りがこっちなので。ここでお別れしますね」
「うん、まどかちゃん。また明日ね」
「また明日ね、まどか」
「土曜日、頑張ろうな、三木」
「はい、先輩も台詞の練習、頑張ってくださいね」
「……頑張るよ」
三人が手を振る中、まどかが軽い足取りで去っていく。そして角を曲がってその姿が見えなくなったところで、美波が突然声を上げた。
「あ、いけない。サラダ油切れてたんだった。買いに行かないと」
いつも美波が使っているスーパーは、今来た道を少し戻った所にある。帰る方向が違うので海斗と御琴とはここで別れなくてはならなかった。
「ごめんね。私、買い物行ってから帰るよ」
「美波ん、一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ。御琴ちん心配性だなー。もし何かあったら電話するから」
「うん……美波んがそう言うなら」
美波のことを気にかけながら、御琴は海斗と一緒に帰っていく。美波はスマートフォンで時間を確認して、もうすぐスーパーの閉店時間が迫っていることに気付いて走り出した。
「……?」
ふと、歩道と車道を分ける縁石が目に入る。美波は何の気なしにその上に飛び乗り、少し歩いた後に飛び降りた。
「うん、だいじょーぶ」
何かが彼女の中で引っかかっていたが、先程と同じように飛び降りても何の問題もない。劇の稽古中に倒れたのはやっぱり貧血なのだろう。美波はそう結論付けた。
スーパーでサラダ油といくつか食材を買い込み、美波は家に帰る。珍しく家には明かりがついていた。
「ただいまー」
久し振りに言う言葉。彼女よりも早く家に帰っていることは稀なので、久しぶりに一緒の夕食を取れると美波の気分も自然と軽くなった。
「お帰り、美波」
「お父さん、今日は早いね」
リビングには新聞を読む美波の父親、豊秋がいた。娘の帰宅に新聞をたたみ、彼は穏やかな笑みを向ける。
「珍しく仕事が早く終わってね。たまには娘の暖かいご飯を食べようと思って帰って来たんだ」
「ちょっと待ってて。すぐに作るから」
「しかし、美波は遅かったね。部活の方、そんなに忙しいのかい?」
「ううん。カイくんたちと劇の練習してたんだ」
「劇?」
「深雪先輩にお願いされて、今度の土曜日に病院のボランティアに行くことになったの。そこで劇をやるんだ」
美波はエプロンを着けると、さっそく夕飯の用意を始める。
買って来た絹ごし豆腐の蓋を切り、余分な水分を流しに捨てる。包丁で適当な大きさに切って二人分の器に入れると、続いてネギを刻み始める。
「そうか……海斗君たちとはいい付き合いを続けているんだね」
「うん。カイくんと御琴ちんがいない生活なんて考えられないのです。あ、そう言えば中学で仲良しだった後輩のまどかちゃんも一緒に劇をやるんだよ」
ここぞとばかりに美波は学校でのことを話す。彼が帰宅する時間と美波の生活サイクルはなかなか合わないので、豊秋にとっても娘が楽しく学校で過ごしているのを知ることができるのは嬉しいことだ。
「そうか、部長さんが作った台本なんだね」
「うん。古典とか言葉のルーツとかに詳しくて、このお話もその一つを劇にしたものなんだって」
「へえ、面白そうだね……美波、その劇って一般の人も見に行っていいのかな?」
「え、もしかして観に来てくれるの?」
思わぬ言葉に美波は調理の手を止め、顔を上げた。
母親の紗那が亡くなってから、豊秋は父子家庭の家計を支えるため、朝早くから遅くまで働いている。だから学校行事もあまり参加できず、海斗や御琴の親が撮った写真や映像を後から見せてもらうことが多い。
「たまには娘が頑張っている所をこの目で見たいからね。ちょうど今週の土曜日は久しぶりに休みが取れそうなんだ」
「ほんと!? やった、私頑張るから!」
美波も寂しさは感じているが、それを口に出すことはない。こうして、豊秋は空いた時間をできるだけ娘と過ごそうとしてくれる。彼が自分のために頑張っていることは小さい頃からよくわかっているからだ。
「さて、それじゃあご飯を食べたら残ってる仕事を片付けないといけないな」
「あー、またお仕事持って帰って来たんだ。ダメだよお父さん、最近肩こり酷いって言ってたのに」
「すぐに終わる仕事だから大丈夫だよ」
「そんなこと言って、いつも遅くまでかかってるよ。朝だって起きられないこと多いし、長時間のデスクワークも睡眠不足も健康の天敵なのです」
「はは、美波にはかなわないなあ」
頬を膨らませて美波は豊秋に注意する。そんな娘の姿を見て、彼はなぜか表情を綻ばせる。
「もー、お父さん。聞いてるの?」
「聞いているよ。ごめんごめん」
気が強くても優しさを奥底にしっかりと抱いている姿は、亡くなった妻によく似ていた。最近は性格だけでなく、見た目も彼女を思い起こさせるようになって来ている。
紗那が亡くなってからは一人にすることが多くなってしまったが、ずっと海斗や御琴が一緒に居続けてくれたからこそ、彼女は孤独にならないでいられる。言葉にはしないが、豊秋はそんな二人に心の中で感謝を送るのだった。
「ほんっとにもー。メチャクチャ心配したんだからね」
「あはは、ごめん御琴《みこ》ちん。カイくんも、助けてくれてありがと」
稽古の最中に倒れた美波だが、意識はすぐに戻った。ただ、倒れた瞬間のことは何も覚えておらず、美波自身も何が起きたのかつかめていない状況だった。
「いきなり倒れたので、私もびっくりしました」
「んー、たぶん貧血じゃないかな。最近鉄分取れるもの食べていなかったし」
「あたしも貧血起こすことがあるし、気を付けないとなあ。ねえ、何かいい食べ物知ってる?」
御琴が海斗と美波に尋ねる。こういう時は料理経験の豊富な二人が頼りだ。
「うーん、一般的なイメージだとレバーだけど」
「ひじきや納豆でだって取れるな」
「あとは吸収率をよくするためにビタミンCも一緒に取らないとだね。あと、赤血球を作るためにもビタミンB12と葉酸も必要」
「さすが二人とも。で、そのビタミンとかはどうすればいいの?」
料理を美波に教わり始めたとはいえ、彼女にとって栄養関係は未知の領域だ。まどかも真剣に二人の栄養学講座に聞き入っている。
「そんなに難しくないよー。ビタミンCはピーマンやキウイに多く含まれているし、アセロラジュースにもたっぷりなのです。ビタミンB12は魚介類やチーズ。葉酸は大豆やほうれん草がいいかな」
「御琴ならカツオやマグロがいいんじゃないか? 刺身とか大好きだろ」
「へー、なんかあたしは好きなもの食べていたらいい気がしてきた」
「なるほど、そう考えると園での食事ってちゃんと考えられているんですね……これは参考になります」
「でも、気を付けてね。お茶に含まれてるタンニンは逆に吸収を妨げる効果があるから。あんまり渋いお茶やコーヒーはNGなのです」
いつの間にかまどかはノートを用意し、注意事項もしっかりとまとめ始めていた。
「ふむふむ……神崎先輩も伊薙先輩も凄いなあ。どうやったらそんなに詳しくなれるんですか?」
「誰かのために作ってあげようって思うと、自然と覚えるかもしれないよ。私は最初、いつもお仕事で忙しいお父さんに健康にいいものを食べてもらいたかったからだし」
「うちは父さんも母さんも帰りが遅かったからな。じいちゃんも作れないし、あまりに腹が減って自分で作り始めた」
「あの頃のカイくん、食いしん坊だったからねー」
「成長期だったからだよ。で、自分の食べたいものばかり作ってたら栄養が偏ったんで、好きなもの食べた上で健康も考えられるように勉強したのが始まりだよ」
『……ある意味食い意地が張っているというか、変に真面目というか』
少し離れたところで一行の後をついて来ているミサキが、呆れ交じりで笑っていた。
「それでも、静宮先輩に教わるまで見た目なんてほとんど無視だったな」
「私は、栄養重視で味の組み合わせが良くなかったなー。だから料理部で深雪先輩に教えてもらって良かった」
「むむむ……先輩たちの料理の師匠は会長さんでしたか」
「そうなのよねー、うちらが追い付こうとするなら死ぬほど練習しないといけないわよ……あ、そうだ。練習と言えば、まどかに聞きたいことがあったんだ」
御琴がまどかに向き直る。その表情は真剣そのもの。仲のいい先輩後輩ではなく、運動部の先輩としての顔だった。その雰囲気を察したのか、まどかも少し萎縮気味だ。
「今日の練習、もしかして手抜いてた?」
「い、いえ……違います。私は真剣にやっていました」
「じゃあ聞かせて。今日のまどかはこの間とはまるで別人だった。何本泳いでもあたしに勝てなかったじゃない。もしかして倒れた影響残ってる?」
まどかはかぶりを振って答える。御琴自身、まどかが手を抜くような子だとは思っていない。だからこそ、練習中に抱いた違和感はあまりに不思議なものだった。
「……それが、自分でもわからないんです。あの時は自分でも『できる』って感じがして」
「あの時だけ実力以上の力が出せたってこと?」
「はい。いつもだったら先輩のベストには届かないくらいなんです。二十五秒台なんて絶対出せないのに」
まどかの返答に御琴は考え込む。彼女が嘘や下手な誤魔化しをしているようには見えなかった。彼女自身、土曜日の結果には驚いているのと同時に納得できていないのだ。
「……まあ、本番に強いってこともあるか。でも、いつもあのくらい出せないと上に行くことなんてできないと思うよ」
「はい。目指すはあのタイムが当たり前に出せるようにすることです!」
「よーし、あたしも負けないからね!」
「はい! あ、私は帰りがこっちなので。ここでお別れしますね」
「うん、まどかちゃん。また明日ね」
「また明日ね、まどか」
「土曜日、頑張ろうな、三木」
「はい、先輩も台詞の練習、頑張ってくださいね」
「……頑張るよ」
三人が手を振る中、まどかが軽い足取りで去っていく。そして角を曲がってその姿が見えなくなったところで、美波が突然声を上げた。
「あ、いけない。サラダ油切れてたんだった。買いに行かないと」
いつも美波が使っているスーパーは、今来た道を少し戻った所にある。帰る方向が違うので海斗と御琴とはここで別れなくてはならなかった。
「ごめんね。私、買い物行ってから帰るよ」
「美波ん、一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ。御琴ちん心配性だなー。もし何かあったら電話するから」
「うん……美波んがそう言うなら」
美波のことを気にかけながら、御琴は海斗と一緒に帰っていく。美波はスマートフォンで時間を確認して、もうすぐスーパーの閉店時間が迫っていることに気付いて走り出した。
「……?」
ふと、歩道と車道を分ける縁石が目に入る。美波は何の気なしにその上に飛び乗り、少し歩いた後に飛び降りた。
「うん、だいじょーぶ」
何かが彼女の中で引っかかっていたが、先程と同じように飛び降りても何の問題もない。劇の稽古中に倒れたのはやっぱり貧血なのだろう。美波はそう結論付けた。
スーパーでサラダ油といくつか食材を買い込み、美波は家に帰る。珍しく家には明かりがついていた。
「ただいまー」
久し振りに言う言葉。彼女よりも早く家に帰っていることは稀なので、久しぶりに一緒の夕食を取れると美波の気分も自然と軽くなった。
「お帰り、美波」
「お父さん、今日は早いね」
リビングには新聞を読む美波の父親、豊秋がいた。娘の帰宅に新聞をたたみ、彼は穏やかな笑みを向ける。
「珍しく仕事が早く終わってね。たまには娘の暖かいご飯を食べようと思って帰って来たんだ」
「ちょっと待ってて。すぐに作るから」
「しかし、美波は遅かったね。部活の方、そんなに忙しいのかい?」
「ううん。カイくんたちと劇の練習してたんだ」
「劇?」
「深雪先輩にお願いされて、今度の土曜日に病院のボランティアに行くことになったの。そこで劇をやるんだ」
美波はエプロンを着けると、さっそく夕飯の用意を始める。
買って来た絹ごし豆腐の蓋を切り、余分な水分を流しに捨てる。包丁で適当な大きさに切って二人分の器に入れると、続いてネギを刻み始める。
「そうか……海斗君たちとはいい付き合いを続けているんだね」
「うん。カイくんと御琴ちんがいない生活なんて考えられないのです。あ、そう言えば中学で仲良しだった後輩のまどかちゃんも一緒に劇をやるんだよ」
ここぞとばかりに美波は学校でのことを話す。彼が帰宅する時間と美波の生活サイクルはなかなか合わないので、豊秋にとっても娘が楽しく学校で過ごしているのを知ることができるのは嬉しいことだ。
「そうか、部長さんが作った台本なんだね」
「うん。古典とか言葉のルーツとかに詳しくて、このお話もその一つを劇にしたものなんだって」
「へえ、面白そうだね……美波、その劇って一般の人も見に行っていいのかな?」
「え、もしかして観に来てくれるの?」
思わぬ言葉に美波は調理の手を止め、顔を上げた。
母親の紗那が亡くなってから、豊秋は父子家庭の家計を支えるため、朝早くから遅くまで働いている。だから学校行事もあまり参加できず、海斗や御琴の親が撮った写真や映像を後から見せてもらうことが多い。
「たまには娘が頑張っている所をこの目で見たいからね。ちょうど今週の土曜日は久しぶりに休みが取れそうなんだ」
「ほんと!? やった、私頑張るから!」
美波も寂しさは感じているが、それを口に出すことはない。こうして、豊秋は空いた時間をできるだけ娘と過ごそうとしてくれる。彼が自分のために頑張っていることは小さい頃からよくわかっているからだ。
「さて、それじゃあご飯を食べたら残ってる仕事を片付けないといけないな」
「あー、またお仕事持って帰って来たんだ。ダメだよお父さん、最近肩こり酷いって言ってたのに」
「すぐに終わる仕事だから大丈夫だよ」
「そんなこと言って、いつも遅くまでかかってるよ。朝だって起きられないこと多いし、長時間のデスクワークも睡眠不足も健康の天敵なのです」
「はは、美波にはかなわないなあ」
頬を膨らませて美波は豊秋に注意する。そんな娘の姿を見て、彼はなぜか表情を綻ばせる。
「もー、お父さん。聞いてるの?」
「聞いているよ。ごめんごめん」
気が強くても優しさを奥底にしっかりと抱いている姿は、亡くなった妻によく似ていた。最近は性格だけでなく、見た目も彼女を思い起こさせるようになって来ている。
紗那が亡くなってからは一人にすることが多くなってしまったが、ずっと海斗や御琴が一緒に居続けてくれたからこそ、彼女は孤独にならないでいられる。言葉にはしないが、豊秋はそんな二人に心の中で感謝を送るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる