EM-エクリプス・モース-

橘/たちばな

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第六章「目覚める真の太陽」

灼熱の戦いと極寒の襲撃

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サンの集落で一晩過ごしたレウィシア達は、翌日改めて太陽の聖地となる火山へ向かう。火山までの道のりは険しく、至る所にドロドロ状の溶岩が流れていた。
「ヘリオよ。解っておるな? もしあの子がアポロイアの魂を受け継ぐ時が来たら……」
「はい。結果がどうあれ、我々の運命は変わらないでしょう」
険しい道のりを進んでいくレウィシア達の姿を密かに見守りながらも会話をするヘリオとタヨ。空を覆う程の煙を噴き上げている火山の様子を、タヨは真剣な表情でジッと見つめていた。

集落を出てから三十分近くが経過すると、ドロドロに流れる溶岩の川が行く手を阻んでいた。
「参ったわね。これでは進めそうにないわ」
流れる溶岩はかなりの高温で、到底歩いて渡れるものではなかった。
「こういう時こそ僕の出番だろ」
テティノが前に出る。その傍らにスプラが佇んでいた。
「そうか、テティノの水の魔力があれば!」
「そういう事さ。水の魔力が最大限ならばこれしきの溶岩など……!」
スプラがテティノの中に入り込んだ瞬間、テティノは水の魔力を最大限に高める。
「大いなる水の力よ……豪雨となりて煮えたぎるマグマの熱を静めよ! レインサブマージョン!」
溶岩の川目掛けて降り注ぐ豪雨。ドロドロの溶岩は、徐々に岩となって冷え固まっていった。
「よし、上手くいったようだな」
溶岩が流れていた場所を難なく進んでいくテティノ。
「流石テティノね。あなたがいてくれて助かったわ」
ルーチェと手を繋ぎながら進んでいくレウィシア。
「テティノったら、お役に立てたからといって浮かれてはいけませんよ」
ラファウスが冷静な様子で言う。
「見てごらんよ。あそこが入り口じゃないのか?」
テティノが指す方向には、洞窟の入り口がある。聖地となる火山の洞窟であった。
「ここからが本番ね。心して掛からなきゃ」
一行は気を引き締めて火山の洞窟へ突入した。洞窟内は、辺りが溶岩で覆い尽くされている程の広大な空洞となっていた。煮えたぎる溶岩の海、流れ落ちる溶岩の滝、溶岩から飛び出す炎の玉とまさに灼熱地獄と呼ぶに相応しい場所だった。
「うぐぐ、なんて場所だ……ここは用心しないと冗談抜きで死ぬな」
テティノは汗を拭いながらも槍を握り締める。火山の洞窟を進んでいく一行の前に、人間の顔と同じ大きさの岩石が浮かび上がる。岩石からは目玉が剥き出し、突然周囲の溶岩から無数の岩石が目玉の岩石目掛けて集まっていく。
「な、何……?」
集まった岩石は人型の巨人のような形となり、中心部から目玉が現れる。聖地を守護する火山岩の魔物ボルカノゴーレムであった。
「クッ、こいつを倒さないといけないって事なのね」
ボルカノゴーレムは力任せに岩石の拳を叩き付けて行く。岩石の身体からは溶岩が染みついており、その一撃をまともに受けると大火傷は確実であった。
「エアロ、今こそ力を!」
エアロの力を得たラファウスが風の魔力を集中させる。
「レイストライク!」
ルーチェの光魔法による光線がボルカノゴーレムに降り注いでいく。
「ウォータースパウド!」
それに続いて発動したテティノの水魔法。巨大な水の竜巻が襲い掛かる中、ラファウスが風の魔力を高めていく。
「やああっ!」
レウィシアが飛び掛かり、ボルカノゴーレムの中心部の目玉に剣を突き刺す。
「螺旋の風よ……ハリケーンスパイラル!」
螺旋状に巻き起こる真空波がボルカノゴーレムの岩石の身体を分解していく。中心部の目玉は逃げるように溶岩の海に飛び込んで行った。
「やったのか?」
テティノが様子を確認するが、ボルカノゴーレムの身体となった岩石は既にバラバラに散っていた。
「まだ何があるか解らないわ。最後まで気を抜かないで」
ふっと息を吹きかけて顔に纏わりつく髪を払い、剣を手に進むレウィシア。
「やれやれ、これが序の口だとしたら先が思いやられるな」
テティノはルーチェ、ラファウスと共にレウィシアの後を追う。洞窟内を進んでいくと、炎を司る魔物達が次々と一行の前に現れ始める。溶岩そのものが魔物と化したマグマメーバ、炎を司る爬虫類の魔物フレイムリザード等を蹴散らしながらも前進する中、再び目玉が浮き出た岩石が姿を現す。ボルカノゴーレムの目玉だった。
「こいつ、まさかまた……!」
テティノの予想通り、目玉の岩石目掛けて次々と集まっていく無数の岩石。戦闘態勢に入る一行。巨大な肉体と化したボルカノゴーレムが大暴れすると、地響きと共に岩石が次々と襲い掛かる。岩石による攻撃を受けた一行は一瞬で転ばされてしまう。
「くっ……!」
レウィシアが立ち上がろうとした瞬間、ルーチェの元にボルカノゴーレムの拳が襲い掛かる。
「ルーチェ!」
レウィシアが慌てて飛び込もうとするものの、到底間に合わない状況であった。だが、その攻撃を間一髪で身代わりとなって受けた者がいた。ラファウスであった。
「がはっ……うっ」
一撃をまともに受けたラファウスの口から血が零れる。
「ラファウスお姉ちゃん!」
「ルーチェ……よかった……」
ラファウスはルーチェに顔を向けた瞬間、ガクリと気を失ってしまう。
「ラファウス!」
テティノが駆けつけると、目の前にはボルカノゴーレムが立ち塞がっていた。
「この野郎、よくも!」
槍を構え、再び魔力を高めるテティノにボルカノゴーレムの拳が振り下ろされる。その攻撃を避けようとした矢先、ルーチェが光魔法を発動させる。
「シャイニングウォール!」
次々と発生する光の柱。間髪でテティノは拳の一撃を避けられたものの、ボルカノゴーレムは暴走するように地面を乱打した。その衝撃によって地響きが起こり、周囲に発生する衝撃波が一行を吹っ飛ばしていく。
「ぐっ、まだまだ……ごはっ……」
全身を強打したレウィシアは咳き込みながらも、剣を手に立ち上がる。
「くそ、早くあいつを何とかしないと!」
テティノは両手に魔力を集中させ始めると、レウィシアが前に出る。
「こいつは炎なだけに水の攻撃で対抗するのが一番だわ。テティノ、私と協力してくれる?」
「勿論さ。どうするんだい?」
「協力といっても単純な話よ。私が全力でこいつを引き付ける。あなたは隙を見つけて全力で攻撃を叩き込む。解りやすいでしょう?」
「本当に単純な作戦だな。ま、それが一番だな」
テティノの返事にレウィシアが頷くと、ルーチェに視線を移す。ルーチェは黙って頷き、倒れているラファウスの回復を始める。レウィシアは炎の魔力を高め、剣を手にボルカノゴーレムに挑んでいく。剛腕による一撃や岩石による攻撃を凌ぎつつも着実に攻撃を加えていくレウィシア。テティノは魔力を蓄積した両手で槍を手に、中心部となる目玉部分に攻撃を当てるチャンスを伺う。
「がはあ!」
一撃を受けたレウィシアが勢いよく壁に叩き付けられる。
「今だ! タイダルウェイブ!」
水の魔力で生み出された巨大な津波が巻き起こり、ボルカノゴーレムを飲み込んでいく。更にテティノは徐に槍を投げつける。槍は勢いよく中心部となる目玉を捕え、深々と突き刺さっていた。
「グアアアアアアア!」
断末魔の叫び声が響き渡る中、ボルカノゴーレムの肉体となる岩石はバラバラに崩れていき、中心部の目玉は砂のように散った。
「ふう、何とかやったみたいだな」
敵が倒された事を確信したテティノは槍を拾い上げる。
「よかった、上手くいったのね。流石テティノだわ」
レウィシアは口から流れる血を手で拭い、賛辞の言葉を投げる。ルーチェの回復魔法によって全快したラファウスは意識を取り戻していた。
「僕だってやる時はやるさ。あのヘリオとかいういけ好かない女にも見せてやりたかったところだが」
自分の力で強敵を倒した事による勝利を実感したテティノは思わず余韻に浸っていた。
「どうやら今回はテティノに助けられたみたいですね。とはいえ、これしきの事で喜ぶのはまだ早いですよ」
諭すようにラファウスが言う。
「解ってるって。でもこれから先、僕の力じゃないとどうにもならない事もあるかもしれないからな。その時は任せてくれよ」
自信満々に言うテティノを見ているうちに、ラファウスは自然に表情を綻ばせていた。
「さあ、先へ進みましょう。まだ何があるか解らないわ」
一行は襲い来る魔物を退けながらも、溶岩で覆われた洞窟内の奥へ奥へ進んでいく。険しい灼熱地獄を流離う事数十分、一行は巨大な空洞にやって来た。そこはまるで別世界のように涼しくも不思議な雰囲気に満ちており、中心地には綺麗な泉に覆われた巨大な石碑が建てられている。
「あれは……?」
一行は石碑を覆う泉に近付く。石碑には古代語で書かれた文字の羅列が刻まれていた。次の瞬間、レウィシアの中に入っていたソルが飛び出し、石碑が眩い光に包まれ始める。


感じる……我が魂と共鳴する力を感じる……


響き渡る重々しい声。次の瞬間、レウィシアは意識が吸い込まれる錯覚に襲われる。
「レウィシア……? レウィシア!」
名前を呼び掛ける仲間達の声が聞こえ始めた頃には、レウィシアの意識は遠のいていた。

目を覚ますとそこは、炎のような靄に覆われた空間だった。周りには仲間達の姿はない。レウィシアただ一人だけが空間に佇んでいた。
「此処は何処なの……? みんなは……」
自分一人だけが何処とも知らぬ謎の空間に来てしまったという事実に、レウィシアは戸惑うばかりだった。


よくぞ来た。我が魂を受け継ぎし我が子孫よ……


辺りに響き渡る声と共に現れたのは、一人の逞しい男――戦神アポロイアそのものであった。
「あなたは……」
「我が名はアポロイア。かつて冥を司る邪神に挑んだ者。我の子孫であり、大いなる炎の力を携え、そして我が魂を受け継ぎし太陽の子よ……そなたが来るのを待っていた」
レウィシアは目の前に現れた男が戦神アポロイアそのものであるという事実に驚きを隠せないまま、息を呑む思いで立ち尽くしていた。
「太陽の子……レウィシア・カーネイリスよ。そなたは紛れもなく我が魂と共に蘇りし冥の神に挑む選ばれし者。そなたも既に存じておろう? 冥の神を打ち倒すには、己の中の真の太陽を目覚めさせる事を」
その問いに無言で頷くレウィシア。
「真の太陽……それは己の太陽に潜む闇を光へ導く事にあり。そなたの中の太陽にも大いなる闇が存在する。此処はそなたの中の太陽と我の魂との共鳴によって生まれた世界であり、そなた自身の心もまた、太陽の一部となりてこの世界に訪れた――」
アポロイアの姿がうっすらと消えて行くと、黒い鎧を身に纏い、両手には剣と盾、そして仮面のような顔に腰まで長い髪を靡かせた大柄の戦士が姿を現す。戦士の全身は黒いオーラに覆われていた。
「これは……?」
立ちはだかる戦士の姿を目にした瞬間、レウィシアは即座に剣を抜く。


それはそなたの中の太陽に存在する全ての闇が形となった『闇の太陽の化身』と呼ばれる者だ。そなたの真の太陽を目覚めさせる為にも、己の太陽の中に存在する闇と戦い、そして光へ導くのだ――。


闇の太陽の化身という名の敵を前に、レウィシアは剣を握り締めながらも自身の力を高めた。


その頃――クレマローズでは、王国に向かっている二体の飛竜と空中浮遊マシンを目撃したスフレは即座にヴェルラウド達がいる客室へ戻っていた。客室にはトリアスもいる。
「何だって? まさか……!」
スフレから話を聞かされたヴェルラウドは悪い予感を覚えると共に神雷の剣を手にする。
「どういう事だ! このクレマローズを狙う敵が迫っているというのか?」
「まあそういう事よ。今すぐあたし達も行かないと大変な事になりそうよ!」
言い終わらないうちに、すぐさま客室を飛び出して行くヴェルラウド。
「闇王の配下はまだ存在するというのか……こうしてられぬ」
戦斧と大剣を装備したオディアンも客室を後にする。
「兵士長さん、敵はあたし達に任せておいて!」
トリアスにそう言い残し、スフレはリランの方に視線を移す。
「……トリアス殿、城の方は頼む」
リランは杖を握り締めながらも、スフレと共にヴェルラウド達の後を追った。


ヴェルラウド達が城の外に出た瞬間、城下町では幾つもの建物が凍り付いていた。同時に凍らされた人々の姿。空中にいるのは、冷気のブレスで無差別に街中を攻撃している二体の飛竜だった。
「チッ、何なんだあいつらは! サレスティルで起きている失踪事件はあいつらの仕業なのか?」
ヴェルラウドが剣を構え、二体の飛竜の元へ向かおうとする。
「ちょっと待って!」
スフレが引き止める。
「何だこんな時に」
「敵はお空の上なんだし、いくらあんたでも正面から行ったら奴らの餌食になるだけでしょ! こういう時こそあたしの魔法の出番ってわけよ!」
スフレが魔力を集中させる。
「お前なら信用しても良さそうだが、早くしろよ」
「するわよ! 今は黙ってて!」
魔力を高めると同時に、スフレの身体が黄金のオーラに包まれる。
「クヒヒヒ……ヒャーッヒャッヒャッヒャ!」
突然響き渡る下卑た笑い声。空中浮遊マシンに乗ったゲウドの笑い声であった。
「よく聞くがいい、愚かな人間どもよ。ワシの名はゲウド。闇王様に仕えし者じゃ」
王国の人々はゲウドの声を聴いた瞬間、騒然となる。同時にパジンとバランガが跨る二体の飛竜がゲウドの前にやって来る。
「ワシの目的はこの国を訪れた赤雷の騎士ヴェルラウドの命を奪う事じゃ。今すぐこの国の何処かにいるヴェルラウドという名の騎士をワシに差し出せい。見つかるまではこの国を徹底して叩き潰す!」
ゲウドがそう言い放つと、二体の飛竜が空中からの冷気のブレスで次々と執拗に攻撃していく。
「ふざけやがって……これ以上奴らの思い通りにさせてたまるか!」
ゲウド達の非道な行いに怒りを覚えたヴェルラウドが剣を手に走る。
「ちょっと、ヴェルラウド!」
スフレの制止を聞かず走り去るヴェルラウド。
「俺も行く。スフレよ、策ならば手短に頼むぞ」
オディアンがヴェルラウドの後を追う。ヴェルラウドは全速力でゲウド達の元へ駆けつける。その途中、飛竜による冷気のブレスの影響で震える程の寒さを感じた。
「おいやめろ! お前らの目的は俺だろ! 狙うなら俺だけにしろ!」
ヴェルラウドが飛竜の元へ辿り着くと、ゲウドは空中から見下ろすように嫌らしい笑みを浮かべる。
「クヒヒヒヒ、殺されに来おったなヴェルラウド。まずはお手並み拝見といこうかのう」
二体の飛竜が空中から同時に激しい冷気のブレスで攻撃していく。
「くっ、くそ……!」
赤い雷を呼び寄せようとするヴェルラウドだが、凄まじい冷気を前にまともに身体を動かす事が出来ず、次第に全身が凍り付いていく。
「これは……ヴェルラウド!」
助太刀に向かおうとするオディアンだが、二体の飛竜による届かない位置からの冷気の攻撃を見て思わず足が止まる。オディアンは手持ちの戦斧を飛竜目掛けて投げつけようとした瞬間、二体の飛竜に巨大な炎の竜巻が襲い掛かる。魔力を最大限まで高めたスフレの風と炎の力を合わせた魔法バーントルネードであった。
「何とか間に合ったみたいね」
スフレとリランがやって来る。
「悪いな、助かったぜ」
ヴェルラウドの身体はスフレの魔法による熱気で凍結を免れていた。駆けつけたリランはすぐさま光魔法でヴェルラウドを回復させる。
「油断するな、奴らはまだ動けるぞ」
炎の竜巻の攻撃を受けた二体の飛竜はまだ空中に佇んでいた。
「なーに、何度起き上がろうとブッ飛ばすまでよ!」
スフレが右手に魔力を集中させる。ヴェルラウドとオディアンが飛竜に立ち向かおうとした瞬間、飛竜の片割れが突然バランスを崩し、墜落してしまう。乗っていたバランガが飛竜の脳天に槍を突き立てたのだ。
「お前は……バランガ!」
バランガの姿を目にしたヴェルラウドは思わず剣を握り締める。
「……ヴェルラウド……キサマを……コロス……」
抑揚のない声で言い放つバランガが槍を構えると、全身が氷の魔力によるオーラに覆われ始める。
「お前は……もう俺の敵でしかないんだな。戦う運命は避けられないんだな」
ヴェルラウドは剣に意識を集中させると、剣先から赤い雷が迸る。
「オディアン、スフレ、リラン様。こいつは俺がやる」
冷気を放ちながらも突撃するバランガに挑むヴェルラウド。赤い雷を纏う神雷の剣と氷の力を纏う槍の激しい戦いが繰り広げられる。
「ヒャッヒャッヒャッ、どんな悪足掻きをしようと無駄な事よ」
高みの見物で大笑いするゲウドは水晶玉を取り出すと、瘴気と共に無数の黒い影が空中に現れる。影の姿を持つ悪魔シャドーデーモンだった。
「今度は数で攻める気?」
空中に佇むシャドーデーモンの数は軽く百をも越える程であった。
「かかれぇ! そして殺せェッ!」
ゲウドの一言で一斉に襲い掛かる無数のシャドーデーモン。同時にパジンを乗せた飛竜が空中から冷気のブレスを吐き掛ける。
「ガストトルネード!」
スフレの魔法による風の竜巻が多くのシャドーデーモンを吹き飛ばしていく。オディアンは襲撃するシャドーデーモンを薙ぎ払いながらも戦斧を投げつける。戦斧は飛竜の脇腹を捉え、飛竜はそのまま落下していくものの、けたたましい雄叫びを上げながらも冷気のブレスで反撃する。
「うくっ……!」
激しい冷気に身動きが出来ないオディアンの足元が凍り付き始める。オディアンは全身に気合を込めて足元の氷を粉砕し、背中から大剣を抜いて突撃する。シッポと鋭い爪による一撃と止まらない冷気のブレスに苦しめられつつも、オディアンはパジンが跨る飛竜に挑んでいた。
「……クレマ、ローズ……ワシノ、モノ……」
戦いの最中、機械的な声が聴こえたオディアンは思わずパジンの姿を見る。
(あれはマシンなのか、ゲウドという男に改造された人間なのか……?)
パジンの正体が気になりつつも、オディアンは飛竜に向けて大きく剣を振り下ろした。

スフレはシャドーデーモンの軍勢を数々の魔法で蹴散らしていた。だが、軍勢はまだ尽きていない。顔は汗に塗れており、隣にいるリランは街の人々の様子を気遣いつつも回復の魔法で援護していた。
「これじゃあちっともキリがないわね……あたしの魔力が持つかどうかわかんなくなってきたわ」
魔法を使い続けたせいで魔力が消耗していたスフレは、絶えない敵の軍勢を見て不安を感じていた。
「こうなってはやむを得ん……スフレよ。私の力を使え」
「え?」
「今から私の魔力を君に与える。それで奴らを倒すのだ」
リランは徐にスフレの肩を両手で掴む。
「きゃっ! ちょっと、何するのよ!」
突然の出来事に驚き、手を払い除けるスフレ。
「我慢しろ! 今はそんな事を気にしている場合ではない」
飛び掛かる数体のシャドーデーモンが二人に向けて次々と黒い光弾を放つ。
「きゃあああ!」
「うわあああ!」
光弾の直撃を受けた二人は吹っ飛ばされてしまう。
「こんのぉ! エクスプロード!」
スフレの爆発魔法によって消し飛ばされる数体のシャドーデーモン。
「くっ、このままでは……スフレよ、一旦逃げるぞ」
「はあ? 逃げるってどういう事よ!」
「いいから来るんだ!」
強引にスフレの腕を引っ張る形でその場から逃げるリラン。敵から距離を離した場所でスフレに魔力を与えるという考えでの行動であった。
「ちょっと、これも作戦なの?」
「そういう事だ! 黙って言う通りにしてくれ!」
言われるがままに全速力でリランと共にその場から逃げるように走り去るスフレ。
「ヒヒヒ、バカめが。何処へ逃げようと無駄じゃよ」
その様子を空中から見ていたゲウドが合図するように指を鳴らすと、シャドーデーモンがスフレ達を追い始めた。

バランガと戦うヴェルラウドは、槍の一撃を受けながらも赤い雷を纏った剣技を繰り出す。その攻撃を受けたバランガは叫び声を上げながらもヴェルラウドへの執拗な攻撃を続けた。
「クソッタレが……いい加減にしろ!」
大きく振り下ろした剣の一撃に弾かれたバランガの槍が飛んで行く。深々と地面に突き刺さる槍。そしてバランガの喉元に剣を突き付けるヴェルラウド。
「バランガ、出来る事ならお前を殺したくない。俺の声が聞こえるのなら答えろ。お前はかつてシラリネ王女を守り続けていたサレスティルの近衛兵長。あの頃のお前はもういないのか?」
その問いにバランガは拳を震わせる。
「……サレスティル……シラリネ王女……貴様……」
兜の中からうっすらと見えるバランガの目。その目は、憎悪の光に満ちていた。
「……ヴェルラウドォォォ! 貴様をッ……貴様をオオォォォッ!」
咆哮と共に凄まじいオーラを放つバランガ。その気迫にヴェルラウドが飛び退いた瞬間、周囲に凍てつく冷気を放ち、地面に刺さっていた槍は浮かび上がり、回転しながらバランガの手元に戻って来る。
「もう……お前には何を言っても無駄だというわけか」
最早バランガには何の声も届かないと確信したヴェルラウドは再び剣を構える。巻き起こる冷気の渦の中、両者の激闘が再び始まった。

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