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祭りと花火4
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「武史!戻ったで」
二人の沈黙を破るように、秀樹が帰ってきた。
「さくらと大樹はまだゴール地点で友達と話しとるわ」
騒々しい秀樹の声に、武史は苦笑して立ち上がる。
「タイミング悪いわ」
千尋だけに聞こえる声で呟いた武史は秀樹の後ろから入ってきた人物に目を向ける。
「武史!久しぶり!」
「真帆か?……もんてきとったんか?」
真帆と呼ばれた女性は武史に抱きつく。
モデルのようなスラリとした体型にパッと人目をつく顔をしている。
身長が高い武史と並ぶと絵になる。
チリチリと胸の奥が痛んだ気がしたが、気づかないフリをした。
「会いたかった!」
とっさに受け止めた武史は、嫌そうに真帆を引き離す。
おや、と思った。そつなく人と接する武史にしてはそんな態度をあからさまに出すのが珍しい。
「止めろや。お前とはもうそんな関係やないやろ」
そう言い、ここに連れてきた秀樹を睨む。
真帆に向けたセリフだが、誤解されてはたまらない。千尋に聞かせるように言う。
「武史の彼女?」
真帆と呼ばれた女性が椅子に座ったままの千尋を見下ろしながら話しかける。
立ち上がった千尋は真帆と向かい合うと笑顔で答えた。
「いえ。タケちゃんとは親戚で、今家を間借りさせて貰っているんです」
「ならよかった。武史、今晩空いてる?」
苦い顔をした武史は突き放したように答える。
「空いとるわけないやろ。空いとるとしても二人きりでは会わんわ」
「彼女いるの?」
武史はため息をつく。
「なんでお前に言わんといかんのや」
「いないんやね。よかった!」
そう言うと真帆は武史に向かってストレートに言う。
「私とより戻そうよ」
突然の告白劇に固まっている千尋と秀樹だが、武史だけは冷静だった。
「無いわ」
「なんでよ?」
ため息混じりに武史が答えた。
「お前の嫌いな漁師やろが」
「そのことはごめん。謝るよ。別れてから後悔しとったんよ。もう一度チャンスちょうだい」
武史は呆れたように再度ため息をつく。
「お前とは終わっとんや。それに好きな子おるんや。その子以外は考えとらん」
真帆は武史の言葉に驚く。
「主義変えたん?っていうか好きな子おっても振られたらどうするんよ?」
「そしたら一人でおるわ。お前と付き合ってた時みたいに来るもの拒まずは辞めたんや」
なおも食下がる真帆に我を取り戻した秀樹が声を掛ける。
「真帆、もういいやろ?さ、武史仕事するぞ」
秀樹の声に、千尋も休憩所を出る。
鍵を閉めている秀樹の横で武史はチラッと千尋を見る。
「行ってくるわ」
普段と同じ雰囲気になった武史にホッとして千尋は答える。
「うん、頑張って」
千尋の言葉に微笑を浮かべ武史は秀樹と連れ立って歩いていった。
武史たちが去ると、真帆が千尋に話しかける。
「あなた、ただの親戚なんだよね?」
なんと答えたらいいか迷ったのは一瞬だった。
「親戚ですよ」
ちゃんといつも通りの声が出た。
「そっ。ならよかった」
そう言って真帆は行くところあるからと、足早に離れていった。
さくらと合流した千尋は、大樹の希望でかき氷を食べに来ていた。
「ちーちゃん、大丈夫なん?」
「大丈夫よ、心配かけてごめんね。大樹くんもかっこよく踊れてたね!」
大樹は目の前のかき氷を食べることに必死で千尋の声に反応しない。
その姿が可愛くて千尋の顔に笑みが浮かぶ。
「真帆先輩と会ったんよね?武史先輩、大丈夫やった?」
聞くと武史と秀樹の同級生でさくらとは中高の先輩のようだ。
「タケちゃん、珍しくつっけんどんだったよ。何かあったの?」
「あー、まぁ色々ね」
苦笑いしているさくらに、更に質問を重ねる。
「付き合ってたんでしょ?より戻そうって言っていた」
いつもなら多分聞かなかっただろう。だけど、今、武史のことでぐちゃぐちゃな精神状態だ。聞かずにはいられなかった。
さくらはそんな千尋の心の動きには気づくはずもなく、自分の知っていることを話し出した。
「え?真帆先輩凄いやん!あんだけ武史先輩怒ってたのに、それ言えるんや!」
さすが真帆先輩、と感嘆の声を上げるさくらに千尋は何がなんやら分からない。
さくらはみんな知ってるから、と話し出した。
「真帆先輩、付き合っている時に武史先輩の仕事貶して激怒されたんよ。
武史先輩って来るもの拒まずやけど、別れる時はいつも女の子から振らしとんのに、真帆先輩の時は珍しく武史先輩から振ったって噂になったんよ」
だから武史が真帆に漁師嫌いだろうと言っていたのかと合点がいく。
かき氷を食べ終わり、店を出て家に帰る道を二人して歩く。大樹は疲れたのか眠っていた。
荷物を代わりに持ちながら歩く千尋の横でさくらは何やら難しい顔をしていた。
「さくらちゃん、どうしたの?」
「ちーちゃん、真帆先輩になんか言われた?」
千尋は真帆に親戚で家に居候していると言うことは伝えたと言う。
ますます悩ましげになったさくらは呟いた。
「真帆先輩、武史先輩とちーちゃんのこと変に捉えてなければいいけど……。
ちーちゃん、明日気をつけるんよ」
「え?なにが?」
さくらは一つの不安を千尋に伝える。
「真帆先輩、ちーちゃんに会いに来るかも」
二人の沈黙を破るように、秀樹が帰ってきた。
「さくらと大樹はまだゴール地点で友達と話しとるわ」
騒々しい秀樹の声に、武史は苦笑して立ち上がる。
「タイミング悪いわ」
千尋だけに聞こえる声で呟いた武史は秀樹の後ろから入ってきた人物に目を向ける。
「武史!久しぶり!」
「真帆か?……もんてきとったんか?」
真帆と呼ばれた女性は武史に抱きつく。
モデルのようなスラリとした体型にパッと人目をつく顔をしている。
身長が高い武史と並ぶと絵になる。
チリチリと胸の奥が痛んだ気がしたが、気づかないフリをした。
「会いたかった!」
とっさに受け止めた武史は、嫌そうに真帆を引き離す。
おや、と思った。そつなく人と接する武史にしてはそんな態度をあからさまに出すのが珍しい。
「止めろや。お前とはもうそんな関係やないやろ」
そう言い、ここに連れてきた秀樹を睨む。
真帆に向けたセリフだが、誤解されてはたまらない。千尋に聞かせるように言う。
「武史の彼女?」
真帆と呼ばれた女性が椅子に座ったままの千尋を見下ろしながら話しかける。
立ち上がった千尋は真帆と向かい合うと笑顔で答えた。
「いえ。タケちゃんとは親戚で、今家を間借りさせて貰っているんです」
「ならよかった。武史、今晩空いてる?」
苦い顔をした武史は突き放したように答える。
「空いとるわけないやろ。空いとるとしても二人きりでは会わんわ」
「彼女いるの?」
武史はため息をつく。
「なんでお前に言わんといかんのや」
「いないんやね。よかった!」
そう言うと真帆は武史に向かってストレートに言う。
「私とより戻そうよ」
突然の告白劇に固まっている千尋と秀樹だが、武史だけは冷静だった。
「無いわ」
「なんでよ?」
ため息混じりに武史が答えた。
「お前の嫌いな漁師やろが」
「そのことはごめん。謝るよ。別れてから後悔しとったんよ。もう一度チャンスちょうだい」
武史は呆れたように再度ため息をつく。
「お前とは終わっとんや。それに好きな子おるんや。その子以外は考えとらん」
真帆は武史の言葉に驚く。
「主義変えたん?っていうか好きな子おっても振られたらどうするんよ?」
「そしたら一人でおるわ。お前と付き合ってた時みたいに来るもの拒まずは辞めたんや」
なおも食下がる真帆に我を取り戻した秀樹が声を掛ける。
「真帆、もういいやろ?さ、武史仕事するぞ」
秀樹の声に、千尋も休憩所を出る。
鍵を閉めている秀樹の横で武史はチラッと千尋を見る。
「行ってくるわ」
普段と同じ雰囲気になった武史にホッとして千尋は答える。
「うん、頑張って」
千尋の言葉に微笑を浮かべ武史は秀樹と連れ立って歩いていった。
武史たちが去ると、真帆が千尋に話しかける。
「あなた、ただの親戚なんだよね?」
なんと答えたらいいか迷ったのは一瞬だった。
「親戚ですよ」
ちゃんといつも通りの声が出た。
「そっ。ならよかった」
そう言って真帆は行くところあるからと、足早に離れていった。
さくらと合流した千尋は、大樹の希望でかき氷を食べに来ていた。
「ちーちゃん、大丈夫なん?」
「大丈夫よ、心配かけてごめんね。大樹くんもかっこよく踊れてたね!」
大樹は目の前のかき氷を食べることに必死で千尋の声に反応しない。
その姿が可愛くて千尋の顔に笑みが浮かぶ。
「真帆先輩と会ったんよね?武史先輩、大丈夫やった?」
聞くと武史と秀樹の同級生でさくらとは中高の先輩のようだ。
「タケちゃん、珍しくつっけんどんだったよ。何かあったの?」
「あー、まぁ色々ね」
苦笑いしているさくらに、更に質問を重ねる。
「付き合ってたんでしょ?より戻そうって言っていた」
いつもなら多分聞かなかっただろう。だけど、今、武史のことでぐちゃぐちゃな精神状態だ。聞かずにはいられなかった。
さくらはそんな千尋の心の動きには気づくはずもなく、自分の知っていることを話し出した。
「え?真帆先輩凄いやん!あんだけ武史先輩怒ってたのに、それ言えるんや!」
さすが真帆先輩、と感嘆の声を上げるさくらに千尋は何がなんやら分からない。
さくらはみんな知ってるから、と話し出した。
「真帆先輩、付き合っている時に武史先輩の仕事貶して激怒されたんよ。
武史先輩って来るもの拒まずやけど、別れる時はいつも女の子から振らしとんのに、真帆先輩の時は珍しく武史先輩から振ったって噂になったんよ」
だから武史が真帆に漁師嫌いだろうと言っていたのかと合点がいく。
かき氷を食べ終わり、店を出て家に帰る道を二人して歩く。大樹は疲れたのか眠っていた。
荷物を代わりに持ちながら歩く千尋の横でさくらは何やら難しい顔をしていた。
「さくらちゃん、どうしたの?」
「ちーちゃん、真帆先輩になんか言われた?」
千尋は真帆に親戚で家に居候していると言うことは伝えたと言う。
ますます悩ましげになったさくらは呟いた。
「真帆先輩、武史先輩とちーちゃんのこと変に捉えてなければいいけど……。
ちーちゃん、明日気をつけるんよ」
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さくらは一つの不安を千尋に伝える。
「真帆先輩、ちーちゃんに会いに来るかも」
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