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謎の組織
組織の名はジョーカーズ
しおりを挟むギシャアアアアア……!
鉄を爪で引っかいたような音に近い雄叫びが響き渡る。グライン達の前に現れた魔蟲ベルゼブが粘液を滴らせながらも襲い掛かろうとしているのだ。
「ひいいっ……い、嫌あああああっ!」
ベルゼブの姿を見た瞬間、リルモは早くも戦意を失っていた。
「おいリルモ、しっかりしろ!」
クレバルが喝を入れるものの、どうしても虫が克服できないリルモはその場に立ち竦むばかり。
「クハハハ、滑稽な姿だな」
イゼクは戦意喪失したリルモを見て笑っている。ベルゼブは雄叫びを上げながらも口から粘液を吐き出す。
「うわあ!」
グラインは粘液の攻撃を受けてしまう。
「んの役立たずが! こうなったら俺の魔法で……」
地魔法で応戦しようとするクレバル。ラルタは次々と斧の一撃を叩き込んでいく。
「ストーンドライブ!」
クレバルの地魔法による無数の石つぶてが弾丸のように襲い掛かる。一撃一撃がベルゼブにダメージを与えていく。
「やるじゃねえかボウズ」
ラルタが渾身の一撃を叩き込むと、ベルゼブは苦しそうな呻き声を上げつつもその場から動かなくなる。
「チッ……まだ養分が足りんのか」
イゼクは動かなくなったベルゼブを前に、一本の注入器を取り出す。注入器には緑色のエキスが入っていた。グラインは粘液から抜け出すと、炎魔法で粘液を燃やしていく。
「てめぇは一体何者だ。何の為にこんな悪趣味な事をしやがる」
ラルタが斧を手に詰め寄る。
「クックック……生物の様々な可能性を研究する為さ。ジョーカーズのおかげで研究用の設備を得られたのだからな」
ジョーカーズとは邪悪なる力を司る闇の魔術師によって結成された暗黒の組織であり、イゼク自身は科学技術を開発した小国マカフィロの生物研究者であった。生物の細胞、病原体等様々な分野の研究や実験を行っていたが、生物実験に病みつきになるあまり過激な思想を抱くようになり、病人を実験体にした事で国から追放されていた。行き場を失ったイゼクはジョーカーズに所属する者と知り合い、ジョーカーズとの契約を交わした事で合成生物を作り出せる研究設備と用心棒となる魔蟲ベルゼブを与えられ、バグワム山の鉱山に身を隠しながらも魔物や集落の人間を合成生物の実験体にしていたのだ。それは生物の様々な可能性を研究する為であり、ジョーカーズの生物兵器となる者を生み出す為でもあった。
「ジョーカーズですっテ……アナタと契約した人物は何者なノ?」
ティムが問い詰めるものの、イゼクは小馬鹿にするように笑い出す。
「それを知ってどうしようというんだ? 貴様らが知ったところで無意味だというのにな」
「……教える気ハなイわけネ」
ティムは尋問を断念しつつも、イゼクの記憶を読み取ろうとする。イゼクはベルゼブにエキスを注入すると、ベルゼブが再び動き始める。
「こいつ……まだ動く!」
動き出したベルゼブは雄叫びを上げつつも、口から次々と緑色の液体を吐き出す。毒液であった。咄嗟に回避するグラインとクレバルだが、虫がどうしても受け付けないせいで立ち止まったまま顔を覆っていたリルモに向かって毒液が吐き出される。
「危ねえ!」
ラルタは即座にリルモの前に立ちはだかると、毒液を浴びてしまう。
「ラルタさん!」
自分を庇って毒液を受けたラルタを前に驚くリルモ。
「おっさん、しっかりしろ!」
クレバルが駆け付けようとする。
「うぐ……オレに構うんじゃねえ。これしきの毒なんかで……」
毒を受けたラルタは悪寒と共に体力を失っていくのを感じる。
「ラルタさん! コレを飲んで!」
グラインは解毒剤の血清シロップを与えようとするが、突然ラルタが叫び声を上げる。同時に舞う鮮血。イゼクの右手の爪が長く伸び、ラルタの身体に突き刺さっていたのだ。
「ぐお……あ」
負傷したラルタは倒れてしまう。更にベルゼブは口から粘着性の糸を吐き出す。
「うっ!」
糸はグライン達を捉えていく。強力な粘着性の糸で身動きを封じられてしまうグライン達。
「ハハハハハ! 失敗作となった集落の実験台どものようにベルゼブの餌にしてやろうか。それとも、実験台にされる事を望むか?」
イゼクが狂気じみた表情を浮かべる。合成生物の実験台にされ、失敗作となった集落の人間達はベルゼブに餌として喰らい尽くされていたという話を聞いた瞬間、グラインは心の中が激しく燃え滾るような感覚に陥る。倒れたラルタは既に意識を失い、顔の血色が失せていた。ベルゼブは雄叫びを上げつつもグラインに襲い掛かろうとした時、グラインの全身が魔力のオーラに包まれる。
「……人間なのか? お前は……本当に人間なのか?」
グラインを覆う魔力のオーラが炎のように燃え上がると、粘着性の糸が溶けていく。同時にクレバル、リルモ、ティムを縛る糸も溶け始めた。
「グライン……?」
次の瞬間、リルモは驚愕する。なんと、グラインの目が赤く染まっているのだ。
「……はあああああっ!」
グラインが気合と共に魔力を開放すると、激しい勢いの真空波がベルゼブを襲う。風魔法による真空の刃の渦であった。
「あれは……風魔法?」
ティム曰く、グラインが発動した魔法は風魔法の一種『ヴォーテクスブロー』であった。
「グラインの奴、一体どうしちまったんだよ?」
クレバルはグラインの赤くなった目を見てただ驚くばかり。
「ギャアアアアア……」
身をズタズタに裂かれたベルゼブが凄まじい雄叫びを上げつつも毒液を放つ。瞬時にグラインは右手を差し出し、飛んで来る毒液を魔力のエネルギーでかき消してしまう。
「燃え盛る炎の渦よ……フレイムサイクロン!」
ベルゼブを覆うように現れ、激しく巻き起こる炎の渦。燃え盛る炎の渦はベルゼブを焼き尽くしていく。炎の渦が消えた時、ベルゼブは灰と化していた。
「なっ……バカな。貴様にそんな力が……!」
イゼクは動揺しながらも服を脱ぎ捨てる。なんと、イゼクの肉体は魔物の身体の一部と合成した姿となっていた。威嚇するかのように両手の鋭い爪を伸ばすイゼク。
「その姿……アナタ、自分まデ実験台ニしていタのネ」
ティムが鋭い目を向けて言う。
「ククク……契約という事で与えられたボディパーツさ。私自身もジョーカーズの兵力となったのだからな」
イゼクはジョーカーズと契約を交わした際、自分自身をも兵力になる為に合成生物の実験台としていた事を話す。実験の結果、伸縮自在の鋭い爪を持つ魔物の腕を手に入れる事に成功したのだ。
「貴様らは生かしておけん。計画が潰されては、タダでは済まなくなるのだからなぁ!」
イゼクは機敏な動きでグラインに向けて爪を伸ばす。グラインはロングソードで爪を切り落とすが、片手の爪がグラインの頬を掠める。
「グライン!」
リルモが加勢しようとするが、グラインはイゼクの爪による攻撃を次々と凌いでいく。
「許さない……人の命を弄ぶお前は許さない!」
グラインは魔力を集中させたロングソードを掲げ、大きく振り下ろす。
「ソニックテンペスト!」
次々と放たれる真空の刃はイゼクの爪を切り裂き、更にイゼクの両腕を斬り飛ばした。
「たああああああ!」
グラインがとどめの一閃を放つと、イゼクは身体を大きく切り裂かれ、鮮血を撒き散らしながらもバタリと倒れた。
「お、おのれ……貴様ら如きに……この私が……」
断末魔の声を上げた瞬間、イゼクの姿はドロドロに溶け、蒸発していった。グラインはその場に立ち尽くし、放心状態になっている。赤く染まった目の色は普段の色に戻っていく。
「グライン……」
リルモとクレバルはグラインの隠された力を目の当たりにして言葉を失っていた。
「……あれ? 僕は一体何を?」
我に返ったかのようにグラインが言う。目が赤く染まってからの記憶が全くないのだ。
「お前、さっきのは無意識のうちにやってたって事かよ」
クレバルが問い詰めるものの、グラインは訳が解らない状態だった。
「そんな事は後になさい! ラルタさんが……!」
リルモの一言で思わずラルタの様子を見るクレバルとグライン。ティムはラルタの容態を確かめるが、脈と呼吸はなく、心臓は停止していた。毒と負傷だけでなく、傷口から猛毒を盛られていたせいで事切れていたのだ。
「そ、そんな……」
ラルタが死んだという事実に動揺するグライン達。
「私を庇ったせいで……」
リルモは後悔の念に駆られ始める。自分を庇った事で毒の攻撃を受け、更にイゼクの爪の攻撃を受けたラルタの姿が浮かび上がった瞬間、自分が不甲斐ないせいでこんな事に、と思いながらも膝を付いてしまう。
「……みんナ、今ハマイトさん達を救出しまショウ」
ティムの一言でグライン達はマイトとアウリンを救出する。幸い二人は息があり、気を失っているだけであった。マイトとアウリンを連れて鉱山を脱出した頃には既に日が暮れており、集落で一休みしようと小屋に入るグライン達。
「う……ここはどこだ?」
意識を取り戻したマイトが目覚める。
「マイトさん。気が付かれましたか?」
リルモが声を掛けると、マイトは状況が飲み込めず戸惑うばかり。そこでグラインとティムが事情を説明する。
「そうか、オレはあれからあの変な奴に捕まってたってわけか。それであんたらが助けてくれたって事かい?」
「はい。でも……」
グラインは犠牲になったラルタの事を話す。
「何だと……嘘だろ」
マイトはラルタの亡骸を見て呆然とする。
「……ごめんなさい。私がしっかりしていたら……」
自分を庇って犠牲になったという事実に責任を感じていたリルモが詫びる。
「おいおい、お嬢ちゃんのせいじゃないだろ。悪いのはイゼクとかいう奴だ。奴さえいなければ……」
マイトはイゼクに対する怒りを露にする。
「あんたらはオレのお手製の爆弾が必要なんだろう? 助けてくれた礼がしたい。村へ帰るぜ」
マイトが小屋から出ようと立ち上がる。
「う……」
アウリンが意識を取り戻す。
「ようアウリン。気が付いたかい」
マイトが声を掛けると、アウリンは周囲を見渡す。
「僕は一体? この子達は?」
「オレ達を助けてくれた旅人さ。だが、悪い知らせがある」
マイトはアウリンにラルタの死を伝える。
「ラルタさんが……そんな……」
ラルタの死を嘆くアウリンを見て、リルモはますます辛い気持ちに立たされてしまう。一行は集落を後にし、アガルジ村へ戻る。夜となり、村長に全ての事情を説明してからラルタの訃報は瞬く間に広がり、村人達はラルタを手厚く葬った。
「お父ちゃん……お父ちゃあああん!」
泣き叫ぶ少年は、ラルタの息子であった。悲しみに暮れるラルタの家族を前に、黙祷を捧げるグライン達。
「ラルタ……おめぇとは昔から喧嘩ばかりしてたけどよ、いなくなっちまうと寂しいもんだよ。なんでこんな事になっちまったんだろうな」
マイトが呟くように言う。ラルタとは喧嘩友達の間柄だったのだ。ラルタの葬儀が終わると、グライン達はマイトのお手製の爆弾が完成するまでは村長の家でお世話になる事となった。
翌日――
「なあリルモ。まだ気にしてるのかよ?」
二階の部屋にて、クレバルがリルモに声を掛ける。リルモはラルタの一件で意気消沈しつつも、朝からずっと窓の外を眺めているのだ。
「花火屋のおっさんも言ってただろ。お前が責任感じる事ねぇって。いつまでも過ぎた事ばかり気にしてねぇで、これからの事を」
「解ってるわよそんな事! 今はそっとしてちょうだい」
振り向かずに怒鳴るように返答するリルモ。クレバルはこれ以上声を掛けず、グラインとティムがいる一階の部屋へ向かった。部屋には村長とアウリンもいる。
「どうだッタ?」
「ダメだ。ずっとあの調子だぜ」
「そウ……」
グラインとティムはリルモの事が気掛かりであった。
「しかし驚いたよ。まさか君達が噂の魔法戦士だったなんてね」
アウリンはグライン、リルモ、クレバルが魔法戦士である事をティムから聞かされていたのだ。
「ところで……グライン。本当に何も覚えてねぇのか? 昨日の戦いで目が真っ赤になっていた時の事を」
クレバルはグラインの方を見る。イゼクへの怒りと共に目が赤く染まっていた事について聞くものの、グラインは本当に知らない様子だった。
「目が真っ赤って……僕は一体どうしていたというんです?」
「まあ聞けよ」
クレバルが事の全てを話すと、グラインは愕然とする。
「何だって……僕にそんな恐ろしい力が……」
困惑するばかりか、自分の中に潜む未知の強大な力の存在に不安と恐怖を覚えるグライン。怒りに我を忘れるどころか、無意識のうちに強力な魔法を扱い、気が付けば既に敵の命を奪っていた。そんな事実を知らされたグラインは自分は一体何者なのか、自分はどういう存在なんだと考えてしまう。ティムはグラインをジッと見つめつつも、話題を変えようと軽く咳払いをする。
「それにしてモ、あのイゼクとかいう奴が言っテたジョーカーズ……やはリあの二人組が関わっていルみたいネ」
ティムは密かに読み取っていたイゼクの記憶から、把握できた範囲内で情報を伝え始める。イゼクをジョーカーズに誘った人物はバキラであり、契約した人物はジョーカーズの首領となる暗黒の魔術師であった。そしてバキラとクロトはジョーカーズのメンバーとして動いていたのだ。
「……あの二人は何が目的なんだ?」
「そこまでハまだ解らないワ。一つ言えル事ハ……ジョーカーズはいずれ最大の脅威になるという事ネ」
ティムは表情を強張らせていた。
「今頃レイニーラはどうなってんだろうな。あいつらのせいでメチャクチャにされてたらと思うと、落ち着いてらんねぇよ」
クレバルはレイニーラの事が気になるばかりであった。そこで、ドアをノックする音が聞こえる。
「よぉ。出来上がったぜ」
マイトが訪れる。土砂崩れで塞がれた道を開ける為の特製の爆弾が完成したという知らせであった。
「おお、ご苦労じゃったな。お前さん達、これでレイニーラへ帰れるぞ」
村長の一言でクレバルは二階にいるリルモを呼ぼうとする。
「おいリルモ、帰るぞ! 爆弾が完成したんだってよ」
クレバルが呼び掛けると、リルモは無言でやって来る。表情は物憂げであった。
「リルモ……」
心配そうにリルモを見つめるグライン。旅立ちの支度を整えたグライン達は家から出る。
「君達には本当に感謝しているよ。どうか気を付けて」
「旅の無事を祈っておるぞよ」
アウリンと村長に見送られつつも、グライン達はマイトに連れられてシム山地の谷へ向かう。土砂崩れで道を塞いでいる土砂の山まで辿り着くと、マイトは即座に爆弾を仕掛ける。大爆発と共に土砂の山は吹っ飛ばされ、道が開通するようになる。
「じゃあな。改めて礼を言うぜ。ありがとよ。気を付けて行けよ」
「はい、こちらこそありがとうございました」
マイトに感謝しつつも、グライン達はレイニーラを目指して谷を進んでいく。
「なあ珍獣。レイニーラまでどれくらいかかるんだ?」
「珍獣呼ばわりするナって言ってルでショ! レイニーラまではかなり遠いわヨ。徒歩だったラ数日間掛ける事になるんじゃないかしラ」
「はあああ?」
レイニーラまでは途轍もない長距離になる事を聞かされて驚くクレバル。グラインは自分の中に眠る未知の力が気になりつつも、今はレイニーラへ帰らなくてはと思いながら足を進める。傍らにいるリルモは考え事をしていた。過去の出来事――自分を庇って命を落としたパルの事を思い出していたのだ。
また私を庇って誰かが命を落とすなんて……。
自分にとっての忌まわしい出来事が再び起きてしまった。知り合ったばかりの人といえど、自分のせいで命を失い、残された家族に深い悲しみを与えてしまった。あの人は自分を庇ったせいで命を落としたのだから、それが耐えられなかった。遺族はきっとこれからも悲しみを背負いながら生きていく事になるのだろう。魔法戦士になる事で多くの人を守りたかったのに。自分がもっとしっかりしていたら、こんな事にならなかったはず。そんな現実を目の当たりにしたリルモは、自分の不甲斐なさがどうしても許せなかったのだ。同時にグラインも自分の中に潜む謎の力に不安を抱き、表情を曇らせていた。
「アー、腹ペコだワ。ちょうどお昼だし、一休みしまショウ」
森林の中、ティムの一言で一行は休憩する事に。
「クレバル。アナタ食料ヲ探しテ来なさイ」
「はあ? 命令すんじゃねえぞこの珍獣!」
「珍獣珍獣ってうるさいわネ! グラインとリルモは今ブルーなのヨ」
「だからって何で俺が行かなきゃいけねえんだよ」
クレバルとティムが張り合ってる中、グラインが割って入る。
「僕が行くよ」
「アラ。引き受けていいノ?」
「色々思う事はあるけど、今は考えても仕方ないから」
グラインが食料探しに行こうとすると、リルモが待ってと引き止める。
「私も手伝うわ。あなた一人じゃ心配だから」
グラインの協力をしようとするリルモを見てクレバルは不満げな表情を浮かべる。
「おいリルモ、ふざけんじゃねえぞ! それだったら俺も手伝ってやるぜ」
「バカね、あんたは薪を集めてきなさい」
「お前、そんなにグラインの面倒が見たいのかよ」
「まだ駆け出しのグライン一人で行かせろと? 私達が戻って来る間に薪割りくらいしてもらわないと困るでしょ」
「チッ……じゃあ勝手に行けよ」
不貞腐れて森へ薪を探しに行くクレバル。グラインは半ば申し訳なさそうにしつつもリルモを見る。
「行きましょうグライン。あんな奴気にしなくていいから」
「う、うん……」
リルモはグラインを連れて食料を探しに行く。付近の木々から薪を集めてきたクレバルはティムの前で薪割りを始めた。
「おい珍獣。お前も働けよ」
「珍獣呼ばわりするのモいい加減にしてよネ。ワタシは火を起こす役を引き受けるワ」
「後出しで一番楽な方を選ぶわけか? え?」
「クチを動かす前ニ手ヲ動かしなさイ!」
「んの野郎……覚えとけよ」
ブツブツ言いながらもクレバルは薪を叩き割っていく。
食料を探すグラインとリルモは森を彷徨っていた。
「ねえグライン。あなたは何の為に魔法戦士兵団に入団したの?」
リルモが目線を合わせて質問する。
「……つまらない理由かもしれないけど、大魔導師を目指すつもりなんだ。父さんと母さんから大魔導師の伝説を聞かされた時、魔導師に憧れるようになって……」
グラインが俯き加減に答える。
「そう……。つまらないとは思わないわ。男の子らしいというか、あなたの夢だもの」
リルモは立ち止まり、ふと空を見上げる。
「あなただったら、話してもいいかな。私が魔法戦士兵団に入団した理由を」
リルモはグラインに魔法戦士兵団に入団した理由を語る。従弟のパルが自身を庇って命を落とし、その事がきっかけで魔法戦士として生きていく決意をした事。グラインの世話を焼くのは、弟のような存在だったパルと重なるところがあったからだと。
「そんな事があったのか……。だから君は僕の事を……」
グラインに向けて微笑みかけるリルモ。だがその表情はどこか寂しげであった。
「……グライン。もっと私を頼ってもいいのよ。困った時に力になるのは、先輩として当然だから」
リルモの言葉にグラインは若干躊躇しつつも、うんと返事をする。
「私だって……いつまでもクヨクヨしてないで、もっと頑張らなきゃね」
深呼吸しつつも前向きになるように自分に言い聞かせつつ、再び足を動かすリルモ。
「……僕だって頑張らなきゃ」
グラインは気持ちを切り替え、リルモの後に続いた。
昼食を済ませて休息を取った一行は再び歩き出す。レイニーラへの道のりはまだまだ遠い。そして暗躍する謎の組織ジョーカーズの存在。少年少女は薄々と感じていた。近い将来、巨大な戦いに挑む運命が訪れる事を――。
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