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第四章「渇愛の奇魂」
第50話 悪意の濁流
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「暑い……」
「うう……学校祭やめてプール入りたい」
土曜日は快晴の猛暑日だった。日の出から気温も上がり始め、海斗たちの通学の時間には既に三十度を越えている。
「アイス売ってるクラスに今日は殺到しそうね……」
途中にあるコンビニでジュースを買い、海斗たちは水分を取りつつ学校へ向かう。今日は芦達祭の一般開放の日。一般の人々も多数訪れるため、料理部もフル回転の予定だ。
「海斗も美波んも気を付けてよね」
「うん。私たちは火を使うから熱中症にならないようにしないとねー」
せめて雲が出てくれればと思ったが、あいにくと雨雲はしばらく出ないと天気予報は無情に告げていた。
「まどかちゃんも可哀そうだよね、せっかくカイくんとデートなのにこんなに暑い日になっちゃうんだもん」
「デートって……休憩時間にまどかとあちこち見て回るだけだぞ?」
「それでもまどかにとっては大事な日なんだからね。海斗、あの子泣かせるんじゃないわよ」
「わかってるよ」
恋敵とはいえ、御琴にとってまどかは可愛い後輩には違いない。だからこそ、複雑な気持ちではあるが海斗とのデートを応援もしていた。
「でも、まどかちゃん凄いよね。舞台の上でみんなが見てる前で言うんだもん」
「海斗もよく受けたわよ」
「仕方ないだろ。あんな状況で断れないって」
「でも海斗、あんたわかってるの?」
「は?」
「あの状況、何も知らない子から見たら告白にOK出したようにも見えるのよ?」
御琴の指摘に一瞬、海斗が動揺した。彼にそんなつもりがないのは二人にも分かっている。
「いや、あの時まどかは芦達祭を一緒に回ってくれって言っただけじゃ……」
「人って自分の思ったように物事を解釈しちゃうからなー。私たちはカイくんがどんな子か知ってるからいいけど、他から見たら違って見られる可能性はあるよ?」
「マジかよ……」
「海斗は良くも悪くも正直なのよね。言葉をそのままの意味で受け止めすぎなのよ。病院の時だって美波んの『大丈夫』って言葉信じて一人にしたらいなくなっちゃったじゃない……ま、あたしが言えた立場じゃないけど」
「あはは……あの時はごめんね。一人で気持ちを落ち着けたかったから」
美波が苦笑いを浮かべて繕った。
その時は鵺が関わっていたとはいえ、まだ美波の中で心の闇が燻っていたのも確かだった。海斗にとってはそれに気が付けず一人にしたのは苦い経験だ。
「まどかもわかっているはずだけど、海斗はもう少し言葉を考えた方がいいわよ?」
「静宮先輩にも言われたな、それ……」
やはりあまり正直なのも問題なのだろうか。そんなことを思いながら歩いていると、やがて学校が見えて来た。
「あれ?」
学校の前にたくさんの人が立っていた。芦達祭が始まるまではまだ時間がある。目玉の高校生レストランも、そんなに朝一で向かうような場所ではないはずだ。
「芦原高校生ですね!」
海斗たちに気が付いた一人が向かってくる。その手にはICレコーダーやマイクが握られており、集まった人たちの何人かはカメラを持っていた。
「な、なんだ?」
「御琴ちんの取材?」
「今日記者が来るなんて、あたし聞いてないわよ?」
戸惑う海斗らを記者が一斉に取り囲む。向けられたマイクを前に、何を言えばわからない。
「もしかして君、|伊薙海斗君?」
「え、なんで俺の名前を?」
「当事者だ。インタビュー貰え!」
「わ、ちょっとやめてよ!」
「カイくん!?」
美波と御琴を輪から押し出し、取材陣が海斗に殺到する。三人とも訳が分からずもみくちゃにされてしまう。
「一言ください!」
「伊薙君、例の件を君はどう思いますか!」
「何言って……わっ!?」
突如輪の中から海斗が引っ張り出される。その腕を取っていたのは先に学校に向かった咲耶だった。
「母さん!?」
「海斗、早く行って!」
「いったい何なんだよ!」
「話は後。いいから校舎まで走りなさい!」
「わかった!」
美波たちも既に校門の向こうにいた。海斗を保護すると咲耶は門を閉じ、マスコミを締め出すとその後を追った。
教務室に向かう中、海斗らは事務室の前を通るが、中からはひっきりなしに電話が鳴り、職員が対応に追われていた。
「何なんだいったい……?」
「厄介なことになってね。あちこちから苦情の電話がかかって来てる。まったく、一般公開の日だってのに」
「苦情?」
「何かあったんですか、咲耶さん?」
「伊薙先生だ……って、そんなこと言ってる場合じゃないか。とにかく話は教務室でするから。あんたたちにも無関係の話じゃないからね」
マスコミに取り囲まれるような事態に海斗らは覚えがない。首をかしげる中で三人は教務室に通された。
「あれ、先輩?」
「みんな……」
そこには深雪もいた。咲耶にうながされるままに四人は机を囲むように椅子に座った。
「実は、昨日の夜からネットでデマが拡散しててね」
「デマ?」
「ああ。間違いなく根も葉もない噂だよ。でも、元となった書き込みがやけに資料をそろえて流したものだから下手な真実味を持ってしまってね……すっかり炎上状態だよ。手が付けられない」
海斗も若者が迷惑行為をはたらき、それがインターネットで拡散して大問題になった事件はニュースで目にしている。それが身近で起きたということに、妙な非現実感を抱いてしまう。
「なんで。だって違うって否定すればそれで済むことじゃないか!?」
「こういうのはデマを否定する声よりも寄せられる抗議の声の方が多いのよ……その真偽に関わらずね」
深雪が代わりに答える。彼女もいわれのない中傷をされた経験があるため、その言葉には重みがあった。
「そういうことだ。こっちはまだ確認中なのに向こうは事実と決めつけて来る。さっきの電話は学校への抗議の電話さ。外のマスコミは真偽を確かめるために集まって来てる」
「咲耶さん、さっきカイくんが当事者って言ってましたけど、どういうことですか?」
美波が咲耶へ疑問をぶつけて来る。戸惑っている海斗や御琴と違って深雪と美波は冷静に事態を受け止め、真相を知ろうとしていた。
「三木の生い立ちは知ってるね?」
「施設で育ったってことですか?」
「そう。そして三木はたくさんの子供たちの面倒を見ている。有名になってその子たちの親御さんを見つけてあげたいっていう夢も知っての通りだよ」
「それと海斗に何の関係があるんですか?」
「……今回のデマは、その『三木きぼう園』に関してなのさ。経営している法人が経営危機に陥ってるって話がまず流れた」
もちろんそんな事実はない。その社会福祉法人は明確にデマを否定している。
「厄介なのはここからだよ。もしも経営が行き詰まれば施設も潰れてしまうかもしれない。そうなれば子供たちは違う施設へ引き取られていく……三木が家族と言っていた子たちがだ」
それはまどかにとって、耐えがたいことだ。自分が守りたいと言っていた「家族」が離散する。それはかつてのまどかが施設に置き去りにされたように家族の絆が断ち切られることになる。
「施設を何としても残したい三木は考えた。安定している企業に経営を代わってもらえばいい。そのために……この町でも金持ちで知られる伊薙家に目をつけ、後継ぎの海斗に近付いた。海斗に近づくために美波ちゃんや御琴ちゃんに近づいた。そして、あわよくば支援を取り付けようと静宮にも近づいたってね」
「そんな、ありえない!」
御琴が思わず立ち上がり、声を上げる。眼に涙を浮かべ、怒りでその手が震えていた。
「あの子に限ってそんなことするわけない!」
「そうですよ。まどかちゃんがカイくんのことを好きなのは本当です!」
「わかってる……三木はそんなことをする生徒じゃない。そもそもこの話自体が作り話だ。何の根拠もない」
だが、話が気持ち悪い位にできすぎている。関係者以外知らないはずのまどかの海斗への好意すら、話の要素に組み込まれている。
「そこにあの記事だ。久しぶりに現れた競泳女子期待の若手。しかも非公式とは言え、全国レベルの成績を残してる。辛い過去に負けずに努力を積み重ね、遂に成功する……こんな美談が昨日の新聞で一気に広まってるんだよ。まったく、注目が集まった所にとんでもない爆弾を爆発させてくれたもんだ」
美談を見てその話に感動する人は多く存在する。だが、そんな話にも穿った目を向ける人々も少なからず存在している。成功を妬む者、恨む者、その裏を邪推する者。そんな思いが悪意を持った書き込みによって一気に燃え上がり、まどかに向けられた世間の良い印象も一気に裏返ってしまったのだ。
「……三木さんは、どうしているんですか?」
深雪が恐る恐るうかがう。この場にいるのは四人、当のまどかがいない。
「……まだ連絡をとれていない。お前たちなら誰かが連絡をとれているんじゃないかって思ってね」
「あ、そう言えば昨日みんなでアカウントをフォローし合ったよね」
「そうか。アプリで呼び掛けてみよう!」
まどかと連絡が取れる海斗ら三人がスマートフォンを出し、アプリを起動する。だが、その瞬間に海斗の顔色が変わった。
「……何だよこれ。フォロワーがとんでもない数になってる。メッセージも」
それは、あまりにも気味の悪い光景だった。今回の事件で海斗を知った見も知らぬ人々から寄せられる同情と嘲りの声。海斗の家の住所がさらされているものまである。あまりに無責任で面白半分なものが大半だった。
「あたしのアカウントも荒らされてる。まどかの共犯じゃないかって」
「まどかちゃんのフォロワー全員にメッセージ送ってるみたい。みんなでカイくんをハメようとしたんじゃないかって」
「ふざけないでよ!」
机をたたき、御琴が怒りを爆発させる。
「関係ない人間にあたしたちの何がわかるって言うのよ!」
「……咲耶さん。まどかちゃんのアカウントも荒らされてます。もしかしたら炎上から逃げるために電源を切ってるのかも」
「……施設にも電話をかけてるんだが、まるで繋がらないんだ。やっぱり担任が直接行くしかないか」
「母さん、俺たちも行かせてくれ!」
「ダメだ。お前たちは学校にいなさい」
「でも!」
「これは教師の仕事だ!」
咲耶の一喝に海斗は黙り込んだ。中学の頃からまどかを知っている彼の気持ちも母親としては理解してあげたい。だが、状況的に海斗を連れて行くことはできない。見る人によっては格好のネタになる。
「特に海斗はマスコミからも狙われてるから外には出せない。放課後までには学校が対応して落ち着かせるから、それまで待ちなさい」
「……わかった」
海斗が痛い位に拳を握る。昨日まで海斗に向けられていたまどかの幸せそうな笑顔。それが悪意にさらされていることが、海斗には我慢ならない。だが、世間という大きな存在と言うものに巻き込まれた流れは、既に止めようがなかった。
「うう……学校祭やめてプール入りたい」
土曜日は快晴の猛暑日だった。日の出から気温も上がり始め、海斗たちの通学の時間には既に三十度を越えている。
「アイス売ってるクラスに今日は殺到しそうね……」
途中にあるコンビニでジュースを買い、海斗たちは水分を取りつつ学校へ向かう。今日は芦達祭の一般開放の日。一般の人々も多数訪れるため、料理部もフル回転の予定だ。
「海斗も美波んも気を付けてよね」
「うん。私たちは火を使うから熱中症にならないようにしないとねー」
せめて雲が出てくれればと思ったが、あいにくと雨雲はしばらく出ないと天気予報は無情に告げていた。
「まどかちゃんも可哀そうだよね、せっかくカイくんとデートなのにこんなに暑い日になっちゃうんだもん」
「デートって……休憩時間にまどかとあちこち見て回るだけだぞ?」
「それでもまどかにとっては大事な日なんだからね。海斗、あの子泣かせるんじゃないわよ」
「わかってるよ」
恋敵とはいえ、御琴にとってまどかは可愛い後輩には違いない。だからこそ、複雑な気持ちではあるが海斗とのデートを応援もしていた。
「でも、まどかちゃん凄いよね。舞台の上でみんなが見てる前で言うんだもん」
「海斗もよく受けたわよ」
「仕方ないだろ。あんな状況で断れないって」
「でも海斗、あんたわかってるの?」
「は?」
「あの状況、何も知らない子から見たら告白にOK出したようにも見えるのよ?」
御琴の指摘に一瞬、海斗が動揺した。彼にそんなつもりがないのは二人にも分かっている。
「いや、あの時まどかは芦達祭を一緒に回ってくれって言っただけじゃ……」
「人って自分の思ったように物事を解釈しちゃうからなー。私たちはカイくんがどんな子か知ってるからいいけど、他から見たら違って見られる可能性はあるよ?」
「マジかよ……」
「海斗は良くも悪くも正直なのよね。言葉をそのままの意味で受け止めすぎなのよ。病院の時だって美波んの『大丈夫』って言葉信じて一人にしたらいなくなっちゃったじゃない……ま、あたしが言えた立場じゃないけど」
「あはは……あの時はごめんね。一人で気持ちを落ち着けたかったから」
美波が苦笑いを浮かべて繕った。
その時は鵺が関わっていたとはいえ、まだ美波の中で心の闇が燻っていたのも確かだった。海斗にとってはそれに気が付けず一人にしたのは苦い経験だ。
「まどかもわかっているはずだけど、海斗はもう少し言葉を考えた方がいいわよ?」
「静宮先輩にも言われたな、それ……」
やはりあまり正直なのも問題なのだろうか。そんなことを思いながら歩いていると、やがて学校が見えて来た。
「あれ?」
学校の前にたくさんの人が立っていた。芦達祭が始まるまではまだ時間がある。目玉の高校生レストランも、そんなに朝一で向かうような場所ではないはずだ。
「芦原高校生ですね!」
海斗たちに気が付いた一人が向かってくる。その手にはICレコーダーやマイクが握られており、集まった人たちの何人かはカメラを持っていた。
「な、なんだ?」
「御琴ちんの取材?」
「今日記者が来るなんて、あたし聞いてないわよ?」
戸惑う海斗らを記者が一斉に取り囲む。向けられたマイクを前に、何を言えばわからない。
「もしかして君、|伊薙海斗君?」
「え、なんで俺の名前を?」
「当事者だ。インタビュー貰え!」
「わ、ちょっとやめてよ!」
「カイくん!?」
美波と御琴を輪から押し出し、取材陣が海斗に殺到する。三人とも訳が分からずもみくちゃにされてしまう。
「一言ください!」
「伊薙君、例の件を君はどう思いますか!」
「何言って……わっ!?」
突如輪の中から海斗が引っ張り出される。その腕を取っていたのは先に学校に向かった咲耶だった。
「母さん!?」
「海斗、早く行って!」
「いったい何なんだよ!」
「話は後。いいから校舎まで走りなさい!」
「わかった!」
美波たちも既に校門の向こうにいた。海斗を保護すると咲耶は門を閉じ、マスコミを締め出すとその後を追った。
教務室に向かう中、海斗らは事務室の前を通るが、中からはひっきりなしに電話が鳴り、職員が対応に追われていた。
「何なんだいったい……?」
「厄介なことになってね。あちこちから苦情の電話がかかって来てる。まったく、一般公開の日だってのに」
「苦情?」
「何かあったんですか、咲耶さん?」
「伊薙先生だ……って、そんなこと言ってる場合じゃないか。とにかく話は教務室でするから。あんたたちにも無関係の話じゃないからね」
マスコミに取り囲まれるような事態に海斗らは覚えがない。首をかしげる中で三人は教務室に通された。
「あれ、先輩?」
「みんな……」
そこには深雪もいた。咲耶にうながされるままに四人は机を囲むように椅子に座った。
「実は、昨日の夜からネットでデマが拡散しててね」
「デマ?」
「ああ。間違いなく根も葉もない噂だよ。でも、元となった書き込みがやけに資料をそろえて流したものだから下手な真実味を持ってしまってね……すっかり炎上状態だよ。手が付けられない」
海斗も若者が迷惑行為をはたらき、それがインターネットで拡散して大問題になった事件はニュースで目にしている。それが身近で起きたということに、妙な非現実感を抱いてしまう。
「なんで。だって違うって否定すればそれで済むことじゃないか!?」
「こういうのはデマを否定する声よりも寄せられる抗議の声の方が多いのよ……その真偽に関わらずね」
深雪が代わりに答える。彼女もいわれのない中傷をされた経験があるため、その言葉には重みがあった。
「そういうことだ。こっちはまだ確認中なのに向こうは事実と決めつけて来る。さっきの電話は学校への抗議の電話さ。外のマスコミは真偽を確かめるために集まって来てる」
「咲耶さん、さっきカイくんが当事者って言ってましたけど、どういうことですか?」
美波が咲耶へ疑問をぶつけて来る。戸惑っている海斗や御琴と違って深雪と美波は冷静に事態を受け止め、真相を知ろうとしていた。
「三木の生い立ちは知ってるね?」
「施設で育ったってことですか?」
「そう。そして三木はたくさんの子供たちの面倒を見ている。有名になってその子たちの親御さんを見つけてあげたいっていう夢も知っての通りだよ」
「それと海斗に何の関係があるんですか?」
「……今回のデマは、その『三木きぼう園』に関してなのさ。経営している法人が経営危機に陥ってるって話がまず流れた」
もちろんそんな事実はない。その社会福祉法人は明確にデマを否定している。
「厄介なのはここからだよ。もしも経営が行き詰まれば施設も潰れてしまうかもしれない。そうなれば子供たちは違う施設へ引き取られていく……三木が家族と言っていた子たちがだ」
それはまどかにとって、耐えがたいことだ。自分が守りたいと言っていた「家族」が離散する。それはかつてのまどかが施設に置き去りにされたように家族の絆が断ち切られることになる。
「施設を何としても残したい三木は考えた。安定している企業に経営を代わってもらえばいい。そのために……この町でも金持ちで知られる伊薙家に目をつけ、後継ぎの海斗に近付いた。海斗に近づくために美波ちゃんや御琴ちゃんに近づいた。そして、あわよくば支援を取り付けようと静宮にも近づいたってね」
「そんな、ありえない!」
御琴が思わず立ち上がり、声を上げる。眼に涙を浮かべ、怒りでその手が震えていた。
「あの子に限ってそんなことするわけない!」
「そうですよ。まどかちゃんがカイくんのことを好きなのは本当です!」
「わかってる……三木はそんなことをする生徒じゃない。そもそもこの話自体が作り話だ。何の根拠もない」
だが、話が気持ち悪い位にできすぎている。関係者以外知らないはずのまどかの海斗への好意すら、話の要素に組み込まれている。
「そこにあの記事だ。久しぶりに現れた競泳女子期待の若手。しかも非公式とは言え、全国レベルの成績を残してる。辛い過去に負けずに努力を積み重ね、遂に成功する……こんな美談が昨日の新聞で一気に広まってるんだよ。まったく、注目が集まった所にとんでもない爆弾を爆発させてくれたもんだ」
美談を見てその話に感動する人は多く存在する。だが、そんな話にも穿った目を向ける人々も少なからず存在している。成功を妬む者、恨む者、その裏を邪推する者。そんな思いが悪意を持った書き込みによって一気に燃え上がり、まどかに向けられた世間の良い印象も一気に裏返ってしまったのだ。
「……三木さんは、どうしているんですか?」
深雪が恐る恐るうかがう。この場にいるのは四人、当のまどかがいない。
「……まだ連絡をとれていない。お前たちなら誰かが連絡をとれているんじゃないかって思ってね」
「あ、そう言えば昨日みんなでアカウントをフォローし合ったよね」
「そうか。アプリで呼び掛けてみよう!」
まどかと連絡が取れる海斗ら三人がスマートフォンを出し、アプリを起動する。だが、その瞬間に海斗の顔色が変わった。
「……何だよこれ。フォロワーがとんでもない数になってる。メッセージも」
それは、あまりにも気味の悪い光景だった。今回の事件で海斗を知った見も知らぬ人々から寄せられる同情と嘲りの声。海斗の家の住所がさらされているものまである。あまりに無責任で面白半分なものが大半だった。
「あたしのアカウントも荒らされてる。まどかの共犯じゃないかって」
「まどかちゃんのフォロワー全員にメッセージ送ってるみたい。みんなでカイくんをハメようとしたんじゃないかって」
「ふざけないでよ!」
机をたたき、御琴が怒りを爆発させる。
「関係ない人間にあたしたちの何がわかるって言うのよ!」
「……咲耶さん。まどかちゃんのアカウントも荒らされてます。もしかしたら炎上から逃げるために電源を切ってるのかも」
「……施設にも電話をかけてるんだが、まるで繋がらないんだ。やっぱり担任が直接行くしかないか」
「母さん、俺たちも行かせてくれ!」
「ダメだ。お前たちは学校にいなさい」
「でも!」
「これは教師の仕事だ!」
咲耶の一喝に海斗は黙り込んだ。中学の頃からまどかを知っている彼の気持ちも母親としては理解してあげたい。だが、状況的に海斗を連れて行くことはできない。見る人によっては格好のネタになる。
「特に海斗はマスコミからも狙われてるから外には出せない。放課後までには学校が対応して落ち着かせるから、それまで待ちなさい」
「……わかった」
海斗が痛い位に拳を握る。昨日まで海斗に向けられていたまどかの幸せそうな笑顔。それが悪意にさらされていることが、海斗には我慢ならない。だが、世間という大きな存在と言うものに巻き込まれた流れは、既に止めようがなかった。
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