Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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勇者の極光

焔の試練

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船旅から二日程経過した頃、陸地が見え始める。炎のエレメントオーブを守る巨人族の賢人がいる山のある北東の大陸ノスイストルであった。船は無人の砂浜に上陸し、携帯していた食料も尽きかけていたが故、一行は町を探す事に。
「やっと降りられたわ……」
「……あー、長い船旅だったぜ」
リルモとクレバルは若干顔色を悪くしている。二人揃って船酔いしていた様子であった。
「この辺に町とかあるの? 何もなさそうな感じだけど」
グラインが辺りを見回すと、そこは広い荒野であった。
「ここはノストル荒野ヨ。確かに荒野だけド、オアシスとなる場所くらいハあるハズ。調べてみるわネ」
ティムが杖を地面に置き、目を閉じて念じ始める。周辺に存在する人の気配を探るという能力であった。
「おいティム、何やってんだよ?」
クレバルが声を掛けるものの、ティムは応じない。
「……見えたワ」
目を開くティム。近くに人が集まる場所――村があるとの事だ。
「本当かよ?」
「ワタシのサーチ能力に狂いハないのヨ!」
「どうなってんだよこの珍獣は」
「いい加減珍獣って呼ぶのハやめてちょうだイ!」
ティムのサーチ能力を頼りに進んでいく一行。道中に魔物が襲い掛かるものの、一行は難なく蹴散らしていく。
「くらえ! えーいっ!」
リルモが雷に覆われた槍を魔物目掛けて投げつける。槍が敵に突き刺さった瞬間、リルモはスパイラルサンダーを槍に向けて放つ。致命傷からの追い打ちの電撃によって息絶える魔物。瞬時に槍を回収するリルモ。
「リルモの奴、結構容赦ねぇな」
片手で軽々と槍回しをするリルモを見てクレバルがグラインに小声で呟く。
「あはは……リルモには逆らえないよ」
「あいつには実力じゃあかないっこねぇや」
グラインとクレバルは魔法戦士兵団の上級クラスとなるリルモの実力を改めて思い知らされる。
「さっさと行くわよ。あなた達も頑張りなさい」
「お、おう」
仕切るようにリルモが言う。暫く歩いていると、人を乗せたラクダが見える。キャラバンであった。
「キャラバンだ。村へ向かってるのかな」
一行はキャラバンに接触を試みる。
「すみません! 僕達は旅の者なんですが……」
グラインはキャラバンに声を掛け、村の場所について尋ねる。
「ああ、村だったらこの近くにある。何しに来たのか知らんが、砂漠には下手に立ち入りしない方がいいぞ」
「砂漠?」
キャラバンの隊員曰く、近辺にあるストイル村の向こうにはジリリ砂漠という広大な砂漠が広がっているとの事。砂漠を通る必要があるのかと思いつつも、グラインは旅の目的を伝える。
「巨人族が住む山? それならこのノストル荒野内に存在するが、あそこも下手に立ち入り出来るような場所ではないぞ」
「でも、行かなきゃいけないんです。僕達には大事な目的があるんです」
「……どうしてもというなら村長に話すとよかろう」
そう伝えたキャラバン隊員は去っていく。キャラバンの向かう先は一行が目指す方向とは逆であった。
「どういうこった? 村長が何か知ってるっていうのか?」
首を傾げるクレバル。
「何にしてモ、どの道村に立ち寄る事にハ変わらないわネ」
村へ向かう一行。数十分後、一行はストイル村に辿り着く。村には何頭ものラクダがいる。一行は休憩がてら、村長の元を訪れる。
「巨人族が住む山、とな。本当に行くつもりならばしっかり準備しておいた方が身の為じゃぞ」
村長によると、巨人族は村の西に聳え立つギガント山と呼ばれる巨大な山に住んでおり、周囲は非常に気温が高く、並みの人間が準備なしで立ち入ると危険だという。
「そこまデ気温が高いのハ炎のエレメントオーブが関係していルのかしラ」
ティムはどうしたものかと考えているうちに、村長は奥から防護服のようなものを取り出す。
「これは?」
「いかなる気温でも耐えられる防護服じゃ。当分使われる事はないからお前さん達に貸しておこう」
村長が貸し与えた防護服は異国の職人によって砂漠の探索用に作られたものであり、灼熱地獄でも耐えられる冷却素材を使った特殊加工が施されたスーツであった。
「な、何だか動きにくいな……」
スーツを着た一行は動きの面で若干不便そうな様子。だがスーツの内部は涼しく感じる程ひんやりとしている。
「でモ、慣れれバ涼しくテ心地いいワ。ありがとうございマス、村長サン」
一行は村長に礼を言うと、戦利品を買い揃える事に。村ながらも品揃えは悪くなく、必要となる回復アイテム等が売られていた。アイテムを購入し、武器屋で購入したものはグライン用の武器となるシャムシール、クレバル用の武器となるグレイブであった。
「リルモは武器とか代えなくていいのか?」
「私はいいわ。母さんから貰った槍だし、一番使い慣れてるから」
リルモの槍は、魔法戦士兵団に入団した頃から母のルルカから与えられたものであった。ルルカ曰く、父が残していった槍との事で、ずっと手放さずに愛用していたが故に思い入れが強いのだ。一行は一先ず宿屋で休息を取り、翌日改めて巨人族が住む山へ向かう事にした。

夜――リルモは三つ編みを解いた長い髪を靡かせながらも、部屋の窓から夜風に当たっていた。突然の母親との死別の出来事が再び過ってしまい、気分を落ち着けようとしているのだ。
「なあリルモ、やっぱり無理してんじゃねえのか?」
クレバルが声を掛けるものの、リルモは返事しない。
「……すまねえ。余計なお節介はするもんじゃねえよな」
そっとしておく事にしたクレバルは布団に潜り込もうとする。グラインとティムは黙って見守るばかりだった。
「いいわよ。これからの事を考えて、気分を落ち着かせたかったから」
リルモが振り返る。ふわりと舞う長い髪から漂う香りに、クレバルは思わずドキドキしてしまう。
「あ、あのさ。もし何かあったら俺に相談してくれたっていいんだぜ?」
「別にあんたに相談する事なんかないわよ」
クレバルの一言に対して素っ気なく返すリルモ。
「……でも……ありがと」
リルモは小声で礼を言うと、布団に入る。
「アーラ、この様子だトまだまだワンチャンあるみたいネ」
ティムはニヤニヤしつつもクレバルを見つめている。
「ジロジロ見るなっての! あくまで仲間として何か力になれればって思ってだな」
「フーン、どう見てモタダの仲間っテ感情じゃアなさそウだけド?」
「うるせえよ!」
ティムとクレバルのやり取りを前に、グラインはアハハと笑うばかりであった。

皆が寝静まった頃、グラインはふと目が覚める。暗闇に包まれる部屋の天井をぼんやり見つめていると、不意に変わり果てた姿となった両親の事が頭を過り始めた。


父さん……母さん……

僕に……もっと力があれば……

あの時、あいつらがやってきた時から、僕の中に眠る力を自分の意思で扱う事が出来ていたら……

かつてバキラとクロトがレイニーラ城に現れた時、自分は何も出来なかった。目の前で深く傷つき、倒れるフィドールの姿。フィドールの力で遠くへ飛ばされてからはバキラ達の魔の手によって両親が、多くの人が邪悪な力に蝕まれてしまった。

自分は無力だった。幼馴染のダリムですらも救えなかった。自分の力の正体が勇者の力なのかは解らないけど、全てを救える力が欲しい。だからこそ、自分の中に眠る力が一体何なのか、すぐに答えが知りたいんだ。

僕は、無力でいたくない。


夜が更け、荒野の夜は風が吹き荒れていた。


翌日――準備を済ませた一行は改めて巨人族の住むギガント山へと向かう。村長から与えられた地図を見ながら進んでいくと、一行は猛烈な暑さを感じる。
「この辺りデ着た方ガ良さそうネ」
村長からは猛暑だと感じるようになったら防護服を着るように言われていた一行はすぐさま上着感覚で防護服を着る。
「すげえなこの服……動きにくいけど、全然暑くねえぞ」
防護服特有の心地いい冷却効果で暑さを感じなくなった一行は先へ進む。防護服を着ている時は不慣れなうちは動きにくいという事で、道中の魔物とは戦わないように進んでいった。そしてギガント山に辿り着き、気を引き締めて山道を行く。並みの人間ならば耐え切れない程の暑さとなる気温だが、防護服のおかげで難なく行動出来ていた。山道を進んでから一時間近く経つと、集落のような場所を発見する。そこには人間の数倍大きい巨体の男がいる。巨人族の集落であった。
「うわ、なんて大きい体……」
「でっけえな。あれが巨人族かよ」
「凄い……巨人族って本当にいたのね」
グライン、クレバル、リルモは巨人族の大きさに驚くばかり。
「ダレだ? 怪しいヤツ! 何しにきた!」
数人の巨人族が足音を立てながらやって来る。
「待っテ! ワタシ達ハ怪しい者じゃないワ」
ティムが説明しようとするものの、巨人族一同は防護服を着た一行を訝しんでいる。
「お待ち!」
突然の声。現れたのは片手にホウキを持ち、長い髪を双方に束ねた少女であった。子供でありながらも人間の少女よりも一回り大きめの体で、巨人族の子供である事が解る見た目をしていた。
「ティータ様!」
「こいつら、ニンゲン。ニオイでわかる」
ティータと呼ばれた少女は防護服姿の一行をジッと見つめる。
「オマエたち、なんでそんなカッコしてる? ニンゲンなのはわかってるゾ」
ティータが詰め寄るように言うと、ティムは巨人族の賢人に会いに来たという目的を話す。
「じいちゃんに会いたい? だったらその服、ぬげ」
「でも、この辺りハ人間にハ耐えられなイ暑さなのヨ」
「だったら、アタシが耐えられるようにする」
「え?」
ティータはホウキを両手に持ち、精神を集中させる。次の瞬間、一行は黄色い光の膜に覆われる。
「これハ……まさカ、レジストブースト?」
レジストブーストとは生物に備わる耐熱性や耐寒性を大幅に高める魔法であり、灼熱級の猛暑に耐えられる状態となったのだ。
「さ、服ぬげ。これでオマエたちも、暑さはへーき」
「はあ? ホントかよ」
疑うクレバルだが、ティムは防護服を脱ぐ。
「毛むくじゃらのワタシはこの通り平気だかラ、アナタ達も脱いデ大丈夫ヨ!」
平気そうな様子でティムが言う。グラインとリルモも防護服を脱ぐと、暑さは感じるものの、並みの真夏のような温度に感じられた。
「本当だ……暑い事は暑いけど、耐えられないって程じゃないな」
グラインとリルモも平気そうな様子を見てクレバルも防護服を脱ぐ。すると、ティータはグラインの近くまで寄っては顔を見る。
「な、何……?」
思わず後退りするグライン。
「……オマエ、いい男。アタシの好み」
「え?」
突然のティータの一言に驚くグライン。
「おいおい、いきなり一目惚れかよ?」
予想外の展開にクレバルとリルモは目を丸くする。グラインに近付いたティータは更に顔を寄せる。
「オマエ、見てわかった。オマエ、じいちゃんの言ってた男。じいちゃんに会わせてやる」
ティータは巨人族の賢人の家に案内する。賢人の家は、集落の奥にある巨大な岩の洞窟であった。
「じいちゃん! 勇者の子、連れてきた!」
「へ?」
ティータが口にした勇者の子という言葉に驚くグライン。洞窟の中は広大な空洞が設けられ、両手を掲げた像が立てられている。像の手の上には、赤く輝く宝玉が祀られていた。そして像の前で瞑想しているのは巨人族の賢人――名はタータ。白く長い髭が特徴の老巨人であった。
「じいちゃん! 聞いてるのか! じいちゃん!」
ティータが呼び掛けてもタータは反応しない。
「ウーン、どうやら瞑想中みたいネ」
ティムが困ったなと思った矢先、タータの目が見開かれる。
「……おお。ティータ、どうかしたのか?」
「連れてきたよ、勇者の子」
「なぬ! ふむ……確かにそんな雰囲気を感じるぞ」
タータはグラインの姿をジッと見つめていた。
「あ、あの。僕達は……」
「ワタシが説明するワ。賢人タータ。アナタはかつて紅蓮の勇者の盟友だったと聞くワ」
ティムは全ての事情、そしてグラインについて説明する。
「ふむ、そのグラインという子……秘められた力が目覚めると目が赤く染まるとの事だが……それは間違いないのじゃな?」
「エエ」
「その子に備わる力は紅焔くえんの魔力と天飆てんぴょうの魔力。つまり、炎を司る勇者と風を司る勇者の力を併せ持つ魔力なのじゃ」
自身に備わる未知の力の正体はやはり勇者の力だったという事を知らされ、驚きと戸惑いを隠せないグライン。ティータの言う通り、自分は本当に勇者の子だったのか? そんな事を考えているうちに、タータは軽く咳払いをする。
「……あの頃、あやつらは魔導帝国との戦いの後、ワシにこう言っておったわい。『地上の未来は子孫に託す』とな」
タータは勇者達と共にしていた頃――魔導帝国との戦いの後の出来事を語り始める。

魔導帝国に挑みし勇者達の中には、子を残した者がいる。勇者は九人存在し、その中の二人となる紅蓮の勇者フォティアと風塵の勇者アネモス。勇者達は地上の光を守る使命を受けた女神の子孫に当たり、使命を終えた後は未来を守る為に子孫を残さなくてはならない。二人は盟友の一人であるタータにこう告げていた。


私達にはまだやるべき事がある。未来の為にも。

地上の未来は私達の子孫に託す。


それから勇者達は自身に備わる力をエレメントオーブに封印し、子を残して地上を去っていた。己の力を封印した勇者達は何処へ旅立ったのかは誰にも解らない。残された子は二人の勇者の血筋の人間として生まれ、血筋となる者は代々生まれつき強い魔力が備わるようになっていた。それは先祖の力が受け継がれたという事ではなく、邪悪なる存在の復活によって勇者の血が新たな勇者の力を呼び起こしたとされている。勇者の力が目覚める時、自身の秘められた魔力が覚醒して目が輝く色に変化する。即ち、グラインに秘められた力はフォティアとアネモスの血筋となる者が持つ勇者の力――紅焔の魔力、天飆の魔力と特徴が一致している故、紛れもなく勇者の子であり、子孫に当たる存在だというのだ。
「それじゃあ、僕を育ててくれた父さんと母さんは……」
ふとグラインは以前見た夢の内容を思い出す。若い頃のバージルとラウラ、そして何者なのか解らないけど何故か懐かしさを感じる声が聞こえてきた。『どうか、この子をお願いします。時が来るまでこの子を……』といった声だった。あの夢に出てきたのは、父さんと母さんだったのか? でも、ただの夢とはどうしても思えないくらい記憶に残っている。もしあの夢の内容が自分の過去の光景だとしたら――。
「あやつらの子孫は、一度はワシのところに訪れていた。勇者の子孫には、先祖の力を封印したエレメントオーブを拝むという習わしがあったのじゃよ。そして……目的は違えど子孫に当たるお前も今、此処を訪れた」
フォティアとアネモスの子孫は代々先祖の力を封印した各地のエレメントオーブを拝めていた。いかなる邪悪な存在から地上の未来を守れるよう、勇者の血を絶やさない為にも先祖の加護を受けるという習わしが存在していたのだ。そして、グラインの前となる子孫の名はグルート。ある王国に住むレヴェンという名の聖女と結ばれて子供をもうけたばかりで、我が子の為にと先祖を崇めていたという。
「つまり僕はその……グルート、レヴェンという人の子だというのですか?」
先代子孫であり、本当の両親に当たる存在を知ったグラインは思わず自身の生い立ち――レイニーラ王国で魔導師の端くれであったバージルとラウラの子として育った事を打ち明ける。
「グルートはこう言っておった。『光の聖都に伝えられし予言の出来事が訪れようとしている』とな」
グルートとレヴェンは旅の最中、光の聖都に伝わる巨大な闇の脅威が訪れる予言の存在を知ったと同時に、近い将来、自分達に巨大な闇の手が迫るという不吉な未来が夢となって何度も出てきたという。そして生まれたばかりの我が子――グラインを闇の手から守る為にも異国の地に預けようとしていたと。
「まさか、本当の父さんと母さんが……」
今まで親だと思っていたバージルとラウラが本当の両親じゃないという事実をグラインはなかなか信じられずにいた。
「……グラインよ。お前に備わる勇者の力を己の意思で扱うには、まずほむらの試練を受ける必要がある」
「焔の試練?」
焔の試練とは洞窟の地下深くに広がる劫火の魔窟と名付けられた溶岩の流れる場所で行われるものであり、歴戦の勇者も試練によって自身の力を扱える強さを身に付けていたという。
「その焔の試練を乗り越えれば、僕の中に眠る勇者の力を意のままに扱えるようになるのですか?」
「いや……まだそこまでには至らぬ。お前の中に宿る勇者の力は二つのエレメントを司る。つまり、二つのエレメントに纏わる試練を受けなくてはならぬのだ」
勇者の力を自在に扱えるには焔と嵐の試練を乗り越える必要がある。焔の試練は力の暴走を抑える為の試練で、嵐の試練は力を制御する為の試練となる。嵐の試練は南の大陸オストリーに存在する鳥人族が住む地であり、風のエレメントオーブが祀られた烈風の谷と呼ばれる場所で行われるという。
「……解りました。それで大切な人達を救えるなら……どんな試練でも乗り越えてみせます」
グラインは真剣な眼差しで試練を受ける意思を伝える。
「うむ、よくぞ言った。ではついて来るがよい」
タータはグラインを洞窟の奥へ連れて行く。
「なあ、俺達はどうすりゃいいんだよ?」
クレバルが言うと、ティータが前に出る。
「オマエたち、ここで待つ。グライン、帰ってくるまで待て」
大人しく待機するようにとティータが言う。
「つまり関係ない奴らは来るなって事かよ。グラインが受けようとしてる焔の試練ってのはどんなもんなんだ?」
「それは本人しだい。ヘタすりゃ死ぬ」
「はああああ? 縁起でもねぇ事言うなよ!」
何言ってるんだこいつと掴み掛ろうとするクレバルだが、リルモに抑えられる。
「グラインが戻って来るまで、アナタ達モ少し鍛えたラどうかシら? 何もしなイよりはマシじゃなイ?」
クレバルを抑えているリルモがなるほどと言わんばかりの顔になる。
「……そうね。ちょうどいい機会だわ。私達も強くならなきゃ」
ティムの提案に賛同するリルモ。
「さあクレバル、修行の時間よ。グラインが戻るまでみっちり特訓するわよ」
「マジかよぉ……」
強引にクレバルを引っ張る形でリルモは外に向かう。
「オマエたちも修行か? だったらアタシがつき合ってやる」
ティータが身軽な動きでリルモ達の前に飛び出す。
「え、付き合ってやるってどういう事?」
「アタシがケーコつける。アタシ、炎のマホウ、得意だから」
「はあ? お前が稽古つけるって? おいおい、何のジョークだ?」
笑うクレバルにティータが火の玉を投げる。
「あ、あっぶねえ! いきなり撃つんじゃねえよ!」
「アタシをなめては困る。アタシだってじいちゃんに鍛えられた。炎のマホウ、いろいろ使える」
タータの修行で様々な炎の魔法を習得したというティータの記憶をこっそりと読んでいたティムがなるほどネと呟く。
「うーん、試しに引き受けてみようかしら。ティータちゃんといったわね。よろしく」
「シクヨロ!」
ティータの稽古を引き受ける事となったリルモ、クレバルは洞窟の外に出る。


タータに連れられ、洞窟の奥深くにある地下へ続く階段を降りたグラインは凄まじい熱気を感じ取り、思わず足を止める。煮えたぎる溶岩が流れ、至る所に炎が吹き荒れる広大な空間が広がっていたのだ。

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