異世界召喚に巻きこまれたらスマホがバグって騎士団団長の妻になるそうです

雪那 由多

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拉致られた先は異世界でした

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 仕事が終わり職場から歩いて行ける距離に上京してから七年住むアパートへと帰る途中、コンビニに寄って晩飯を片手にビールを飲みながら歩いていれば、今時の高校生はこんな時間に塾の帰りかぞろぞろと歩く並みにぶつかった。
 時間も考えずに賑やかに話しながら片手にスマホを持って笑いあう子供達を眺めながら俺にもあんな時代があったなあ、と塾後にもかかわらず元気な様子の若々しさが眩しくて逃げる様にいつもは曲がらない道に入り込んだ。
 あの子供達が何歳かは知らないが高校を卒業して約十年、大学にも進学して未来に夢を持って社会人になったのに未だに恋人一人も出来ず、そして立派な社畜…… とまでは言わないが会社の縛りに身を任せる疲れ切った三十路一歩手前の男に進化していた。いや退化だろうか。
 一応一人で生活は出来る収入もあるし、もう一人ぐらいもわけもない経済状況。寝室はリビングとは別の部屋を確保できる家賃が払えるぐらいには稼いでいる。趣味は特になく、週末は一週間の掃除洗濯で日が暮れる。
 ブラック企業ではないがどこにでもいる疲れ切ったサラリーマン。
 それが俺、七瀬天鳥。
 気が付けば29歳になっていた。
 帰ったらコンビニ弁当食べながら昨日の深夜番組をビデオで見て、ああ、でもその前に今日はシャワーだけじゃなく風呂にも入りたいし、スマホのチェックしとかないとまたお袋に生存報告しないと煩いからな、そんな残念な予定を歩きながら立てていれば

「きゃーーーっっっ!!!」

 女性の声にびくりと体が緊張して周囲を見回してしまう。
 止めてくれよ、変な犯罪には巻きこまれたくない!!!
 逃げようかと思うも周囲を見回したその先で女の子が光の柱の中で宙に浮いていた。

「はあー?!UFOの誘拐ってやつ?!」
 
 犯罪以上の展開だった。
 思わず空を見上げるもそれらしき機体は何もなく、ただ宙を泳ぐ女子高生だろうか俺と目が合ったかと思えば

「たっ、助けてっっっ!!!」

 顔を真っ青にして涙まで零しながら必死に伸ばした手に巻きこまないでくれと思う反面少女は恐怖に顔を歪めながらも必死に助けを求める泣き顔にとっさに手を伸ばして

「掴まれっ!!!」

 光の中に飛び込むも光の中は見たとおりに重力がないと言う様にふわりと体が浮いた途端、ふわっと意識が飛ぶように景色は暗転した。



 急に体が重くなった途端、手を伸ばして何とか手を掴んだ女子高生を引き寄せて俺が下敷きになる形で盛大に背中を打ちつけた。

「がっ!!!」

 一瞬肺が潰れて呼吸が止まった物の

「おじさん大丈夫?!」

 それ以上のダメージが俺に突き刺さった。
 おじさん、おじさん、おじさん……
 エコーとなって俺の心を突き刺すそのワード、そりゃないよ……
 俺もちょっぴり涙が出そうだったけど

「な、なんとか。それより怪我は?」
「ええと、大丈夫…… じゃないみたい」

 俺にまたがっていた女子高生は顔を真っ赤にして直ぐに俺の身体からどいてくれて側に座って俺の様子を心配すると言うより、周囲の変化に不安な顔を隠しきれないと言う様に俺のスーツの端を握っていた。
 俺も彼女の異変に気になって周囲を見回せば中世のヨーロッパのような騎士服を着た男や頭からすっぽりかぶるようなローブを着た人達や、おとぎ話に出てくるようなキラキラした髪と白い歯が眩しいエメラルドの瞳の王子様スマイルの男がすぐに側にやってきて膝をついた。

「あなたが聖女か。お待ち申しておりました。
 どうぞ我らが国を、我らが世界をお助け下さい」

 
「ええと、ここは一体……」

 いかにも王子様って奴が膝をついて女子高生に手を伸ばすなんてこれはファンタジーなのだろうかと思うも

「ここはノルドシュトルム国。
 そして私は異世界に住むと言われる伝説の聖女様をお招きした異世界召喚を執り行う責任者でもあるフレーデリク・ノルドシュトルムと申します。
 突然のお招きで混乱されてると思いますが、この様な冷たい石の床でお話しするのも失礼なのでお部屋を用意しております。どうぞそちらへお越しください」

 そう言って差しのべた手を握り返さない女子高生に少し考えた後何かに気付いたように笑みを浮かべて抱えあげ、お付きの者を連れて何処かへと行ってしまった。
 さすが王子様ルック、姫抱っこが良く似合う。俺がやったら変態呼ばわりされてビンタ確定だ。
 だけど一瞬女の子は俺を見て助けてと言うように手を伸ばす物のそれより早く人垣が視界を塞いでしまった為に見送るしかなく……

「ええと、俺はどうすればいいの?それより元の世界に返してくれる?」
 
 すぐ側で去りゆく一行に手を伸ばしつつも俺の質問に振りかえった男はしばらく言葉を探すようにぱくぱくと口を開けたり閉ざしたりしているのを見て理解する。

「帰れないのですね」
「申し訳ない」
 
 あまりにも潔く酷いまでに簡潔な答えに俺は小さく笑い声を零してしまった。

「できる限りの保証はしよう。協力は惜しまないつもりだ」

 やたらとがたいは勿論顔面偏差値の良い兄ちゃんだが誠実な姿勢を俺なんかにとありがたく思う。泣きそうになる俺に向かって丁寧に俺にこの残酷な真実を教えてくれた王子様同様の金髪の男は俺にはないキラキラ成分をまき散らし、出来る男の代名詞と言う様な爽やかに香る香水を嫌味なく漂わす男を見つめ見上げる。

「すみません。でしたら晩飯前だったので食事と寝る場所、生活の基盤ですね。その保障と継続的自活できる…… 
 仕事の斡旋もお願いします」

 よほどパニックってたのだろう。
 俺は騒ぎもせずに逆に淡々とこの見知らぬ世界で日常を取り戻す為の保障を要求する辺り相当現実逃避をしていたのだろう。

「大丈夫だから落ち着いて」

 そっと頬に手を当ててにっこり笑うから俺も何だか大丈夫なんだとほっとしてかつられるようににっこりと笑い返す。
 男はしばらく俺を見たまま固まったかのようにじっとしているあたり一生懸命考えてくれるのだろうと言う事を信じてさまよう視線にお願いしますと見つめ続ければ、やがて現れた上司だろうと思われる…… 
 これもまたキラキラ成分をまき散らす俺より少し年上だろうか周囲の雰囲気からも出来る男と言う様に自然に道を開けさせる貫録の人物といくつか会話をした後、良い匂いをする人は俺の手を引いて

「お食事をご用意します。暫くこの部屋でご滞在ください」

 と案内をされ、用意された食事を頂き、そのまましっかり食後のデザートまで食べた所で眠気から爆睡をかまし、良い匂いの人が再び来たのかも気付かないくらいたっぷり眠って目が覚めた時には目の前に広がったどこのカジュアルホテルだと言いたくなるような内装の部屋に異世界召喚と言うのが夢じゃない事を思い知るのだった。


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