没落令嬢はお屋敷ダンジョンを攻略します！

ジェルヴェ・ベルリオーズは容赦しません

　母親に要らない子と言われてメリッサが今にも泣きだしそうなのを気づかない大人達を気にするなとそっと背中に手を添えて励ましてやりながら

「実は彼女メリッサが生まれ育った家を出る事になった折りにその身一つでギルドを介して我が屋敷で働く事になりました。
　私は今彼女の雇用主兼保護者として身の回りの物を用意したり仕事の空いた時間に勉強を学ばせたりさせています」

　その内容に審査官がほう？と興味を向けてくれた。

「まぁ、彼女は既に十八と言う年齢なのに社交界すらデビューさせてもらえないと言う、社交界に何度も夫人は出席されていると言うのに娘へのこの仕打ちとは到底想像できない虐待だ」
「虐待だなんて大げさよ！」

　ぎょっとする言葉に夫人は立ち上がるも

「学校にも通わせない、そして話を聞けば家政婦のように働かせていたと聞く」
「それは、メルが勝手にしてた事、楽しそうにやってたから……」
「申し訳ないが程度とは他人が図る物、一覧をまとめて訴訟として私が貴方方夫婦に代理として訴えさせてもらいました。
　ああ、紙縁は切れましたが血縁は切れないので離婚したからという言い訳は出来ません。
　とは言っても当面メリッサにかかる正当な学習の為に使う金額と遅れてデビューさせるための準備金と言う正当な金額。
　親ならしっかりと払いたまえ」

　余計な事をと言わんばかりに顔を歪ませる夫人だが隣の同級生君がなだめるようにこれぐらい問題ないと書類にサインをして……

「な、なんだこの金額は！ふざけてるのかっ！！！」

　書類をひったくって審査官に提出する。金額を見ないでサインするからだと呆れ果てるしかない。
　取り戻そうとする手は宙を掻くだけ何も手にする事はないまま両手を机について俺を睨みつけていた。

「この金額？これぐらい当然だ。
　腐ってもうちは侯爵家だぞ？
　伯爵家や下級貴族と同等の教師を呼ぶと思っていたのか？
　生涯に一度のデビューに侯爵家が安物のドレス着せるわけない。宝石だってそれなりの物を用意するのは当然だ」

　呆れたと言う様にルヴィ様は言うも一瞬見えたまるの数の多さにその金額を理解できなかった私は固まったままだ。

「とはいえ度が過ぎている！
　学園に通うにしてもそんな金額釣りがくるぞ！」
　
　唾を吐きだしながら叫ぶ男に何を言っていると冷ややかな目で見る。
　
「我がベルリオーズが学ばせる以上一流の教師を付けるのは当然だろ？
　こう見えても六大宮廷魔道士の一人、我が弟子の一人ヴァレリーに預ける事が決定した。そして遅れている学問も早急に学ばせたく次期宰相と名高いシャルル・スコット殿が手を上げてくれた。
　良き師を用意したく思ったが、メリッサの幼馴染のセドリック王太子殿下が両名を用意してくれたのだ。これぐらいの報酬になるのは当然と言う物」

　あの時そんな話だったっけと思ったが今目にした金額の価値をセドリックは差し出してくれたんだと、あまりの金額に力が抜けてしまいそうになる。
　そしてセドリック王太子の名前を出されて何も言えないまま椅子に座る男は心なしか厄介な事をと言う様に夫人を睨みつけているようにも見えた。

「審査官と皆さま、あともう少し話を聞いていただきたいと思います」

　すいっと目を細めたルヴィ様は薄い唇を横にニッと広げ

「この度メリッサを雇う事になり我が家的にもその素性調査をさせていただきました」

　言いながらどこからか書類の束を取り出して審査官に提出した。
　審査官は何だと言う様に眉間を狭めるも、すぐに目の色を変えて書類を読みだした。

「どうやら婚姻時、夫人はアーヴィンの資産をアーヴィン当主に無断で移動した形跡があります。
　移動先も総て調べてあるのでどうぞ目を通してください」
「こ、これは！
　アーヴィン家の資産を……」

　ちらりちらりと夫人の隣に座る男を見れば男も青ざめた顔で首を横に振る。
　知らないと言いたげだろうが、書類の束には金銭の譲渡がなされてからの彼の羽振りの良さがありありと書かれてあった。
　逃げる事と言い訳の出来ない証拠に審査官はすぐに衛兵を呼び夫人と同級生の身柄を確保した。

「これは立派な窃盗ですぞ夫人。
　この資産を動かす事は夫人とは言え権利がない事ぐらい学園を出たあなたなら知っておいででしょう」
「私はそんなこと学んだ事ないわ！」
「でしたらあなたのご実家にお聞きしましょう。
　ああ、ご両親は他界なされてましたね、でしたら残された現当主にお聞きします」
「弟は関係ないわ！私の実家に近寄らないで！」
　
　髪を振り乱して叫ぶも審査官はこのような光景見慣れた物だとぶれる事無く書類を捲りながら淡々と仕事を進めていく。彼らの能面の理由はこう言った修羅場に対しての物だと理解できた。

「譲渡先からは総てを返済させていただきましょう。
　足りなければ借金をなさってでも返済と言う形になりますが……」
「ああ、そこは一括返済で宜しく」

　ルヴィ様はさも当然と言う様に言う物の男は

「そんな金額無理だ！払えるわけがない！」
「その為の借金です。どうぞ返済を頑張ってください」

　言いながら書きだした金額の借用書が用意されて発行されてしまった。

「この疫病神が！」

　言いながら長い間愛し合っていた女を殴り飛ばし、口を切ったのか血を流して床に倒れる母と衛兵に押さえつけられる同級生をメリッサはただ呆然と見ていた。