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うちの隊長は少しずつ温度を取り戻そうとしています

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 暖炉の前で三人でハイラ特製のハチミツたっぷりレモネードを飲みながら水分補給している間に三人分の服まで用意してくれたハイラはマジ家令の鏡だとアレクなら自分の事は自分でしなさいとバスローブ一枚で廊下に放り出されるところだったのにと懐かしく思い出していれば

「隊長絶対副隊長の事考えてるでしょ?」

 あ、クラウゼ隊長だっけと、わざと間違えるトゥーレに俺はそうなんだと頷きながら

「前に休憩時間に風呂でダラダラして居たら早く風呂から出て仕事に戻れってタオル一枚で廊下に出されそうになってな」
「そう言えばありましたね。ランダーとイリスを押しとどめた俺達を誉めてください。って言うか何時も五分ぐらいで出て来るのに珍しく休み時間いっぱい入ってた隊長が悪いでしょう」
「あの時は暑かったんだよ。
 真夏に隊服をきっちりと着なくちゃいけないんだって毎年悩みの種だったな」
「それに比べればここは涼しくていいですよ。
 夏でも夜は隊服を着こまないと寒い位ですから」

 代わりに真冬の人気のない場所は城内でも凍死するから注意してねと言われた時はとんでもない所に来てしまったなと思ったが、ちゃんとヴォーグは対策を施してくれたらしくせいぜい風邪を引く程度だからそれでも注意してねってあかるい笑顔での説明に俺達はジョークだと、真冬のアルホルンを体験するまで思い込んでいた。

「お前夏にはもう居たんだ」
「夏の終わり位ですね。涼しくて普通に風邪ひきました。
 体力が落ちていたのも原因の一つかもしれないけどそれにしては情けないとすぐに体を鍛え直しました」

 トゥーレの話しを聞いている間に口当たりの良いフルーツを小さく切ったシャンパンのゼリーを用意してくれた。
 話しながらトゥーレが美味しそうですねと言って食べるのを見て同じように口へと運べばようやく腹がすいている事に気が付いた。
 先ほどスープとヨーグルトを食べたばかりだがやっぱりそれだけでは満たしてはなかったようだ。
 ゆっくりと食べ終わる頃にはオニオンスープグラタンをハイラは差し出してくれた。
 オニオンスープが沁み込んだパンは蕩けるように柔らかく、そしてトロトロのチーズが蓋の代わりになってこの部屋は食堂から近くはないの今だにあつあつだと主張する湯気がのぼっていた。
並べられたカトラリーからスプーンだけを手にして二人にも用意されたオニオンスープグラタンをゆっくりと口へと運んだ。
 
「ルードが風邪をひいた時によく食べてたな」

 アヴェリオがぽつりと懐かしいと言う言葉に俺は食べる手が一瞬止まるも

「はい。マリー様からお聞きしました。
 小さい頃は随分好き嫌いがあったとか。風邪をひいた時はポタージュやオニオングラタンスープとかとにかく好きな物だけが食べれて喜んでいたとか」
「ああ、それが目的でアルホルンに来たがった時もあった」

 懐かしいと目を細めるアヴェリオにまだヴォーグは生きてるんだぞ!と叫びそうになった所で

「それなのにいつの間にか生魚は食べるわ生肉は食べるわ腐った豆を食べるわ何時の間にゲテ物好きになったのか。
 昔はかわいかったなぁ……」

 絶対うまいからって強要されて食べたけど駄目だったなと死んだ瞳にその『かわいかった』の意味を理解すればこれ以上聞いてはいけないともそもそとまたグラタンを口に運ぶ。
 器の縁に付いたカリカリに焼けたチーズを剥がしてぱりぱりと食べればこれも思い出の味なのかとまだ知らない面もたくさんあるヴォーグを思えばまた涙が溢れだしそうな所で

「隊長!」

 トゥーレが窓の外を指させば窓ガラスをすり抜けて室内にやってきた冠羽と長い尾が特徴の美しい青色の鳥に俺も思わず立ち上がる。
 鳥はまっすぐアヴェリオの中に溶けるかのように姿を消せば

「何でガゼボに居る?!
 トゥーレ馬を騎士棟に準備!迎えに行くぞ!!」

 昨夜降った雪に外の空気は凍りつくほどの寒さだ。
 悲鳴のように声を荒げるアヴェリオにハイラは

「お帰りは……」
「こちらと騎士棟の方にも用意だ!」

 言いながら三人でバスローブを脱いで手早く服を着こむのは訓練を受けた騎士ならでわの動きだ。
 この世界の貴族はそれなりに服ぐらい自分で着るものの、コートや上着だけは着せてもらうと言うマナーがあるくらいだ。
 そんな事の為に延々と待ち続ける貴族がいる中でそう言う事をさらりと無視できるのは騎士位だろう。
 故に蔑まれるのだがこれも仕事の内なのでそんな事を言う奴は無視をするまでが騎士の常識だ。
 
 騎士棟に向かえば騎士棟でもバタバタしているようだった。
 何が起きているかと思えばブルフォードがいつの間にか薬を貰いに来てたようでアルホルン常駐の騎士と一緒に城を駆けまわっている所に出会った。

「何をしている?!」

 騎士にあるまじき姿に何があったのかと叫べば

「アヴェリオ!エーヴェルト殿下のお姿が見えないとイザムが!!」
「一緒にアスタの姿も見えません!」

 その言葉に俺達は息を飲んで

「何で報告が今だ私の所に来ていない!」

 悲鳴のようなアヴェリオの声にイザムは目尻に涙を溜めながら

「朝ご飯を食べてアスタと一緒に本を読むからって席を外していいって言うから……」
「そういう時は廊下で待機だろ!」

 ラグナーもイザムの宮廷騎士への訓練に参加しているので思わずと言う様に声を上げれば

「兄上を探しに行きたかったから……」

 そんな小さな声の返事に冷静になれと壁に手を叩き付けて「ヴォーグを理由にするな!!」と叫びそうになった言葉を痛みでごまかして

「シルビオ達は?!」
「今城外を探してます!子供の足だから遠くには行ってないだろうかと」

 誰かの言葉に俺も行くと口から飛び出しそうになるも

「ラグナー、お前はルードを迎えに行くぞ」

 アヴェリオの判断にそっちで良いのかと見上げれば

「ルードなら二人を探し出す事は容易だ」

 何故か舌打ちするようなアヴェリオは

「これだけ人間が多いとエーヴェルト殿下達を探すのは俺達では、無理だ。
 だがルードなら一人一人誰がどこにいるのか判る。
 二人を探す手がかりはルードを迎えに行ってからだ!」

 どれだけ失態をと思えば少ししてから馬の嘶く声が聞こえた。



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