異世界召喚に巻きこまれたらスマホがバグって騎士団団長の妻になるそうです

雪那 由多

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古典的トラップはお約束で

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 馬車から降りたクラエスは俺に手を差し出して馬車を降りて来いと促してくる。
 こんな大きなお邸の当主でイケメンな騎士団団長さん二十四歳だと言うのにその相手が異世界から来たさえないサラリーマンのヤローで申し訳ないと公開処刑のように馬車を下りれば、やはりと言うか案の定空気が固まった。
 特に女性の辺りで。
 だけどその待ち構える一団の先頭に立つ男性が一歩前に出て

「お帰りなさい旦那様。
 そちらが城からの早馬で仰ってらした奥様になりますか?」

 初老の男性が引きつる顔を何とか隠し通しても失礼な感情は隠せなかったようだ。クラエスは少し不機嫌そうな顔をするも

「アトリ・ナナセと言う。王家より許可を頂いた私の妻になる方だ。粗相のないように」

 強張った顔と言うか警戒心を隠さない瞳が俺を真っ直ぐむけて

「この屋敷を取り仕切る執事のヘンリ・レオともうします。
 ようこそグランデル邸へ」
「アトリ・ナナセと申します。お世話になります」

 そんな挨拶にこの国ではポピュラーかと思っていた握手がないので首をかしげようとするも、まぁ、歓迎されていないのだけは良く判ったからとりあえずにこにこと次はどこに連れてってくれるのーみたいな風に頭一つ分背の高いクラエスを見上げていれば
 
 顔を真っ赤にして照れないでー。

 何か居た堪れなくて早く案内してくれと騎士服だろうかその袖を軽く引っ張れば我に返り、腰に手を回して

「さあアトリ、入ってくれ。これから自分の家のように寛いでもらいたい。
 部屋は用意させたから。必要な物があればぜひ言って欲しい」
「ありがとうございます」
 
 この屋敷で味方は一人かと、今のところ唯一の信用できる人間に嫌われないように愛想をふりまいていれば、顔を真っ赤にしていたクラエスは  
 
「じゃ、じゃあ案内しよう」

 そう言って当主自ら案内すると言う浮かれっぷりに慌てたのは執事さんや侍女さんだった。
 だけど浮かれきったクラエスは周囲なんて見えないと言う様に腰に手を回したままどんどん歩いて行く。俺の目の前に広がるグランデル邸のマップ通りに歩いて主寝室へと案内してくれるらしい。と言うかなぜか一室に赤いバツ印が大量にある。とは言えどうやら向かうのはベットルームで、真っ先にその扉に手を掛けた。えー……
 やっぱり結婚って事はヤらなきゃいけないのか?いや、俺が知ってる同性カップルは一緒に居る事で満足なので性交渉はしないと言う。どこの賢者カップルだろうかと思うもこの浮かれきった顔を見れば避けては通れないだろう。だけどその前にどっちがつっこむのかそこはぜひ一度相談させてほしい。勃つ勃たない別として。たとえこの無駄にイケメンでキラキラの人の体格が騎士団団長と言う地位に相応しい体格だとしてもだ。相談は重要だと思う。
 九年間デスクワークと外回りで鍛え上げたもやしっ子が勝てる要素はどこにもないがとりあえず話し合いは大切だと言う様に今にもスキップをするのではないかと言う男は俺達のベットルームの扉を大きく広げてくれるのだった。
 男としてどうよと思うも浮かれきった男は巨大なベットの説明は合えてせず、ベットルームから続く扉の一つが自室で、もう一つがバスルームになっていると言う。勿論トイレ付の俗にいうユニットバスだ。
 そうしてもう一つが俺の部屋らしく、こちらが用意した部屋だとドアを開けた瞬間……

 ざばっ……

 室内が凍りついた。
 そっと見上げればひっくり返ったコップがぽとりと床に落ちて砕け散り、コップから零れ落ちただろう水がクラエスの頭から滴り落ちていて、ゆっくりと俺に顔を見せずに振り返って使用人を見た彼からは一切のキラキラ成分が除去されていた。
 アウチ、顔を手で覆ってしまう。
 目の前に広がるマップには至る所にバッテンの印はこういう意味か。この印は何だろうかと思えばまさかのトラップのマークだったなんて誰が気が付くか。
 とりあえずポケットに入っていたハンカチを取り出して濡れた顔を拭いてあげれば憤怒とした顔が一瞬和らぐも

「アトリ、この部屋は危険だからあちらの俺の部屋で少し待っててくれないか?」

 そう言って反対側にあるクラエスの部屋へと案内されて少し座って待っていてほしいと言う。
 青色で統一された落ち着いた色合いの部屋に案内される当主の部屋に相応しく豪華すぎて全く落ち着く事はできないものの直ぐに踵を返した手を掴んで

「とりあえず濡れた上着を着たままでは風邪をひく。着替えないのならせめて脱いで行きなさい」

 そうやって上着のボタンに手を伸ばせば素直にボタンをはずさせる間クラエスは何だか情けないと言うように泣き出しそうな顔で大人しくしていた。少し幼いと言う顔を何だか手のかかる弟みたいで可愛いなと思いながら上着を脱がせ終えれば少し待っててくれてと俺の両手を優しく包み、キスではなく懇願する様に腰をかがめておでこを付ける。

「すまない。安全なはずの我が邸でこのような目に会いそうになるとは……
 死んでも許されない出来事だ」
「命かけるまでもない事でしょ?こんな嫌がらせに命かけるなんて間違ってるし!」

 これはエスカレートしていく物だと言うのは判っているが、初めの段階で気が付いたのだ。これぐらいと黙っている間にどんどんひどくなっていって訴える事も出来ないくらい疲弊する前にばれた時点で御の字とすればいいと思うも

「なるほど。アトリは罪は生涯背負い贖えと言う分けか。何と慈悲深い」

 慈悲深くもないし、逆にその言葉でどんな処置が待ち構えているか理解が出来て、俺の一言でどんな展開になるのか想像すれば血の気が引いてしまう。

「ああ、こんなに恐怖を覚えて、指先も冷たくなって……
 温かいお茶を出してあげたいけど今この状況でアトリの口にできる物の判別難しいから少しだけ待っててくれ」

 そう言って立ち上がった背中からはもうキラキラ成分を纏っておらず、戦場へと赴くその後ろ姿は確かに騎士団団長と言うにふさわしい風格を纏っていると見送るのだった。








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