52 / 66
第四章「渇愛の奇魂」
第51話 三木まどか
しおりを挟む
朝から園長先生たちが忙しく電話対応に出ていた。はじめ、私はそれが何が起きているのかわからなかった。
おかしいことはまだ続く。私のSNSのアカウントに、次々と送られてくるメッセージ。その内容はいずれも私や、施設への攻撃的なものだった。
そこでやっと、私についてのデマが拡散されていることを知った。私が施設を守るためにお金持ちの伊薙先輩や静宮先輩に取り入ろうとしていたというものだった。
そんなわけない。でも、私が何を言っても苦し紛れの言い訳にされてしまう。否定すればするほど言葉尻をとらえて私を攻撃する材料にする。
あまりの怖さに私はスマートフォンの電源を切った。部屋の片隅で怯えるそんな私に弟たちが声をかけて来る。
「まどかねーちゃん。今日学校行かないの?」
「う、うん……ちょっと具合が悪くて」
「おねえちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと休んだら、後で鬼ごっこしよ」
「うん!」
不安を見せないように強がる。本当は私の心の中は悲鳴を上げている。幸福の絶頂から絶望のどん底に落とされた感覚。持っていた大切なものが全部失われる間隔。もう味わうことはないと思っていたのに――。
「きゃあっ!?」
部屋の窓がいきなり割れた。カーテンを閉めていたお陰でガラスが飛び散ることはなかったけど、ガラスを突き破った石が部屋に転がっていた。窓の外を恐る恐る伺うと、見たことのない若者たちがそこにいた。
SNSが炎上した時に施設の場所も電話番号もさらされてしまった。それで来た人たちかもしれない。
「何だ今の音?」
「ねーちゃんガラス割ったの?」
「ち、違うよ。通りがかったトラックが石をはねたんじゃないかな」
「マジかよー。ほうき持って来るから片付けようぜ」
みんながほうきと塵取りを持ってきてすぐに片付け始めた。こんなにいい子たちなのに、私の件に巻き込むわけにはいかない。
「み、みんな……今日は中で遊ぼうか」
「えー、なんでー?」
「いいから。ね?」
「そ、そうね。今日はとっても暑くなるから中での活動にしましょう」
ガラスが割れた音を聞きつけてやって来ていた園長先生が助け舟を出してくれた。この園に年長者は私以上がはスタッフしかいない。だから最年長者の言うことはみんなよほどのことが無い限りちゃんと聞いてくれる。
「ねっちゅーしょーだっけ?」
「そうそう。今日は三十五度以上になるみたいだから、お外は危ないのよ」
「げっ、なんだそれ。ちょー暑いじゃん」
「ちぇー、先生とねーちゃんが言うならしょうがないか」
良かった。これでみんながマスコミや悪意のある人たちに攻撃されることはないはずだ。
外に出るのが怖い。あのデマはどこまで広まっているのだろう。商店街の人たちは知っているのだろうか。学校の先生たちは。友達は……伊薙先輩は。
昨日までは楽しかったのに。
伊薙先輩が彦星に、私が織姫に選ばれて。先輩と今日は芦達祭を回る約束をしたのに。
私を、名前で呼んでもらえるようになったのに。
『まどか』
小さい時に捨てられた私に残された自分だけのもの。それが私の名前。
本当の苗字も親の名前も顔も知らない私にとって、自分の生い立ちに繋がるたった一つの手がかり。
それが広まっていく。私が求めていた、活躍してのものじゃなく、悪名として。金のために男を誑かした女として。
「そんなのやだ……」
もうみんなの親を捜せない。私の親もこれじゃ名乗り出られない。私の夢が、希望が失われていく。
「助けて……」
本当ならここでお父さんやお母さんが守ってくれるのかな。でも、私には、この子達には今、その両親がいない。
「誰か助けて……」
なら、誰に助けを求めればいいんだろう。
担任の先生?
顧問の伊薙先生?
友達?
先輩たち?
――ダメ。迷惑をかけられない。私を庇ったらみんなも攻撃されちゃうかもしれない。
「誰か――」
ドアを閉め、布団をかぶって外の音をシャットアウトする。途中、誰かが部屋に来たみたいだけど園長先生と何かを話して帰って行った。ああ、もしかして担任の先生だったのかな。そうだったら悪いことをしちゃったな。
弟や妹も私に声をかけていた。ごめん、今は起き上がる気力もない。後で遊んであげるから。今は一人にして……。
「ん……」
……どれだけ時間が経ったのだろう。いつの間にか私は寝てしまっていた。
目を覚ました時にはカーテンの隙間からオレンジ色の光が漏れていた。夕方まで寝ちゃったんだ。
芦達祭はどうなったんだろう。伊薙先輩との約束、破っちゃったな……こんな状況だから許してくれるかもしれないけど。
「……あれ?」
施設の中から声がしない。おかしい。いつもなら夕方は誰かがお絵描きをしたり、勉強してたりしてるはず。
「……め」
何かが聞こえた。子供たちが遊ぶ声……でもこれって?
「……め、……め」
外からだ。どういうことなんだろう。今日は外に出ないように私と園長先生が念を押していた。みんな中にいるはずなのに。行ってみなくちゃ。
門にも、面白半分で園を取り巻く人も誰もいない。もしかして帰ったのだろうか。園長先生が警察を呼んでくれたのかな。それとも、炎上が落ち着いたのかな。
「みんなー、こっちにいるの?」
園庭にみんなはいた。元気に遊ぶ声がする。
「……え?」
だけど、それは異様な光景だった。
「かーごーめ」
「かーごーめ」
園の子供たちが一緒に遊んでいる。それは普通の光景だ。だけど。
「かーごのなーかのとーりーはー」
どうして、全員で同じことをしているのだろう?
子供たちも、職員も、園長先生も。全員で一つの輪を作っている――その中心に誰もいないのに。
「いーつーいーつーでーやーるー」
「み、みんな……なにしてるの?」
私が声をかけたらみんなが足を止めた。そして一斉に私に目を向けた。
「遊んでるんだよ、みんなで」
「うん、みんなで」
「それはわかるけど……どうしてこんな人数で『かごめかごめ』なの? それに、誰も真ん中にいないし」
園長先生が微笑んだ。そして中心を指して言う。
「真ん中はまどかさんが入るのよ」
「え?」
「ほらほら。みんなで遊びましょう」
訳が分からない。こんな状況で何で遊んでいられるのだろう。私はみんなに押されて輪の中へと入っていく。園の全員で私を取り囲む異様な光景。そして、円が回り始める。
「かーごーめーかーごーめー」
そして、私は気が付く。みんなの眼が普通じゃないことに。いつも遊ぶ時の無邪気な眼じゃなく、無表情の冷たい眼差し。
「なに……何なの」
私は言いようのない恐怖を感じ始める。これは、私の知ってるみんなじゃない。
「みんな、いったいどうしちゃったの!?」
「かーごのなーかのとーりーはー」
全方向から向けられる視線に耐え切れず、私はうずくまる。下を見れば、みんなを見なければ……そう思って視線を逸らした。
「え――」
そこに鏡が置いてあった。縁が蛇のような形をした不思議な鏡。その中に写り込む私は……私と同じ表情をしていなかった。
『何を怯えているの?』
「え……え?」
『いいじゃない。みんなと一緒に居られれば』
「なに……言ってるの?」
怯える私と違う、満面の笑みで鏡の私は私に話しかけて来る。それが異常なことだとわかっているのに何故か目を逸らせない。
『誰にもお父さんもお母さんも必要ない。だって私たちの居場所はここなのよ』
「そんなこと……」
『死んでるかもしれないのに?』
「……っ!?」
それは私が心の底で抱いていた不安。そして、考えないようにしていたことだった。両親が迎えに来ない理由が、もしももうこの世にいないためだったらという、恐ろしい想像。
『知らなくていいのよ。知ったら立ち直れなくなっちゃう。もう将来の目標も無くなっちゃうのよ?』
「それは……」
『ね? だからここで、ずっとみんなと一緒に居られればそれでいいのよ』
「みんなと……一緒なら」
『そう、寂しくない』
何も不安に思うことはない。外から誰が何を言っても気にする必要はない。
「そうだよ」
「だって僕たちは」
「わたしたちは」
そうか、ここに居ればいいんだ。
みんなで一緒に。
私たちが大切だと思う人と一緒に。
この閉じた空間でずっと一緒にいれば。
「家族なんだから」
「家族なんだから」
「家族なんだから」
「――そうだ、それが君の望み。それが君たちが望んだ世界だ」
気づいたら私の後ろに誰かが立っていた。誰かが輪の中に入って来た覚えはないのに。
「誰――」
「『後ろの正面だあれ?』ってね」
振り向いた私の目に飛び込んできたのは不気味に光る石だった。ひび割れたそれが怪しく光を放つ。
「あ、あああああーっ!」
「くくく……『かごめかごめ』か。人間は面白い歌を作るもんだ」
私の中にあるどす黒いものがあふれ出す。私を囲むみんなからも黒い煙が上り始め、何かが形作られていく。
「色んな解釈ができそうな歌詞だけど……そうだね、僕はこんな解釈をしようか」
私の中でどんどん膨れ上がっていく強い感情。みんなと同じ気持ち――親の、世間の、誰かからの愛情を求め続ける愛に飢えた感情。
「かーごーめーかーごーめー」
「かーごのなーかのとーりーはー」
「『籠目』、つまりは籠の目のように張り巡らされた中、閉じた世界。その『籠の中の鳥』は閉じ込められた存在、つまり君たちだ」
意識が遠くなって行く。その中で私の前に立っている人が誰なのか、うっすらと見えた気がする。
「いーつーいーつーでーやーる」
「『何時出遣る?』 君たちはそんな世界からいつ出ていくというのかな?」
それは先週。私の前に現れた人。伊薙先輩や八重垣先輩にインタビューをしていた人。
「よーあーけーのーばーんーにー」
「だが『夜明けに晩』など存在しない。つまりはいつまでも夜のまま、先の見えない闇の中」
確か……佐田って言ったかな。でも、何でこの人がここに。
「つーるーとかーめがすーべった」
「鶴と亀、長寿の象徴が滑るという凶兆。君たちはそのまま死を迎えると言う暗示」
……まあいいや。関係ないことだもんね。これからの私たちには。
「うしろのしょーめんだーあれ?」
「さてさて、その背景には何がいるのか。誰がそうさせたのだろうね?」
もう何も考えられない。ううん。考える必要なんて無いんだ。みんなと一緒ならそれでいいんだから。
「さあ、最後のミサキだ。来い伊薙、そして岐の一族!」
私、間違ってないよね?
「お前たちが愛や絆で戦うのなら、僕もそれを用いよう! 愛に飢えた、閉じた世界の絆をなあ!」
ね、先輩。
おかしいことはまだ続く。私のSNSのアカウントに、次々と送られてくるメッセージ。その内容はいずれも私や、施設への攻撃的なものだった。
そこでやっと、私についてのデマが拡散されていることを知った。私が施設を守るためにお金持ちの伊薙先輩や静宮先輩に取り入ろうとしていたというものだった。
そんなわけない。でも、私が何を言っても苦し紛れの言い訳にされてしまう。否定すればするほど言葉尻をとらえて私を攻撃する材料にする。
あまりの怖さに私はスマートフォンの電源を切った。部屋の片隅で怯えるそんな私に弟たちが声をかけて来る。
「まどかねーちゃん。今日学校行かないの?」
「う、うん……ちょっと具合が悪くて」
「おねえちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと休んだら、後で鬼ごっこしよ」
「うん!」
不安を見せないように強がる。本当は私の心の中は悲鳴を上げている。幸福の絶頂から絶望のどん底に落とされた感覚。持っていた大切なものが全部失われる間隔。もう味わうことはないと思っていたのに――。
「きゃあっ!?」
部屋の窓がいきなり割れた。カーテンを閉めていたお陰でガラスが飛び散ることはなかったけど、ガラスを突き破った石が部屋に転がっていた。窓の外を恐る恐る伺うと、見たことのない若者たちがそこにいた。
SNSが炎上した時に施設の場所も電話番号もさらされてしまった。それで来た人たちかもしれない。
「何だ今の音?」
「ねーちゃんガラス割ったの?」
「ち、違うよ。通りがかったトラックが石をはねたんじゃないかな」
「マジかよー。ほうき持って来るから片付けようぜ」
みんながほうきと塵取りを持ってきてすぐに片付け始めた。こんなにいい子たちなのに、私の件に巻き込むわけにはいかない。
「み、みんな……今日は中で遊ぼうか」
「えー、なんでー?」
「いいから。ね?」
「そ、そうね。今日はとっても暑くなるから中での活動にしましょう」
ガラスが割れた音を聞きつけてやって来ていた園長先生が助け舟を出してくれた。この園に年長者は私以上がはスタッフしかいない。だから最年長者の言うことはみんなよほどのことが無い限りちゃんと聞いてくれる。
「ねっちゅーしょーだっけ?」
「そうそう。今日は三十五度以上になるみたいだから、お外は危ないのよ」
「げっ、なんだそれ。ちょー暑いじゃん」
「ちぇー、先生とねーちゃんが言うならしょうがないか」
良かった。これでみんながマスコミや悪意のある人たちに攻撃されることはないはずだ。
外に出るのが怖い。あのデマはどこまで広まっているのだろう。商店街の人たちは知っているのだろうか。学校の先生たちは。友達は……伊薙先輩は。
昨日までは楽しかったのに。
伊薙先輩が彦星に、私が織姫に選ばれて。先輩と今日は芦達祭を回る約束をしたのに。
私を、名前で呼んでもらえるようになったのに。
『まどか』
小さい時に捨てられた私に残された自分だけのもの。それが私の名前。
本当の苗字も親の名前も顔も知らない私にとって、自分の生い立ちに繋がるたった一つの手がかり。
それが広まっていく。私が求めていた、活躍してのものじゃなく、悪名として。金のために男を誑かした女として。
「そんなのやだ……」
もうみんなの親を捜せない。私の親もこれじゃ名乗り出られない。私の夢が、希望が失われていく。
「助けて……」
本当ならここでお父さんやお母さんが守ってくれるのかな。でも、私には、この子達には今、その両親がいない。
「誰か助けて……」
なら、誰に助けを求めればいいんだろう。
担任の先生?
顧問の伊薙先生?
友達?
先輩たち?
――ダメ。迷惑をかけられない。私を庇ったらみんなも攻撃されちゃうかもしれない。
「誰か――」
ドアを閉め、布団をかぶって外の音をシャットアウトする。途中、誰かが部屋に来たみたいだけど園長先生と何かを話して帰って行った。ああ、もしかして担任の先生だったのかな。そうだったら悪いことをしちゃったな。
弟や妹も私に声をかけていた。ごめん、今は起き上がる気力もない。後で遊んであげるから。今は一人にして……。
「ん……」
……どれだけ時間が経ったのだろう。いつの間にか私は寝てしまっていた。
目を覚ました時にはカーテンの隙間からオレンジ色の光が漏れていた。夕方まで寝ちゃったんだ。
芦達祭はどうなったんだろう。伊薙先輩との約束、破っちゃったな……こんな状況だから許してくれるかもしれないけど。
「……あれ?」
施設の中から声がしない。おかしい。いつもなら夕方は誰かがお絵描きをしたり、勉強してたりしてるはず。
「……め」
何かが聞こえた。子供たちが遊ぶ声……でもこれって?
「……め、……め」
外からだ。どういうことなんだろう。今日は外に出ないように私と園長先生が念を押していた。みんな中にいるはずなのに。行ってみなくちゃ。
門にも、面白半分で園を取り巻く人も誰もいない。もしかして帰ったのだろうか。園長先生が警察を呼んでくれたのかな。それとも、炎上が落ち着いたのかな。
「みんなー、こっちにいるの?」
園庭にみんなはいた。元気に遊ぶ声がする。
「……え?」
だけど、それは異様な光景だった。
「かーごーめ」
「かーごーめ」
園の子供たちが一緒に遊んでいる。それは普通の光景だ。だけど。
「かーごのなーかのとーりーはー」
どうして、全員で同じことをしているのだろう?
子供たちも、職員も、園長先生も。全員で一つの輪を作っている――その中心に誰もいないのに。
「いーつーいーつーでーやーるー」
「み、みんな……なにしてるの?」
私が声をかけたらみんなが足を止めた。そして一斉に私に目を向けた。
「遊んでるんだよ、みんなで」
「うん、みんなで」
「それはわかるけど……どうしてこんな人数で『かごめかごめ』なの? それに、誰も真ん中にいないし」
園長先生が微笑んだ。そして中心を指して言う。
「真ん中はまどかさんが入るのよ」
「え?」
「ほらほら。みんなで遊びましょう」
訳が分からない。こんな状況で何で遊んでいられるのだろう。私はみんなに押されて輪の中へと入っていく。園の全員で私を取り囲む異様な光景。そして、円が回り始める。
「かーごーめーかーごーめー」
そして、私は気が付く。みんなの眼が普通じゃないことに。いつも遊ぶ時の無邪気な眼じゃなく、無表情の冷たい眼差し。
「なに……何なの」
私は言いようのない恐怖を感じ始める。これは、私の知ってるみんなじゃない。
「みんな、いったいどうしちゃったの!?」
「かーごのなーかのとーりーはー」
全方向から向けられる視線に耐え切れず、私はうずくまる。下を見れば、みんなを見なければ……そう思って視線を逸らした。
「え――」
そこに鏡が置いてあった。縁が蛇のような形をした不思議な鏡。その中に写り込む私は……私と同じ表情をしていなかった。
『何を怯えているの?』
「え……え?」
『いいじゃない。みんなと一緒に居られれば』
「なに……言ってるの?」
怯える私と違う、満面の笑みで鏡の私は私に話しかけて来る。それが異常なことだとわかっているのに何故か目を逸らせない。
『誰にもお父さんもお母さんも必要ない。だって私たちの居場所はここなのよ』
「そんなこと……」
『死んでるかもしれないのに?』
「……っ!?」
それは私が心の底で抱いていた不安。そして、考えないようにしていたことだった。両親が迎えに来ない理由が、もしももうこの世にいないためだったらという、恐ろしい想像。
『知らなくていいのよ。知ったら立ち直れなくなっちゃう。もう将来の目標も無くなっちゃうのよ?』
「それは……」
『ね? だからここで、ずっとみんなと一緒に居られればそれでいいのよ』
「みんなと……一緒なら」
『そう、寂しくない』
何も不安に思うことはない。外から誰が何を言っても気にする必要はない。
「そうだよ」
「だって僕たちは」
「わたしたちは」
そうか、ここに居ればいいんだ。
みんなで一緒に。
私たちが大切だと思う人と一緒に。
この閉じた空間でずっと一緒にいれば。
「家族なんだから」
「家族なんだから」
「家族なんだから」
「――そうだ、それが君の望み。それが君たちが望んだ世界だ」
気づいたら私の後ろに誰かが立っていた。誰かが輪の中に入って来た覚えはないのに。
「誰――」
「『後ろの正面だあれ?』ってね」
振り向いた私の目に飛び込んできたのは不気味に光る石だった。ひび割れたそれが怪しく光を放つ。
「あ、あああああーっ!」
「くくく……『かごめかごめ』か。人間は面白い歌を作るもんだ」
私の中にあるどす黒いものがあふれ出す。私を囲むみんなからも黒い煙が上り始め、何かが形作られていく。
「色んな解釈ができそうな歌詞だけど……そうだね、僕はこんな解釈をしようか」
私の中でどんどん膨れ上がっていく強い感情。みんなと同じ気持ち――親の、世間の、誰かからの愛情を求め続ける愛に飢えた感情。
「かーごーめーかーごーめー」
「かーごのなーかのとーりーはー」
「『籠目』、つまりは籠の目のように張り巡らされた中、閉じた世界。その『籠の中の鳥』は閉じ込められた存在、つまり君たちだ」
意識が遠くなって行く。その中で私の前に立っている人が誰なのか、うっすらと見えた気がする。
「いーつーいーつーでーやーる」
「『何時出遣る?』 君たちはそんな世界からいつ出ていくというのかな?」
それは先週。私の前に現れた人。伊薙先輩や八重垣先輩にインタビューをしていた人。
「よーあーけーのーばーんーにー」
「だが『夜明けに晩』など存在しない。つまりはいつまでも夜のまま、先の見えない闇の中」
確か……佐田って言ったかな。でも、何でこの人がここに。
「つーるーとかーめがすーべった」
「鶴と亀、長寿の象徴が滑るという凶兆。君たちはそのまま死を迎えると言う暗示」
……まあいいや。関係ないことだもんね。これからの私たちには。
「うしろのしょーめんだーあれ?」
「さてさて、その背景には何がいるのか。誰がそうさせたのだろうね?」
もう何も考えられない。ううん。考える必要なんて無いんだ。みんなと一緒ならそれでいいんだから。
「さあ、最後のミサキだ。来い伊薙、そして岐の一族!」
私、間違ってないよね?
「お前たちが愛や絆で戦うのなら、僕もそれを用いよう! 愛に飢えた、閉じた世界の絆をなあ!」
ね、先輩。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる