Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

文字の大きさ
上 下
25 / 47
勇者の極光

古びた炭鉱へ

しおりを挟む
夜――聖地に雨が降る。雨に濡れながらもドレイアドの村に戻ったグライン達はリルモの元へ向かう。旅の予言者による光の回復魔法で傷は完治し、意識はまだ戻らないものの、辛うじて一命は取り留めたと長老は説明した。
「爺さん、リルモは大丈夫なんだよな。いつ目を覚ますんだ?」
「そろそろだと思うんだが……まあ一晩過ごせば流石に目を覚ますじゃろう」
クレバルは心配そうに安静中のリルモを見つめる。その傍らでグラインは物憂げな顔をしていた。
「そういえバ。ガザニアはどこヘ?」
ふとガザニアの事が気になったティムが言う。長老曰く、ガザニアはルエリアとの戦いの最中に逃走したジギタを追っているとの事である。
「あの男、復讐だとカ落ちこぼれだト蔑んだ奴らヲ皆殺しにするとカ言ってたケド……」
ティムはジギタの言動について知ってる限りの事を打ち明けると、長老が眉を顰める。
「ジギタめ……それでルエリアの封印を解いたというのか」
長老はジギタについて話し始める。ドレイアド族は数百年に一度、神樹が聖地内にばら撒く無数の種子から生まれる種族であり、皆が生まれつき自然の力を司る木の魔力が備わっている。だがジギタは木の魔力が備わっていない存在として生まれた者だった。ドレイアドの種子には神樹の魔力が蓄えられており、木の魔力が備わっているのはその為であるが、ごく稀に魔力のない種子が形成される事があるという。つまりジギタは魔力のない種子から生まれたドレイアド族であり、同族から異質な存在として見られていたと同時に、何の力も持たない落ちこぼれと認識されていたのだ。
「例え力がなくとも、誰かの役に立つ事が出来るように働けば十分立派になれるだろうに……もっと奴に寄り添っていれば……」
ジギタの裏切りに長老は後悔の念に駆られていた。
「只今帰ったわ」
ガザニアが帰宅する。
「おおガザニア。ジギタは?」
「完全に逃げられたわ。ゴキブリ並みの逃げ足だったみたいね」
結局ジギタに逃げられてしまった事を報告すると、そうかと長老が溜息を付く。
「取り込み中に失礼だけド、改めてお願いするワ。長老……」
「ああ、言わずとも解っておる」
長老は木のエレメントオーブをティムに差し出す。
「もう知っておるかもしれんが、オーブはルエリアの封印を守るカギだったのじゃよ。ルエリアが死んだ今、渡さぬ理由がなくなってしまったからの。受け取るがいい」
「ありがとうございマス」
ルエリアの封印を守る役目を終えたという事で木のエレメントオーブを受け取ったティムは長老に礼を言う。
「ようやくオーブをゲットしたな。けどまだ二つ目なんだよなぁ」
クレバルがぼやきつつも、グラインの方に顔を向ける。
「おいグライン、さっきから何浮かねぇ顔してんだ?」
グラインは目が覚めたかのようにクレバルの声に反応する。
「あ……ごめん。つい考え事してて」
「考え事?」
「なんてーか、その……どうしてこうなったんだろうって」
俯き加減でグラインが言う。
「ルエリアの事か?」
「……うん」
グラインはルエリアの悲劇と犠牲、そして魔導帝国の非道な行いについて考えていた。何故愛し合っていた二人の幸せを引き裂かれなければならないのか。何故助からないまま犠牲にならなければならないのか。悲しい運命に打ちのめされた幼馴染のダリムを救えなかっただけでも辛いのに、またも助からない命があった。しかも自らの手で命を奪う事になってしまった。たとえ望んだ事といえど、自分の手で罪無き者の命を奪う事はしたくなかった。でも、こうするしかない。こうする事で助からない苦しみから救われる。それを受け入れなければならない。解っていても、なかなか受け止める事が出来ない自分がいる。そして自分に問う。


勇者って、どこまで救えるんだろう。

どんな人の手でも救われないものがあったとしても、それは本当に救えないのだろうか。


グラインが考え事をしている中、ガザニアが隣に座る。
「あなたはグラインだったかしら。ルエリアを倒した事に心を痛めているわけ?」
ガザニアの問いにグラインは浮かない顔で頷く。
「ふーん、あなたって優しい子なのね。赤の他人の事情なのに。ルエリアがああなったのは、魔導帝国とかいうドクズのせいなんだからいちいち気にする事ないわよ」
ガザニアの率直な一言。
「そういうこったぜ。何をそんなに気にする必要あるんだ? いつまでも気にしたって仕方ねえだろ」
「グライン。アナタは彼女ヲ苦しみかラ救ったのヨ。彼女ハ、天国で愛する人と幸せニ過ごしているワ。愛する人モ天国にいるんだかラ。今ハ前向きに考えテ」
クレバルとティムが言うと、少し間を置いて「そうだね」とグラインは返した。
「うっ……」
意識を取り戻したリルモが目覚める。
「リルモ! 気が付いたのか?」
クレバルが声を上げると、リルモが辺りを見回す。
「ここは……? 私、助かったの?」
グライン達の姿を見て、リルモは状況を把握しようとする。
「辛うじて命拾いしたってところよ。最も、わたくし達だけじゃあ助けられそうになかったけど」
致命傷によって失いかけていた命を助けられたという現状に表情が綻ぶリルモ。
「リルモ……無事でよかったよ!」
クレバルは感極まって思わずリルモに抱きつく。
「なっ……ひっつくんじゃないわよ!」
リルモは全力のビンタでクレバルを張り飛ばすと、左胸部分から痛みが襲い掛かる。塞がったばかりの傷口の痛みは完全に消えていなかったのだ。
「ううっ……」
左胸を抑えるリルモ。
「傷口が塞がったばかりだから無理もないわ。まあ少し経てば痛みも治まるんじゃないかしら」
リルモは身体を動かしてみるものの、大きく動かすだけでも胸から痛みが走る状態で、痛みが治まるまでの間は武器での戦いは厳しい様子であった。
「ところで、リルモを助けてくれた旅の予言者って一体……」
グラインは旅の予言者の事が気になり始める。三日前に自分達の訪れを予言し、光の魔力による回復魔法でリルモを助けた事以外は解らない謎の存在であり、ガザニアや長老でも何者なのか全く解らないという。
「私を助けてくれた予言者さんにお礼を言いたいけど、どこに行ったのかも解らないの?」
リルモが予言者の向かう先について聞くものの、誰にも答えられない。
「マア、オーブを手に入れる目的は果タしたし、今日ハゆっくり休んでおきまショウ。旅はまだまだこれからヨ」
ティムの言葉に従い、一行は長老の家で一晩過ごす事に。皆が寝静まった頃、グラインはふと目が覚め、長老の家から出る。雨は上がり、夜の闇に包まれた村に吹き付ける風を浴びながらもグラインは深呼吸をする。ルエリアの末路でざわついた心を落ち着かせ、精神を研ぎ澄ませる為の深呼吸であった。呼吸を整えた時、グラインはふと見上げる。


僕が憧れている伝説の大魔導師も、勇者の一人だと聞く。伝説の大魔導師でも、救う事ができないものもあるのだろうか。


そんな事を考えていると、不意にヘルメノンに蝕まれて魔物化したバージルとラウラ、クレバルの両親クラークとセメンの姿が頭を過る。グラインは頭に浮かんだ最悪の可能性を払い除けようと必死で頭を横に振る。


父さんと母さん達にも、同じような事は絶対にさせない。

……救ってみせる。父さんと母さん、そしてレイニーラの人々は……絶対に救ってみせる。


グラインは拳に力を入れつつも、再び家の中に戻っていく。


翌朝――木のエレメントオーブを手に入れたグライン達は長老に礼を言い、再び旅立とうとする。
「ちょっとお待ち!」
声の主はガザニアだった。
「あなた達の旅、わたくしもご一緒させてもらうわ」
ガザニアの同行宣言に驚く一行。
「ガザニア、どういうつもりじゃ!」
「裏切り者を探す目的よ。あのジギタはとっ捕まえてやらないと気が済まないの。この子達はエレメントオーブを探す為に世界中を旅しているようだから、ご一緒しているうちに見つかると思ったまでよ」
ガザニアがグライン達に同行する目的は同族の裏切り者ジギタを探す他、聖地から外の世界を堪能したいという個人的な理由もあっての事であった。
「おいおい、冗談じゃねえぞ。あんな奴なんか正直どうでもいいし」
「お黙り。あなた、レディ一人で広大な世界を探し回れって言うつもり?」
クレバルはガザニアに対して少々苦手意識を持っていたが故、ガザニアの同行に乗り気ではない様子だ。
「とにかく。ジジイが反対しようと、わたくしはこの子達に付いていくわ。わたくしの自然魔法もこの子達にとって役立つんじゃないかしら」
「ガザニア、お前……」
ガザニアは種子を取り出し、地面に向けて投げる。すると、種子はみるみると棘のある蔦に変化し、薔薇の花が咲き始める。
「な、何だこりゃ? マジかよ……」
「この程度など朝飯前よ。わたくしの自然魔法を見縊らないでちょうだい」
ガザニアの自然魔法の凄さを実感する一行。
「そんなわけで。宜しく頼むわよ」
「は、はい。こちらこそ」
半ば強引に仲間入りするガザニアを迎え入れたグライン達は改めて旅を再開する。
「待て、ガザニア!」
長老が引き止めるように呼び掛ける。
「何? 制止は聞かないわよ」
「いや……一言だけ言わせて欲しい。彼らの力になってくれ、と」
長老の一言に返事するかのように軽く手で合図するガザニア。ドレイアド族に見送られながらも村を後にする一行。次なる目的は地のエレメントオーブである。
「ねえティム。地のエレメントオーブが何処にあるか解るの?」
「ウーン、この大陸にハ古びた炭鉱があるかラ、そこガ有力じゃないかしらネ。少なくとモ大地の勇者のゆかりの地はこの大陸内に存在すルのは間違いないハズヨ」
ガザニアはティムの姿をジッと見つめる。
「この喋るバケイヌは見た目の割には博識なのね」
「バケイヌって酷いわネ! ……マア、ある意味そうかもしれないケド」
「ああ。こいつは動く珍獣ナビゲーターといったところだぜ」
クレバルの横からの一言にティムが頭から湯気を立たせる。
「ち、珍獣って呼ぶナって言ったでショオオオオ!」
声を張り上げてクレバルに怒鳴りつけるティム。
「随分騒がしいのを連れてるのね」
「はは、ああ見えても色々頼りになるんだよ」
グラインはティムについてガザニアに説明する。
「おいティム。お前の知識って次のオーブがある場所までは解んねぇのかよ。一番最初のやつはちゃんと場所まで知ってたんだろ?」
「ウルサイわネ! いくらワタシでも全部完璧に知り尽くしてルわけじゃないわヨ!」
ティムの知る限り、地のエレメントオーブがあるとされる大地の勇者ゆかりの地となる場所はイスラン大陸内の地底であり、詳しい場所までは把握出来ていないという。大地の勇者は地底人と呼ばれる種族ドワーフと親交を重ねていたらしく、ドワーフは炭鉱で暮らしていたと言われている。つまり古びた炭鉱にドワーフが住んでおり、地のエレメントオーブについて知っているのではないかとティムは考えていた。
「魔物だ!」
グラインが声を上げると、魔物の大群が立ちはだかる。
「どんなに大勢で出てこようと……ぐっ!」
リルモが槍を構えた瞬間、傷跡からの痛みが襲い掛かる。思わずよろけるリルモをクレバルが支える。
「まだ痛むのかよ?」
「ええ……ってあんた、変なところ触らないでよね!」
「何だよ、支えてやってんだろうが!」
リルモとクレバルが言い合ってる中、ガザニアは敵に向けて数個の種子を撒く。種子はイバラの蔦に変化し、次々と大勢の魔物達を捕えていく。更に蔦の先端部分が捕虫器のような形になり、食虫植物となって捕えた敵を食らい尽くした。
「凄いや……」
ガザニアの自然魔法で生み出された食虫植物を見て驚くグライン。
「ザコなんてわたくしにかかればこの通りよ」
さっさと歩き出すガザニア。
「ガザニアさんは敵に回したくないタイプね……」
リルモが率直な感想を漏らすと、クレバルは全くだぜと言いたそうに頷いた。


聖地を抜け、林道を抜けた一行が辿り着いた先は、トロピ山林であった。
「おいティム、古びた炭鉱ってのは何処にあるんだよ。本当にこの辺にあるのか?」
数々の魔物との戦いを重ね、数日間彷徨っていたが故に半ば苛立ち気味のクレバルが言う。
「このトロピ山林ノ何処かニあるはずヨ。問題は炭鉱の場所だけド……」
「あのなぁ、いつまで歩かせるんだよ! これでもし違ってましたなんていうオチだったらブッ飛ばすぞ!」
「ウルッサイわねェ! わかったわヨ! サーチで探ってみるワ」
サーチ能力を使おうとティムは杖を地面に置き、目を閉じて念じ始める。
「あら、今度は何をするっていうの?」
ガザニアはティムの行動に興味津々の様子。ティムが目を開くと、近くに人の気配がするとの事であった。
「人の気配?」
「エエ。三人くらいの人が近くニいるのが見えたワ」
「で、そいつらが何の当てになるんだよ」
「何か知ってルかも知れないでショ! 行くわヨ」
一行はティムのサーチ能力を元に、人の気配がする場所へ向かう。
「なあガザニアさんよ。あんたの自然魔法ってやつで食い物とか出せねぇのか? 野菜とか果物とか」
すっかり空腹状態となっていたクレバルが言う。
「それは専門外よ。第一、ドレイアド族はあなた達と違って食べ物は必要ないのよ」
「はあ?」
どういう事だよと問うクレバル。ドレイアド族は外見上は人の姿をしているものの、特性は植物そのものであるが故に食事を摂る必要がなく、水分を補給するだけで生きていける種族であった。
「ふーん、ドレイアドってのは食の楽しみと全く縁がない種族なんだな」
「嫌味のつもり?」
「滅相もない!」
そんな会話を繰り返していると――
「うわあ!」
「きゃああああ!」
なんと、全員が落とし穴に落ちてしまい、高い木の上から巨大な網が覆うように降ってくる。
「アンタ達! 獲物がかかったわよ!」
声と共にやって来る男達。頭にバンダナを付けた逞しい体付きの男二人と赤いマントを身に纏う細身の男といった三人組が仕掛けた罠であった。
「ルビー様! こいつら、人間ですぜ」
「人間だけど一匹ブタイヌが混じってるであります」
バンダナの男二人が言うと、穴の中のティムが頭から激しく湯気を立たせる。
「ブ、ブタイヌって誰の事なのヨォォォ!」
ひたすら怒鳴り散らすティム。グライン達は穴から逃れようとするものの、網が纏わりついて思うように動けない。
「はああああ? 野生動物じゃなくてただの旅人が罠にかかったってわけ? まずブタイヌなんて食えるわけないでしょ!」
ルビーと呼ばれた男がブタイヌという言葉を口にした瞬間、ティムはますますいきり立つ。
「ブタイヌって言うんじゃないわヨォ! 乙女ゴコロのわからないアナタ達は最低ヨ! 最ッ低!」
「うるっせえ!」
喚き散らすティムの横でガザニアは地面に仕掛けた種子から蔦を生み、網を持ち上げていく。同時に蔓も生み出し、上に登れるよう端に設置する形で伸ばしていった。
「マジかよ……」
「蔓に登りなさい。とても頑丈だから何人分の体重が掛かっても切れやしないわ」
「ええっ?」
そう言ってガザニアはさっさと蔓に掴まり、上に登っていく。
「おい、この蔓本当に大丈夫なのか?」
「今は躊躇してる場合じゃないわよ」
「でも……っておい!」
リルモとティムは蔓に掴まり、上に登って行った。
「だ、大丈夫だったら僕も……」
半ば恐る恐る蔓に掴まり、上に登るグライン。
「……えーいままよ!」
クレバルも蔓に掴まり、登っていく。全員が穴から脱出すると、三人組が立ちはだかっていた。
「こんなくだらない真似してくれたのはあんた達かしら?」
ガザニアが鋭い目で三人組に近付く。
「ヒエー! お、お待ちなさい! アタシ達はただ、夕食用の食材の狩りのつもりで落とし穴を仕掛けていたつもりだったのよ!」
「そうだそうだ! オレ達はお宝を求めて旅をするお宝ハンターなんだぞ」
「まだ言わなくていいわよ!」
何だこいつらと言わんばかりにきょとんとするグライン達。
「おっと、まずは自己紹介ね。アタシ達は世界を流離うお宝ハンター!」
ルビーの取り巻きの男二人が一歩前に出る。
「オレの名はバン」
「アッシの名はディット」
ルビーが赤いマントを翻す。
「そ・し・て! アタシの名はルビー。魅惑のルビーと呼ばれる者よ」
華麗にポーズを決めては投げキッスを送るルビー。
「ヒュー! オネエ様、今日もセクシー!」
「イヨッ! 麗しのオネエ様!」
バンとディットがルビーをおだて始める。その様子に白けた表情のグライン達。
「おい、何なんだよこいつら。お笑いトリオか?」
「さあ」
クレバルの問いに誰も答えられず、向かい風が吹き始める。
「ちょっとアンタ達! 何なのよその白けた顔は! それにアタシ達はお笑いトリオじゃないわよ!」
「どう見てもしょうもないお笑いトリオにしか見えねえだろ。クッソ寒くなってきたぜ」
「な、何ですってええ!」
クレバルの突っ込みにルビーは鼻息を荒くする。
「まあまあ、落ち着いて。あなた達も旅人なんですか?」
グラインが宥めるように問う。
「そういう事になるわね。この辺りにあるという古びた炭鉱に行くつもりなのよ」
「そうだったんですか。僕達も古びた炭鉱へ行くところでして……」
「お待チ!」
グラインが言い終わらないうちに、ティムが言葉を遮る。
「アナタ達は何が目的デ古びた炭鉱へ行くのかしラ? お宝ハンターと言ってるケド、言い換えれバ盗賊なんでショウ?」
ティムが問い詰める。
「盗賊じゃなくてお宝ハンターって呼びなさい! って、何なのよこの変な毛むくじゃらは!」
「毛むくじゃらって言うンじゃないわヨ! 質問に答えられないなラ、探りを入れさせテもらうわヨ」
「ふん。アタシ達が古びた炭鉱へ行く目的は当然! 伝説のお宝よ。トレジャーハンターの間では古びた炭鉱に伝説のお宝が眠っていると伝えられているのよ」
「そ、それってもしやエレメントオーブの事では……」
グラインが思わず口に出すと、ティムが咄嗟にグラインの口を塞ぐ。
「エレメントオーブですって? 何なのよそれは!」
ルビーが興味津々に問い詰める。どうやらエレメントオーブの事を全く知らない様子であった。
「さ、さあネ。ワタシにもよくわからないワ」
「とぼけたって無駄よ! もしや伝説のお宝ってそのエレメントオーブの事じゃない? そうでしょ!」
「知らないわヨ!」
グラインの口を塞ぎながらも、下手に興味を抱かれると色々面倒な事になりそうだと思い始めるティム。リルモ、クレバル、ガザニアは何なんだこの茶番はと言わんばかりに呆れ返っていた。
「まあいいわ。アタシ達はそのエレメントオーブを頂きに行ってやるわ。アンタ達! 伝説のお宝を求めてゴーよ!」
「イエッサー! って、メシは?」
「こんな連中のいるところだと落ち着かないわ! 別のところでメシにするわよ!」
「ラジャー!」
ルビー達三人組が地図を片手に去って行く。
「ただの三馬鹿じゃねえか」
クレバルが言うと、ティムはグラインを解放する。
「モウ、グラインったらどうして言わなくていい事まで言うのヨ」
「ご、ごめん。言わない方がよかったのかな」
「何者であろうト、見ず知らずのヒトにオーブの事ハ軽々と教えるもんじゃないわヨ」
グラインを責めるティムを見ていたガザニアはくだらないわねと呆れ顔になる。
「んな事より腹減ったよ。何か食い物ねえのか」
ますます空腹を感じるクレバルがぼやく。
「不便な種族なのね、人間って。いや、人間に限った事じゃないかしら」
「うるせえな! 人間の間で腹が減っては戦ができぬって言葉があるんだよ!」
クレバルとガザニアが言い合ってるうちに――
「ぎゃああああああ!」
突然の叫び声。即座に声が聞こえた方に向かうと、なんとルビー達がマンモスの魔物『ラガーモス』に襲われていた。
「こ、こんなバカでかいゾウの魔物がいるなんて聞いてないわよ! アンタ達、何とかしなさいよ!」
「そ、そんな事言われましても……アッシらの敵う相手じゃあ……」
ラガーモスが怒り狂ったかのように鼻息を荒くさせ、地団駄を踏み始める。
「大変だ! 早く助けなきゃ!」
グラインはルビー達を助けに向かう。
「あんな奴らでも助けようってのか?」
「だからって見殺しにするわけにはいかないわよ」
乗り気ではないクレバルだが、リルモも加勢しようとしていた。
「やれやれ、仕方ないわね……」
ガザニアはラガーモスに向けて種子を投げる。種子が地面に落ちると、次々と蔦がラガーモスの足元から生え始め、巨体を捕えていく。
「これは、ガザニアの自然魔法……?」
無数の蔦に捕われたラガーモスを見て隙ありとばかりにリルモが前に飛び出し、雷魔法スパイラルサンダーを発動させる。更にグラインが炎魔法ファイアウェイブで攻撃する。二人の魔法によってあえなく倒れるラガーモス。
「あ、あんなバカでかい魔物をあっさり……?」
グライン達の実力に驚くばかりのルビー達。
「ただの見掛け倒しだったみたいね……くっ」
痛みに襲われ、左胸を抑えるリルモに無理しないでとグラインが声を掛ける。
「おい、こいつ食料にすればいいんじゃねえか? マンモスの肉も食えるって聞いた事あるぜ」
クレバルの言う通り、マンモスの魔物は食用として狩猟されている。ラガーモスの肉もまた、人間や様々な種族の食用として好まれているのだ。
「大丈夫かい?」
グラインはルビー達に声を掛ける。
「ア、アンタ達……なかなかやるじゃない。このゾウ、食えるらしいわね? 肉捌きならアタシ達に任せてちょうだい」
ルビー達は武器を取り出し、ラガーモスの巨体を捌いていく。肉の解体作業に思わず目を背けるグライン。日が暮れ、焚火の炎に肉が焼かれ始める。一行はルビー達と共にその場で休息を取る事になった。
「おお、こりゃあうめえ! 魔物の肉って思ったよりもうめえんだな」
ガツガツとラガーモスの肉を頬張るクレバル。
「バン。ディット。古びた炭鉱へ行くのは一旦やめる事にするわ。どうやらアタシが思ってた以上に危険な予感がするのよね」
ルビーが弱気な様子でぼやく。
「オネエ様、どういう事ですかい? あれだけ伝説のお宝を探す気マンマンだったじゃないですか!」
「お黙り! 下手すりゃ死ぬかもしれない危険を冒してまでお宝を探す程バカじゃないわよ。第一、この子達が来なかったら確実に死んでたのよ」
あっさりと折れてしまったルビーを見てティムが本当にそうかしラ、と疑いの目を向ける。
「おいおい、随分諦めが早いんだな。魔物が怖いって事か?」
からかう調子でクレバルが言う。
「そ、そういう事ね。すっごく恐ろしい魔物が出そうだと思ったから、一旦引き返した方がいいかなって思ったわけよ」
苦笑いするルビー。
「……マ、一応言っておくケド。古びた炭鉱にハさっきの魔物ト比べ物にならないような魔物がいるかもしれないわヨ。アナタ達が言う伝説のお宝を守るガーディアンがいてモおかしくないんだかラ。命が惜しけれバ帰った方が身の為ヨ」
ティムが諭すように言う。
「そ、それもそうね。そうさせてもらうわ。アンタ達! 腹ごしらえしたらさっさと帰るわよ!」
「し、しかしオネエ様……」
「これは命令よ!」
バンとディットは納得がいかない様子。腹ごしらえを終えたルビー達は軽く礼を言って去って行き、夜は更けていく。一行はその場で一晩過ごす事にした。

翌朝、一行は旅を再開し、古びた炭鉱へ向かう。歩く事数時間、一行は人工的に作られたような洞窟の入り口を発見する。中には坑道が設けられている。
「ここが……?」
「エエ、間違いないワ。これが古びた炭鉱ヨ」
これが古びた炭鉱だと確信し、中に入っていく一行。


「よし、あそこに間違いないみたいね」
三人の男がグライン達の後をこっそりと付けている。ルビー達であった。
しおりを挟む

処理中です...