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1 風の音
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「今日の流星群は何か予定がおありでしょうか?」
私は声を掛けてきた背の高い男性を見上げて首を捻る。
「すみません、もう少し、大きな声でお願いします!」
「今日のぉ、流星群はぁ、何か予定がぁ、ありますかぁ?」
真っ黒なコートをなびかせ、彼は少し背を丸めて私の耳元で声を張り上げる。それでも甲高い悲鳴のようにふき荒れる豪風ではやっとその声が拾えたぐらいである。
「流星群は……多分、見えないのじゃないかと思います!」
久し振りの流星群のニュースはどこでも持ちきりだった数週間。私もワクワクしながら流星群を綺麗に撮れる携帯用レンズを用意したり観察場所を決めたりして楽しみにしていた。そしてついに「明日は流星群」というタイミングで、どこからともなく台風が湧いて出たのだ。
残念だけど天気だけはどうしようもない。それでも雲の隙間でもしかしたら万が一なタイミングで見られるかも知れないと思い、この川辺まで来た。だが雨水いっぱいのバケツを次々とひっくり返すような豪雨が止まる期待はしていない。
やっと諦める決心が付いて今さっき乗ってきた電車に乗ろうとしたところ、電車が運休となってしまったのだ。彷徨った挙句にタクシー乗り場へ向かうと彼を見かけた。
物凄い長身の美形だ。ゆうに百九十は越している。だがその身長や陶器のように真っ白な肌ではなく、一番目を引いたのは彼の両目に巻かれた布である。その黒い布は彼のロングコートと同じような烏色である。柔らかそうな布で、眼窩の凹凸が手にとるように見える。そしてその色素の薄い唇。鼻筋が真っ直ぐ伸びている。少し鋭過ぎるほど細く尖がった鼻先。綺麗に伸びた首筋。
「どこへ行きたいのですか?」
見えないと何かと困りそうだと思い、私は少し遠慮気味に声を掛ける。
「すみません。では、改札横の販売機までお願いします」
喉でも乾いたのかと思い、私は快諾する。彼は手を差し出して私はそれを掴む。彼の手はとても乾いていて温かい。
少し変わった風貌でもとても綺麗な顔の男性と腕を組んでいる事にドキドキする。
「あ、お嬢さん。気を付けて」
「え? 何を――――」
その瞬間、靴が濡れた地面で滑る。私は小さな悲鳴を上げてつい彼の腕にしがみつく。
彼は傾いた私の体を上手に抱きかかえ、両足を大きく広げてバランスをとる。
「あ……、ありがとう」
鼓動が胸の中で暴れている。
「あの、よく、私が滑る事を分かりましたね?」
「読みました」
「読んだ?」
彼の口角が上がり、彼は少し嬉しそうな声で「はい」と答える。
外の風が轟々と吹き荒れ、激しい雨が降り出す。
帰れるかどうか今になって心配し始める。看板か何かが倒れる音がして私はびくっと飛び跳ねる。どこかで窓が割れ、大きな轟音が周りの音を消していく。
彼が何かを言った気がするが何も聞こえない。そう言うと彼は身を乗り出して実に楽しそうに私に訊く。
「今日のぉ、流星群はぁ、何か予定がぁ、ありますかぁ?」
壁に貼られているポスターが剥がれて部屋の中を飛び舞う。近くのボードが倒れる。彼の顔が一瞬そちらを向いてから私の方へと向き直す。真っ黒な布に遮られている目で見られている気がする。
「流星群は……多分、見えないのじゃないかと思います!」
「では俺と一緒にお茶しませんか、お嬢さん。五分後にはこの駅内の電気も止まりますし」
明日は休みだ。どのみち交通機関が停滞をしてしまっているので今夜は帰れない。それにここまで非現実的な状況でとても興味深い人に出会えたのは面白い。
「はい、是非!」
男性は立ち上がると私の手を引いて歩き出す。床に落ちている物を軽々と踏み越えていく。まるで目隠しをしていても目が見えているかのようだ。
「洋館でピザでもいただきましょうかね」
私は声を掛けてきた背の高い男性を見上げて首を捻る。
「すみません、もう少し、大きな声でお願いします!」
「今日のぉ、流星群はぁ、何か予定がぁ、ありますかぁ?」
真っ黒なコートをなびかせ、彼は少し背を丸めて私の耳元で声を張り上げる。それでも甲高い悲鳴のようにふき荒れる豪風ではやっとその声が拾えたぐらいである。
「流星群は……多分、見えないのじゃないかと思います!」
久し振りの流星群のニュースはどこでも持ちきりだった数週間。私もワクワクしながら流星群を綺麗に撮れる携帯用レンズを用意したり観察場所を決めたりして楽しみにしていた。そしてついに「明日は流星群」というタイミングで、どこからともなく台風が湧いて出たのだ。
残念だけど天気だけはどうしようもない。それでも雲の隙間でもしかしたら万が一なタイミングで見られるかも知れないと思い、この川辺まで来た。だが雨水いっぱいのバケツを次々とひっくり返すような豪雨が止まる期待はしていない。
やっと諦める決心が付いて今さっき乗ってきた電車に乗ろうとしたところ、電車が運休となってしまったのだ。彷徨った挙句にタクシー乗り場へ向かうと彼を見かけた。
物凄い長身の美形だ。ゆうに百九十は越している。だがその身長や陶器のように真っ白な肌ではなく、一番目を引いたのは彼の両目に巻かれた布である。その黒い布は彼のロングコートと同じような烏色である。柔らかそうな布で、眼窩の凹凸が手にとるように見える。そしてその色素の薄い唇。鼻筋が真っ直ぐ伸びている。少し鋭過ぎるほど細く尖がった鼻先。綺麗に伸びた首筋。
「どこへ行きたいのですか?」
見えないと何かと困りそうだと思い、私は少し遠慮気味に声を掛ける。
「すみません。では、改札横の販売機までお願いします」
喉でも乾いたのかと思い、私は快諾する。彼は手を差し出して私はそれを掴む。彼の手はとても乾いていて温かい。
少し変わった風貌でもとても綺麗な顔の男性と腕を組んでいる事にドキドキする。
「あ、お嬢さん。気を付けて」
「え? 何を――――」
その瞬間、靴が濡れた地面で滑る。私は小さな悲鳴を上げてつい彼の腕にしがみつく。
彼は傾いた私の体を上手に抱きかかえ、両足を大きく広げてバランスをとる。
「あ……、ありがとう」
鼓動が胸の中で暴れている。
「あの、よく、私が滑る事を分かりましたね?」
「読みました」
「読んだ?」
彼の口角が上がり、彼は少し嬉しそうな声で「はい」と答える。
外の風が轟々と吹き荒れ、激しい雨が降り出す。
帰れるかどうか今になって心配し始める。看板か何かが倒れる音がして私はびくっと飛び跳ねる。どこかで窓が割れ、大きな轟音が周りの音を消していく。
彼が何かを言った気がするが何も聞こえない。そう言うと彼は身を乗り出して実に楽しそうに私に訊く。
「今日のぉ、流星群はぁ、何か予定がぁ、ありますかぁ?」
壁に貼られているポスターが剥がれて部屋の中を飛び舞う。近くのボードが倒れる。彼の顔が一瞬そちらを向いてから私の方へと向き直す。真っ黒な布に遮られている目で見られている気がする。
「流星群は……多分、見えないのじゃないかと思います!」
「では俺と一緒にお茶しませんか、お嬢さん。五分後にはこの駅内の電気も止まりますし」
明日は休みだ。どのみち交通機関が停滞をしてしまっているので今夜は帰れない。それにここまで非現実的な状況でとても興味深い人に出会えたのは面白い。
「はい、是非!」
男性は立ち上がると私の手を引いて歩き出す。床に落ちている物を軽々と踏み越えていく。まるで目隠しをしていても目が見えているかのようだ。
「洋館でピザでもいただきましょうかね」
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