11 / 61
吐き出す場所1
しおりを挟む
「千尋、今朝何時に起きたんや?」
武史との暮らしも一ヶ月が過ぎ、大体お互いのリズムを掴めてきた。
翻訳の仕事は日によって量が違うようだ。武史が帰ってくる頃に既に仕事の目処がついている日もあれば、夕飯後も仕事をしている日もある。
武史が帰ってくる頃に一旦休憩を取るようにしている千尋は、できるだけ仕事に目処をつけ、武史と共に買物に行くというルーティンが出来つつあった。
今朝は武史が家を出る頃に既に離れの電気がついていた。休憩をしている千尋も心無しか疲れている。
「急ぎの仕事があって、昨日からずっとしていたの。今やっと終わってホッとしているところ」
「寝とらんのか?」
「うん、今から仮眠させて。今日夕飯作れないと思う。ごめん」
「かまわんよ、そんなこと。それよりはよ寝えや。夕飯は俺が作るわ。簡単なもんやけどな」
「ありがとう」
時間になっても起きなかったら起こしてと言い残し、トラと共に離れに戻る千尋を見送る。
この一ヶ月でトラはすっかり千尋になつき、武史といるより千尋と一緒にいる時間の方が長かった。
武史は縁側に行き、タバコを咥えた。
変わったのはトラだけでない。武史の生活も変わった。
千尋の夕飯を食べるために夜は出歩かなくなった。
家で殆ど米を炊かなかったため、朝ご飯もパンだったのが白飯に変わった。
トラの遊び場だった庭の片隅に家庭菜園のスペースが出来た。
どこでも吸っていたタバコを基本的に部屋で吸うようになった。どうしても共有スペースで吸いたい時は縁側でなるべく吐いた煙が家に入らないようにしていた。
『電子タバコだからそこまで気にしなくていいよ』
そういう千尋だったが、非喫煙者の千尋に煙が当たるのも気になる。
それに、千尋は気づいていないだろうが、武史に付いているタバコの残り香で一瞬切なそうな表情を見せる。
ため息と共にタバコの煙を吐き出した武史は、誰に聞かれるともなく呟いた。
「一人で背負いすぎや。今にも潰れそうや」
武史の前では取り繕っているつもりなのか、明るく笑顔を見せているがふとした瞬間によぎる影。
一緒に住み始め、千尋はほとんど丸一日休みを取らずに仕事をしていた。
何かを振り払うように無我夢中で働いている千尋をこの一ヶ月何も言わずに見守って来た。
だが...
「話すまでは待つつもりやったけど、体壊すわ、このままやったら。…吐き出させんとな」
この数日悩んでいたが、今日の様子をみて心を決めた。
千尋の過去をキチンと聞くことを。
「え?一日休み?」
「そうや。ブログにもそろそろ近所以外のことも載せてほしいからな。ちょっと遠出したらおすすめの場所があるんや」
武志が作った夕飯を共に食べながら千尋へある提案をする。
武志にも見せているブログには、日常の生活の様子は載せていた。歩いて行けるくらいの距離の港の風景や、普段使っているスーパー、昼食や夕食で行けるくらいの飲食店。
半日くらいの場所なら共に行っていたが中々遠出は出来ていなかった。
それでも、いいところも苦労していることもありのまま書いている田舎生活のブログは少しずつ読者も増えていた。
「俺の休みに合わせて一日休み取れんか?」
千尋は少し考え込んでいた様子だったが、仕事の都合がつく算段がついたのか肯定の返事をする。
「わかった。次のタケちゃんの休みに合わせる。でも飛び込みの仕事が来たらごめんね」
「ありがとうな」
ホッとした表情で武志はお礼を言った。
夕飯の後も仕事があるから、と言い早々に離れに戻った千尋を見送り夕飯の片付けを済ませる。
おこぼれをねだるように武志にすり寄って来たトラに煮干しを与える。おとなしく煮干を食べているトラを撫でていると、本音がこぼれ落ちる。
「もっと甘えたらええのにな、お前みたいに。千尋一人くらい支えられるくらいの甲斐性はあるつもりやけどな」
にゃーん
トラは武志を慰めるように一鳴きした。
武史との暮らしも一ヶ月が過ぎ、大体お互いのリズムを掴めてきた。
翻訳の仕事は日によって量が違うようだ。武史が帰ってくる頃に既に仕事の目処がついている日もあれば、夕飯後も仕事をしている日もある。
武史が帰ってくる頃に一旦休憩を取るようにしている千尋は、できるだけ仕事に目処をつけ、武史と共に買物に行くというルーティンが出来つつあった。
今朝は武史が家を出る頃に既に離れの電気がついていた。休憩をしている千尋も心無しか疲れている。
「急ぎの仕事があって、昨日からずっとしていたの。今やっと終わってホッとしているところ」
「寝とらんのか?」
「うん、今から仮眠させて。今日夕飯作れないと思う。ごめん」
「かまわんよ、そんなこと。それよりはよ寝えや。夕飯は俺が作るわ。簡単なもんやけどな」
「ありがとう」
時間になっても起きなかったら起こしてと言い残し、トラと共に離れに戻る千尋を見送る。
この一ヶ月でトラはすっかり千尋になつき、武史といるより千尋と一緒にいる時間の方が長かった。
武史は縁側に行き、タバコを咥えた。
変わったのはトラだけでない。武史の生活も変わった。
千尋の夕飯を食べるために夜は出歩かなくなった。
家で殆ど米を炊かなかったため、朝ご飯もパンだったのが白飯に変わった。
トラの遊び場だった庭の片隅に家庭菜園のスペースが出来た。
どこでも吸っていたタバコを基本的に部屋で吸うようになった。どうしても共有スペースで吸いたい時は縁側でなるべく吐いた煙が家に入らないようにしていた。
『電子タバコだからそこまで気にしなくていいよ』
そういう千尋だったが、非喫煙者の千尋に煙が当たるのも気になる。
それに、千尋は気づいていないだろうが、武史に付いているタバコの残り香で一瞬切なそうな表情を見せる。
ため息と共にタバコの煙を吐き出した武史は、誰に聞かれるともなく呟いた。
「一人で背負いすぎや。今にも潰れそうや」
武史の前では取り繕っているつもりなのか、明るく笑顔を見せているがふとした瞬間によぎる影。
一緒に住み始め、千尋はほとんど丸一日休みを取らずに仕事をしていた。
何かを振り払うように無我夢中で働いている千尋をこの一ヶ月何も言わずに見守って来た。
だが...
「話すまでは待つつもりやったけど、体壊すわ、このままやったら。…吐き出させんとな」
この数日悩んでいたが、今日の様子をみて心を決めた。
千尋の過去をキチンと聞くことを。
「え?一日休み?」
「そうや。ブログにもそろそろ近所以外のことも載せてほしいからな。ちょっと遠出したらおすすめの場所があるんや」
武志が作った夕飯を共に食べながら千尋へある提案をする。
武志にも見せているブログには、日常の生活の様子は載せていた。歩いて行けるくらいの距離の港の風景や、普段使っているスーパー、昼食や夕食で行けるくらいの飲食店。
半日くらいの場所なら共に行っていたが中々遠出は出来ていなかった。
それでも、いいところも苦労していることもありのまま書いている田舎生活のブログは少しずつ読者も増えていた。
「俺の休みに合わせて一日休み取れんか?」
千尋は少し考え込んでいた様子だったが、仕事の都合がつく算段がついたのか肯定の返事をする。
「わかった。次のタケちゃんの休みに合わせる。でも飛び込みの仕事が来たらごめんね」
「ありがとうな」
ホッとした表情で武志はお礼を言った。
夕飯の後も仕事があるから、と言い早々に離れに戻った千尋を見送り夕飯の片付けを済ませる。
おこぼれをねだるように武志にすり寄って来たトラに煮干しを与える。おとなしく煮干を食べているトラを撫でていると、本音がこぼれ落ちる。
「もっと甘えたらええのにな、お前みたいに。千尋一人くらい支えられるくらいの甲斐性はあるつもりやけどな」
にゃーん
トラは武志を慰めるように一鳴きした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる