Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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神界に眠るもの

海底の悪霊たち

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海底遺跡に辿り着いたグライン達は鍵玉がありそうな場所を探そうとするが、外へ出ようとも海の底。素潜りでの探索は到底不可能だ。
「ね、ねえ……これでどうやって鍵玉を探せばいいの?」
思わずグラインが問うものの、回答出来る者は誰もいない。遺跡は崩壊した都市部と小さな城のような建物といった感じである。
「おーっと! あそこに入り口がありまっせ!」
ブーリが城の入り口を発見する。朽ちた扉が開いており、中に入れる状態だった。ゲラーク号が突入すると、城の内部も浸水状態であるものの、城内全てが水で覆い尽くされている状態ではなく、上階からは水が行き届いていない。上からは辛うじて探索出来そうと見たグライン達はゲラーク号から降りようとする。
「ワタシ達が戻って来るまデ、絶対に逃げルんじゃナいわヨ」
探索が終了するまでブーリにここで待機するように言うティム。ギガント山に戻れる帰還の石があるといえど、一度海底都市に戻る時の事も考えてゲラーク号が必要不可欠なのだ。ゲラーク号から降りた一行は水が来ていない階段を上ると、通路に出る。所々に朽ちた柱が倒れて行く手を塞いでいるものの、道なりに進んでいくと、不意に寒気を感じ取る一行。
「気を付けテ。魔物の気配がするワ」
ティムの声と共に現れたのは、水死体の魔物『ドザ・エーモン』、怨念の声を轟かせる霊魂『エイシェントゴースト』、水溶液がスライム状の魔物となった『アクアスライム』だった。グラインとティータの炎魔法、ガザニアの数々の植物を利用した戦法で襲い掛かる魔物を全て撃退していく。
「ここ、オバケばっかりだな。怖いぞ」
魔物の群れを撃退した後、ティータは少々逃げ腰の様子。子供心にお化けが苦手のようである。通路を進んでいくと更に上への階段があり、その先には広間があった。
「あの大臣モよくこんなトコに来たものネ。この城、ワタシが生まれる前ニ存在していタのカモ」
広間には、古代文明の成れの果てと思わしき残骸が転がっている。何かの像。ボロボロで使い物にならない奇妙な形の武器。そして古代文字が刻まれた石板の欠片。もしかするとこの辺りに鍵玉があるかもしれないと考えたグラインは手当たり次第に探し出す。
「随分とめんどくさい事するのね」
嫌々ながらもガザニアが鍵玉探しに協力する。ティータもお宝探し気分で手伝い始めるものの、鍵玉は見つからなかった。
「はぁ……こんなところに鍵玉があるのかも怪しくなってきたな」
半ば不安になるグライン。突き当たりには通路があり、進んでいくとまたも色んな残骸が転がる広間に出る。突き当たりには扉が一つある。
「……まさかまたこの中から探せっていうの?」
不機嫌そうにガザニアが問うと、グラインは苦笑いしながらもあの扉の先を確かめてみようと返す。扉に向かって進もうとすると、突然人魂が床から浮かび上がり、一行を取り囲むように次々と現れる。
「何だこれは……気を付けろ!」
現れた人魂の数は数え切れない程の量となっており、魔物の気配を感じた一行は戦闘態勢に入る。多量の人魂のうちの三つが変化し、光り輝くクラゲのような魔物と化す。水晶のように輝く特徴を持つ『クリスタルグレル』だ。クリスタルグレル達が一斉に全身から眩い光を放つ。
「うっ……!」
光で思わず目が眩むグラインとティータ。即座に目を閉じて回避したガザニアが種を投げてマッドローパーの蔦を生み出し、クリスタルグレル達を捉えていく。視界が戻ったグラインとティータは同時に炎魔法を放つ。クリスタルグレル達が一斉に焼き尽くされると、空中に浮かび上がっていた人魂が次々と魔物に変化していく。鋼並みの甲殻を持つ蟹の魔物『ヘルズクラブ』と、刃物のような鋭いヒレを持つエイの魔物『レイスラッシャー』である。
「鬱陶しいわね」
ガザニアはしなやかな動きで鞭を振るい、リーフスラッシャーによる木の葉の刃を放つ。ティータの炎魔法とグラインの風魔法の連携で魔物の群れが撃退されていくと、更に残りの人魂が新手の魔物に変化する。一つ目の黒いイソギンチャク『アネモニアン』、ウミウシをモチーフとした魔物『アクアスラグ』、身のこなしが軽く逆立った髪が特徴のペンギン型の魔物『ダンスペペンギー』。魔物と化した無数の人魂は遺跡の守護者と言わんばかりに、グライン達を執拗に狙っている様子だ。
「くそ、これじゃあキリがない!」
様々な魔法で応戦するグライン。
「危なイ! あの目玉ノ光線を受けるト石にされるワ」
ティムの一言で咄嗟に警戒する一行。アネモニアンが目を見開かせて光線を放つ。辛うじて光線を回避したティータは反撃の炎魔法を放つ。
「ヴォーテクスブロー!」
真空の刃の渦は暴走して威力が増し、魔物の群れを切り裂いていく。そして連続で繰り出される真空の刃。グラインは勇者の力を呼び起こしていた。魔物が全滅すると、残り全ての人魂が一斉に変化していき、ウツボ型の魔物『マッドモーレイ』、頑強な甲羅を持つ亀の魔物『オーシャンタートル』、体内に電気を帯びたタコの魔物『オクトパスデビル』、巨体かつ毒々しい見た目をしたイカの魔物『デスクイード』となって立ち塞がる。
「いい加減しつこいわよ!」
ウンザリしたように種を複数投げるガザニア。次々と生まれる棘が生えた蔦。だがオクトパスデビルは蔦を物ともせず、口から電撃を放つ。
「ぐあああああああああ!」
「ぎゃああああああああ!」
電撃を受けて倒れるグラインとティータ。更にマッドモーレイが紫色の霧を吐き出す。猛毒ブレスだった。
「ぐあ……か、身体が……」
ティータを庇い、猛毒ブレスを浴びて猛毒に冒されたグラインは全身に激しい寒気と局所の激痛、気が遠くなるような感覚に襲われる。幸いティータは霧から逃れて毒を受けずに済んだものの、電撃による痺れが僅かに残っていた。
「グライン! グライン!」
ティータの呼び掛けに応え、立ち上がろうとするグラインだが、毒に蝕まれてうまく動く事が出来ない。そんなグラインに、デスクイードの太い脚による薙ぎ払いが繰り出される。
「がああ!」
薙ぎ払いの一撃を受けたグラインは壁に叩き付けられてしまう。
「よくもグラインを!」
怒り任せにソル・フレアを放つティータ。巨大な炎の玉に焼き尽くされるデスクイードだが、オーシャンタートルの甲羅による体当たりがティータを吹っ飛ばしてしまう。
「スパイクウィップ・マスカレイド!」
無数の花弁共々華麗に舞うガザニアのイバラの鞭が魔物達を切り裂いていく。更にガザニアが種に軽く息を吹き掛け、床に放つと種から毒々しい色の花が咲き始め、周囲に花粉を撒き散らす。花粉を浴びた魔物達は突然動きが止まってしまう。全身を麻痺させる花粉を放つ自然魔法が生みし植物『パライズフラワー』であった。
「まだ倒れる時じゃないわよ」
ガザニアはグラインの前まで駆け付け、白い花の植物を作り出しては磨り潰し、エキスをグラインの口に注ぎ込む。思わずエキスを飲んだグラインは全身の毒が一瞬で消え、回復する。解毒効果のある薬草だった。
「た、助かった……ありがとうガザニア」
「礼なら後よ」
麻痺で動けない魔物達の姿を見て闘志を滾らせ、全力で魔力を集中させるグライン。
「サモン・インシナレイト・ドラゴン!」
グラインの闘志に応じるかの如く、燃え上がる巨大な炎の竜が魔物の群れを次々と飲み込んでいく。魔物達はグラインの渾身の魔法によって全て焼き尽くされた。
「これで全部やっつけたか?」
無事で敵を全滅させたかどうか確認するグライン。魔物と化した人魂は全て消えていた。
「待っテ! マダ何かいるワ」
ティムの声にグラインは思わず身構える。すると、三つの人魂が浮かび上がる。まさかまた、と思った瞬間、三つの人魂は魔物に変化する。シュモクザメ型の魔物『ブルシャーク』二体と、硬い外殻を持つダイオウグソクムシ型の魔物『キングソク』だ。
「くっ、まだいたのか!」
サモン・インシナレイト・ドラゴン発動によって大量に魔法力を消耗したグラインは魔法を連発する余裕がなくなっており、ヘパイストロッドによる直接攻撃で応戦する。炎の刃を振り下ろすものの、キングソクの外殻を傷付ける事は出来ず、ブルシャークの鋭い牙による噛みつき攻撃がグラインを襲う。
「がはあ!」
迸る鮮血。肩を大きく噛みつかれたグラインは思わず膝を付いてしまう。噛み傷からは血が溢れ出している。
「そろそろ終わりにしてくれないかしら」
ガザニアが種から淡いピンクの花を咲かせ、息を吹き掛ける。息吹は花粉を撒き散らし、ブルシャークとキングソクの周囲を覆っていく。咲かせた花はベラドンナで、幻惑効果を生む自然魔法『ディズブレス』であった。幻惑によって錯乱状態に陥る魔物達。
「おりゃりゃりゃりゃりゃあ!」
ブルシャーク二体に炎の玉を次々と投げつけるティータ。更にティータは両手から炎の矢を放つ。同時に二発式のフレイムアローだ。ガザニアは鞭を回転させるように動かし始める。
「スピニング・ローズニードル!」
イバラの鞭と共に高速回転しつつも、無数の棘を辺りに散らしていくガザニア。高速回転は周囲を切り裂き、散る棘は弾丸のように飛んで行く。ズタズタに切り裂かれ、棘の餌食となったブルシャーク二体はボロボロになっていた。後方に回転しつつも大きく飛び上がり、新たな種を撒いていく。種からは極太の植物の棘『スキュアニードル』が生み出され、二体のブルシャークを串刺しにした。残るはキングソク一体。負傷したグラインは応戦しようとするものの、肩の傷からの激痛で思うように手を動かす事が出来ない。キングソクはのしのしと歩きながらも、紫色の霊魂のようなものを吐き出す。霊魂はグラインを取り囲むと、グラインは脱力感と共に怨念のような声が耳に響き渡るのを感じる。
「うっ……な、何だこれは……!」
思わず耳を塞ぐグライン。
「グライン、どうした?」
ティータが駆け寄るが、グラインの周囲に怨霊が纏わりついている。
「いけなイ! これハ呪いヨ」
ティム曰く、生物の怨霊が生んだ闇の呪いであった。呪いに掛かった者は激しい脱力感と倦怠感に襲われ、怨念の声を延々聞かされてしまい、まともに戦う事が出来なくなる。呪いを解くには光の力で浄化する必要があり、今のティムでは光の力を扱う事が出来ない。
「情けないわね。呪いなんかに負けるんじゃないわよ」
発破を掛けるガザニアだが、グラインは呪いで思うように動けない。身体を丸めての体当たりを繰り出すキングソク。
「うわああああ!」
キングソクの体当たりを食らったティータは大きく吹っ飛ばされ、背中を強く打って苦しそうに咳き込む。
「こうなったら……!」
ガザニアは種を握りながら念じ始める。
「それハ……ネペンティッド?」
「ふん、こんな粗大ゴミの処理に使う羽目になるとはね」
木の魔力を宿らせた種を投げつけるガザニア。種から生まれる食虫植物。だが巨大ではなく、キングソクにも劣る大きさだった。戦いの連続で消耗したせいで魔法力が足りず、不完全な形になってしまったのだ。
「うくっ……まさか、これだけ消耗していたっていうの……」
とんだ誤算に焦りの表情を浮かべるガザニア。キングソクが再び体当たりを繰り出す。体当たりはガザニアに向けられたが、間髪でしなやかに回避していく。素早い動きで鞭を振るうものの、まるで手応えがない。ガザニアのイバラの鞭では、キングソクの外殻に傷一つ付けられなかった。
「この子が立ち直らないと……本格的にマズイかもしれないわ」
ガザニアは呪いで苦しんでいるグラインを鋭い目で見る。呪いと戦いながらも、グラインは何とか身体を動かそうとする。こんなところで、倒れてはいけない。僕は、勇者として戦わなければならない。どんな事があっても、倒れてはいけないんだ。



何があっても……やらなくてはいけないんだ!


グラインは渾身の力で気合いを込めて魔力を放出させ、重く感じる身体を全力で動かしつつも両手で魔法を放つ態勢を取る。右手に炎の力、左手に風の力――。
「劫火の嵐よ……唸れ! ブレイジング・テンペスト!」
勇者の力がいずる炎と風の大魔法。嵐のように巻き起こる劫火がキングソクを焼き尽くしていく。ヘパイストロッドを手に取ったグラインは、上空からロッドの炎の刃をキングソクの外殻に突き立てた。その一撃は急所に直撃し、息絶えるキングソク。グラインの呪いは、勇者の力による魔力の放出に伴い消え去っていた。
「今度こそ、全部やっつけタみたいネ」
人魂から変化した数々の魔物は全て消滅し、遺跡内に存在する魔物の気配は完全に消えていた。
「手間のかかるゴミ処理だったわ。さっさと用件済ませるわよ」
やれやれと言わんばかりにガザニアは扉に近付き始める。
「グライン。大丈夫なのか?」
ティータが声を掛けると、僕なら大丈夫だよと返答するグライン。扉に触れると、音を立てながらも開いていく。扉を開けたその先は崩れた柱、財宝が入っていたと思われる幾つかの古びた宝箱、錆びた武器とガラクタ、壊れたオブジェの残骸が散らばる大広間で、奥には大きな貝がある。
「またこんなややこしいところか……」
やはり手当たり次第に探すしかないのかと思いながらも、グラインは大きな貝に近付こうとする。
「何やお前ら。泥棒か」
突然の聞き慣れない声に思わず辺りを見回す一行。
「誰だ!」
グラインが身構えると、突然大きな貝が飛び上がり、貝殻がパックリと開き始める。
「そらこっちの台詞や。お宝探しにでも来たんか?」
声の主は、なんと大きな貝そのものだった。貝殻には目玉が浮かび上がっており、中には赤い宝玉が入っている。
「か、貝が喋った……?」
思わず驚くグライン。
「あぁ? ワイが喋って何が悪いんや。これやから地上の奴らはめんどくさいねん」
喋る貝は古の時代にて深海に住んでいた知能を持つ貝の種族『シェール族』の末裔で、アコヤンという名前であった。年月が経つに連れて同族の殆どが滅びてしまい、自分一人だけで安住の地を求めて海底遺跡を見つけてからずっと住み着くようになったという。
「その玉は?」
「これか? だいぶ昔に魚のおっさんが来て、この辺にほかしおったんや」
アコヤンが持っている赤い宝玉は、大臣が遺跡内に封印したという鍵玉であった。
「魚のオッサン……間違いなイ! きっとアレが鍵玉ヨ!」
鍵玉と確信したティムはアコヤンに玉を譲るように言う。
「この玉っころが欲しいんか? くれてやってもエエけど、タダであげられんなぁ」
「何ヨ? これ以上面倒なコトさせナいでくれル?」
「せやなぁ……ずっと暇しとったから、なんかおもろいネタでワイを笑わせてみぃ。ワイを笑わせる事ができたら玉っころはお前らにやるわ」
「はああ?」
鍵玉を与える条件は面白い事をして笑わせるという別の意味で厳しい条件を突き付けられたグライン達は困惑するばかり。
「笑わせるって、どうやって……」
「何でもイイかラ面白いコトやってみなさいヨ。そうすルしかないワ」
「でも……」
人を笑わせる事に全く縁がないグラインにとっては極めてハードな試練であった。ティムだけでなくガザニアにも相談しようとするものの、自分で何とかしなさいよと相手にされない。
「アイツを笑わせたらいいのか? グライン、やってみろ」
ティータもひたすらグライン任せの様子。
「うう……どうしよかな」
グラインはアコヤンを見つめながらも一生懸命考える。
「ほらほらどないや。ワイはずっと退屈しとったんや」
アコヤンが煽るように言う。
「えっと……この貝、でっかいなぁ! 来たカイがあったよ!」
グラインは即興で思い付いた棒読みなダジャレをぶつけるが、場が白けた空気になり、そよ風が吹くだけだった。
「……何やそれ。ワイがダジャレで笑うと思ったんか? しかもおもくそ棒読みとかあり得んわ。あとなんでワイをネタにしとんねん。本気で笑かしたいんやったらもっと才能磨いてこんかい、アホタレ」
「そ、そんなぁ……」
これでもかというくらい酷評を浴びて心に大ダメージを負い、落ち込むグライン。
「ア、アナタねぇ……酷評が過ぎるわヨ! 大体ワタシ達は元々人を笑わせルような事してないわヨ!」
グラインに気遣って反論するティム。ガザニアは馬鹿馬鹿しくて付き合ってられないと言わんばかりにそっぽ向いて腕組みをしていた。
「よくわかんないけど、アイツを笑わせたらいいんだろ?」
ティータが前に出る。
「お、今度はお嬢ちゃんが笑わせるんか?」
アコヤンが興味深そうに見つめると、ティータは突然顔を歪める。変顔の披露であった。
「んお?」
ティータは次々と色んな変顔を見せていく。白目を剥いてタコのような唇になったり、大きく口が開いた満面のアホ面になったり、歯茎剥き出しの不細工な笑顔になったり、渾身の不細工な顔を披露したり等、変顔のパターンはバリエーション豊富である。更に色んな変顔を披露しながらも奇怪な動きによるヘンテコなダンスを踊り始めた。そんなティータを見て、グラインは思わずポカーンとなってしまう。
「……ぷ……ぷぷぷ……ぶぁはははははは! やるやないか! そういう事出来るとは思わんかったで!」
「えええええええぇぇぇ!」
ティータの顔芸とヘンテコダンスが何故かウケた事に驚くグライン達。
「いやいや予想外で驚いたわ。まさかお嬢ちゃんにそこまで出来るセンスがあったとはな! 久々に楽しませてもろたで。ほれ、玉っころはお前らのもんや。持っていき」
アコヤンが鍵玉を転がすと、玉を受け取るティータ。
「やったな。玉もらったぞ」
無事で鍵玉を手にしたが、グラインは微妙にスッキリしない心境だった。
「まーワイはいつでもここにおるからな。また来てもええんやで。五月蝿い悪霊どもを全部やっつけたのもお前らやろ?」
「は、はい」
「あいつらはホンマ五月蝿かったから、やっつけてくれたのは感謝しとるで。ワイも落ち着いて過ごせるからの」
アコヤンにとって、大広間の前にいた多くの魔物は昔から遺跡に住み着いた悪霊であり、安眠を妨げる迷惑な存在だったのだ。目的を果たした一行はその場を後にする。
「……何だかよくわからない奴だったな」
グラインがアコヤンの印象を率直に呟く。
「ティータがあンな面白芸を披露するなんテ思わなかったワ」
「アタシ、顔芸なら得意。アイツ、よく笑う奴だったナ」
「あの貝の笑いのツボはホントよくわかんないケド……」
何故ティータの顔芸とヘンテコダンスがそんなにウケたのか解らないと思うティムだが、あまり考えない事にした。
「鍵玉を手にしたならさっさと帰るわよ。あまり戻りたくないところだけど……」
帰還の石を使えばギガント山へ戻れるものの、その前にポセイドルや大臣に報告しておくべきだとティムが言う。遺跡内に住み着いた魔物はグライン達の活躍によって完全に途絶えており、階段を降りて浸水した場所に戻るとブーリが待っていた。
「おお、あんさんら。お帰りでっか?」
一行がゲラーク号に乗り込み、遺跡を後にする。海底都市に到着すると、一行はポセイドルがいる謁見の間へ戻る。謁見の間にはポセイドルの他、大臣とディスカがいた。グラインは目的のアイテムである鍵玉を無事で手に入れた事をポセイドルに報告する。
「ふむ、無事で目的を果たしたようだな。それが一体何に必要なのかよく解らぬが……」
ティムは鍵玉の秘密について話す。
「むう? 聖竜の塔に天上界とな……天上界というと空の世界という事か?」
「エエ。うまくいけバ、世界の希望となル聖光の勇者を蘇らせるコトが出来るのヨ。それニ……アナタにも話しておこうかしラ。ワタシ自身と聖光の勇者が何者なのかヲ」
更にティムは自分の正体が女神の子孫となる光の護り人ティマーラであり、聖光の勇者は自分の娘である事を打ち明けると、ポセイドルは驚きつつもある事に気付く。
「ティマーラ……聖光の勇者……そうか、ようやく解ったぞ。あの時あなたが初対面ではないと感じたのは……」
ポセイドルには、先代海王である父エシガイの心が宿っていた。魔導帝国との戦いの後、深手を負って事切れる寸前だったエシガイが自身の生命力と共に残る全ての力を託した事によって心が受け継がれるようになり、ティムとは初対面でありながら過去に知り合っていた気がしたという感覚に陥ったのも、ごく僅かなエシガイの記憶が存在していたからだ。エシガイは勇者達の戦友の一人であり、聖光の勇者ティリアムとも関係が深い。ティムからはティリアムと似た光を感じ取ったが故に、ポセイドルの中にあるエシガイの記憶が不意に懐かしさを呼んだのだと。
「それにしても、まさかあなたが勇者の母だったとは……」
「今や魂となって彼らを導いておられるのですな……私とした事がなんと無礼な真似を……」
ポセイドルと大臣は畏まった態度で振る舞うようになる。
「そんな畏まらなくテもいいわヨ。ワタシは礼儀なんテ気にしなイかラ」
ティムは敢えてティマーラとしての自分を見せない様子だった。報告を終え、ギガント山へ戻ろうとする一行。
「グラインよ。もし何かあればいつでも来るといい。妙な予感が収まらぬ」
ポセイドルの一言に快く返事するグライン。宮殿を出て帰還の石を天に掲げると、一瞬で賢人の洞窟前までワープした。


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