Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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勇者の極光

海底都市

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地下トンネルを進む蒸気機関車がゆっくりと停車する。終点となる場所に辿り着いたのだ。機関車から降車した先にある場所は、壁のところどころが珊瑚礁に覆われ、至る所に水が流れている洞窟であった。
「それじゃ、オレ達はこの辺で失礼するよ。達者でな」
「うん、ドミニクさんも色々ありがとう!」
グラインが礼を言うと、ドワーフ達が乗る蒸気機関車は再び音を立て、逆走する形で走り始める。
「へえ、ちゃんと逆走するんだな」
クレバルは蒸気機関車の技術に関心していた。
「ここは何なの? 見た感じ、水の洞窟みたいだけど」
リルモが辺りを見回す。
「ここハ間違いなく海の底ニ広がる空洞……海底都市に繋がるトンネルといったところネ」
海底都市に通じる洞窟だと確信し、一行は洞窟を進んでいく。
「なあ。海底人族ってさ……人魚がいる種族なんだよなぁ?」
突然クレバルがティムに問う。
「そうネ。人魚、半魚人、魚の種族といったところヨ」
「つまり美女がたくさんいる種族って事だよな! ヒュー、楽しみだぜ!」
人魚は美女がお約束という固定観念の余り鼻の下を伸ばすクレバルはひたすらニヤニヤとするばかり。そんなクレバルにリルモはバッカじゃないのと軽く突っ込む。
「何だよ、人魚といえば美女が定番だろ。美女がたくさんいる世界なんて、男からしたらウハウハもんだろが」
「半魚人や魚もいるって事だから美女ばかりじゃないでしょ。全く」
クレバルとリルモが言い合っている中、ガザニアは洞窟の風景を見回している。
「海の底にも植物が存在するのかしらね」
海に関しては未知の領域であるガザニアは海底の世界に興味を抱いていた。洞窟には鉄のように硬い身体を持つ蟹の魔物『アーマークラブ』、オウムガイのような姿をした毒性の泡を吐き出す魔物『ノーチラス』、一つ目が浮かぶイソギンチャクの魔物『シーアネモネ』といった敵が生息しているものの、一行は力を合わせて蹴散らしつつも進んでいき、洞窟を抜けた先には広大な都市が広がっていた。
「辿り着いたわネ。ここが海底都市ヨ」
海底都市ポセイドルン――都市全体が透明のドームで覆われ、空気があって海底人族以外の種族でも生活出来るというレディアダントにおける海底世界唯一の街となる場所であった。マーマンやマーメイドとも呼ばれる美しい人間の身体と魚の身体を併せ持つ半魚人と人魚、二足歩行の魚そのものともいうサハギン等の海底人族が暮らしており、都市内にある宮殿では海王と呼ばれる者によって碧海の勇者タラサが遺した水のエレメントオーブが守られている。
「わあ綺麗! 海の底にこんな場所があったなんて素敵!」
リルモは都市から見渡せる海底の風景に見とれていた。太陽の光が差し、無数の魚や海の生き物が泳ぎ、様々な海藻と珊瑚が存在する海底世界独特の風景は世界の神秘ともいう美しさであった。都市内でも海を象徴する形の建造物が並び、様々な海底人族が賑やかに暮らしていた。
「うっひょお! 思った通りだ! 美女がたくさんいるじゃねえか!」
美しい人魚の姿を数人程目撃したクレバルは目を輝かせていた。が、リルモに思いっきり殴られ、あえなく黙らされてしまう。
「エレメントオーブは多分海王ノ元にあるはずヨ」
一行は宮殿に向かおうとすると、槍を持ったマーマンの青年が現れる。
「何だ君達は?」
水色の髪の美形といった容姿を持つ青年は、海王に仕える海底人族の騎士であった。ティムがある理由で水のエレメントオーブを求めているといった旅の目的を説明すると、青年はふーむと考え事をする。
「仰る通り、水のエレメントオーブは確かに海王ポセイドル様によって守られている。だがポセイドル様は……」
青年曰く、海王ポセイドルは数日程前から突然死んだように眠り続け、どんなに起こそうとしても全く目を覚まさないというのだ。水のエレメントオーブを手に入れるには、ポセイドルに許しを得ないといけない。不吉な臭いを感じた一行はポセイドルの元へ連れて行くように頼み込む。
「……解った。君達は悪人ではなさそうだから一応案内してやるが、期待はしない方がいいよ」
半ば消極的な様子で一行を宮殿へ案内する青年。
「ディスカ兵長! この者達は?」
宮殿には二人の番人がいる。
「通してくれ。旅人だ」
ディスカと呼ばれた青年の命令に従う番人。ディスカは海王近衛兵の兵長であった。宮殿の謁見の間には小太りのサハギンがいる。大臣であった。
「おや、ディスカ兵長。何ですかな? このみすぼらしい者達は」
大臣の嫌味な言い草にムッとする一行。
「彼らは水のエレメントオーブを必要としている旅人です。まあ……事情が事情なのでご期待には添えられそうもありませんが」
ディスカは一行に申し訳なさそうな様子で言うと、大臣は軽く咳払いする。
「馬鹿者め。近衛兵長たる者がこんな連中の手助けでもしているというのかね? 第一、旅人が水のエレメントオーブを必要としているのは一体どういう事だね」
言葉に詰まるディスカに、ティムが事情を話そうとする。だが大臣は更に言葉を続ける。
「こんな連中の観光案内をしている暇があらば、海王が何故目覚めなくなったのか原因を調査してくれぬかね。海王にもしもの事があったら困るのはわしなんだからね」
「は、ははぁっ!」
ディスカは深々と頭を下げ、一行を連れる形で謁見の間から出る。
「何だよあの魚オヤジ。感じ悪いぜ」
「ちょっとヒラキにしてやりたい気分ね」
大臣に悪印象を抱いたクレバルとガザニアが悪態を付く。
「すまない。あの方はポセイドル様に仕える大臣なのでな。どうか悪く思わないで欲しい」
ディスカが宥めるように言う。ポセイドルが眠る部屋の鍵は大臣が預かっているとの事で、ディスカが一行を謁見の間へ案内したのは大臣から部屋の鍵を借りる目的であった。大臣の態度からしてとても鍵を貸してくれる状況ではないと察し、ポセイドルの元へ行くのは一旦諦めるしかないと悟る一行。
「ウーン、こうなったら海王が何故ずっと眠ったママなのカ、調べる事かラ始めるしかないみたいネ」
ティムの言う通り、水のエレメントオーブを手に入れるにはポセイドルを目覚めさせる事から始めないと埒が明かない。ディスカは君達の力になれなくてすまないと詫びると共に、ポセイドルが眠りから覚めない原因を調査する事を一行に伝える。
「ディスカさん。僕達にも手伝わせて下さい。何か出来る事はありませんか?」
オーブを手にする目的を果たす為にも、グラインが協力する意思を示す。
「君達か……見たところそれなりに腕は立つようだから、もし何かあれば我々のサポートを任せてもいいかな?」
「はい!」
「まずポセイドル様がお眠りになった原因を探る事だが……」
ポセイドルは何故突然深い眠りに就き、そのまま目覚めなくなったのか? 現時点ではその原因が全く以て解明されていないのだ。
「何か手掛かりとか、心当たりはないんですか? 例えば、最近妙な人がうろついていたとか」
リルモの言葉にディスカは思い出せる限りの記憶を辿る。
「そういえば、ポセイドル様が眠りに就く数日前だったか……ふと住民の立ち話で耳にした事なのだが」
ポセイドルが眠る数日前――ディスカがある用事で都市内を歩いていたところ、住民が不思議な手品を披露する女について話していたという。手品師の女は人間で、広場で様々な魚を利用したマジックを見せていたとの事であった。
「て、手品師の女ですッテ?」
思わぬ情報を耳にしたティムが声を張り上げる。グライン、リルモ、クレバルの脳裏に浮かんだのは、セレバールの町で見掛けた旅の手品師ソフィアであった。
「知ってるのか?」
「はい。ちょっと前にある場所で見た事があるんです。まさかあの人と何か関係が?」
「むむ……詳しく聞かせてもらえるか」
グラインとティムはソフィアについて知ってる限りの事を話す。
「旅の手品師か……確かにこんな場所に人間の手品師が訪れる事など早々あり得ぬ話だと思うが」
ディスカはソフィアが何か絡んでいるのではないかと考え、当時の事を知る住民に話を聞こうと考える。
「……俺、その手品師に助けられた事あったんだよな」
クレバルは瀕死になっていた際、ソフィアに発見されて町の医療所に運ばれた時の事を思い出していた。


セレバール近辺の岩山地帯の魔物達の襲撃でボロボロになったクレバル。傷付いた身体を引き摺りながらも彷徨い、力尽きて気を失う寸前に一人の女――ソフィアが現れる。
「あらぁ? こんなところで行き倒れ? 旅人かしらねえ」
ソフィアの姿を確認すると、クレバルは必死で助けを求めようとするものの、うまく声が出せない状態だった。
「魔物に襲われちゃったの? 可哀想に。特別に運んでやるわ」
ソフィアはクレバルをセレバールの町へ運んで行く。
「……たす……かっ……た……」
町の医療所に運ばれた時、クレバルは気を失っていた。


死に掛けていた自分を助けてくれた命の恩人だったとクレバルが言うと、ティムは何故か記憶が読めなかったという事で彼女は得体の知れない要注意人物だと説明する。
「あの手品師のお姉さんはただの人間じゃねえって言いたいのかよ? まず記憶が読めねぇってどういう事だよ」
「ワタシにも解らないのヨ」
記憶が読み取れない理由について問われても、ティムは自分でも解らないとしか言えなかった。
「でも……あの人の手品、見ていて何か変な感じがしたからティムの言う事も一理あるかもしれないわよ」
リルモの言葉に、グラインも同意見だった。
「ふむ、君達の話を聞く限り徹底して調べる必要があるようだな」
ディスカは調査に向かおうとする。
「ア、ディスカさん。ワタシも調査に協力するワ。ワタシ、こう見えてモ記憶を読む事が出来るのヨ」
ティムが協力の意思を示す。
「記憶を読む? そんな事が可能なのか?」
「生物だったらネ。少なくとも住民の記憶なラ読み取れるわヨ」
「何と……にわかには信じ難い話だが」
「アナタには想いを寄せている相手がいルって事モ、しっかりお見通しヨ。読んだところ、リヴィエラという子だったわネ」
「なっ……」
不意に記憶を読み取られたディスカは驚くと同時に思わず赤面する。
「気を付けろよ。この珍獣はプライベートに関する記憶まで平気で読みやがるからな」
「ンキー! アンタは黙ってなさイ!」
クレバルの一言に随分とんでもない能力だなと内心思うディスカ。ソフィアに関する手掛かりを掴むべく、都市内への調査へ向かう事となった一行。その最中、ピンク色の長い髪を靡かせた美しいマーメイドの女性が現れる。
「あ……ディスカ」
女性が声を掛ける。
「やあリヴィエラ。今日も歌うのかい?」
「え、ええ……」
女性の名はリヴィエラ。海底人族の歌姫と讃えられ、様々な歌で多くの人々を癒している。ディスカとは恋仲関係の間柄でもあった。
「この人達は?」
「僕の協力者となる旅人さ。ポセイドル様が目覚めない原因について一緒に調査してくれる事になったんだ」
「そう……気を付けてね」
「ああ。君もな」
ディスカはそっとリヴィエラの髪に触れ、軽くキスをする。
「な、何だよおい! カッコつけやがって!」
クレバルが面白くなさそうに言う。
「おっと失礼。調査をしなくては。またね、リヴィエラ」
笑顔を向けて去ろうとするディスカに、リヴィエラは笑顔で見送る。
「ったく、これだからイケメンは。見せつけてんじゃねえっての」
グラインに耳打ちするかのようにクレバルがぼやく。
「ハハハ、まあいいじゃないの。幸せなのはいい事だよ」
「へっ、俺だってそのうち……」
クレバルはふとリルモの方を見るものの、リルモはバカな事言ってるんじゃないわよ、と言いたそうな鋭い視線を向ける。調査を始めた一行は、ひたすら住民達に聞き込みをしつつもティムのメモリードでソフィアに関する手掛かりを探そうとする。その結果、手に入れた情報は数日前にソフィアが都市内の広場に設けられた舞台で手品を披露していたのと、同じ場所でリヴィエラが毎日歌を歌っていた等既に知っている内容くらいで、ソフィアは手品を終えた後どこへ行ったのか、今どこにいるかについての情報は全く得られなかった。
「ダメだ、これだと埒が明かないな」
都市内での聞き込みではこれといった有力な情報が得られそうもないと悟るディスカ。
「……こうなったら奥の手で行くか。上手くいくかはわからんが」
「奥の手?」
「君達がいたおかげで思いついた方法だ。少しばかりティムの力を借りたいのだが」
「エ、ワタシ?」
ディスカの言う奥の手とは、直接ポセイドルの元でティムのメモリードを利用して手掛かりを探るというものだった。その為にもまずはポセイドルが眠る部屋の鍵を大臣の部屋からこっそりと借りる必要があるので、大臣や兵士が寝静まった頃にディスカとティムの二人で宮殿に向かおうと考える。
「そ、そんな事して大丈夫なんですか?」
「まぁ賭けみたいなものだがな……。もしこれがダメだったら他の方法を考えよう」
「ふーん、随分と泥棒じみた悪知恵が働くのね。そういう考えは嫌いじゃないわよ」
ガザニアが率直に言う。ディスカの作戦に少し興味を持っている様子であった。
「わたくしの自然魔法は眠りに誘う事も可能よ。あなたは顔がいいから、ちょっとばかり手を貸してやってもいいわよ」
「そ、それは本当か?」
「本当よ。疑うならここらの住民で試してやってもいいのよ」
ディスカはガザニアの自然魔法がどんなものなのか気になり、ガザニアにも同行してもらおうかなと思い始める。
「えっと、僕達も付いていった方がいいですか?」
グラインが尋ねると、君達は待機して欲しい。大勢で行っても意味がない、とディスカは返答した。グライン、リルモ、クレバルの三人はある人物の家で休息を取って欲しいとの考えである。
「何だよ、俺達は留守番って事か?」
「別にいいでしょ。休息も大事よ」
クレバルとリルモが言い終わると、ディスカは一先ずグライン達の休息の場所となる家へ案内する。その途中、歌声が聞こえてくる。透き通ったような美しい女性の歌声。リヴィエラの歌であった。
「心地いい歌声だ……」
一行はリヴィエラの歌に思わず惹かれていた。案内で辿り着いた先は、貝の形をした一軒家だ。
「あら、ディスカ様!」
家には紺色の短髪マーメイドの女性と幼い人間の男の子がいた。女性の名はメリューナ。リヴィエラの幼馴染であり、海底都市に流れ着いた幼い人間の孤児サバノを引き取り、世話をしている身であった。
「やあメリューナ。君に頼みたい事があるんだ」
ディスカはメリューナに事情を説明し、グライン達を一晩泊めてもらうように頼んだ。
「まあ、それならお安い御用ですわ。ディスカ様の為なら何でも……いえ! 何でもありません!」
メリューナは僅かに顔を赤らめつつ、俯き加減で言う。その様子はディスカに惚れ込んでいるような印象を受ける。
「メリューナ姉ちゃん、この人たち誰?」
ひょっこり現れたサバノがグライン達に興味を示す。
「お客様よ。今日一日泊まってもらう事になったの。ほら、ご挨拶なさい」
「こんにちは、お客さん! ぼくサバノです!」
きちんと挨拶をするサバノに、グラインは笑顔を向ける。
「それでは、僕達は一旦失礼させてもらうよ」
ディスカはティム、ガザニアを連れてその場から去る。ディスカ達は潜入の時間まで別の場所で待機するつもりであった。
「あのディスカって奴、サービス旺盛だよな。こんな美人が住む家に泊めて貰えるなんてよ」
浮かれるクレバルにリルモの冷たい視線が向けられる。
「遠いところから来たみたいで、お疲れだったでしょう。ゆっくりしていって下さいまし」
人数分のハーブティーを出すメリューナ。
「ま、せっかくだからゆっくりしていこうよ。これからに備えて身体を休めるのも大事だからさ」
グラインは軽くハーブティーを口にする。
「ねえねえ、お兄ちゃんたちはどこから来たの?」
サバノが無邪気に尋ねる。
「僕達は……魔法の国から来たんだ」
「マホウの国? すっごーい! お兄ちゃんたち、マホウが使えるの?」
「ハハ、まあね」
「ねえねえ、マホウ見せてよ!」
「え? うーん……まいったなぁ」
そう易々と見せられるような魔法じゃない事をどう話していいものかと思っていた時、メリューナが再び現れる。
「サバノ。私、ちょっと買い出しに行ってくるからいい子にしてるのよ」
メリューナは夕食の材料が足りないといった理由で買い出しに出掛けようとしていた。
「はい、いってらっしゃい!」
サバノに見送られ、外出するメリューナ。
「あのお姉さん、ずっとこの子の世話してるのか? てか人間なのかよ?」
クレバルはサバノをジッと見る。
「なーに? お兄ちゃんもマホウ使えるの?」
「ん? 勿論使えるぜ。なんなら表で見せてやろっか?」
「わーい! みせてみせて!」
「ちょっとクレバル!」
トラブルを危惧したリルモが止めようとする。
「大丈夫だって。軽く見せるだけだったら問題ねえだろ」
「あんたねぇ、何かあったらどうするのよ」
「うるせえな。俺だってトラブル起こす程バカじゃねえよ」
リルモの制止を聞かずクレバルが外に出ると、サバノは喜んで付いていく。
「クレバル、大丈夫かなぁ……」
グラインも心配そうな様子であった。
「いいか、よーく見てろよ。これが魔導師クレバル様の魔法だ」
クレバルは精神を集中させ、両手を差し出す。すると、クレバルの手元に岩石が現れる。魔力によって作り出された岩石である。岩石は上に飛んでいき、勢いよく下に落ちていく。
「……わーすごい! マホウだマホウだー!」
クレバルの魔法を見て大はしゃぎのサバノ。
「どうだ、スゲーだろ? これくらい朝飯前だぜ」
はしゃぐサバノを前に得意げな表情のクレバル。
「はぁ……こういう時に調子乗るんだから」
リルモは呆れ半分の様子。
「今の魔法……この辺の岩石を利用したんじゃなく、魔力で岩石を作り出したんだよね?」
グラインはクレバルが披露した魔法に興味を抱いていた。
「クレバルったら、私のように物質を作り出せる魔力を扱えるようになったのかしら」
グラインの問い掛けに返答するようにリルモが呟く。魔力には周囲の物を利用するタイプと、各エレメントに適応した物質、エネルギー、様々な現象を生み出すタイプが存在する。クレバルがこれまで扱った地魔法は周囲の物を利用する魔力によるもので、魔法で作り出した岩石は物質を生む魔力で発動させたものだった。そしてリルモに宿る水と雷の魔力は、物質とエネルギーを生むタイプの魔力が主体である。
「ところで、サバノ君だったわね。あなた、人間の子のようだけどずっとここに住んでるの?」
リルモがしゃがみ込み、そっと顔を寄せて尋ねる。
「うん。今はメリューナ姉ちゃんと住んでるんだけど……」
数年前、サバノは父親と船旅をしていたが、突然の大嵐によって船が転覆してしまい、父親と離れ離れになってしまったという。船は沈没し、海の底に沈んでいたところを海底人族に助けられ、メリューナに保護されるようになったのだ。父親の行方は解らず、生存は絶望的と言われているものの、サバノはいつか父親と再会できる日を信じていた。
「そんな事があったの……一日でも早くお父さんに会えるといいわね」
リルモは励ますようにサバノの頭を優しく撫でる。サバノはどこか寂しそうな目でずっとリルモを見つめていた。


買い出しを終えたメリューナは、広場で歌を披露していたリヴィエラと遭遇する。
「あ、メリューナ。お買い物?」
「ええ。夕食の分のね」
「そう……大変ね。サバノ君は元気してるかな」
笑顔を見せるリヴィエラに、メリューナはどこか浮かない表情をしている。
「……ところで、ディスカと会った?」
「え?」
メリューナの問いにリヴィエラはきょとんとする。
「ねえ、会ってない?」
詰問するように顔を近付けるメリューナ。
「あ、会ってないよ。ディスカも色々忙しいみたいだし。でも……今度、新しい歌も聴かせたいな」
顔が近いまま頬を赤らめるリヴィエラを見て、メリューナの表情が少し険しくなる。
「ど、どうしたのメリューナ? 私、何か変な事言った?」
メリューナの険しい顔を見て戸惑うリヴィエラ。
「いえ。何でもないわ。新しい歌か……そんなに自信ある歌なの?」
「そうね。久しぶりに思い付いた歌だもの。愛する人に捧げるみたいな」
うっとりした様子でリヴィエラが言った瞬間、メリューナは顔を背け、僅かに身震いする。
「メリューナ……? 具合でも悪いの?」
リヴィエラはメリューナの挙動にますます戸惑う。
「……平気よ。ちょっと疲れちゃったみたい。それじゃ、私はもう帰るね」
顔を背けたまま返答し、逃げるように去って行くメリューナ。リヴィエラは何か気に障る事言ったのかなと思いつつも、ただその場に立ち尽くしていた。

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