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未来への決断5
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籍を入れたのは、ほんの3ヶ月前だ。
ー20年は離れん自信あるわ
そう言っていた武史と本当に20年一緒に暮らした。
籍も入れずに、ただ単に恋人関係として。
武史は何度かキチンと籍を入れたいと言ってくれたが、怖いという千尋の気持ちを最優先してくれた。
「籍入れんでもこうやって横におってくれるだけで幸せや」
そういって抱きしめる武史の優しさに甘えた20年だった。
子どもが出来たら籍は入れる。それだけ取り決めをした。
幸か不幸か、避妊はしたことがなかったが子どもは授からなかった。
恋人になって3年ほど、武史が弟子を取る取らないの話をしていた頃に一度だけ聞いた事ある。
「タケちゃんは、自分の子ども持ちたいとは思わないの?」
武史はしばらく考えた後、あっけらかんと答えた。
「避妊せずに出来んのならそれは俺らは二人で仲良く生きていきや、という天からのメッセージやろ?
それはそれで千尋だけ見とる時間増えるけん、幸せやしな。
それに子ども出来んくても俺は千尋以外を抱くつもりもないわ」
そして、武史は千尋を抱きしめる。
「また千尋のことやけん、子ども出来んこと気にしてごちゃごちゃ考えとったんやろ?
自然に生きとって得られんことを求めるより、今ある目の前のことだけ見より。
今健康で仕事が出来とる、自分が生きられる金も稼いどる、家があって、着るもんあって、上手い飯も食える。
そして好きな男がおって、その男も千尋のことを愛しとると言う。それだけでも考え方変えると、めっちゃ幸せなことや」
さりげなく、自分の気持ちを混ぜて想いを伝える武史が可愛いと思う。
クスクスと武史の胸に抱かれながら笑う千尋に、武史は拗ねたような口調で言う。
「真剣に想い伝えよんのに傷ついたわ。……千尋には俺の想いを一から教えんとダメやな」
そう言うと、武史は千尋の顎を掴み上を向かせると、そのまま唇を重ねた。
※
昔のことを思い出しているうちにインタビューは始まった。
インタビュアー(以下イ)
『村上先生は最近ご結婚されたのですね。おめでとうございます。』
村上千尋(以下村)
『ありがとうございます。とはいっても20年ほど一緒に暮らしていたので何も変わらないんです』
イ『今回の作品のヒットが彼と結婚を決意したきっかけですか?』
村『(笑)違いますよ。……私の心と向き合え、大きなトラウマを乗り越える為に必要な時間が20年だったんです。だから、今回のような子ども向けのファンタジー小説も訳せるな、という自信になって挑戦してみたら有難いことにこんなに多くの人に読まれて嬉しいです』
イ『やっぱり彼のお陰じゃないですか!柳田先生は、村上先生の翻訳本のデビュー作を装丁して以来、何度か装丁されていますね。柳田先生は装丁を頼まれても自分が好きでない作家の本は断るということで評判ですが、彼女の翻訳家としての魅力はどこですか?』
柳田(以下柳)
『言葉のチョイスが素晴らしい。それは彼女が日本語に精通しているからに他ならない。文章で勝負をする以上、まずは日本語を知ることが大事だ。村上はそれが出来る』
村『柳田さんは厳しいですからね。昔は、それこそ出版翻訳を始めた頃は柳田さんに認められたくて書いていたところもあります。
今は逆に「私が自信持ってお届けする物はこれです、装丁したかったら柳田さんから頭下げて頼んで下さい」っていう気持ちですね』
柳『図太くなったな。でも、創作をしている人間はそれくらいの気概でないと。謙虚に勉強して、心を絞り出す。それが出来る人間が、こうして名前が残るのだろう。
君の文章は俺の創作意欲を掻き立てる。……頭を下げてデザインさせて欲しいとお願いしたいくらいにな』
その言葉を聞いた時、震える程嬉しかった。最初に訳した本で言われた柳田の言葉。だが、今日はもっと深い意味を持って千尋の心に響いた。
(やっと、柳田さんに認められた)
その時、千尋の頭によぎったのは武史の嬉しそうな顔だった。その顔につられるように、千尋の顔にも笑顔が浮かぶ。
(タケちゃんのおかげで私はここまで来れたんだ。一緒に聞いて欲しかったな、この言葉)
もう50歳が見えてきている千尋なのに、その笑顔はパッと華やかで恋をしている乙女のようで、思わず柳田は見惚れてしまった。
(逃した魚は、大きかったか)
今更ながらなことを思うが、柳田のもとにいると千尋は今回のような作品は書けなかった。
そう思うのは悔しいが、思わずにいられなかった。
千尋のことを20年も一途に思い続けた名前も知らない男に負けた、と。
村『柳田さんに面と向かって言われると格別ですね。ずっとあなたのデザインが好きでしたから。私を見つけてくれてありがとうございます』
そう言って頭を下げた千尋は心の中でも感謝を伝える。
(あなたが居たから、私は翻訳家として成長出来たし、タケちゃんと出会えた。本当に感謝しています)
※
ー20年は離れん自信あるわ
そう言っていた武史と本当に20年一緒に暮らした。
籍も入れずに、ただ単に恋人関係として。
武史は何度かキチンと籍を入れたいと言ってくれたが、怖いという千尋の気持ちを最優先してくれた。
「籍入れんでもこうやって横におってくれるだけで幸せや」
そういって抱きしめる武史の優しさに甘えた20年だった。
子どもが出来たら籍は入れる。それだけ取り決めをした。
幸か不幸か、避妊はしたことがなかったが子どもは授からなかった。
恋人になって3年ほど、武史が弟子を取る取らないの話をしていた頃に一度だけ聞いた事ある。
「タケちゃんは、自分の子ども持ちたいとは思わないの?」
武史はしばらく考えた後、あっけらかんと答えた。
「避妊せずに出来んのならそれは俺らは二人で仲良く生きていきや、という天からのメッセージやろ?
それはそれで千尋だけ見とる時間増えるけん、幸せやしな。
それに子ども出来んくても俺は千尋以外を抱くつもりもないわ」
そして、武史は千尋を抱きしめる。
「また千尋のことやけん、子ども出来んこと気にしてごちゃごちゃ考えとったんやろ?
自然に生きとって得られんことを求めるより、今ある目の前のことだけ見より。
今健康で仕事が出来とる、自分が生きられる金も稼いどる、家があって、着るもんあって、上手い飯も食える。
そして好きな男がおって、その男も千尋のことを愛しとると言う。それだけでも考え方変えると、めっちゃ幸せなことや」
さりげなく、自分の気持ちを混ぜて想いを伝える武史が可愛いと思う。
クスクスと武史の胸に抱かれながら笑う千尋に、武史は拗ねたような口調で言う。
「真剣に想い伝えよんのに傷ついたわ。……千尋には俺の想いを一から教えんとダメやな」
そう言うと、武史は千尋の顎を掴み上を向かせると、そのまま唇を重ねた。
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昔のことを思い出しているうちにインタビューは始まった。
インタビュアー(以下イ)
『村上先生は最近ご結婚されたのですね。おめでとうございます。』
村上千尋(以下村)
『ありがとうございます。とはいっても20年ほど一緒に暮らしていたので何も変わらないんです』
イ『今回の作品のヒットが彼と結婚を決意したきっかけですか?』
村『(笑)違いますよ。……私の心と向き合え、大きなトラウマを乗り越える為に必要な時間が20年だったんです。だから、今回のような子ども向けのファンタジー小説も訳せるな、という自信になって挑戦してみたら有難いことにこんなに多くの人に読まれて嬉しいです』
イ『やっぱり彼のお陰じゃないですか!柳田先生は、村上先生の翻訳本のデビュー作を装丁して以来、何度か装丁されていますね。柳田先生は装丁を頼まれても自分が好きでない作家の本は断るということで評判ですが、彼女の翻訳家としての魅力はどこですか?』
柳田(以下柳)
『言葉のチョイスが素晴らしい。それは彼女が日本語に精通しているからに他ならない。文章で勝負をする以上、まずは日本語を知ることが大事だ。村上はそれが出来る』
村『柳田さんは厳しいですからね。昔は、それこそ出版翻訳を始めた頃は柳田さんに認められたくて書いていたところもあります。
今は逆に「私が自信持ってお届けする物はこれです、装丁したかったら柳田さんから頭下げて頼んで下さい」っていう気持ちですね』
柳『図太くなったな。でも、創作をしている人間はそれくらいの気概でないと。謙虚に勉強して、心を絞り出す。それが出来る人間が、こうして名前が残るのだろう。
君の文章は俺の創作意欲を掻き立てる。……頭を下げてデザインさせて欲しいとお願いしたいくらいにな』
その言葉を聞いた時、震える程嬉しかった。最初に訳した本で言われた柳田の言葉。だが、今日はもっと深い意味を持って千尋の心に響いた。
(やっと、柳田さんに認められた)
その時、千尋の頭によぎったのは武史の嬉しそうな顔だった。その顔につられるように、千尋の顔にも笑顔が浮かぶ。
(タケちゃんのおかげで私はここまで来れたんだ。一緒に聞いて欲しかったな、この言葉)
もう50歳が見えてきている千尋なのに、その笑顔はパッと華やかで恋をしている乙女のようで、思わず柳田は見惚れてしまった。
(逃した魚は、大きかったか)
今更ながらなことを思うが、柳田のもとにいると千尋は今回のような作品は書けなかった。
そう思うのは悔しいが、思わずにいられなかった。
千尋のことを20年も一途に思い続けた名前も知らない男に負けた、と。
村『柳田さんに面と向かって言われると格別ですね。ずっとあなたのデザインが好きでしたから。私を見つけてくれてありがとうございます』
そう言って頭を下げた千尋は心の中でも感謝を伝える。
(あなたが居たから、私は翻訳家として成長出来たし、タケちゃんと出会えた。本当に感謝しています)
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