Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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哀しき闇の子

悲しみの雨を越えて

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どうして、こんな事になったんだろう。

あの時、村に引っ越していたのが僕だったら、ダリムは今の僕のようになれたのだろうか。

闇の力ってそこまで悪いものなんだろうか。誰からも畏怖されるものなんだろうか。闇の力は災厄を呼ぶという言い伝えがあるけど、災いを引き起こすのは『闇の力』じゃなくて『邪悪な力』ではないのか。

ダリムに備わっていた闇の力は、元々邪悪な力ではないはず。彼が操る邪悪な力は、ジョーカーズによって与えられたもの。


闇は、全てが悪じゃないと思う。闇は絶対悪と決めつけるから、あんな悲劇が生まれたんだ。


思えばあの頃が一番楽しかった。だからこそ、もう一度彼と遊びたかった。そう、大きくなっても――。


十年前――グラインは母にお使いを頼まれ、道具屋で薬草を買いに行く途中で通り掛かった小さな公園で、同年代の少年の姿を見つける。少年は、ダリムであった。
「ねえ、きみ。ここでなにしてるの?」
声を掛けるグライン。ダリムは何かを抱えている。猫であった。しかも猫は息をしていない。
「……しんだ。ぼくのシマが、しんだ……」
シマと呼ばれた猫は、ダリムの飼い猫だった。突然の病気で息を引き取ったばかりで、墓を作ろうとしていたのだ。
「あ……ぼくもてつだうよ」
協力して公園の土に穴を掘り始めるグライン。ダリムは泣きながらシマの亡骸を穴に寝かせ、埋めていく。そして木の枝と石による簡素な墓を立てる。
「シマ……うっうっ……」
シマの墓の前で泣きじゃくるダリム。グラインは何も言えず、ダリムの頭をそっと撫でる。
「……ありが……とう……」
ダリムは涙声で礼を言う。
「ぼく、おつかいがあるからそろそろいくね」
グラインが去ろうとする。
「……まって」
ダリムが呼び止める。
「きみは……だれ?」
グラインはダリムに笑顔を向ける。
「ぼく、グライン! きみは?」
「ぼくは……ダリム」
互いに自己紹介し、グラインはダリムと別れて道具屋に向かって行った。

数日後、ダリムは母親に連れられてグラインの家に訪れる。
「この度はうちの子がお世話になりました」
バージルとラウラに礼を言うダリムの母親。
「いえいえとんでもない! うちの息子が優しい子に育っていて何よりです」
誇らしげにバージルが言うと、グラインは照れ笑いする。
「ダリムにはなかなか友達が出来なくて、猫のシマが唯一心を許せる相手だったのですが……あれからずっと塞ぎ込んでいるんです。そこで、もしよろしければ息子さんにダリムと仲良くしていただけたらと……」
内向的な性格もあって友達が出来ないダリムを気に掛けていた母親が頼み込む。グラインは快く引き受け、ダリムと共に遊ぶようになる。最初はなかなか馴染めなかったものの、次第にグラインに心を許していくダリム。ある日、グラインとダリムは公園でお喋りをしていた。
「ねえ、グライン。まどうしってすごいよね」
「そうだね。ぼく、大きくなったらだいまどうしになるんだ」
そんな会話を交わす二人。この頃からグラインは魔導師に憧れており、将来の夢は大魔導師である事をダリムに打ち明けていた。
「ぼくも、だいまどうしになれるかなぁ……」
グラインから大魔導師の事を聞かされたダリムもまた大魔導師に憧れ始めていた。


ぼくたち、大きくなったらだいまどうしになる。


そう誓い合ったあの頃の思い出――。


今でも大魔導師になるという夢は変わらない。もしダリムが魔法学校へ行き、魔法戦士兵団に入団していたら、自分と共に戦っていたに違いないだろう。それなのに……彼はもういない。与えられた邪悪な力と共に、消えてしまったのだから。


古びた塔を後にしたグライン達は再びアバルの廃墟を訪れる。夜になり、雨が降る中、グラインはダリムの日記がある廃屋に向かう。グラインはダリムの日記を取り出し、形見として道具袋にしまい込むと、降る雨が激しくなり、雷の音が聞こえ始める。雷雨であった。
「雨が止むマでハ此処で休んでイきまショウ」
ティムの提案に従い、雨宿りをする事に。ボロボロの天井からは僅かに雨漏りしている様子であった。
「グライン……」
リルモはそっとグラインに寄り添う。グラインは何も言わず、ぼんやりと天井を見つめていた。
「無理もないワ。あんナ事になったラ辛くて当然ヨ……」
ティムはグラインの胸中を察し、沈痛な面持ちをしていた。
「……魔法って何だろう」
グラインが呟くように言う。
「魔法って本当は災いを呼ぶ恐ろしいものなのかな。僕に備わっている力も……」
項垂れるグライン。ティムは一瞬真剣な顔を浮かべるが、すぐに表情を和らげて口を開く。
「魔法は使い手ニよってハ人を救う力ニなリ、災いをモたらス力にモなル。それハ闇の力にモ言えル事ヨ」
ティムの言葉にグラインは思わず顔を上げる。
「邪悪なル者が司る力ハ闇の力が主流というのハ否メないワ。ケド、全てガ必ずしモ闇とハ限らなイ。それニ、光と闇ハ表裏一体。全てノ闇ハ必ずしモ邪悪ではナイ」
ティムが言うには、邪悪なる者が扱う力は闇が主体であるものの、それは全て邪悪な心よりいずるものであり、闇の他に邪悪な力に染められたエレメントによる魔法も存在する。闇は全てを滅ぼす忌まわしきものとされ、闇の子として生まれた者は災厄を呼ぶといった言い伝えが存在するのは、強大なる闇の力を得て世界の全てを支配しようとしていた邪悪なる者の存在による影響から出始めたものだと。闇もエレメントの一つであり、他のエレメントによる魔法と同様、術者によっては善にも悪にもなるというのだ。
「……それじゃあ、僕の中に存在する力は何なんだ! まさか、災いを呼ぶ事にもなる力だというのか?」
自分の中に存在する秘められた力の正体が知りたくなったグラインは感情的に声を張り上げる。ティムはジッとグラインを見つめては更に言葉を続ける。
「……アナタの中に眠る力ハ、決して災いヲ呼ぶモノじゃあないワ。それだけハ言えル」
ティムは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ケド……ゴメンネ。詳しいコトはまだワタシのクチからは教えられナイ。いずれ解る時ガ来るワ」
言い終えた瞬間、雷鳴が鳴り響く。落雷による轟音であった。
「教えられない……? どういう事なんだ? 僕の事で何か隠してるのか?」
秘められた力が発動した際に自我を失っていた状況の事が頭に過り、思わず問い詰めるグライン。ティムは頑なにそれ以上は語ろうとしない様子だった。
「落ち着いて、グライン」
リルモが宥めるように言う。
「ティム。あなたが何者なのか解らないけど……グラインの秘められた力は、決して悪い力じゃないのは間違いないのね?」
ティムはジッとリルモを見つめ始める。
「そうネ。彼ガ道ヲ誤らナければ、ヒトを救う大きナ力にモなるワ。道ヲ誤らナければネ」
ティムが返答すると二人は黙り込み、重い沈黙が支配する。会話を繰り返しているうちに雷鳴が轟き、雨漏りによって天井から次々と雨水が滴り始める。
「雨漏りが酷くなっテきタわネ」
思わず外の様子を見に行くティムだが、豪雨は一向に止む気配がない。グライン達は一先ず廃屋の中で休憩する事となった。
「僕の中に眠る力が人を救える大きな力になるっていうなら……何故自我を失うんだ? 僕は一体……」
激しい雨の音。周りが眠る中、自分の秘められた力と自分の存在について気になるばかりのグラインはなかなか寝付けなかった。


廃屋で一晩を過ごしたグライン達は目を覚ましては外に出る。眩しく照り付ける太陽。天気は快晴であった。
「サ、これかラどうすル? セレバールへ戻ル? それとモこのママ、レイニーラへ行ク?」
ティムの一言でグラインはふとクレバルの事が気になり始める。
「そういえば、クレバルさんは……」
グラインがクレバルの名前を口にするものの、リルモとティムは渋い顔をする。
「あんな奴、知った事じゃないわよ。今頃レイニーラに帰ってるんじゃないの?」
リルモが言うものの、グラインはますますクレバルの事が気になるばかり。
「レイニーラはココからだとマダ距離があるシ、何があるカ解らないワ。アイツ一人でレイニーラまで辿り着けルのかしラ? 到底辿り着けなイどころカ、魔物の群れに襲われテ野垂れ死んデいてモおかしクないかもネ」
クレバルに辛辣な様子のリルモとティム。
「でも、だからといって……」
「ふん。見つけたらどう落とし前付けてやろうかしらね。出来れば叩きのめしてやりたいけど」
リルモの言葉に、グラインは内心心配してるのかなと察する。クレバルを探す事を目的にセレバールへ戻る事にしたグライン達。セレバールに辿り着くと、グライン達はクレバルを探し始める。
「うわあ!」
正面にいた小さな少年が転倒する。
「大丈夫?」
リルモが少年に駆け付ける。転倒で膝を擦り剝かせた少年は泣き出してしまう。
「よしよし、泣かないの」
リルモは手元の薬草で少年の手当てをする。
「うっ……ぐす……ありがとうお姉ちゃん」
少年は泣き止み、持っていた袋を手に取る。お使い帰りの途中だったのだ。
「お家まで送ってあげようか?」
リルモは少年を抱きかかえ、グライン、ティムと共に家まで送る事にした。少年の家に招き入れられる一行。
「この子の為にわざわざありがとうございます。昨日は町の外に遊びに行って魔物に襲われたというから色々心配で……」
「いえいえ、人として当然の事をしたまでです」
少年の母親が感謝の意を述べる。昨日少年を襲った魔物はグランドリザードであり、その時に通りすがりの男に助けられたというのだ。
「その男ってまさか……?」
少年を助けた男の話を聞いた瞬間、リルモの頭にクレバルの姿が思い浮かぶ。
「昨日この子を助けた男の人は今何処にいるか解りますか?」
グラインが問う。
「残念ながらそこまでは……あ。先程傷だらけの男の人が旅の手品師によって町に運ばれたって噂がありました。もしかするとその人が……」
「え?」
少年の母親の話で有力な情報を得たグライン達は、クレバルが町の何処かにいると確信する。
「間違いないワ。この子ヲ助けタのはクレバルヨ。グランドリザードに襲われテいタところヲ、命懸けデ助けようトしていタのヨ」
メモリードで少年の記憶を読んだティムは、少年を助けた通りすがりの男がクレバルだという答えを導き出したのだ。一行は住民から色々話を聞き回り、町の医療所を訪れる。そこにはベッドで横たわるボロボロの姿のクレバルがいた。
「クレバル!」
リルモが声を張り上げると、クレバルは一瞬で面食らった表情になる。
「リルモ! お、お前ら……戻って来たのか? うっ……」
痛む身体を抑えながらも半身を起こすクレバル。
「それはこっちが言いたいわよ! しかも何なのよこのザマは! 勝手な事言って一人で飛び出した挙句これって、本物のバカじゃないの? ええ?」
感情的に怒鳴りつけるリルモを前に、クレバルは申し訳なさそうに俯く。
「……すまねえ。お前の言う通り、俺は本物のバカだよ。お前らと喧嘩してまで一人でレイニーラへ帰ろうとしたら魔物にこっぴどくやられちまって、こんなブザマな形で逆戻りだなんて……本物のバカとしか言いようがねえ。返す言葉もねぇよ」
バツが悪そうに悔い改めるクレバル。
「フーン、ココに運び込まレるマでハ二度も助けられタってわけネ」
ティムはメモリードでクレバルの経緯を全て把握する。ベリロ高地へ続く洞窟の魔物である殻大蛇ロウロボスに敵わず、毒に冒されつつも命からがら逃げては力尽き、老婆ベーテンに助けられた事。その後、グランドリザードに襲われていた少年を助けてから岩山地帯の魔物達に次々と襲われてしまい、ボロボロに傷付いて気を失う寸前、旅の手品師ソフィアに発見され、医療所に運ばれたという。
「ケド、コレで思い知っタんじゃナイかしラ? 自分ガいかニ身勝手だったのカをネ」
ティムがクレバルの口元に杖を突き付ける。
「……ああ。俺は身勝手な奴だ。きっとバチが当たったんだよ。お前らには……本当に申し訳ないと思ってる」
クレバルは頭を下げながらも詫びるばかり。
「で、これからどうするつもり? 正直あんたを置いてそのままレイニーラへ行こうって考えたりもしたけど」
リルモが顔を近付けてクレバルに言う。
「……お前らの……役に立てる事がしたい。今まで勝手な事ばかり言ってたお詫びというか、お前らの力になれる仲間でありたいんだ。もう俺の事、嫌いになっちまっただろうけど……それでも俺はお前らの力になりたい。今思う事はそれだけだ」
クレバルが本音を呟くと、リルモはクレバルの肩に手を置いて鼻が密着する距離まで顔を寄せる。
「それが私達に言う事? 他に言う事は?」
眼前で詰問するリルモの熱い息を顔に浴びるクレバルは目線を逸らさないものの、黙り込んでしまう。
「グラインに謝るという事は考えていないの? ええ?」
息が掛かる至近距離でリルモが怒鳴りつけると、クレバルはグラインの方に視線を向ける。
「リルモ、よしなよ……」
グラインがリルモをクレバルから離れさせようとするが、リルモは顔を近付けたままクレバルに鋭い目を向けていた。
「……いいんだ、グライン。お前にも謝るよ。ごめんな」
クレバルがグラインに詫びると、リルモはクレバルから離れる。
「グライン……お前の幼馴染、どうなったんだ?」
クレバルがダリムについて聞くと、グラインは悲しい表情を浮かべて項垂れる。何かを察したクレバルはこれ以上は聞かない方が良さそうかと思い、ごめんと一言詫びる。
「クレバルさん。僕の方こそ勝手な我儘を言ったりしてごめんなさい。怪我が治ったら一緒にレイニーラへ帰りましょう」
グラインが詫びながら言う。
「ああ、さん付けしなくてもいいよ。俺はもう、先輩サマだとか威張れる資格なんてねぇから。これからは先輩後輩じゃなくて、仲間だ。俺の事はクレバルって呼んでくれ。敬語も使わなくていいから。俺はお前の先輩じゃなくて、仲間でありたいんだ」
クレバルの想いを感じ取ったグラインは快く承諾する。
「……わかった。よろしく、クレバル」
グラインが笑顔で手を差し出すと、クレバルはそっと手を握る。
「ふん、悔い改めて変わろうとしているんだったらしっかりと頑張りなさいよ」
横からのリルモの一言。
「マ、これデ良しとしまショウ。クレバルの怪我ハ一日くらいデ治りそうだかラ、それまでハ休息ヲ取っておきまショウ」
ティムの言葉を受け、グラインとリルモは宿屋で休む事にした。宿屋に向かう最中、ティムはある事が気になっていた。クレバルを医療所に運んだ旅の手品師ソフィアについてである。ソフィアのマジックショーを見た際、密かに記憶を読み取ろうとしたものの、何故かダグと同様、記憶が読めなかったのだ。
「ティム、どうかしたの?」
グラインが声を掛ける。
「ア、ちょっと考え事ヨ。ある事が気になってネ」
「ある事?」
「クレバルの記憶を読んだトコロ、町の医療所ニ運んだのハあのソフィアという手品師らしいのヨ」
「え、あの人が?」
ソフィアについて何か気になっていたティムは、ショーの時に記憶を読もうとしたが、何故か記憶が読めなかった事について打ち明ける。
「どういう事なの? あのダグとかいう鎧を着た奴も記憶が読めなかったそうだけど」
「解らナイけド……考えられるのハ、彼女モ人ならざる者……並みの生物だったラ普通に記憶が読めるハズなのヨ。ワタシのメモリードに故障はありえナイかラ」
ティムは記憶が読み取れない事から、ソフィアもジョーカーズの一人ではないかと推測しているのだ。
「でも、それだったら何故クレバルを助けたの? あの人は今何処に?」
「さあネ……言える事ハ、彼女モ要注意人物だト考えた方がいいわネ」
グラインとリルモは思わずソフィアの姿を探すものの、ソフィアらしき人物はどこにもいなかった。


そういえばあの人の手品にはどこかしら奇妙というか、不気味なものを感じていた。もしあの人もジョーカーズの一人だとしたら、一体何をしようとしているのだろうか。

それに、あのダグという男も何者なんだろうか。

ダリムに邪悪な力を与えたのは、闇の組織ジョーカーズだった。バグワム鉱山を拠点としていた生物学者のイゼクもジョーカーズとの契約によって邪悪な意思を持つようになっていた。

僕たちはいずれジョーカーズに挑み、やがて強大な敵に立ち向かう事になるのかもしれない。

ダリムを失った今、僕にできる事は……。

そして、僕の中に存在する秘められた力の正体は何なのか。僕が道を誤らなければというのは何を意味するのだろうか。


翌日、クレバルがいる医療所へ向かう。療養部屋の前には、既に完治していたクレバルがいた。
「よう。俺はこの通り、完全に治ったぜ」
怪我が治った事をアピールするクレバル。
「また勝手な事を言ったらどうなるか解ってるでしょうね」
リルモが顔を近付けて言う。
「わ、解ってるって! まだ信用してねえのか?」
「信用度は五十パーセントといったところよ。上がるかどうかは今後次第ね」
「そ、そうですかい」
まだクレバルを信用し切っていないリルモを見てグラインは苦笑いする。
「さ、行きまショウ」
一行はセレバールを後にし、岩山地帯を進んではベリロ高地へ続く洞窟へ潜入する。洞窟を進んでいると、けたたましい鳴き声が響き渡る。ロウロボスであった。
「こ、今度は仲間もいるから負けねぇぞ!」
ロウロボスを前に戟を両手で握り締めながら立ち向かおうとするクレバル。
「コイツは物理攻撃に強いワ。魔法で戦うのヨ!」
ティムのアドバイスを受け、リルモが雷の魔力を集中させる。
「スパイラルサンダー!」
螺旋の雷がロウロボスに炸裂する。ロウロボスは雷が弱点であったようで、苦痛の雄叫びを上げていた。
「やったわ。こいつは雷に弱いみたいね」
リルモは更にスパイラルサンダーを繰り出す。クレバルはリルモの奮闘ぶりを見て、やっぱり仲間がいないと乗り越えられねぇんだな、と思い知らされる。
「今だ! 雷の雨よ……エレキテルレイン!」
雷は雨と化し、豪雨のようにロウロボスに降り注ぐ。
「ギシャアアアアアアアア!」
雷の雨に打たれたロウロボスは全身を痺れさせながらも断末魔の叫び声を轟かせると、リルモはとどめとなる槍の一撃を口腔に突き立てる。ロウロボスは全身に電撃を帯びつつも、バタリと息絶えた。
「ふう、大した事なかったわね」
リルモによってロウロボスが倒された事を確認し、安堵する一行。
「リ、リルモ……」
リルモの実力を目の当たりにしたクレバルが声を掛ける。
「何よ」
「いや、何ていうか……やっぱお前には敵わねぇや」
脱帽した様子でクレバルが言うと、リルモが威圧するように顔を寄せる。
「そう言うならあんたも私達の役に立てるように頑張りなさい」
「お、おう! 勿論さ。このクレバル、一度決めた事はとことんやるのがモットーだからな!」
「よろしい。さあ、行くわよ」
リルモがクレバルを解放すると、一行は洞窟を進んで行く。
「何だカあノ二人のやり取りヲ見てイるト、安心さセらレるわネ」
ティムがグラインに耳打ちするように言う。
「そ、そうだね。元々仲がいいようだから」
「フフフ、仲間同士、関係が拗れナくてよかったワ」
一行は洞窟を抜け、ベリロ高地へ辿り着く。レイニーラはもうすぐだ。そう思った矢先、一行はレイニーラ方面の上空が黒い雲で覆われているのを目撃する。
「あれは……」
ティムの表情が強張る。レイニーラ方面は、ヘルメノンの塊となる暗黒の雲に覆われているのだ。


その頃――


「グ……アアアァァァァァアア!」
荒廃した城の中、巨大な蝙蝠の魔物を前にクスクスと笑うバキラ。傍らにはクロトがいる。
「もう完全に自分を見失ってるようだね」
バキラは叫び声を上げる魔物を見ながらも不気味に笑う。
「契約する前はかっこよかったのに、今ではただのバケモノだもんねぇ……これがエルフ族の王子だなんて誰も思わないだろうね」
魔物は、ジョーカーズとの契約によって身も心も邪悪に染まったエルフ族の王子だった。そして荒廃した城は、滅びを迎えたエルフ族の王の城となるエルレイ城であった。
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