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神界に眠るもの
再会
しおりを挟むグライン……グライン……
何処かから呼び声が聞こえる。真っ白の空間に佇む中、浮かび上がるのはリルモとクレバルの姿。笑顔を向ける二人に近付こうとした時、背後から黒い影が現れる。そして影は変化していく。そう、タロスの姿に――。
――我が裁きを受けよ。
リルモとクレバルの姿は溶けるように消えていき、球体に閉じ込められるグライン。球体の内部は黒い炎で燃え上がり、グラインを焼き尽くしていく。炎に焼かれて絶叫する中、グラインは見ていた。無数の流星によって次々と破壊されていく世界の全てを。
うっ、うわああああああああああああああああああああああああああああああッ!
悪夢から醒めたグラインは叫び声と共に起き上がる。夢だった事を知りつつ、思わず辺りを見回すと見覚えのある机や本棚の存在に気付く。懐かしい部屋の中――自宅の自室だったのだ。
「……僕の家だ。でもどうして?」
天の祭壇にて現れたタロスを筆頭とするジョーカーズとの戦いで圧倒的に打ちのめされ、ズタボロに傷付いた身体はすっかり治っている。それどころか、何故自分の家に帰って来たんだ? 仲間達はどうなった? そんな疑問が生じる中、ドアをノックする音が聞こえる。
「グライン! 大丈夫か? グライン!」
部屋の外から懐かしい声。バージルの声だった。ドアが開くと、バージルとラウラがやって来る。
「グライン! 目が覚めたのか!」
「よかった……グライン。ずっと心配していたよ」
駆け付けて来る両親の姿に思わず戸惑うグライン。ヘルメノンの呪いに蝕まれていた父さんと母さんが元に戻っている……もしや、勇者の極光で呪いから解放されたのだろうか。それとも、これも夢なのか?
「と、父さん……母さん……僕は一体?」
「ある人がお前を助けてくれたんだ。我々を助けてくれたのもお前達だって事も聞かされたよ」
「え?」
バージルの言葉で夢ではない事を悟ったグラインは、ある人の存在が気になり始める。いや、それよりも気掛かりなのが仲間達の安否だ。みんなは一体何処にいるんだ。その事を問おうとした時、玄関のドアをノックする音が聞こえる。訪れたのは、キオとガザニアだった。
「よぉグライン、やっと気が付いたか」
「ようやく目を覚ましたのね。そのまま死んだんじゃないかと思ったわ」
二人が無事だった事を確認すると、グラインは他の仲間はどうなったのか気になってしまう。
「ワタシはココヨ」
突然のティムの声。思わず辺りを見回すグラインだが、ティムの姿は何処にもない。
「ココにいるワ」
ガザニアの懐から小さな光の玉が現れる。
「え……これは?」
小さな光の玉はティムの魂の光だったのだ。
「アナタ達を守る為ニ……ワタシは肉体を捨てたワ」
ティム曰く、タロスが操る古代魔法コスモ・カタストロフィが呼んだ破壊の流星からグライン達を守る為の秘術で肉体を犠牲にしたとの事だ。今まで白い犬のような姿だったのが小さな光の玉に変化しているという事実に驚きを隠せないグライン。
「リルモは? クレバルは……」
グラインがリルモとクレバルについて問うものの、ティムは何も答えない。まさか、クレバルに続いてリルモまでも……? 最悪の出来事が頭を過るものの、グラインは自分に言い聞かせる形で否定する。
「オレ達を助けてくれたらしい女が城で待ってるそうだ。まあとりあえず行ってみようぜ」
「感傷に浸ってないでさっさと来なさいよ」
キオとガザニアの行く先はレイニーラ城だ。
「あ、待ってよ!」
助けてくれた女って誰なんだ? と思いつつも、グラインは城へ向かう二人の後を追う。
「グライン、我々も付いて行くぞ。色々話を聞きたい」
バージルとラウラの同行を快く引き受けるグライン。
「戸惑うのモ無理ないケド……一つ言える事ハ、レイニーラのヘルメノンは完全に浄化されたワ」
「……そうか」
「レイニーラ城へ行きまショウ。そこデ……ワタシの事を話すワ」
ティムの魂はグラインの服の中に侵入していく。一体何がどうなっているのか。自分達を助けてくれた人物は何者なのか。クレバルは本当に死んでしまったのか? リルモは何処にいるんだ? そしてティムの正体は? その答えを確かめるべく、グライン達はレイニーラ城へ向かう。ティムの言う通り城下町を支配していたヘルメノンはすっかり浄化され、邪悪な雰囲気は消えている。人々の姿はあるものの、活気はあまり戻っていない状況だ。城に入ると、兵士達がやって来る。
「よくぞ帰って来てくれた、グラインよ。レヴェン殿が地下の避難部屋でお待ちだ」
兵士が口にしたレヴェンという名前にグラインは思わず耳を疑う。
「レヴェン……? 今、レヴェンと言ったのですか?」
「うん? 知っているのか?」
「知ってるというか……」
レヴェンはグラインの本当の母親となる人物。本当の母親が今此処にいる。唐突に衝撃的な知らせを聞かされたグラインは絶句していた。
「グライン。とうとう……この時が来てしまったな」
バージルとラウラが真剣な表情でグラインを見つめる。
「と、父さん……母さん……?」
一体何を思っての一言なのか。そんな事を考えつつも、緊張した面持ちで城内を歩く。
「おお、お前達……無事だったか」
声と共に現れたのは風王とウィンダルを始めとする数人の鳥人族だった。
「風王様! 鳥人族も……」
「もうダメかと思ったが、間一髪で助けられたわい。あの予言者にな」
風王が口にした予言者という言葉で、グラインは一つの考えが浮かぶ。まさか各地を回っていたあの予言者がレヴェン……つまり僕の本当の母さんだというのか? 風王によると、大陸が崩壊する直前に現れた予言者の不思議な力によってレイニーラへ送り込まれたとの事だ。
「おおお? これが鳥人族か? 初めて見たな」
バージルは鳥人族に興味津々の様子。
「ところで、クレバルは無事だったのか? クレバルだけじゃなく、もう一人いないようだが」
風王の問いにグラインは返答出来ず、黙り込んでしまう。クレバルは死んでしまった上、リルモが今何処にいるのか解らない。クレバルの両親もきっと助かっているはず。いずれご両親にもクレバルの事を話さなくてはならない現実に、グラインは冷や汗を掻いてしまう。
「そういえば、リルモちゃんとクレバル君は何処にいるの? 一緒に旅してたんだろ?」
ラウラが問い掛けるものの、グラインはどう言ったらいいのかと思うばかりで黙り込むばかりだ。
「あ、あのよぉ……今はまずやる事を済ませようぜ」
キオの一言でグラインはさっさと地下へ向かっていく。まさかとても言えないような只ならぬ事情があったというのか、とバージルは考えてしまう。地下の避難部屋には護衛となる兵士の他、キングムィミィを始めとするムィミィ族、オルガ、コニオ、族長がいた。
「キオ!」
「キオ兄ちゃん!」
「キオ、無事であったか……!」
オルガ達やムィミィ族が来ていた事に驚くキオ。グラインも何故彼女達までレイニーラに? と驚いていた。思わずリルモを探してみるものの、リルモの姿は見つからない。
「オルガ、コニオ、族長……お前らまで何でこんなところに?」
「レヴェン殿のおかげだ」
族長が指す方向には、銀髪を靡かせた女性――レヴェンがいる。
「あ、あなたが……僕の本当の……?」
レヴェンの姿を見たグラインは懐かしさと共に既視感を覚える。旅の予言者の正体は、レヴェンだったのだ。
「……よく来てくれました、グライン。バージルとラウラも……息子を立派に育ててくれて感謝します」
グラインはかつて見た夢の意味を理解する。若かりし頃のバージルとラウラ、そして誰かがいた夢。あれは、本当の母さんがいた夢だったというのか――。
「やはり……噂の予言者の正体はレヴェンだったのね。私の事、解るかしら」
ティムの魂がグラインの中から飛び出して来る。
「その声……もしやティマーラ様? 小さな光になってしまうなんて、一体何があったのですか?」
小さな光の魂になった理由についてティムが説明すると、レヴェンの表情が一瞬険しくなる。レヴェンとティムは面識があった他、タロスも口にしていたティマーラという名前。それがティムの本当の名前なのだろうか。それに、タロスはティムを兄弟と呼んでいたのも一体どういう事なんだろう。グラインはますますティムの正体が気になるばかり。
「グライン……あの時一度会ったけど、あなたと向き合える日が来る事をどれだけ待ち望んだ事かしら……」
レヴェンはそっとグラインの頬に触れようとする。目の前にいる女性が本当の母である事になかなか実感が湧かないグライン。自分には本当の両親がいるという事実を知ったのは旅を始めてからであり、実の両親はバージルとラウラだと思っていたが故に戸惑いを隠せなかったものの、同時に懐かしい感覚に陥ってしまう。
「私が本当のお母さんだと思えないのも無理もないわね。バージル達に預けた頃は、まだ赤ちゃんだったから……」
その一言でグラインはある疑問が浮かぶ。
「……あなたが本当の母さんだというのなら……どうして僕をレイニーラに預けたの? どうして……」
思わず問い掛けるグライン。
「……全て話すわ。あなたをバージル達に預けた理由や、私達の事を……」
レヴェンがこれまでの経緯を語り始める。
北東の大陸ノスイストルには、かつて光に満ちた王国が存在していた。王国の名はレディアル。民は世界に大いなる光をもたらしたと伝えられる光の女神を崇め、太古の時代から存在する場所でもあり、光の聖都と呼ばれていた。レディアル王国に生まれた聖女レヴェンは、紅蓮の勇者フォティアと風塵の勇者アネモスの子孫となる魔導師グルート・エアフレイドと出会い、お互い惹かれ合って愛を育むようになる。二人の出会いは、グルートが傷だらけの身体で彷徨う中、王国に流れ着いたのが始まりだった。
「暖かい……なんて暖かい光なんだ。傷が……治っていく?」
レヴェンの光の魔力は、あらゆる傷を癒す事が出来る。王国の聖女の中で最も強い光の力を持っているのだ。
「私の司る光は、全てを癒すもの……あなたからは不思議な力を感じる。あなたは……?」
「俺はグルート・エアフレイド。レイニーラの魔導師だ」
グルートの出身地はレイニーラであり、勇者の子孫の一人として代々の習わしに従い、各地のエレメントオーブを通じて先祖の加護を受ける旅をしていた。だがその道中、凶悪な魔物の群れに襲われてしまい、自身の力で魔物を退けたものの、かなりの深手を負ってしまう。そんな自分を救ってくれたレヴェンにグルートは運命の出会いと感じてしまい、レディアル王国に迎え入れられた。王国では勇者の子孫が訪れるという予言が存在している。王はグルートが予言通りに誕生した勇者の子孫だと知ると大いに歓迎し、国民も暖かく迎えていた。王の傍らには白い髪を靡かせた高貴な女性がいる。女性の名はティマーラ。レディアル王国が建国された頃から王国に住んでいる不老長寿の人間であり、民の間では神に近い存在とされ、女神とよく似た顔を持つ光の子と呼ばれし者であった。
「君には本当にお世話になった。俺はそろそろ行くよ。使命を果たさなくては」
グルートが旅立とうとする。
「待って、グルート」
レヴェンが引き止める。
「あなたの使命……私も手伝わせて」
「何を言うんだ。君を危険な旅に連れて行くわけには……」
「いくらあなたといえど、無事で済むか解らないわ。あれだけ傷付いてたんだから……それに、僅かに未来が見えるの」
「未来?」
レヴェンには未来が読める不思議な能力が備わっていた。僅かに見えた未来とは、具体的にどんな未来なのかは解らないが、決して良くない未来である事。そう告げるレヴェンの眼差しからは強い意思が感じられる。良からぬ未来があなたに関するものだったら、あなたを守ってあげたい。そんな意思の表れに、グルートは反論出来なくなってしまう。
「あなた達からは運命を感じるわ」
現れたのはティマーラだ。
「ティマーラ様!」
「私には解る。あなた達は結ばれる運命だという事を」
「運命?」
ティマーラはそっとレヴェンの頬に触れる。
「レヴェン。あなたは選ばれし聖女。私に次ぐ光の子と言っても過言ではないわ」
レヴェンを選ばれし聖女と称するティマーラは、レヴェンに備わる光の力に一つの可能性を秘めていると考えていた。勇者の子孫であるグルートとレヴェンが結ばれ、子供を授かると強い力が備わる勇者が生まれると見ていたのだ。レヴェンはグルートと共に旅立つ事を王や聖女達に伝えていく。最初は反対されたものの、ティマーラの説得によって旅立ちの許しを得る事が出来た。王国の人々に見送られながらも旅立つグルートとレヴェン。
「レヴェンが予知した未来が、あの予言だとしたら……このレディアル王国も……」
城の屋上でグルート達の旅立ちを見守っていたティマーラは只ならぬ予感を抱いていた。光の聖都である王国には世界の運命に関わる数多くの予言が存在し、その中には不吉な予言が存在する。『大いなる災いの根源となりし巨大な闇の脅威が訪れる』といった予言である。
二人は各地を渡り歩き、グルートの故郷であるレイニーラを訪れた時、レヴェンは未知の魔法の知識を得る。旅を続けているうちに二人は結ばれ、一人の子供を授かった。産まれた男の子はグラインと名付けられ、森の中の小さな小屋で幸せのひと時を過ごしていた。だが、二人はある不安を抱いていた。旅の最中、何者かから光の聖都に伝わる不吉な予言の存在を知らされ、その予言を示すかの如く自分達に巨大な闇の手が迫るという未来が夢となって何度も出ていたのだ。もしかすると予言が現実となる時は来るのかもしれない。だとしたらいずれこの子を……。そんな中、幸せを引き裂こうとしている悪魔が二人の元に現れる。バキラとクロトであった。
「やあ。お前が勇者の子孫かな?」
バキラが邪悪な笑みを浮かべる。
「お、お前達は何者だ!」
赤子のグラインを抱くレヴェンを守るようにグルートが身構える。
「お前を処分しに来た。恨みはないけど、ボク達の計画の邪魔になり得るのでね」
バキラが指を鳴らすと、クロトが戦闘態勢に入る。
「ついでに……そこの女。お前とその赤ん坊もちょっと気になるね。もしかするといい素材になるかもね」
レヴェンとグラインに興味を持つバキラ。グラインは火が付いたように泣き始めると、バキラの表情が険しくなる。
「……耳障りな泣き声だ。クロト、やっちまいな」
荒々しげにバキラが指示すると、クロトは鉤爪状の手に紫色のオーラを纏う。魔力を解放したグルートは襲い掛かるクロトに戦いを挑む。グルートが放つ炎と風の上級魔法とクロトの格闘による勝負は互角に見えたが、やるなと呟きつつも邪剣ネクロデストを手にしたクロトは素早い動きでグルートを切り裂いていく。
「うっ……がはっ」
血反吐を吐きながらも、グルートは炎の魔力を一点に集中させていく。
「来たれ、灼熱の劫火を司りし竜よ……」
炎の魔力は巨大な竜へと変化していく。サモン・インシナレイト・ドラゴンであった。灼熱の劫火を纏いし巨大な竜はクロトを飲み込んでいく。
「グオオオオオオアアアアアアア!」
劫火に焼かれるクロトが絶叫を轟かせる。やったかと一瞬構えを解くグルートだが、その隙を突かれる形で邪剣の刀身がグルートを貫いた。
「ごはあっ……」
致命傷を負ったグルートはその場に倒れてしまう。激しく泣き出すグラインを抱きながらも、レヴェンはグルートの元へ駆け寄ろうとする。
「……耳障りだって言ってんだよ」
バキラは不機嫌そうに傀儡の呪術を発動する。赤子の泣き声に激しい嫌悪感を覚えている様子だった。レヴェンは一瞬ふらつきを感じるものの、咄嗟に光の魔力を放出させる。
「これは……ボクの力を抑える光の魔力か。気に入らないね」
レヴェンに備わる光の魔力はバキラの呪術を防いでいた。泣き止まないグラインに苛立ちが収まらないバキラは醜悪な表情を浮かべつつも、鋭い目を向ける。炎が消えると、全身を焼かれたクロトはバタリと倒れてしまう。
「クロト……チッ、少しはやるようだね」
動かなくなったクロトを見下ろしては、バキラは再びレヴェンを見据える。
「虫唾が走る。お前達も八つ裂きにしないと気が済まない」
バキラが宝玉を取り出すと、玉から黒い瘴気と共に現れる巨大な魔物。デストロイだった。
「デストロイ。この目障りな女どもを叩き潰しちゃいな」
バキラの命令に応えるかのように、デストロイが雄叫びを上げながらもハンマーを地面に叩き付ける。
「ぐっ……レヴェン……がはっ」
瀕死のグルートは吐血しつつも、魔力を高めている。
「グルート!」
「どうやら……俺はもうこれまでのようだ。どうか、グラインを……」
「グルート……」
グルートの命が尽きようとした時、レヴェンは涙を流しつつも、迫り来るデストロイに視線を移し、グラインを強く抱きかかえる。
グルート……さようなら……
涙を溢れさせながらも、レヴェンは飛び立っていく。レイニーラへ訪れた際に習得した瞬間移動魔法『テレポルート』で、自身の魔力エネルギーが込められた魔石のある場所に移動する高等魔法の一種だ。
「逃げられたか。まぁいいや。今はこいつの始末が目的だからね」
デストロイはグルートに向けてハンマーを振り下ろそうとする。死を覚悟したグルートは、息子を頼んだぞとレヴェンに全ての想いを託した。
レヴェンが辿り着いた先は、レイニーラだった。城下町にある女神像の中に魔石が捧げられていたのだ。レヴェンはとある家を訪れる。バージルとラウラの住む家だった。バージルとグルートは、友人だったのだ。
「何だって? グルートが……」
レヴェンは全ての事情を話し、グラインを育てるように頼み込む。グルートを狙った悪しき者達は、勇者の子孫の抹殺が目的だった。しかも自分に目を付けた事もあり、そのうち命を狙ってくる可能性がある。グルートを失った今、戦う術を持たない自分にはグラインを守る事が出来ない故の決断だった。
「どうか、この子をお願いします。時が来るまでは、この子を……」
バージルとラウラはレヴェンの頼みを引き受け、グラインを我が子のように育てていった。子供がいなかった二人は、グラインを実の息子のように見ていた。グラインと別れたレヴェンはレディアル王国に帰還する。だが、レヴェンが見たものは、滅ぼされた王国だった。王も、民もいない。ティマーラの姿もない。光の聖都と呼ばれし王国は、滅びの運命を辿っていた――。
遠き場所に預けた息子が夫の意思を継ぐ者となる事を願いながらも、レヴェンは各地を流離い、様々な魔法に関する知識を探索した。勇者の子孫であるグルートと光の聖女である自分との間に生まれたグラインが、巨大な闇の脅威に立ち向かう勇者になると確信したレヴェンは息子の力になる為にも、十数年に渡る旅の末、世界に存在する様々な秘術を身に付けていた。同時に未来の出来事が明確に見えるようになり、旅の予言者として各地に息子を始めとする選ばれし者達の訪れを伝えていた。
「……まさか……そんな事が……」
全ての経緯を聞かされたグラインは言葉を失う思いだった。
「そして、あなた達を救ったのも……此処にいる人々を救ったのもこの私……」
タロスによる古代魔法で天の祭壇やオストリー大陸全体が徹底的に破壊し尽くされた際、ズタボロになったグライン達を救ったのもレヴェンであり、オストリー大陸が滅ぼされる直前にムィミィ族、オルガ、コニオ、族長、鳥人族をレイニーラに送ったのもレヴェンであった。十数年間の旅の中で習得したテレポルートの上位魔法であり、特定の地へ送り込む転送魔法『トランスファルト』で、大陸の者達は辛うじてレイニーラへ送り込まれたのだ。
「……グライン……今までずっと親らしい事をしてやれなくてごめんね。せめて……あなたを救い出せてよかった……」
レヴェンは俯きながらも涙を流す。
「……いいんだ。あの時、あなたがいなかったら僕達は確実に死んでいた。旅立つまでは本当の母さんがいるなんて信じられなかったけど……」
グラインは思わずバージルとラウラの方を見る。バージルとラウラは何も言わず、我々の事は気にするなと言わんばかりに頷いた。そして再びレヴェンと向き合うと、レヴェンはそっとグラインを抱きしめる。
「グライン……」
レヴェンの抱擁にグラインは涙を浮かべてしまう。
「ったく、ここで親子の再会たぁ泣かせてくれるじゃねえか」
キオがぶっきらぼうながらも感動の言葉を漏らす。ガザニアは無言かつ無感動な様子で成り行きを見守っていた。
「……レヴェン。せっかくの再会の時に悪いけど、そろそろ私の方からも話したい事があるの」
そう言ったのはティムだ。いつもの明るい片言口調ではなく、落ち着いた声色による口調になっている。ティムの本来の姿、ティマーラとしての言葉であった。
「ティマーラ様?」
レヴェンが返答すると、ティムがグラインの中から飛び出してくる。
「グライン。みんなも今までずっと私が何者なのか気になっていたでしょう? 全ての答えを明かす時が来たわ」
ティムの一言で辺りが緊迫感に包まれる。そしてティムは自身に関する全ての経緯を語り始めた――。
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