Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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目指すは大魔導師

世界を知る者

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グラインとクレバルがニルド高原の洞窟を探索している頃、王国内では鐘の音が鳴り響いていた。それはシロキチ発見の知らせを意味するもので、シロキチは魔物調査の旅から帰って来たニールによって発見されたという。ニール曰く、いつの間にか荷物の中に紛れていて、旅の帰りに荷物を調べていたら偶然発見したという事であった。それを聞いた魔法戦士兵団の面々は人騒がせなと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「はぁ……とんだ無駄足だったわ」
無駄な事に付き合わされた気分で一杯のリルモは溜息を付きながらも謁見の間から出ると、クレバルとグラインが来ていないという事実に気付く。
「あのバカ、まさかグラインを連れて遠くまで探しに行ってるの?」
リルモはクレバルを連れ戻す事をフィドールに伝えては城を飛び出し、住民に二人の姿を見なかったか聞き込みを始める。洞窟の方で白い猫のような何かを見かけたと聞いて飛んで行ったという情報を手に入れ、駆け足で洞窟へ向かって行った。


一方、グラインとクレバルは自身を『世界の全てを知る者』と称するティムを前にきょとんとしつつも、一瞬お互いの顔を見つめ合い、すぐさま視線を戻した。
「なーニその顔? さてハワタシのキュートさに言葉を失っテるノ?」
ティムがからかい半分で言う。
「……へっ、何が世界の全てを知る者だよ。ただのブタネコじゃねえか」
クレバルが悪態混じりで言うと、ティムは頭から激しく湯気を立たせ、鼻息を荒くする。
「ナ、ナ、ナ、ナ、何ですってェェェェ! アナタ、乙女のワタシに向かってブタネコって言ったノ? エエ?」
「ん? ブタネコじゃなくてブタイヌか?」
「どっちモ失礼極まりなイわヨ! ヒドイ! 最低! 人でなし! 無慈悲! ワタシにそんなクチを叩いてくれタ罪ハ重イわヨ!」
唾を撒き散らしながら怒鳴るティム。
「まあまあ、落ち着いて」
グラインが宥めるものの、ティムは怒りが収まらない様子。
「大体何なんだよお前は。こんなナリしてるけど実はとーっても偉い人でーすとでも言うつもりか?」
腕組みしながら言うクレバルに、ティムがそっと杖を差し出す。
「ワタシがどういう存在なのカ今かラ教えテやるわヨ。クレバル・グラウンダルト」
「な、何だと?」
突然、自分の名前を当てられて驚くクレバル。
「お、俺まだお前に名前教えてねぇし、会った事すらねぇぞ? 何で俺の名前知ってんだよ?」
「何故知ってるかッテ? ワタシは人の記憶ガ読めルからヨ」
ティムには『メモリード』という人や生物の記憶を読み取る能力があり、クレバルの名前を当てたのは過去の記憶を読んでいたからであった。
「う、嘘だろ? 俺の記憶を読んだから名前がわかったのかよ? んなバカな事が――」
「違ウんだったラ他にどんな理由ガあるノかしラ? このグラインってコがリルモっていう女の子と一緒ニなってル時に面白くなさそうニしてた事ヤ、任務をサボって洞窟の近くで居眠りしていてリルモちゃんに叩き起こされたという事モしっかりト読み取ってるのヨ」
「いぃっ……マジかよ?」
自分の過去の記憶を完全に読まれているという信じ難い事実に驚きを隠せないクレバル。
「凄いな。記憶を読み取る力があるなんて。君はどうしてこんなところにいたの?」
グラインが問うと、ティムは軽く咳払いをする。
「レイニーラ王国ニちょっとした用事ガあっテ来たのヨ。今ハその途中ってワケ。レイニーラ王国ガ伝説の勇者の一人であル大魔導師によっテ造らレた国だという事ハアナタ達も聞いた事はあるでショ?」
グラインは無言で頷く。ティムはレイニーラ王国の建国者である大魔導師に関する話を王から聞くのが目的で、洞窟を訪れたのは大魔導師に関するものが密かに隠されているのではないかと考えての探索目的であった。
「つまりこの洞窟に伝説の大魔導師に関する何かがあるというの?」
「あくまで推測だけどネ。ケド、やはりワタシ一人が来ルようナ場所じゃなかったワ。少ーし休憩してからオサラバしようと思っていた時にアナタ達が来たッテわけヨ。おかげデワタシにとっては好都合だワ」
ティムは訪れた洞窟で偶然にもグライン達と知り合った事によって、グライン達と同行すれば自身の姿のせいで不審がられる事なくレイニーラ王に直接会う事が出来ると考えていた。
「あーあー。こちとらお前のようなわけのわからんエスパー動物に付き合ってる場合じゃねえんだ。俺達は……」
「王女様のキッスが欲しくテ一生懸命猫探ししてルのよネ」
「うげえ! てめえ、目的まで読んでやがったのかよ!」
「当たり前ヨ。ワタシに掛かれば子供の頃のアナタの恥ずかしい過去を暴露だっテお手の物ヨ? ア、さっきワタシの事ブタネコブタイヌ呼ばわりしてくれタからみんなの前デ思いっきり暴露しちゃおうかしラ?」
「こ、こいつすんげぇ気味悪ぃ……」
クレバルとティムが言い合ってる間、突然地鳴りが起き始める。
「な、何だ……?」
振り返ると、不気味な唸り声をあげる巨大な魔物の姿がある。天井まで届く程の大きさの熊のような魔獣グレイドベアであった。
「いいっ! 何なんだよこいつは!」
「あれハ魔獣グレイドベア。岩をも砕く程のパワーと鋭い爪ヲ持つ凶暴な大熊の魔物ヨ」
ティムの説明を聞いて思わず怯むグラインとクレバル。だが、グレイドベアはグライン達に気付いていない様子であった。
「おいグライン、こんな奴とまともにやり合ってもぶっ殺されちまうだけだぜ。逃げるぞ」
クレバルが耳元で言うと、グラインは黙って頷く。
「幸いまだ気付いていないようダかラ、忍び足で動くのヨ」
ティムが小声で言った瞬間、グラインは何かに躓いて声をあげてしまう。
「バカ! でっかい声出すなって……」
その声に気付いたグレイドベアはグライン達に気付き、目を光らせる。
「やべえ! 逃げろ!」
全速力で逃げ出すグライン達。グレイドベアは涎を垂らしながらも追ってくる。それはまさに、腹を空かせた猛獣が見つけた獲物を狙う勢いであった。
「うわあああああ!」
グレイドベアの追跡に洞窟内の魔物も逃げていく。洞窟の主とされているのか、他の魔物達も恐れているようだ。
「ハァッ、ハァッ、あ、足が……」
息切れと同時に足の痛みを感じるグラインは次第に動きが鈍り始める。
「おいグライン、死ぬ気で走れ! でないと命はねぇぞ!」
一喝するクレバルだが、グラインの足の痛みは止まらない。だが出口までまだ距離がある。
「ク、クレバルさん……ここは僕達の魔法で……」
「あんなでかい奴相手に何とかなると思ってんのかよ!」
「で、でも……足が痛い……うわあ!」
クレバルとの会話に気を取られて転倒するグライン。
「んの野郎、転んでる場合じゃねえだろが!」
起き上がろうとするグラインだが、擦り剝いた膝と痛む足、スタミナ切れが重なってなかなか立ち上がれない。追うグレイドベアはグラインに標的を移し、剛腕を振り上げる。
「ちっくしょう! ライジングロック!」
クレバルが地魔法を発動させる。地面からの鋭く尖った岩盤がグレイドベアに直撃する。だがその攻撃は固い皮膚による防御力を持つグレイドベアには大したダメージにはならなかった。
「ガアアアア!」
グレイドベアが雄叫びをあげると、洞窟内が地鳴りに襲われる。
「や、やっぱり俺達じゃあかないそうにねぇ……」
冷や汗を掻くクレバル。グラインが立ち上がった瞬間、グレイドベアが鋭い爪を振り下ろす。その振り下ろしは斬撃となって襲い掛かり、間髪で回避するグラインとクレバル。傷付いた腕からは血が流れていた。
「二人とも、今は逃げる事を考えテ! コイツの皮膚は鋼並みの耐久度ヨ」
ティムが言うものの、グラインは走る事ができない状態だった。更に雄叫びをあげ、地鳴りを起こすグレイドベア。
「クレバルさん……僕に構わないでティムと逃げて……」
「んな事できるかよ!」
「でも、このままでは……」
「バカヤロウ、俺は後輩を見捨てるような薄情な奴じゃねえよ!」
グレイドベアが飛び掛かろうとした次の瞬間――
「そこをどきなさい!」
突然、背後からの声。現れたのは、稲妻を纏う槍を手にしたリルモであった。
「リルモ!」
「下がってて」
リルモは機敏な動きで飛び上がり、グレイドベアに向けて槍を投げつける。槍が胴体に突き刺さった直後、リルモは魔力を集中させる。
「螺旋の雷よ……スパイラルサンダー!」
螺旋状に舞う雷がグレイドベアに直撃する。
「グアアアアア!」
苦しみの雄叫びを轟かせつつも感電するグレイドベア。雷の攻撃が弱点であった。リルモはグレイドベアの胴体に突き刺さった槍を拾ってグライン達の方に駆け寄る。
「今のうちに逃げるわよ」
「ああ、助かったぜリルモ!」
リルモはグラインの足の負傷を見て即座にグラインを抱き上げる。
「えっ……」
「ちょ、お前何やってんだよ!」
リルモの行動を見て声を張り上げるクレバルと、同時に戸惑うばかりのグライン。
「いいから今は足を動かしなさい! あんたはまだ動けるでしょ!」
「だからってよぉ……」
クレバルはグラインを抱き上げながら走るリルモを見て内心羨ましく思っていた。全員が無事で洞窟から脱出した頃、空は夕暮れとなっていた。
「ど、どうもありがとうリルモ」
「足ケガしてるようだけど、大丈夫?」
リルモは回復魔法アクアヒールでグラインの足の治療をする。横にいるクレバルは妬ましそうな目で見つめていた。
「何とカ無事で脱出できて安心したワ」
ティムが呟くと、リルモはふとティムの姿を見る。
「えっ……何これ?」
ティムの存在に気付いたリルモは不思議そうに見つめる。
「そいつは洞窟にいた気持ち悪い珍獣といったところだぜ」
クレバルの一言にティムは再び頭から湯気を立たせる。
「気持ち悪い珍獣ッテ誰の事ヨ! アナタはホンットーに失礼ネ!」
「どっから見ても珍獣だろうが! 人の記憶まで読みやがるし、気持ち悪いったらありゃしねぇよ」
「ンマー、そう言ウならアナタの恥ずかしい過去を暴露してやロウかしラ?」
言い合いするクレバルとティムに、リルモは何が何だかと言わんばかりの表情を浮かべるばかりであった。
「って、それよりモ。あのコにも自己紹介しなきゃいけナいわネ。ワタシはティム」
ティムはリルモに自己紹介を始める。
「私はリルモ。てか、女の子なの? 見た目は犬みたいだけど」
「そうヨ! こんなナリしていても中身はれっきとした乙女なんだかラ! よろしくネ!」
「よ、よろしく……」
犬のような外見をした未知の白い生き物を相手する事に半ば不思議な気分になりながらもリルモは握手を交わす。
「そういえば、王女様の猫は結局どうなっちまったんだ? まさかあのでかい奴に食われちまったのか?」
「お猫様はもう発見されたわよ」
リルモの返答にマジかよ、と絶句するクレバル。
「それよりあんた、どうしてグラインを連れてまで洞窟に行ったのよ」
至近距離までクレバルに近付いたリルモが問い詰める。
「え、えっとだな……街中で聞き込みしていたら洞窟付近に猫らしき姿を見たって情報があって、それで……」
リルモはクレバルの胸倉を掴み、更に顔を近付ける。
「それでグラインを連れて洞窟に入ったってわけ? あんただけならまだしも、グラインはまだ駆け出しの新人なのよ。どういうつもり?」
「そ、それは……たまたまいたから、協力してやろうと思ったっていうか……」
顔が近いまま詰問するリルモを前に言葉を濁すクレバル。
「リルモ、ワタシが代わりニ教えてやるワ。このクレバルときたラ、先輩だからという理由デ勝手な事ばかり言ってグラインを困らせテいたのヨ」
「だああああ! てめえ、横槍でいらん事言うんじゃねえええ!」
グラインの記憶を読み取っていたティムがクレバルの自分本位な言動の数々を全て暴露すると、リルモは激怒した。
「何考えてるのよあんたは! 駆け出しの後輩を顎で使って危険を冒すとか本物のバカなの?」
「お、俺はあくまで王女様のお猫様を助けるつもりだったんだよ! それに、グラインにとっても修行になると思ったからさ……」
「それも全部王女様からのご褒美が目当てなんでしょ! 今度ばかりは始末書を書いてもらうレベルね」
「そりゃねーよぉ……」
リルモがクレバルを怒鳴りつけている間、グラインが割って入る。
「まあまあ、もういいじゃない。助かっただけでも良かったんだから。お猫様は見つかったんでしょ?」
「ええ。王子様が見つけたそうよ」
「それじゃあもう帰ろうよ。お城へ戻らなきゃ」
グラインの一言にリルモはクレバルを解放し、そうねと返して歩き始める。
「ん? ちょっと待てよ。グライン、お前なんでリルモにはタメ口なんだ? まさか、呼びタメ許可したってのか?」
クレバルが問うと、リルモが鋭い目を向ける。
「別にどうだっていいでしょ! 私はあんたみたいに先輩の立場を利用して威張ったりしないから」
「何だよそれ……」
「あら、何か不満でも?」
「クッ……」
悔しげな表情を浮かべるクレバル。
「念の為に言っておくけど。もしグラインを苛めたりしたら絶対に許さないわよ」
再び顔を寄せつつもリルモが言う。
「バッカ、俺がそんな事するわけねぇだろってかいちいち顔近付けて言うなよな!」
「解ったんだったら約束しなさいよ」
「へいへいしますします」
リルモとクレバルのやり取りを見てティムがクスクスと笑う。
「何だかあの二人、イイ感じネ」
グラインにこっそりと耳打ちするティム。
「ははは、確かにそうかもね……」
「グラインにとって、リルモのようなコはドウ? 好みのタイプに当てはまるのかしラ?」
「え? えっと……」
突然のティムの質問にグラインは困惑する。
「アハハ! リルモのようなコは悪くないト思うわヨ。しっかり者で家庭的デ面倒見のイイお姉さんって感じダし、きっとイイお嫁さんになるわネ」
からかうようにティムが言うと、グラインは僅かに顔を赤くしながらもますます困惑するばかり。
「マ、人生何ガあるカ解らないモノヨ。フフフ!」
悪戯っぽく笑うティムを見て、本当に不思議な奴だなぁと心の中で呟くグラインであった。

レイニーラ王国に帰還したグライン達。リルモはクレバルを引っ張りつつも、一連の出来事をフィドールと王に報告しようと城へ向かおうとする。そこでティムが声を掛ける。
「ちょと待テ! ワタシ、この国の王様に御用があるのヨネ」
「王様に?」
「このレイニーラを建国シタ伝説の大魔導師に関すル話が聞きタいのヨ」
ティムが目的を伝えると、突然兵士達がグライン達を取り囲む。
「え、何?」
「貴様、魔物か! 我が王国に何用だ!」
魔物とはティムの事であった。
「ンマー! 魔物ってワタシの事? この国の人々ハ異種族とノ交流ガ全く無いワケ?」
ティムは頭に湯気を立たせている。
「ちょっと待って下さい! この子は魔物じゃありません! 悪い奴じゃないんです!」
グラインが慌てて説明すると、兵士達は顔を見合わせる。そこでクレバルが――
「あんたらからしたら魔物に見えちまうのも無理ねぇけど、妙な珍獣ってところだぜ」
その一言にティムの顔が沸騰したように真っ赤になる。
「ダーカーラァァァァァ! 珍獣呼ばわりするナって言ってるでショおおおオオオオオオオオ!」
激昂するティム。リルモはやれやれと思いつつも兵士達に事情を説明する。兵士達は困惑しながらも事情を理解し、その場を去って行った。
「ハァ……やっぱりこの姿だとアナタ達ガいなかったラ色々面倒なのネ」
ぼやくティムを連れて城にいるフィドールの元へ向かうものの、フィドールは謁見の間に来ていた。謁見の間には王、フィドール、ニール、そしてシロキチを抱いているイニアがいた。
「おお、お前達は。この度はイニアの為にご苦労であったな」
王が労いの言葉を投げ掛ける。
「私の為に無理していたようで、本当にごめんなさい。シロキチはお兄様によって無事で見つかりました」
イニアの一言にクレバルが一瞬残念そうな顔をする。
「ところで、そこにいるのは?」
ティムの姿に気付いた王は興味深そうに見つめている。
「初めマシテ、レイニーラ王。ワタシはティム。世界を知る者といいますカ、世界ヲ渡り歩く冒険者デス。このレイニーラ王国ヲ建国シタと言われル伝説の大魔導師たる者ニ興味ガあって訪れタまでデス。そこで、どうカ伝説の大魔導師に関するお話ヲ聞かせて頂きたいと思いマシテ……」
ティムが挨拶がてら目的を伝えると、王の表情が真剣なものになる。
「確かにこのレイニーラを建国したのは伝説の勇者の一人となる大魔導師たる者であるが……何ゆえにその話を聞きたいと申すか?」
「ワタシはある予言に従い、世界を旅していマス。その予言ハ……」
ティムの言う予言とは、世界に大いなる災いをもたらす巨大なる闇の脅威が訪れるといったもので、それは決して遠くない未来だという。その災いに立ち向かう時が来るまでに、伝説の大魔導師に関する話を聞いておきたいという考えであった。
「大いなる災いをもたらす予言だと……愚かな。そんな事が……」
王は険しい表情のまま黙り込んでしまう。
「君は何者なのだ? 伝説の大魔導師の話を聞いたところでどうしようと考えているのだ?」
ニールが問い掛ける。
「申し訳ありませんガ、ワタシに関するコトについては詳しくはお話できまセン。タダ、災いから世界ヲ守る為ニ旅をしてイル。伝説の大魔導師に関する話ヲ聞きたいのはその為、とだけ言っておきまス」
言葉を濁しつつもティムが返答すると、ニールの表情が険しくなる。
「……済まぬが、まだそなたを信用できぬ上、話すわけにはいかぬ。もし本当にそのような予言が存在し、災いから世界を守ろうと考えているのであらば、その証拠を見せて欲しい」
王の言葉にティムは黙り込んでしまう。
「ティムと言ったな。君の正体を掴むまではマークさせてもらう。人ならざるものな上、不吉な予言を伝えるような得体の知れぬ輩は易々と信用できぬのだ」
ニールが続けて言う。明らかにティムに対して懐疑心を抱いている様子だった。
「……そうですカ。でハ、失礼致しましタ」
穏やかではない空気を感じ取ったティムは挨拶をする。グラインは心配そうにティムを見つめていた。
「お前達、そのティムという者をマークしておけ」
王の命令を受けるグライン達は深く頭を下げ、謁見の間を後にする。
「ハァ……ワタシ、完全に警戒されてるわネ。下手したら牢屋行きにされルのかしラ」
ティムが気まずそうにする。
「当ったり前だろ。大体お前のようなわけのわからん奴にいきなり伝説の大魔導師について教えろって言われたところで易々と教えてくれると思うのか?」
クレバルの一言に、ティムは黙り込む。
「それに、世界の全てを知る者って言ってる割には伝説の大魔導師の事を全く知らねぇってのはどういう事なんだよ?」
「ンーと、それハ……」
ティムはどう説明したものかと言葉を詰まらせる。
「もう、だからってあれこれ詰問しなくてもいいでしょ。この子にもきっと色々事情があるのよ」
リルモがフォローするように言うと、クレバルが呆れたと言わんばかりの顔で見る。
「ったく、リルモはいちいち甘いんだよ。もしどこかのスパイとかだったらどうするんだ?」
「その時はその時でしょ!」
クレバルとリルモが言い合っている中、ティムは申し訳なさそうに俯く。
「ティム、君はこれからどうするの?」
グラインが問う。
「そうネェ……証拠を見せろって言われタかラ、その時までハ暫くアナタ達のところデお世話ニなりそうネ」
「はぁ? 言っとくが、俺は御免だからな! お袋が動物アレルギーなんだよ」
「少なくともアンタのところは絶対に行かないわヨ。そんなわけでグライン、アナタのところに泊めてもらうワ」
「ええええ?」
王の信用を得る為に、ティムは暫くの間グラインの家に泊めてもらう事となった。リルモ、クレバルと別れたグラインはティムを連れて自宅へ戻る。
「お帰りグライン。って、何それ……?」
グラインは居間にいるラウラとバージルに事情を話す。
「ふーむ、もしかすると異種族という事か?」
バージルが興味深そうにティムを見つめている。
「そういう事デス。ご迷惑じゃなけれバ、お泊りさせてもらッテ良いでしょうカ?」
事情を聞き入れたラウラとバージルは快くティムを迎え入れる事にした。
「フフフ、ご両親は物分かりノいいタイプなのネ」
ティムは感謝しつつもグラインと共に夕食にありつけた。夜も更け、グラインはティムを自室に招き入れる。
「フーン、結構いい部屋じゃナイ」
グラインの部屋はさほど広くはないものの、机には魔法学校の資料が置かれており、本棚には魔法に関する書物がいくらか収められていた。奥には粗末なベッドが設置されている。
「アナタ達のおかげデ伝説の大魔導師について少しわかった気がするワ。コッソリと王の記憶を読んだとこロ、禁断の古代魔法を使っていたそうネ」
「禁断の……古代魔法?」
ティムが密かに読み取っていた王の記憶から僅かに手に入れた情報に興味を示すグライン。禁断の古代魔法とは、天のエレメントに当たる神格の魔法と呼ばれるもので、天変地異や世界全体に大いなる影響を与えると伝えられているものであった。
「という事は、レイニーラを建国した大魔導師は世界を揺るがす程の凄い存在だというのか?」
「そういう事になるわネ」
ティムは杖を握り締めつつも真剣な表情を浮かべる。
「それにしても君は一体……」
グラインはティムの正体がますます気になるばかり。
「……アナタならば、ワタシの事についてそのうち知る事になると思うワ」
「え?」
「そのうち、ネ。デモ、今は企業秘密ヨ。ウフフ!」
笑顔で言うティムに、グラインは戸惑いを隠せなかった。
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