ミサキ~四つの御魂と縁の言霊~

結葉 天樹

文字の大きさ
53 / 66
第四章「渇愛の奇魂」

第52話 得体の知れぬ存在

しおりを挟む
 結局、この日の学校祭は一般公開が限定的なものとなった。生徒の家族や関係者のみが中へ通され、昨日の校内祭よりも少しばかり人が多くなった程度だ。
 これは芦原あしはら高校の生徒が事件に巻き込まれたことから、生徒たちへの影響を考えた上で学校祭も継続するための学校側の決断だった。世間の人の噂でどれほどの影響が出ているのかがわからない。事態を把握するまでは学校側も不特定多数の人を校内に入れるわけにはいかなかったのだ。
 結果、十分とは言えないまでも、芦達祭あだちさいは一応の盛り上がりを見せて二日目を終えた。

「カイくん!」
海斗かいと!」
「準備できたか、美波みなみ!」

 下校時刻になったと同時に海斗かいとは教室を飛び出す。美波みなみ御琴みこともカバンを抱えてすぐにクラスから出て来た。

「よし、行こう!」

 三人はすぐに階段を走って降りる。まどかのいる園へは学校から走ってもかなりかかる。だがこの日、結局学校を休んだまどかに三人は一刻も早く会いたかったのだ。

伊薙いなぎ君!」

 一階まで下りてきた海斗かいとらを深雪みゆきが待っていた。

三木みきさんの所へ行くんでしょ? 車を呼んだから一緒に行きましょう!」
「助かります、先輩!」
「いいの。話したいこともあったから」

 靴を履き替え、海斗かいとらは深雪みゆきの用意したワゴン車に飛び乗る。まだ学校の外にはマスコミが何人か見えたが、車はその間を通り過ぎて行く。海斗かいとらは頭を下げていたので幸いにも彼らが乗っていることに誰もが気づかなかったようだ。

「しつこいわね……海斗かいともあたしらも無関係だってのに」
「あっちも確証がないのよ。学校もメディアを入れて話をするにはタイミングも悪いし」

 体育館など人を多く入れることのできる場所はいずれも学校祭で何かしらの催しで使用されている。学校からは今回の件について「まったくの事実無根のデマであり、本校の生徒がそれに巻き込まれたことを非常に遺憾に思っている」と発表し、まどかを擁護しているが、今もその発表を信じようとしない人からの抗議の電話やネット上での炎上は続いている。

「それで先輩、話って?」
「この記事はみんな知ってるわよね?」

 深雪みゆきがカバンから出したのは昨日、海斗かいとらが見た水泳部の特集記事だった。これ自体が悪いわけではないが、今にして思えばこれがもう少し出るタイミングがずれていれば今回のような事態にも発展しなかったのかもしれない。

「これがどうしたんです?」
「先週、八重垣やえがきさんたちが取材を受けた人……男の人だったわよね」
「はい。確か佐田さだって名乗ってたような……」

 海斗かいとが記憶しているのは県内の競泳選手を取材すると言って、現れた人物だ。その場には深雪みゆき御琴みことも、そしてまどかもいた。

「あたしも覚えてるわよ、でも初対面なのになーんかどこかで見たような気がするのよね」
「……実は私もなの。だからずっと引っかかっていたのよ。で、ついさっきそれがわかったの」

 深雪みゆきはプリントアウトされた別の記事を取り出す。それと共に写真も海斗かいとらに見せた。

「この記事って……」
「記録会でまどかが記録出した時のね」
「こっちはお芝居の時の写真だね」
「病院の人に記録のために撮ってもらっていたの。で、見て欲しいのはここと、ここ」

 深雪みゆきが二つの写真を指差す。

「ああっ!」
佐田さださんだ!」

 そこに写っているのは記者たちの中でカメラを構えている姿と、観客の中で入院着を着て海斗かいとらの芝居を観ている姿の佐田さだだった。

「彼、記録会のすぐ後に病気で倒れてずっとうちの病院に入院していたのよ。先週のお芝居の時も、私はナレーターとして客席をずっと見ていたから見覚えがあったの」

 海斗かいとたちが思わず座席から身を乗り出す。彼らが佐田さだと会ったのは芝居の翌日。病院での写真の佐田さだのやつれ様からは考えられないほど健康な姿だった。

「例の県内の競泳選手の特集を新聞社に任された矢先の病気だったみたい。それが先週の日曜日、突然復帰してきて取材を再開したものだから職場も驚いたみたい」
「ちょっと待ってよ……それって佐田さださんが二人いるってことになりません?」

 御琴みこと海斗かいととの距離を詰めて手を握る。オカルトがあまり得意ではない彼女は気味の悪さに震え始めていた。

「新聞社には問い合わせたんですか?」
「今日は出社してないみたい。そもそも佐田さださんは入院してから一歩も病院から出てないのよ」
「ひいっ……」

 いよいよ蒼い顔をして御琴みこと海斗かいとの腕にすがり始めた。海斗かいともさすがに気の毒に思えて来て振り払うようなことはしなかった。

「お嬢様、まもなく三木みききぼう園です」
「ありがとうございます。帰る時にはまた連絡しますから、一度戻って下さい」
「かしこまりました」

 到着するなり海斗かいとは車を飛び出す。続いて御琴みこと美波みなみ深雪みゆきと後を追う。

「……やけに静かだな」

 いるかと思われたマスコミの人や炎上騒ぎに便乗した人々も姿が見えない。施設内も明かりがついていないため、園は異様な静けさの中にあった。

「カイくん、あれ!」

 美波みなみが窓を指す。施設の中で窓の向こうを何者かが横切ったのが見えた。四人は門をくぐり、中へ入ることにした。

「こんにちはー」

 管理棟の玄関から中へ呼びかける。美波みなみが事務室を覗き込むが人の姿は見えない。電話は受話器が外されている。抗議の電話を受けないようにするためだろうか。

「まどかー!」
「すいませーん! どなたかいらっしゃいませんかー!」

 御琴みこと深雪みゆきの声も薄暗い施設の中に消えていく。まるで施設内の人間が全員いなくなったかのようだ。だが、一行は窓の向こうに動く影を見ている。海斗かいとらは意を決して中へと足を踏み入れた。
 会議室やトイレからも人の気配はしない。四人はどんどん奥へと進んでいく。

「ここから二棟に分かれてるんだな」

 目に入った見取り図を見ながら海斗かいとが呟く。施設は大きく分けて三つの建物に分けられていた。

「右が男子棟で左が女子棟か……まどかがいるとしたら女子棟か?」
「でも伊薙いなぎ君。さっきの人影って男子棟じゃないかしら?」
「うーん……それじゃあ、二手に分かれよっか」

 美波みなみの提案に皆もうなずく。男性の海斗かいとは男子棟へ。まどかがいるかもしれない女子棟へは御琴みことが名乗りを上げた。

美波みなみんは海斗かいとと一緒の方がいいんじゃない?」
「そうだね」
「どうしてだ?」
「あんた、手をケガしてるでしょ?」

 海斗かいとは思わず右手を押さえる。だがそれが御琴みことの指摘を肯定していた。

「……気が付いてたのか」
「不自然なのよ。左手で何でもやろうとしてるんだもの」
「私も気づいてた。料理部のみんなは気が付いてなかったかもしれないけどね」
「……私は気が付いていなかったわ。隠し通していた伊薙いなぎ君が凄いのか、それとも見抜いた二人が凄いのか」
「ほら、手を出して。包帯巻いてあげるから」

 そう言って美波みなみがカバンから包帯を取り出す。

「ほんとに何でも入ってるな」

 そばにあった椅子に海斗かいとは座る。その右手首に美波みなみは包帯を巻いていく。

「んじゃ、お先に女子棟見て来るから」
「じゃあ、私は八重垣やえがきさんと一緒に行くわね」
「悪い。包帯巻いたら男子棟に行ってくるから」
「ん、なんかわかったら連絡ちょうだい」

 海斗かいとが見守る中、御琴みこと深雪みゆきは女子棟へと入っていった。
 女子棟の廊下の電気は完全に消えていた。御琴みことはスマートフォンのライトを使ってスイッチを見つけるが、スイッチを切り替えても反応がない。

「おかしいな……電気止まってる?」
「ブレーカーがどこかで落ちたのかしら?」

 配電室は管理棟の中だ。今から戻るのも面倒だ。二人はそのまま先へ進むことにした。
 一階の居室には誰もいなかった。この施設は大きめなものではあるが、以前、まどかが清掃ボランティアに参加した時に一緒に来た子供たちと職員の人数から言って、それほど人は多くないはずだ。

「二階かしら?」
「じゃ、あたしが先頭で行きます」

 スマートフォンのライトを頼りに御琴みことが先へ進んでいく。深雪みゆき人気ひとけのない館内に、少し奇妙なものを感じ始めていた。

「先輩、誰かいます!」

 そして、二階に上がった御琴みこと深雪みゆきを呼んだ。二階の廊下の突き当り、行き止まりの場所に誰かがいた。

「……まどか?」

 それは芦原高校の制服だった。知っている限り、この施設で同じ高校に通う生徒は一人しかいない。

「まどかなの?」

 その人物は二人の方へと歩いてくる。窓から夕陽が差し込み、逆光で顔が見えない。

「ねえ、何か言ってよ!」
「……八重垣やえがき先輩、静宮しずみや先輩、いらっしゃい」

 姿を見せたまどかは、満面の笑みだった。不気味な感覚を覚えていた二人はその笑顔に安堵する。

「何か御用ですか?」
「用って……当たり前じゃない。まどか、大丈夫だったの?」
「大丈夫も何も、私はいつも通りですよ?」
「だって、あんなことになったのに連絡も取れないし、何かあったんじゃないかって……」
「ああ、私を心配して来てくれたんですね!」

 まどかが納得したとポンと手を打つ。

「心配いりませんよ。だってもう、気にしなくてもいいんですから」
「え……?」
「どういう意味かしら?」
「だって私――」

 その時、御琴みことが気付く。まどかの胸元にある見たことのない装身具アクセサリーに。

「何、それ――」

 勾玉が輝く。その途端、得体の知れない不快感が二人にこみあげて来る。

「あ……ぐ」
「私、気が付いたんです。外の事なんてどうでもいいって。だって私にはこの場所があるんですから」
三木みき……さん」

 突如高熱を発した二人が崩れ落ちる。意識が遠のく中、笑顔のまどかは二人の苦しむ様を前に平然と言葉をかける。

「そうだ、お二人も一緒に暮らしましょうよ。みんなお姉さんが増えて喜んでくれるはずです」
「う……力が…はいらな…」
「助けて……かい……と」
「あ、伊薙いなぎ先輩も来てるんですね……それじゃあ」

 意識を失い、廊下に倒れた二人からまどかは目を離す。そして勾玉がひと際鈍い輝きを放った。

で、おもてなししなくちゃ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...