Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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目覚めし七の光

凍て付いた大地

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グライン一行を乗せた海獣ドーファンは間もなくフロスタル大陸に辿り着こうとしていた。大陸は氷点下クラスの気温に達しており、海には流氷が見られる。
「ひぃぃぃっ……さ、さみいいいいいいいい!」
寒さに震えるクレバル。上陸する場所を探している中、船着き場のある村らしき場所を発見する。ティムは心の声の伝達でドーファンに呼び掛けると、ドーファンは村へ向かう。船着き場へ辿り着くと、一行はすぐさま村へ上陸していった。全員が降りると、ドーファンは海の中へ潜っていく。
「さみいいいいいいいいい! は、は、早く建物の中に入らせてくれえええ!」
寒さの余り叫ぶクレバルにうるさいわねとリルモが一喝する。グラインが辺りを見回すと、並みの人間の大きさをしたペンギンが歩いている。フロスタル大陸に住む種族、ペン族であった。
「あいや。あんたらも余所から来たニンゲンかい」
ペン族の男が声を掛ける。
「な、何だよこいつ?」
不思議そうにペン族の男を見つめるクレバルは、ペン族を見るのが初めてであった。
「ペン族ヨ。氷の大地の種族といったところネ」
ティムがペン族についてクレバルに説明する。
「こんにちは。僕達はフロストール王国を目指しているんですが」
グラインがペン族の男に旅の目的を話す。
「フロストール王国ねぇ……今では到底辿り着けるようなところじゃないよ」
男は苦い表情を浮かべている。
「何かあったんですか?」
グラインが尋ねる。男によると先日地鳴りが発生し、それから王国中を包むように猛吹雪が襲い掛かったというのだ。
「ウーン、やはリそう簡単にはいかなイみたいネ」
不吉な気配を感じたティムはどうしたものかと思い始める。
「おいいいい! そ、それよりも早く建物に入ろうぜ! 寒くてやってらんねえええ!」
クレバルが叫ぶように言うと、リルモが思いっきりクレバルの頭を殴り付ける。
「確かにこんな寒さでは探索するのも厳しいな」
寒さ対策が必要だと感じたグラインは男に防寒方法について問う。
「ふーむ、それならこのフリズル村名物の踊り子ペチュニアの踊りを見ていくといいよ」
「踊り子?」
「ペチュニアの踊りは心を熱くさせるんだ。あんたらもきっと病みつきになるはずだよ」
村の踊り子の話を聞かされた一行は男に粗末な建物へ案内される。見世物小屋であった。小屋には多くのペン族が集まっている。
「なあ、踊り子ってどうせペン族とかいう鳥人間だろ? 動物の踊りに何が病みつきになるんだよ」
クレバルは村の踊り子に興味なさそうな様子。すると、周りのペン族が一斉に鋭い視線を向ける。
「おいおい、今のは聞き捨てならねぇなあ。ペチュニアちゃんの踊りの良さがわかんねぇってのか? ええ?」
数人のペン族がクレバルに詰め寄る。
「す、すみません! 失礼な事言うんじゃないわよ、このバカ!」
詫びながらもクレバルに鋭い一撃を叩き込むリルモ。場が収まると、小屋の明かりが落ちる。踊り子によるショーの始まりであった。
「ウーエルカァァム! みんな、今日もこのペチュニアちゃんの華麗なるダンスを見に来てくれてありがとううう!」
ステージにスポットライトが灯されると、踊り子の衣装を着たペン族の娘――ペチュニアがポーズを決めて現れる。
「世の中色々物騒で不安な日々だからこそ、たくさんの元気が必要! そう。元気は笑顔を生み、そして世界を救う! いつでも元気でいられるよう、あなたの心に熱いハートを! それでは、イッツ……ショーターイム!」
スポットライトが消え、幾つものスポットライトが照らされる中、ペチュニアの華麗なるステップが始まる。そのしなやかな動きは人間の踊り子顔負けの見事な身のこなしで、まさに舞踊ともいうペチュニアの踊りは観客達を虜にさせていた。グライン達もすっかりペチュニアの踊りに見入っている。様々な形によるペチュニアの踊りは観客達に歓声を湧き上がらせ、最後のステップが始まる。激しい動きによる舞踊は観客からすると芸術的なものであり、誰にも真似できない芸当であった。ショーは終了し、盛大な拍手に包まれる。
「す、凄いや……」
ペチュニアの踊りを見て素直に感動するグライン。
「舐めてたぜ……つい見入っちまったよ」
ペン族の踊り子について内心小馬鹿にしていたクレバルも感動していた。
「ふん、この種族にしてはなかなかの出来といったところね」
隣で率直な評価をするガザニア。
「確かにあのコの踊りハ良かったケド、これデ寒さに耐えれるようニなれたというのかしらネ?」
ティムの一言にグラインは頭を傾げる。
「別に何も変わんねえぜ? あのペチュニアとかいう奴の踊りは心を熱くさせるとか言ってたけど……それって気持ちの問題じゃねえのか?」
クレバルの言葉を聞いてそれは確かにネ、とティムが呟く。見世物小屋から出ると、ペチュニアの踊りの効果で心が熱くなり、寒さでも平気でいられるようになっていた……わけではなく、一瞬で凍えるような寒さが一行を襲った。
「さ、さ、さみいいいいいいいい!」
再び寒さに震えるクレバル。
「全く、人間はどこまでも不便な種族ね。寒い寒いって」
ウンザリしたようにガザニアがぼやく。ドレイアド族は耐寒性の体質持ちで、気温による寒さを感じる事がないのだ。
「困ったな。これじゃあ探索するのもままならないぞ」
何とか寒さに耐えられる方法を、とグラインが思っていると、小さなペン族の少年が何か荷物を運んでいるのを発見する。一生懸命荷物を運ぶ少年だが、転んでしまう。
「大丈夫かい?」
思わずグラインが駆け付け、手を差し伸べる。
「あ、ありがとう……」
少年はグラインに礼を言う。同時にリルモ達がやって来る。
「運び物だったら手伝ってあげようか?」
穏やかに声を掛けるグライン。少年はグライン一行の姿を見て一瞬戸惑う。
「い、いいの? お兄ちゃんたちって……ニンゲン、だよね?」
「うん。怖がらなくて大丈夫だから」
「おいおい、そんなチビの手伝いしてどーすんだよ? 早く宿屋に入ろうぜ」
グラインが少年を助けようとする傍ら、空気を読まずに声を上げるクレバルにリルモが蹴りを入れる。少年はグライン達が無害だと悟り、手伝ってもらうように頼む。荷物の運び先は、見世物小屋であった。
「ちょうど近い場所で良かったよ」
グライン達は先へ進む少年の後を付けて見世物小屋の裏口へ入る。中にはペチュニアと小太りのペン族――座長がいた。
「ざちょーさん! ペチュニアおねーちゃん! お魚もってきたよ」
少年は座長とペチュニアに魚を届けていたのだ。
「おおリズル。わざわざすまんね」
「ありがとう、ちょうど腹ペコだったのよ!」
座長とペチュニアは笑顔でリズルに感謝する。
「ところで、この人達は?」
グライン一行の存在に気付いた座長が不思議そうに見つめている。
「えっと、僕達はこの子のお手伝いをしただけの旅の者でして……」
用が済んだのでその場から去ろうとすると――
「お待ち下され!」
突然、座長が呼び止める。
「あなた達、もしかするとニンゲンの戦士ではありませぬか?」
座長はグライン達の事が気になっている様子。
「戦士、というか魔導師といったところです」
「おおなんと! しかしながらそちらの方は……」
突然リルモの方に注目する座長。
「な、何ですか? 私に何か?」
「ああ、すみませぬ。えっと、勝手ながらで申し訳ありませんが、もし宜しければ私どもの頼みを聞いて下さらぬか?」
「頼み?」
「実は、このフリズル村の名物である看板娘のペチュニアが墓参りに行きたいと言ってまして」
座長の頼み事は、かつてペチュニアを窮地から救ったという人間の戦士の墓参りに行こうと考えているペチュニアの護衛をお願いしたいというものであった。墓がある場所は村から少し離れたフロスタル森林内に存在し、現在では凍える程の凄まじい吹雪で覆われている他、冷気を司る凶暴な魔物までも多く現れるようになってペチュニア一人では到底辿り着ける状態ではないという。
「おいおい、冗談じゃねえぜ。んなお使いに付き合ってらんねえよ」
クレバルが反論すると、ティムはフロストール王国に存在すると思われる氷のエレメントオーブが目的でフロスタル大陸に来た事を話す。
「アナタ達、ニンゲンなんでしょう? 既にご存知だろうけど今この大陸は物凄い寒波に包まれているの。それに、フロストール王国の辺りは並みのニンゲンには到底歩けそうにないわよ」
ペチュニア曰く、フロスタル森林はフロスト―ル王国への通過点でもあり、王国近辺と森林内は吹雪対策がない限り並みの人間では確実に凍り付くとの事。そこでペチュニアが頼み事を引き受けてくれる事を条件に、如何なる寒さに耐えられるようにするという。
「はああ? つまり寒さに耐えられるような事をしてくれるってのか?」
「そういう事よ。そうでもしないといつまで経ってもアナタ達の目的が達成できないわよ」
グライン達は信用していいものかと一瞬思うものの、とりあえず悪者ではないようなので引き受ける事にした。
「決まりね! んーと。そういえばアナタ達の名前を聞いてなかったわね」
グライン達はそれぞれ自己紹介をすると、座長が再びリルモに注目する。まるでリルモに何かあるかのような様子だった。
「ねえ、この人さっきから何なの? 私の事ジロジロ見てくるんだけど」
思わず訝しむリルモ。
「おお、これまたすみませぬ! えっと、お嬢さんの名前はリルモさん……で間違いありませぬか?」
「は? そうですが」
「あっ……」
座長がリルモの事で気になっている傍ら、ペチュニアもリルモについて何か思い出したかのような素振りを見せる。何事かと思い始めたティムはこっそりと二人の記憶を探っていた。
「ちょっと……さっきから何なんです? 変な事考えてるつもりなら容赦しませんよ」
鋭い声でリルモが言うものの、座長はそれ以上語ろうとしない。
「おっさん、まさかリルモに惚れたとか言うつもりじゃねえだろうな」
背後でクレバルが言うと、即座にリルモが裏拳の一撃を加える。記憶を読み取っているティムは考え事をしていた。
「まあまあ。今はペチュニアさんのもてなしを受けようよ。まずは寒さに耐えられるようにならなきゃいけないし」
座長とペチュニアが何か隠し事をしている様子を見て不審に思うリルモだが、一先ずグラインの言う通りにする事にした。
「リズル、トンガラの実はどれくらい育ってる?」
「んーと……おかーさんに聞かないとわかんないや」
「じゃあお家に行くしかないわね」
トンガラの実とはフロスタル大陸で栽培されている植物『トンガラ』から実る果実で食用にもなっており、冷えた体を温める効果のある香辛料の原料でもあった。リズルの家ではトンガラが栽培されており、料理のスパイスとしてお世話になっている村人もいるという。一行はリズルの家にてトンガラの実を取りに行く事となった。
「ペチュニアさん。私の事で何か隠してるつもりなら後でちゃんと話してもらいますよ」
リルモはどうしても座長とペチュニアの挙動が気になるばかり。
「そのうち話すわよ。でも今は私の頼み事を引き受けて欲しいの」
「絶対よ! 隠し事されるのは嫌いだから」
半ば感情的にリルモが言うと、ティムは横で渋い顔をしていた。
「こいつに聞けばいいんじゃねえのか?」
クレバルがティムに指差して言う。
「バカね、そう易々と人の事情ヲ暴露できルわけないでショ」
小声でティムが返答すると、ペチュニアはどういう事かとグラインに問う。
「ああ、ティムには記憶を読み取る能力が……」
「シャラァーップ! 色々ややこしくなるかラ軽々と言わないでチョウダイ!」
遮るようにティムが言うと、ペチュニアは困惑する。
「どうでもいいからさっさと用件済ませてちょうだい」
退屈そうな様子でガザニアが言う。そんなやり取りをしつつも、リズルの家に辿り着く一行。家の庭には植物トンガラが栽培されている。リズルの父親は漁師で、母親は庭師であった。リズルは母親にトンガラの実について聞き始める。寒い場所でも育つ植物であるものの、ここ数日間は育ちが悪く、数える程しか実っていないとの事で六つくらいしか確保できない状態だった。
「よかった。六つあれば十分よ!」
トンガラの実を確保したペチュニアは見世物小屋に戻ろうとする。
「おねーちゃん、またね!」
リズルに見送られながらもその場を後にする一行。再び見世物小屋に来ると、ペチュニアは座長にトンガラの実を手渡す。
「これから何をするってんだ?」
何が始まるのか全く予想が付かない一行は座長の行動が気になるばかり。
「儀式よ。アナタ達が寒さに耐えられる身体にする為の儀式を始めるのよ」
「えぇっ?」
儀式という言葉に不審なものを感じ取る一行。
「おい待てよ。まさか俺達を変な薬の実験材料にするとかいうオチじゃねえだろうな?」
「そんな事するわけないでしょ!」
半信半疑な思いの中、座長が五人分の椀を持って来る。それぞれの椀には実を磨り潰した粉末が入っていた。
「これを飲むとあなた方は寒さに耐えられる身体になります」
粉末を見て思わず顔を見合わせる一行。
「……なあ、やっぱり変な薬じゃねえのか?」
疑いの目を向けるクレバルだが、ティムが手を付けようとする。
「大丈夫ヨ。この人達なら信用してもいいワ」
そう言って椀に入った粉末を口に運ぶティム。
「おい! お前何軽々と乗せられてんだよ!」
クレバルが声を上げるものの、ティムは全く動じていない。
「……カ……辛いィィィィィ!」
ティムの口に爆発したかのような辛味が広がり始める。粉末は、激辛成分であった。グライン、リルモ、クレバルはポカーンとしては再び顔を見合わせる。その後ろでガザニアは暇そうに腕を組んでいた。
「さあ、あなた方もグッと飲み干して下され!」
座長の一言にグライン達は思わず青ざめる。
「バ、バカ野郎! 誰がそんなもん飲むかよ!」
クレバルは全力で拒否する。
「これを飲まないと寒さに耐えられないのよ? それでもいいの?」
ペチュニアが言うと、クレバルはそれでも拒否する。
「クレバル、大丈夫ヨ。別に変な薬じゃないシ、何だカ身体がポカポカしてきたワ」
ティムが平気そうな様子で言う。
「う、うーん……」
グラインは躊躇するものの、ティムの目を見て決して嘘はついていないと感じ取り、椀に手を出そうとする。
「おい、お前マジかよ?」
クレバルが声を上げる中、グラインは粉末を飲み干す。
「うっ……ううっ……か、辛い! 辛いいいいいいいいい!」
あまりの辛味に飛び上がってしまうグライン。リルモはこれ本当に飲まなきゃいけないの、と思いつつも椀に入った粉末をジッと見つめる。
「……辛いけど……全身が熱い。さっきまでは寒かったのに、とても熱い感じがするよ」
グラインは自身が熱くなっているのを感じる。体温が急激に上昇し、寒さに耐えられる身体になっていた。
「な、なあリルモ……」
リルモの方を見つめるクレバル。だがリルモは何も応えず、グラインとティムの様子で意を決し、椀に入った粉末を飲む。
「ううっ……ひぃあああああああああぁぁぁ! 辛いいいいいい!」
辛味で飛び上がるリルモ。
「……クレバル。あんたもさっさと飲んでくれないかしら。この茶番もいい加減飽きたのよ」
暇そうにしているガザニアがクレバルに向かって言う。
「お、お前が飲めよ」
「わたくしには必要ないわ」
ドレイアド族には暑い、寒いといった感覚を持たない故に粉末を飲む必要がないという。周りを見渡すと後には引けない空気を感じたクレバルはどうにでもなれ、と粉末を飲む。
「うぎょあああああああああ! 辛い辛い辛い辛いいいいいいいいいいいい!」
騒がしく跳ね回るクレバル。ガザニアはやれやれ、と呆れたような顔で成り行きを見守っていた。粉末を飲んだグライン達は寒気を感じなくなっていた。
「よっし、次は更に身体を温める儀式よ! ついて来て!」
颯爽とステージに向かうペチュニア。
「今度は何をやるってんだ?」
何なんだと後を付けてステージの上に立つ一行。ペチュニア曰く、どんな吹雪でも凍えない身体になる儀式を始めるという。
「ねえ、今から何をするの?」
「みんなにはこれから私の動きを真似してもらうわ。まずはお手本を見せてあげる」
そう言って、ペチュニアが奇怪な動きのダンスを披露する。その動きはどことなくヘンテコな印象を受けるもので、一行は思わず呆然としてしまう。
「どう? これをそっくりそのまま真似してちょうだい」
「な、何だよそれ。そんなもんで吹雪に耐えられるのかよ?」
「つべこべ言わない! さ、レディゴー!」
グライン達はペチュニアのヘンテコなダンスを真似する事に。だが寒さ対策を必要としないガザニアは参加せず、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの冷めた目で見るのみだった。ペチュニアのダンス再現は完全成功まで何度も繰り返され、終わった際には全員汗びっしょりとなっていた。
「はぁ、はぁ……も、物凄い汗かいた……」
「お疲れ様! これで寒くなくなったでしょ?」
すっかり汗だくのグライン達は最早寒気を微塵も感じなくなっていた。
「これならどんな吹雪でも凍える心配はないわ。あ、でも。一つだけ忘れないでほしい事があるの」
「え、何?」
「それは……いつでも前に進む熱いハートよ! 熱いハートがある限り、寒さには絶対に負けないんだからね!」
ペチュニアの一言にグラインは苦笑いするだけであった。改めてペチュニアの頼み事である戦士の墓参りへ行く準備が出来た一行は休憩を挟み、フロスタル森林へと向かう。吹雪に包まれた雪原を歩いていても、グライン達は全く寒さを感じなかった。
「凄いや……全然寒くない。本当に効果あったんだね」
「でしょ? あの人だってトンガラの実でこのフロスタル大陸を渡り歩いたんだから」
あの人とはペチュニアの恩人となる人物である。
「ペチュニアさん。あの人って誰なんですか?」
どうしてもペチュニアの隠し事が気になっていたリルモが問い詰め始める。
「うーん、じゃあせめて名前だけでも言っておこうかな。私を助けてくれたニンゲンの名前は、ライディさんよ」
「え……?」
ライディという名前を聞いたリルモは驚きの表情を浮かべる。
「リルモ、知ってるの?」
予想外の反応に思わずグラインが問うと、リルモは俯いて手を震わせる。
「知ってるというか……私の……お父さんよ」
「えっ……」
愕然とするグライン達。リルモが物心ついて間もない頃――十三年前、リルモの父ライディはレイニーラ王国で腕の立つ魔法騎士と呼ばれ、他国に呼び出されてから帰らなくなっていた。その国がフロストール王国で、今では既に帰らぬ人になっているという事実。ただでさえ母を失っているのに、父まで亡くなっていたなんて信じたくない。もしかしたら同じ名前の別人かもしれない。
「リルモ……」
どう声を掛けるべきか解らないグライン達。信じたくない現実に直面したリルモは、言葉を失う思いで一杯だった。


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