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目覚めし七の光
ムィミィの村
しおりを挟む次の目的地であるオストリー大陸へ向かうグライン一行は、今後に備えてのひと休み目的で小さな無人島に降り立つ。夜になり、冷たい風が吹き付ける中、簡易テントの前に設けられた焚火の炎は静かに燃え上がる。
「この辺りは魚がよく釣れるから大漁だったぜ」
クレバルが釣った魚を焼き始める。
「さ、魚のホネ……」
焼き魚を頬張り始めるグライン達の横で、ティムは魚の骨が苦手なせいで食べる事に躊躇していた。
「お前、やっぱ魚が食えねえのか?」
クレバルがからかう調子でティムに言う。
「ウルサイわネ! ホネがなけれバいくらでも食べられルわヨ!」
ティムが顔を真っ赤にして怒鳴っていると、ガザニアが様々な野草とキノコを手にやって来る。
「集めてきたわよ。これくらいでいいかしら?」
ガザニアが摘んできた食用の野草類とキノコは十分なくらいの量であった。
「お、俺はキノコが大嫌いだからキノコは遠慮しとくぜ」
キノコを見て青ざめるクレバル見てティムはにやけていた。野草とキノコのサラダ、焼き魚といった質素な食事を堪能し、ひと時の休息を取る一行。夜も更け、皆が寝静まった頃、リルモはふと目が覚め、テントから出る。虫の鳴く声と波の音が聞こえる静かな無人島を彷徨っている中で夜空を見上げると、無数の星が瞬いている。
「父さん……母さん……」
父と母の姿を思い浮かべているうちに、リルモの目から涙が溢れ出す。母を失い、父は既に亡くなっていたという事実を知った悲しみからまだ立ち直れないままでいた。けど、いつまでも悲しんでいる場合じゃない。仲間を守る為にも、戦わなきゃならない。そう、私には守るべき大切な仲間がいるのだから。そう言い聞かせつつも、リルモは夜の海をぼんやりと眺めていた。
「よぉリルモ。大丈夫か?」
不意に声を掛けてきたのはクレバルだった。
「何よクレバル。おどかさないでくれる?」
リルモは素っ気なく返事する。
「悪い悪い。お前の事が色々心配でつい」
リルモの悲しみを察していたクレバルは気に掛ける余り、思わず後を付けていたのだ。
「……別に心配しなくてもいいわよ。寝付けなかったから」
「そうかい。ま、無理すんなよ」
海を眺めつつもその場に座り込むリルモ。クレバルは一息付いてはリルモの隣に座る。
「何なのよ。変なちょっかいかけるとブッ飛ばすわよ」
不機嫌そうにリルモが言うと、クレバルはへへっと笑う。
「ブッ飛ばす……ねぇ。お前らしい一言で安心したぜ」
「はあ?」
何言ってるのよ、と思いつつも鋭い目でクレバルを見つめるリルモ。
「リルモ。俺には気の利いた事言えねえけどさ……俺、お前にはずっと元気でいて欲しいんだ。お前があんなに辛そうにしてるところを見ると、放っておけなくなって。それで……」
俯き加減に言うと、クレバルはリルモの方に顔を向ける。
「お前には元気でいて欲しいから……その……お前の力に、なりたいというか……いつでも俺が支えて、あげたいな……って……」
半ばぎこちないような口調で言うクレバルだが、その眼差しはしっかりリルモと目を合わせていた。リルモは僅かに顔を赤らめるが、拳骨でクレバルの頭を殴り付ける。
「ってぇ!」
「何を言い出すのかと思えば、告白のつもり? ほんっとバカね。あんたに同情される程落ちぶれてないわよ」
ふてぶてしく言うものの、リルモはそっと顔を近付ける。
「でも……ありがとう。私の為に」
眼前でリルモが礼を言うと、クレバルは顔を赤らめ、言葉が出なくなる。
「……私はそろそろ寝るわ。あんたも早く寝なさいよ」
リルモは立ち上がり、再びテントに向かっていった。
「リルモ……俺は……」
クレバルは言葉に出来ない想いを募らせる。そう、俺はリルモの事が好きなんだ。好きだからこそ、今度は俺がリルモを守ってあげたい。リルモの支えになってあげたい。いつも誰かを守ろうとしているリルモだけど、たまには誰かに頼ったりしてもいいと思ってる。どれくらい力になれるか解らないけど、俺に頼ったっていいんだから。
星空に一つの流れ星が落ちる。流れ星を見たクレバルは思う。
俺に……リルモを守れる力があれば……。
いや、リルモの力になれる事なら、何だってやってやる。何だって――
翌日――一行を乗せたドーファンはオストリー大陸付近に辿り着く。だがその時、不意に悪天候となり、大雨が降り出して海が荒れ始める。早く上陸を試みるものの、大陸の周囲は岩礁だらけな上に岩山が多く、しかも大きな渦潮が発生している。上陸するには渦を越えた先にある岸辺しかなく、並みの船では到底辿り着けないのは火を見るよりも明らかだ。
「おい、冗談じゃねえよ。渦に飲み込まれるなんて御免だぜ」
雨に濡れながらも渦を乗り越える方法を模索しようとするものの、不意に凄まじい揺れが起きる。激しい波による揺れだった。
「うわあ!」
揺れによってグラインはバランスを崩し、転がるように海に転落してしまう。咄嗟にガザニアが種から蔦を放ち、海に落ちたグラインを捉えて引っ張り出す。
「た、助かったよ……」
「手を焼かせるんじゃないわよ」
辛うじてガザニアに救われるグラインだが、揺れは収まらない。波のうねりは途轍もなく大きく、ドーファンの巨体ですら揺らせる程だった。ティムは何とかこの場を乗り越えられないものかとドーファンの意識に語り掛けている。
「クッ、このままじゃあ危険だ」
落下しないようドーファンの背中の突起に掴まるグライン。
「みんナ、しっかりト落ちないようニして」
ティムの一言。ドーファンが突撃する形で渦潮を乗り越えるとの事だ。
「ええっ! だ、大丈夫なの?」
不安な様子のグライン。
「そうでもしないトどうにモならなイ事くらい解るでショ! 今ハやるしかないのヨ」
ティムは突起に掴まる。ええいままよと全員が突起に掴まると、ドーファンが前進する。泳ぐスピードは加速していき、渦の上に来た瞬間、速度を最高潮にアップする。そのスピードは凄まじく、勢いで飛ばされそうな程だ。
「うわあああああああああああ!」
全力で突起に掴まる一行。渦を越え、波に揺られながらも岸辺に辿り着くドーファン。
「あ、あっぶねぇ……」
上陸出来た事を確認し、降り立つ一行。雨は徐々に収まっていき、各エレメントオーブや戦利品が入った道具袋はガザニアの自然魔法による蔦に包まれる形で保護されていた。
「アア、ありがとうガザニア。ちゃんとオーブを守ってくれたのネ」
「ふん、苦労して手にしたお荷物は大事にするものよ」
道具袋に入ったエレメントオーブは五つとも無事である事を確認したティムは安堵する。道具だけでなく、グライン達の武具も幸い事故で海に流される事はなかった。
「何とか辿り着いたわネ。デモ、ここからガ本番ヨ」
風のエレメントオーブを守る鳥人族の聖地であり、グラインの勇者の力が自在に扱えるようになる嵐の試練の場所となる烈風の谷までの道のりは険しく遠く、しかも通過点となるウィドル峡谷の入り口が風の扉と呼ばれる竜巻の門で塞がれている。風の扉を開く方法はムィミィと呼ばれる生き物が何か知ってるかもしれないとティムは語る。ムィミィは太古の時代にて天から現れた幻獣と噂される不思議な生き物であり、同じ大陸に住む鳥人族、鬼人族とは親しい関係だという。今いる場所はオストリー大陸の領域の一つとなるソルド大地。雨が上がり、一行はソルド大地に生息する様々な魔物を蹴散らしながらもムィミィが住む村を発見する。
「可愛い! これがムィミィ?」
ムィミィを見たリルモは思わず目を輝かせる。ウサギのような長い耳に丸い身体をしたぬいぐるみのような生き物であった。
「ム? ムィ! ムィ!」
グライン達の来訪に騒ぎ始めるムィミィ達。
「何だこいつら。人語話せねぇのかよ」
独特の鳴き声で歓迎するかのように集まるムィミィを前に、ティムが鳴き声を解読する。どうやら歓迎の挨拶をしているようだ。ティムはムィミィ達に旅の目的を伝え始める。
「ムー!」
ムィミィの一人が奥にある家に向かうと、集まっていたムィミィは散り散りに去って行く。
「伝わったのかな?」
グラインが辺りを見回すと、粗末な造りの家が何件か建てられ、村の奥には大きめの家がある。ティムによると、大きめの家にはムィミィの長となるキングムィミィが住んでいるとの事だ。数分後、ずんぐりした巨体のキングムィミィが足音を立ててやって来る。
「ムィ! 旅人ズよ、いらっしゃいでム!」
「お前は喋れるんかい!」
思わず突っ込むクレバル。キングムィミィは人語を習得しており、他のムィミィと違って話す事も可能であった。ティムは旅の目的と事情を説明すると、キングムィミィはフームと考え事をする。
「風の扉ならば開けられるが……ちょいとワシの頼み事を聞いて欲しいム」
キングムィミィの頼み事とは、二人の鬼人族が村で療養しており、助けてあげて欲しいとの事であった。鬼人族の名はキオとオルガ。二人の住む場所である鬼人族の里が何者かの襲撃を受け、里から逃れたキオは負傷し、オルガは邪悪な力に汚染された状態で村に流れ着いたという。どうやらこの頼み事を引き受けないと風の扉を開けてくれなさそうだと悟った一行は頼みを引き受ける事に。
「やれやれ。また面倒な事に付き合わされそうね」
ガザニアがめんどくさそうにぼやく中、一行はキオとオルガが療養する家に案内される。
「ん? 誰だ?」
家の中には、ボロボロに傷付いた赤い肌の鬼人族の男、キオが佇んでいる。奥には青い肌の鬼人族の女、オルガが横たわっていた。キングムィミィはグライン達をワケアリの旅人だと説明すると、ティムはこっそりとキオとオルガの記憶を探り始める。
「……で、こいつらが何とかしてくれるってのか?」
「その通りだム」
「ハッ、何処とも知れねぇ余所者の力なんざ必要ねぇよ! こんなケガなんか一日経てば治る。その時に……っててて」
傷の痛みにもがくキオ。
「ケガなら私に任せて」
リルモはキオにそっとアクアヒールで傷の治療を試みる。すると、キオの負傷が一気に回復していく。これまでの旅による数々の戦いを重ねてきた結果、回復の力が増していたのだ。
「信じられねぇ……これが魔法の力かよ? ったく、オレだったらすぐ治るのにいらねぇお節介しやがるぜ」
「何よ、可愛くないわね。お礼の一言くらい言ったらどうなの?」
「へっ、一応ありがとよ」
ぶっきらぼうに礼を言うキオ。
「フーン、アナタ達の事情は大体把握したわヨ」
メモリードでキオとオルガの事情を読み取ったティムの一言。
「あぁ? 何だお前。オレはまだお前らに何も話してねぇぞ?」
「それがネ、ワタシには解るのヨ。ワタシは記憶を読む事が出来るんだからネ」
「記憶を読むだぁ? んなバカな話、誰が信じられるかよ!」
「アナタの名前はキオ。そこのオルガってコと激しく殴り合ってたんでショ? これでも信じられナイかしラ?」
キオは当たってるぜと言わんばかりの表情になる。
「マ、マジかよ……この毛むくじゃら野郎、見事に当てやがった」
「毛むくじゃらじゃなくてティムヨ! ワタシの名はティム! ここにいルみんなにもわかルように、何があったのか説明してちょうだイ!」
記憶を読んだティムに全ての事情を把握され、ただ驚くばかりのキオ。
「チッ、そこまで知られちまったら仕方ねぇ。話してやらぁ」
キオは経緯を話し始める。遡る事数日前――
鬼人族の里に一人の女性がやって来る。ソフィアであった。
「む、お前さんは人間の娘のようだが……何故此処に?」
族長がやって来ると、ソフィアは涙目になる。
「た、助けて下さい……魔物に襲われて、道に迷ったんですぅ」
縋り付くようにソフィアが言うと、それは可哀想にと言いつつも族長が家に案内する。里に住む数人の鬼人族がソフィアに注目していた。
「さぞかし大変だったろう。大したもてなしは出来ぬが、暫く休んでいくといい」
族長のもてなしを受けるソフィアは笑顔で礼を言う。
「族長! オレ達だぜ」
外から声が聞こえてくる。キオとオルガであった。
「おお、お前達。どうであったか?」
「ダメだ。あちこち探したんだが、ちっとも見つからねぇ。あいつら何処に行っちまったんだ?」
キオとオルガは、行方不明になった鬼人族の兄弟を探していた。兄弟の名はドグルとマグル。数日前にオガラ丘陵にて狩りに出掛けて行ったきり突然消息を絶ってしまったのだ。
「そうか……最近どうもこの辺りの魔物が凶暴化するようになったし、何かよからぬ事が起きようとしているのかもしれぬ」
族長は不吉な予感を抱いていた。
「へへっ、魔物如きにやられてたまっかよ。どんなバケモノが出ようとオレ達がブッ倒してやるぜ。なあオルガ」
「……そうね」
血の気の多いキオに対して冷静に振る舞うオルガ。
「ところで、そこにいる女は誰だよ?」
ソフィアの存在が気になったキオが問う。族長が道に迷った旅人の娘である事を説明すると、キオは訝しむような目で見る。
「たった一人で何しにこんなところに来たんだ? ここに人間が来るなんざ滅多にねぇ事だぜ」
キオが突っかかるように言うと、ソフィアはおどおどした様子でたじろぐ。
「これ、よさんかキオ。きっと何かワケがあるんだろう」
族長がソフィアを庇うものの、腑に落ちない様子のキオ。オルガは何か考え事をしていた。
「ケッ、オレは余所者に関しては基本的に疑うタチなんだ。そう易々と受け入れりゃいいってもんじゃねえぜ」
キオが鋭い目でソフィアを見据える。その時、鬼人族の一人が慌てた様子でやって来る。
「族長! 里の付近でグーロンが大暴れしています!」
「何だと?」
オガラ丘陵に生息する魔物の中で最も危険な存在とされる巨体の魔物『グーロン』が暴走しているとの事であった。
「チッ、仕方ねぇ。オルガ、行くぜ」
「ええ」
このまま放っておくと里にも危機が訪れると悟ったキオとオルガはグーロンの討伐に向かう。オガラ丘陵内を暴れ回るグーロンは砂嵐を巻き起こしながらも、巨体を活かした強烈な体当たりや大岩をも容易く砕く一撃でキオとオルガのコンビを苦戦させた。
「グハァッ」
グーロンの一撃を受けたキオは唾液を吐き散らし、岩に叩き付けられる。
「がああっ!」
オルガは空中回転しつつもグーロンに回し蹴りを連続で叩き込む。
「野郎、なめんじゃねえぞ!」
キオは力を込めると、拳が赤いオーラに包まれる。炎の魔力が拳に凝縮されているのだ。
「うおおおおおおおおッ!」
グーロンの懐に飛び込んだキオが拳の乱打を叩き込む。その攻撃は決定打となり、呻き声を上げながらも倒れるグーロン。
「なかなか骨のある野郎だったぜ」
勝負が付いた事を確信し、一息付くキオ。
「私がいなかったら危なかったかもね」
オルガからの一言。
「ケッ、こんなデカブツなんざオレ一人でも十分やれたっての」
「その割には派手に吹っ飛ばされてたわね」
「うるせぇよ。あれも準備運動だ」
無事で討伐を終えたキオとオルガは里に戻ると、不意に立ち止まる。なんと、里全体が黒い霧に覆われ、多くの鬼人族が叫び声を上げながらも激しい殴り合いをしているのだ。
「おい、何やってんだお前ら!」
只事ではないと察したキオは止めに行こうとするが、三人の鬼人族が立ちはだかる。肌が黒ずみ、顔つきが悪鬼と言わんばかりの醜悪なものに変化し、目が赤く光っていた。
「キオ、こいつらは正気じゃないわ」
オルガの一言で三人の鬼人族がキオに襲い掛かる。
「待て! やめろ!」
キオが呼び掛けるものの、鬼人族達は次々とキオに攻撃を仕掛ける。戸惑う余り防戦一方になるキオだが、瞬時にオルガが蹴りで倒していく。突然起きた異変の原因が掴めないキオは霧が立ち込める周囲を見渡す。同族達が激しく殴り合う中、倒れている鬼人族の姿もあった。更に数人の鬼人族がキオとオルガの姿を発見した瞬間、猛獣の如く一斉に襲い掛かる。
「ちくしょう、一体何なんだよ!」
応戦するキオとオルガは凶暴化した鬼人族達と激しく殴り合った末、全員倒していく。
「ぐ、うっ……はぁっ」
突如、膝を付いて頭を抑えるオルガ。頭痛であった。
「オルガ、どうしたんだ!」
「はぁ、はぁっ……キオ……逃げて。何故か解らないけど……頭が痛くて物凄くイライラする……」
自分でも解らないような身体の異変を感じたオルガはキオに逃げるよう促す。キオも胸の奥が焼け付くような感覚に陥っていた。
「グッ、オレも何か身体が変な感じだ。まさか、この黒いモヤモヤのせいか……?」
今は里にいては危険だと感じたキオはオルガと共に逃げる事を考える。
「くそ……どういう事かわかんねぇけど、今此処にいたらやべぇ!」
キオはオルガの手を引っ張る形で里から逃げ出した。一体何が起きたんだ。何故こんな事になっちまったんだ。そんな事を考えている中、オルガが突然ふらつき始め、倒れる。
「オルガ!」
キオが咄嗟に呼び掛けるが、倒れているオルガは身震いを始め、身体の色が黒ずんでいく。
「……グ……ウウ……ガハアアアァァッ!」
顔を上げたオルガは白目を剥き、涎を垂らしながらも鋭い牙が露出した凶悪な顔に変貌していた。
「オ、オルガ……?」
オルガの変貌を目の当たりにしたキオは驚くばかり。次の瞬間、オルガはキオに攻撃を仕掛けてくる。
「やめろオルガ! お前までどうしちまったんだ!」
白目を剥いていたオルガの目が赤く光り、キオに襲い掛かる。その姿は明らかに自我を失っている様子だった。
「ちっくしょう! オルガ、目を覚ましやがれ!」
応戦しようとするキオだが、狂暴化したオルガの連続回し蹴り等の激しい攻撃を喰らってしまう。
「が、ぁっ……」
血を流しながらも立ち上がるキオ。飛び掛かるオルガはキオを押し倒し、唸り声を上げながらキオの首に手を掛ける。
「うぐ……オオオアアアアッ」
凄まじい力で絞首しようとするオルガだが、キオは力任せにオルガの腹に一撃を加える。ゴボッと胃液を吐き出すオルガの隙を付いて逃れ、キオは更にオルガの鳩尾目掛けて全力を込めた拳を叩き込む。
「ゴアッ……ガアアアアアアアアッ!」
鳩尾に全力の一撃を受けたオルガは叫び声を上げながらもバタリと倒れてしまう。
「ハァッ、ハァッ……どうなってやがる」
キオは意識を失ったオルガを引き摺りながらも丘陵を彷徨う。里で何が起きたのか? 何故同族が突然狂暴化したのか? この異変の正体は何なのか? 答えが見出せないまま、キオは時折感じる頭痛と胸のざわつきを抑えながらも、安全な場所に身を隠そうとした。長時間流離った末に辿り着いたのがムィミィ村であった。
キングムィミィ曰く、キオとオルガは邪悪な力に心と肉体を汚染されたとの事で、オルガや里の鬼人族達が狂暴になったのも邪悪な力によるものであった。幸いキオは邪悪な力の汚染度が少なめだったらしく、邪悪な力を抑える効果のある村の清らかな湧き水を浴びる事で狂暴化を抑える事が出来た。だがオルガは心と肉体がかなり汚染されていたせいで黒ずんだ身体の色は元に戻らず、清き水だけでは邪悪な力を抑える事が出来ない状態となっていた。つまり意識が戻った際には再び牙を剥いて襲い掛かる事は明白である。そして里を襲った黒い霧がもたらす邪悪な力の正体はヘルメノンであったのだ。
「鬼人族の里もヘルメノンに毒されテいたなんテ、一体何が狙いなのかしらネ……」
ティムは不吉な予感を覚える。
「まずはこの人達を何とかしてあげなきゃ。助けられる方法はないの?」
グラインはキングムィミィにキオ達を救う方法を聞く。
「あるといっちゃあるが……なかなかヘビーだム」
その方法とは、邪悪な力がもたらすあらゆる毒を完全に浄化させる浄毒の聖水を作る事である。その為には村の東にある光る草の洞窟の奥で採れるアオビカリの草、アカビカリの草、キイロビカリの草が必要だった。だが洞窟には凶獣ベヘモットと呼ばれる恐ろしい魔物の棲み処でもあり、腕の立つ鬼人族でも歯が立たない程の強さだという。
「お約束のパターンだよなぁ。どれだけやべぇバケモノだろうと、行くしかねぇんだろうな」
今一つ乗り気ではないクレバルだが、リルモの視線を気にして渋々と乗る事に。
「ちょっと待ちな! お前らみたいな余所者はどうにも信用できねぇ。オレも連れて行け!」
キオが同行を試みる。
「待つのはキミだム。キミはオルガくんの傍にいるんだム」
キングムィミィが止めに入る。
「あぁ? こんなわけのわからん奴らなんかに任せてられっかよ」
「よく考えるム。もしオルガくんが目を覚ましたら大変だム。ワシらが全滅したら聖水が作れなくなるム。聖水を作れるのはワシらしかいないんだム」
目覚めたオルガが暴走した時に止められる者がいないと村のムィミィ達がやられてしまい、聖水を作る方法を失って救われなくなると諭されたキオは諦めざるを得なくなる。
「チッ、そういう事なら仕方ねぇな」
キオは眠るオルガの事が気になりつつも、グライン一行に鋭い目を向ける。
「お前らがどれだけ強ぇのか知らねぇけど、しくじるんじゃねえぞ」
ふてぶてしく言うキオに対して黙って頷くグライン。一行は聖水の材料を手に入れるべく、光る草の洞窟へ向かった。
「あの鬼男、態度が気に入らないわね」
ガザニアはキオに不快感を抱いていた。
「まあまあ。きっと根は悪い人じゃないと思うよ」
グラインが宥めるように言うものの、ガザニアは面白くなさそうな様子だ。
「それにしても……ムィミィってあんな可愛い見た目していても聖水が作れるなんて、結構凄い事も出来ちゃうのね」
リルモはムィミィの底知れなさに興味を抱いていた。洞窟までの道のりはそう遠くはなく、村を出てから僅か十数分後に洞窟の入り口に辿り着く一行。洞窟の中は、至る所にエメラルドグリーンの光を放つヒカリゴケが生えていた。
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