Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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勇者の極光

眠りの歌

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都市内の散策で時間を潰していたディスカ、ティム、ガザニアは宮殿に向かう。夜の刻が訪れ、大臣や兵士が寝静まる頃の時間となっていた。海底人族は基本的に眠る時間が他種族よりも早く、一日十時間以上の睡眠は当たり前。よって夜が訪れた頃には夜番を任された兵士を除き、皆が寝る時間となっているのだ。
「やはり夜番の兵がいるようだな」
静まり返った宮殿内には、夜番の見張りが数人いた。だが一人一人が眠そうな様子である。
「あら、随分と眠そうじゃない」
ガザニアはフウッと軽く息を吹き掛ける。次の瞬間、無数の粒子が見張りの兵士目掛けて飛んでいく。眠りの効果がある花粉を放ったのだ。見張りの兵士は一気に眠気に襲われ、深い眠りに就く。
「なるほど、これが自然魔法か」
ディスカはガザニアの自然魔法の効果に驚くばかり。
「この程度なんて朝飯前よ。あなただってわたくしにかかれば一瞬でお眠りに出来るわよ」
「眠れない時には有難いが、今は遠慮しておこう」
三人は警備が手薄となった宮殿を進んでいき、大臣の部屋に辿り着く。大臣はよく眠っていた。
「このオヤジは色々気に入らないからもっと眠らせておこうかしら」
ガザニアは大臣に向けて眠りの花粉を吹き掛ける。大臣はイビキをかきながらもより深く眠り、ディスカとティムが部屋中を漁り始める。
「ア。コレじゃないかしラ」
ティムは部屋のタンスから鍵を発見する。ポセイドルの部屋の鍵であった。
「おお、これに間違いあるまい」
鍵を発見した三人は、すぐさまポセイドルの部屋へ向かう。キングサイズのベッドで眠るポセイドルは、若々しくも美形のマーマンであった。ポセイドルの眠りは通常の睡眠ではなく、昏睡状態という印象を受ける。
「ンマー。海王も案外イイ男じゃなイ。フフフ、海底人族ハ本当に美形が多いのネ」
ティムがジッとポセイドルの寝顔を見つめている。
「おいおい。今はそんな事言ってる場合じゃないだろ」
「わかってるわヨ。職務はちゃんとこなすわヨ」
ティムはメモリードでポセイドルの記憶を探り始める。


ポセイドルが深い眠りに就く前からの記憶――ある日、ポセイドルは宮殿のバルコニーでリヴィエラの歌を聴いていた。
「美しい歌声だ……あの娘、リヴィエラと呼ばれていたか」
リヴィエラの歌はポセイドルをも魅了してしまう程で、思わず部下にリヴィエラを城に招待するように命令する。快く城にやって来たリヴィエラは様々な歌をポセイドルや大臣に聴かせていた。
「うむ、素晴らしい。君の歌声はまるで女神のようだ」
「まあ……海王様にお褒め頂けるなんて光栄です」
「ハハハ、お世辞ではないよ。君の歌を聴いているとよく眠れそうなんだ。最近どうにも寝つきが悪くて困っていたものでね」
賛辞の言葉を述べつつも笑うポセイドル。
「確かにリヴィエラ殿の歌声は不思議な感じがしますなぁ。何というか、心地良さが染みわたって来るというか」
大臣も絶賛の様子。
「いやはや、突然無理を言ってすまなかったな。もしよければ今度、子守歌でも歌ってくれないか?」
「えっ……」
「ワハハハ、そう赤らめるでない。ジョークだよ」
ポセイドルの軽快なジョークに思わず笑ってしまうリヴィエラ。場は和やかな雰囲気に包まれ、皆が笑い合っていた。

ティムは更に前日から数日前の記憶を探るものの、ポセイドルが深い眠りに就いた有力な情報となる記憶は見つからず、王としての役割に専念する一日の出来事しか見つからなかった。怪しい手品師、ソフィアに関する情報も全く見つからない。


まさか、あのリヴィエラって子が何か関係あるっていうノ? まさかネ……。


ティムは一先ずポセイドルの記憶の詮索を終える。
「どうだ、何か解ったか?」
ディスカが問うと、ティムは手に入れた記憶情報の内容を全て話す。
「何だって? 本当に決定的な出来事となるものが何も見つからないと?」
「エエ……ただ、あまり考えたくない事なんだケド」
ティムはポセイドルがリヴィエラの歌を絶賛していた時の出来事を含め、もしかするとリヴィエラの歌が何か関係あるのではないかと話す。
「バカな。リヴィエラの歌がきっかけでそんな事になったとでもいうのか? そんな事が……」
「ワタシだって信じたくないわヨ。ケド、コレ以外に有力な情報がないとならバ……」
「……君の記憶を読む能力は信憑性あるのか?」
思わず疑惑の目を向けるディスカ。
「あるわヨ! てか、アナタとリヴィエラちゃんの関係性についての情報を当てたでショ!」
「それはそうだが……」
ディスカはリヴィエラの歌がポセイドルの眠りと何かしらの関連性があるという疑惑を信じたくない気持ちで一杯であった。
「いつまでもゴチャゴチャ言うんじゃないわよ。真偽はどうあれ、まずはあのリヴィエラって子を探ればいいんじゃない?」
ガザニアの一言にティムはそうするしかないわネ、と返答した。
「リヴィエラ……」
ディスカは不安な気持ちのまま、ティムとガザニアを連れて部屋から出た。
「今日はもう遅い。明日改めて調査に向かおう。客室へ案内するよ」
ティムとガザニアは宮殿の客室で一晩過ごす事となった。


翌日――メリューナの家で一晩過ごしていたグライン達は朝食にありつける。
「海産物のマリネって、いかにもって感じだなぁ」
メリューナによる海産物のマリネにクレバルは絶賛するばかり。朝食を済ませると、メリューナは出掛ける準備を始める。
「メリューナさん、今からどこへ?」
「ちょっと手芸の素材の調達よ」
そう言っては家から出るメリューナ。手芸で様々な実用品やアクセサリー等を作って生活費を稼いでいるのだ。
「メリューナ姉ちゃん、いてら!」
サバノが元気よく見送る。
「ところでティム達はどうしてるんだろう?」
一晩経ってもティム達がまだ来ない事について気になり始めるグライン。
「ディスカさんと調査に行ったみたいだけど、ちゃんと収穫あったのかしらね」
リルモがぼやいた矢先、ドアをノックする音が聞こえる。ディスカだった。傍らにティムとガザニアもいる。
「ディスカさん!」
「待たせたな。今から現時点で解った事を整理するよ」
ディスカはティムと共に得られた情報をまとめる形で話す。
「リヴィエラさんが? 海王様が眠りっぱなしなのはリヴィエラさんの歌に何か関係があるっていうんですか?」
「僕だって信じたくない話だが……」
「真相を確かめる為にはリヴィエラちゃんのところへ行って調査してみるって事ヨ」
調査開始した一行はリヴィエラの元へ向かう。リヴィエラの家を訪れるものの、リヴィエラ本人は不在であった。
「お出掛けか……そんなに遠くへ行ってないはずだが」
ディスカはリヴィエラが訪れそうな場所を当たろうとするが――
「ディスカ兵長! ディスカ兵長!」
突然、海王近衛兵の兵士二人がやって来る。
「どうした、何事だ?」
「クラーケンが! クラーケンが海底トンネルに!」
「何だと!」
海底都市の出入り口であり、地上へ通じる海底トンネルに突然海の魔物クラーケンが現れて暴走しているというのだ。
「すまないが君達も力を貸してくれ。クラーケンは飛び抜けて凶暴な海の魔物だ。下手すると都市部にも被害が出る」
「解りました!」
快く魔物退治を引き受けるグライン。
「へへっ、レベルアップしたクレバル様の力を見せてやるか!」
エザフォルの心が宿った事によって潜在魔力が目覚めたクレバルは自信満々に戦いに挑もうとする。
「よっぽど自信あるみたいだけど、あんまり調子乗るんじゃないわよ」
「言われなくてもわーってるっての!」
リルモとクレバルがやり取りしている中、一行は海底トンネルに向かっていく。
「ああっ!」
海底トンネル内では、巨大な烏賊の魔物――クラーケンが狂ったように大暴れしている。太い触腕を叩き付ける度、トンネル内に振動が響き渡る。
「クッ、何故こんな魔物が海底トンネルに現れたんだ!」
ディスカは槍を構え、戦闘態勢に入る。
「おっと、ここは俺に任せな。こいつで俺の新魔法を試してやるぜ」
クレバルが魔力を解放した瞬間、グラインとリルモが同時に飛び出す。
「たあああっ!」
グラインのヘパイストロッドによる炎の刃の一閃がクラーケンの触腕を切り落とす。
「雷の雨よ……エレキテルレイン!」
クラーケンの元に電撃を帯びた雨が降り注ぐ。リルモの水と雷の魔力を利用した魔法だ。
「グアアアアア!」
感電したクラーケンが次々と緑色の泡を吐き出す。猛毒の泡だ。
「ううっ」
泡の攻撃を受けたグラインは猛毒に冒され、膝を付く。
「グライン、大丈夫?」
リルモが駆け付けるものの、グラインは猛毒で全身の感覚が失せるような寒気に襲われてしまう。
「サーコファガス!」
突然、巨大な棺のような石がクラーケンの前に現れる。石棺は押し潰すようにクラーケンに向かって倒れていく。エザフォルによって得られたクレバルの新魔法である。
「みんな、気を付けろ!」
ディスカが声を上げた瞬間、切り落とされていた触腕を再生させたクラーケンは徐に触腕を地面に叩き付ける。大きく伝わる衝撃波が辺りを薙ぎ払い、更に巨大な波が飲み込んでいく。それは、水魔法タイダルウェイブによって作り出された波であった。
「ぐっ……」
ダメージを受けた一行は立ち上がろうとすると、狂ったように大暴れするクラーケン。更に水柱がクラーケンの周りを覆い始める。水の魔力によって作られた海水で、タイダルウェイブを繰り出そうとしているのだ。
「まずいぞ。またあの波の攻撃を受けたら……」
ディスカがどうしたものかと思った矢先、クレバルが魔力を集中させる。すると周囲の岩屑が浮き上がり、次々と集まり始める。
「クレバル!」
「リルモ、トドメは任せるぜ。もう一つ、スゲェ魔法を見せてやるからよ」
岩屑は巨大な岩となっていく。クラーケンがタイダルウェイブを放つと、突然巨大な蔦による植物が現れる。ガザニアの自然魔法が生んだ植物の壁であった。完全ではないものの、植物によるバリケードは波による攻撃を軽減させるのに成功し、ダメージを最小限に抑える事が出来た。
「お、おっかねぇな……こんな事まで出来たのかよ」
自然魔法の多様性に驚きを隠せないクレバル。
「驚いてる暇があったら動きなさい」
ガザニアに言われ、クレバルは魔力を一点集中させると集まった岩屑は巨大な岩となり、クラーケンに向かっていく。周囲の岩屑を集めて一つの巨大な岩を作り、相手を押し潰すエザフォルの地魔法『ディトライコウアレス』である。岩の攻撃を受けたクラーケンはバタリと倒れ、気絶してしまう。
「今だ! 天翔雷鳴閃!」
空中から放たれる雷の衝撃波に加えて炸裂するリルモの槍の一撃。貫かれた瞬間、内部から電撃を流し込まれたクラーケンは断末魔の雄叫びを上げながらもバタリと息絶える。
「やったのか?」
ディスカがクラーケンの生死を確認しようとすると、クラーケンの死骸は溶けるように蒸発していく。
「へへっ、案外大した事なかったな」
勝ち誇ったようにクレバルが言う。
「何とかなったみたいだね……うっ」
猛毒状態のグラインは思うように動けない。
「いかん。これを飲みたまえ」
ディスカは万能薬をグラインに飲ませる。万能薬によってグラインは猛毒から完全に回復する。
「助かった。ありがとうございます」
「礼には及ばん。しかし……何故クラーケンのような魔物がこんな場所に?」
突然海底トンネルに現れたクラーケンについて不審に思うディスカ。本来は海上に生息している魔物であり、洞窟内に現れるのは異例との事だ。
「……何か妙な予感がする」
不吉な予感を覚えたディスカは一行と共に都市へ戻っていく。


その頃、都市内の広場ではリヴィエラの歌で盛り上がっていた。リヴィエラが考えた新しい歌の披露会であり、切なくも優しい歌声は住民達に吸い込まれるような癒しと安らぎを与え、中には子守唄を聴いている感覚に陥っている者もいる。住民達がリヴィエラの歌声に魅了されていく中、突如次々と住民が眠り始める。それでも歌い続けるリヴィエラだが、聴き入っていた住民はどんどん眠っていき、ついには歌を聴いていた住民全員が深い眠りに就いてしまう。
「え……何があったの?」
異変に気付いたリヴィエラは愕然とする。リヴィエラの歌を聴いていた住民は皆、昏睡状態に陥っていた。
「こ、これは一体!」
二人の兵士が駆け付ける。
「どうして……みんなどうしたっていうの?」
状況が飲み込めないリヴィエラは戸惑うばかり。
「君は確か色々な歌を歌っていた者……何があったというのだ!」
兵士が事情を問うものの、リヴィエラは困惑しつつも歌を披露している時に突然人々が眠ってしまったと説明する。眠る人々はいくら起こそうとしても目覚めようとしない。
「まさか……大臣のところに来てもらう」
「え?」
「いいから来るんだ」
兵士二人はリヴィエラを宮殿に連行していく。嫌疑をかけられ、ますます困惑するばかりのリヴィエラ。ポセイドルが目覚めない深い眠りに就いたのも、リヴィエラの歌が何かしら関係あるのではないかという大臣の考えによるものである。大臣がいる謁見の間に連れて行かれたリヴィエラは不安に襲われてしまう。
「リヴィエラ殿。君は以前、我々にも直接歌を聴かせた事があったね? あの時から思っていたのだが、君の歌声には、普通の歌声では味わえない不思議な感じがしていたのだよ」
大臣は鋭い目でリヴィエラを見据えている。
「まさかと思うが……海王様が目覚めない眠りに就かれたのは君の歌声が何か関係しているのではないかね?」
大臣の問いにリヴィエラは戸惑いながらも違います、と否定する。
「では何故君の歌を聴いていた住民達が突然眠り始めたのかね? しかも海王様同様、いくら起こそうとしても目覚めないそうではないか」
詰め寄る大臣。そして槍を構える近衛兵達。物々しい雰囲気を肌で感じたリヴィエラは動揺してしまい、震えた声で知りませんと答える。
「その様子……ははーん、読めたぞ。あの時確か海王様は君の歌を聴いているとよく眠れそうと仰っていた。つまり君の歌には眠りを誘うどころか、人を昏睡させる力があると。この私だって君の歌を聴いた日にはよく眠れていたのだからね」
鋭い声で言う大臣。かつてリヴィエラがポセイドルの元で歌を披露した時、居合わせていた大臣も歌を聴き入ってしまい、その日は十数時間も熟睡出来ていたというのだ。
「わ、私の歌にそんな力なんてありません! 誤解です!」
否定の意思を示すリヴィエラ。大臣は指を鳴らすと、近衛兵がリヴィエラを取り囲む。
「この者を牢屋にぶち込んでおけ!」
手錠をかけられ、近衛兵数人によって地下牢に投獄されていくリヴィエラ。
「どう……して……どうしてなの……どうしてこんな事になったの! どうして!」
牢屋の中、リヴィエラは涙声で叫ぶばかり。その様子を見ていた近衛兵達は戸惑いの表情を浮かべていた。


海底トンネルから出た一行は都市内が騒然としているのを見て駆け付ける。多くの住民がリヴィエラの歌がきっかけで昏睡状態に陥った事で大騒ぎになっていた。
「一体どういう事なんだ! リヴィエラの歌でこんな事が起きるなんて、そんなバカな話があるものか!」
一連の出来事を聞かされたディスカは激昂する。
「ディスカ様!」
メリューナとサバノが駆け付ける。
「私、見ましたわ。リヴィエラが兵士に連れて行かれるところを……」
「何だと……?」
「リヴィエラはディスカ様に新しい歌を聴かせたいと言ってましたのよ。その新しい歌がまさかこんな事に……?」
ディスカは愕然としつつも、悪い考えを払い除けるかのように首を横に振る。
「違う! リヴィエラが犯人だなんて絶対にあり得ない。何かの間違いなんだ」
事件の犯人がリヴィエラである疑いを否定するディスカ。
「ディスカさん。いくら何でも変だよ……リヴィエラさんの歌に何か悪い感じとかしなかったし、あんな素敵な歌声で歌う人がそんな事をするなんて」
グラインもリヴィエラが事件を起こした犯人である事は信じ難い様子だ。
「見かけによらずという可能性もあるけど……真実はまず直接問い詰めるに限るわよ」
ガザニアの冷静な一言。一行は事件の真相を確かめようと、宮殿に向かう。謁見の間にて、大臣に一連の出来事を問うディスカ。だが大臣はリヴィエラの歌が原因で住民やポセイドルが目覚めない眠りに就いたと主張するばかりである。
「彼女の歌が原因だなんて、何を根拠にそんな事が言えるのですか!」
「根拠も何も、彼女が歌ってから多くの住民が昏睡状態になったという事実が証明されたのだよ。それに、この私も彼女の歌のおかげで普段よりもよく眠れたのだからね」
ディスカがいくら反論しても、大臣は聞く耳を持とうとしない。
「そこまで言うなラ付いて来てもらえルかしラ? ワタシには記憶を読む能力があるのヨ。本当にリヴィエラちゃんが犯人なのカ、白黒付けてみるワ」
ティムがリヴィエラの記憶を読む事で真実を確かめる事を告げるものの、大臣は何を言ってるんだと言わんばかりの表情を浮かべる。
「記憶を読む? そんなつまらんジョークを言ってまであの娘が無実である事を主張したいのかね? 全く馬鹿馬鹿しい」
「し、信じられないのモ無理ないかもしれないケド! ワタシは嘘つかないわヨ!」
「えーい、うるさい! 第一余所者には関係ない事だ! 帰った帰った!」
「ンキー! このわからず屋!」
全く取り合ってくれない大臣に埒が明かないと感じた一行は渋々と立ち去る。
「いちいちムカつくな。あの魚オヤジが犯人じゃねえのか?」
クレバルがイライラした様子でぼやく。
「あの様子じゃ、いくらリヴィエラが無実でもちゃんと聞いてくれないかもしれないわよ」
ガザニアの一言。一行は不安を覚えつつも、リヴィエラが投獄された地下牢に行く。
「リヴィエラ……」
ディスカは牢屋の中ですすり泣くリヴィエラの姿を見てその場に立ち尽くす。
「……ディスカ」
ディスカの来訪に気付いたリヴィエラが悲しげに呼び掛ける。
「僕は信じてるよ。君が悪い事をするなんて信じたくない。必ずここから出してやるからな」
一生懸命励ましの言葉を投げ掛けるディスカだが、リヴィエラは悲しい表情のまま涙を零していた。
「サ、ここからはワタシの出番ネ」
ティムはメモリードでリヴィエラの記憶を探り始める。数日分の記憶まで探ってみた結果、リヴィエラの歌によって多くの住民が昏睡状態に陥った出来事は一行が海底トンネルにいる間にて広場で新しい歌を披露していた時のみであり、前日まで歌を披露した際には住民に異変が起きるような出来事は発生していない。つまり露骨に異変が起きたのは今日突然の事であった。
「確かにリヴィエラちゃんの歌デ住民が眠り始めてル出来事が読めたワ。デモ……」
ティムはこの突然の異変ぶりに不審なものを感じていた。
「まさか本当だったというのか? だがリヴィエラにそんな力が備わっているとはどうしても思えんのだが」
「そこヨ。昨日もリヴィエラちゃんは歌っていたようだケド、その時は何も異変ハ起きていないみたいなノ。つまりネ……誰かガ裏で何かをしていル可能性がアルって事ヨ」
ティムの推測にグラインはある人物を思い浮かべる。
「もしかして、あのソフィアとかいう手品師の人かな?」
手品師――つまりソフィアが裏でリヴィエラを陥れようとしているのではとグラインは考える。
「そうか、例の手品師か」
ディスカも真犯人はソフィアが最有力だと考えていた。
「確かにソフィアが一番怪しいケド、マダ断定までハできないわヨ。決定的な証拠を掴まなきゃネ」
真偽を確かめるにはまずソフィアを探すしかないという結論に至り、一行は改めてソフィアを探す事になった。
「……リヴィエラ、待っててくれ。君の無実は必ず証明してみせる」
ディスカは心苦しい思いをしつつも、グライン達と共に地下牢を後にする。


その頃、都市周辺部の岩場の上に一人の女が見下ろしていた。ソフィアである。ソフィアは手元に紫色の玉を出現させる。
「調子はどう? そろそろ始めようかしら?」
ソフィアは紫色の玉に直接話している。返事は聞こえてこないものの、玉を通じて何者かに話し掛けている様子であった。
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