異世界召喚に巻きこまれたらスマホがバグって騎士団団長の妻になるそうです

雪那 由多

文字の大きさ
61 / 90

スタイリッシュな鼻血の吹き方をどなたかご存じありませんか?

しおりを挟む
 バックヤード何てお嬢様達からしたら一生縁のない場所なのできょろきょろと興味深く、そして少しの不安を抱えながら足を進めて行く。本の性質上日の当たらない場所だけどこの部屋には窓すらなかった。ゆったりとした少し古めかしいソファー広いテーブル、そして貴重な本が並べられた決して一般の人が目にする事が出来ない場所に辿り着けば、教養の深い令嬢達はここに並ぶ本の貴重さに興奮を隠せずにいるのだった。

「セイカ様はなんでこのような場所をご存じなので?」
「それは、内緒です」

 普通なら絶対足を運ぶ事の許されない場所。だけど先ほどの司書とのやり取りは何度も足を運んでいる事ぐらいは気づいたのだろう。確かに普通には入れない場所だけど、ある一定の条件をクリアすればここに入る事がゆるされるのだ。
 例えばある晴れた日の昼休み、ずぶぬれになった少女がしくしくと泣いていれば手を差し伸ばさない紳士はいるのだろうか?
 老いても司書は紳士だった。
 こっそり少女を招き入れタオルを渡し、部下から代わりのドレスを借りて落ち着くようにハチミツの入ったホットミルクを渡してくれる。
 何があったかと問うても少女は口は開かず涙を流さずに泣く姿を哀れに思い、この部屋への招待を与えるのだった。
 この部屋では静かに本を読む事。決して図書室の方に人がいる事を気づかれてはいけない。貴重な本を守る為だけの部屋、おしゃべりを楽しむ場ではない。が……

「それよりも一体本日はどうなされたのです?その、あまり元気が無いようでしたので」

 淑女らしく言葉を選ぶ。こんな異世界じゃなければ「今日元気ないね?どうした?」そんな簡単な会話なのに貴族とは丁寧に話さないといけないなんて面倒、なんて言わないけどまだるっこしいとやっぱり面倒と思うも

「殿下に最近の私の言動は目に余ると言われまして……
 父にも報告をしたようで、家の者の見張りが付いていたようで……」
「まあ、自業自得って奴ですね」
 
 バケツで水をかけられたり教科書を破られたり、持ち物を失くされたりと多々あった事は総て家に筒抜けだった事を教えられたようだ。

「ましてや私のお昼、どれだけひっくり返したか判ってますか?
 貴族だからあまり実感はないと思いますが、作物が実る季節は一年を通して決められた時期にしか生育をしないし収穫できません。
 平民の農家が一年のうち大半をかけて育てた物を美味しく食べて戴く為に料理人が丹精込めて作られたお料理をゴミのように捨てる方を貴いとはとても呼べません」

 私は立ち上がって本棚から一冊の本を取り出した。
 こう言った貴族の学校では決して見る事の出来ない農業の作付けの本。
 これには土づくりから種の実生の仕方、作付け、栄養の与え方、季節や聞こうと言った事細かな日記のような内容が何万と言う種類ごとにびっしりと何冊にも分れて書かれている。

「この国の安定した農業はこう言った、貴族から平民になられた方が記した記録から成り立ちます。周辺の国と比べて大国とは言えないこの国で何一つ無駄が出ないように、そして安定した供給が出来る様にと百年ほど前の方の努力でこの国は飢餓や飢饉に強い国になりました。
 貴方たちの悪戯はそうやって先人が築いた努力を無にする行為だと言う事を理解してください」
 
 他にもこの国の印刷技術の歴史や布地の作り方、染色の方法の前の染料の作り方などが事細かく書いた本を渡した。いわゆる第一次産業の部分を貴族の子女が知るはずもなく

「領地を治める方ならきっと知っていると思いますが、家督を継ぐ事のない方には理解できない世界かと思います。ですが、皆さんの領地でもこのように生活を支える仕事をなさっている方は必ずいます。聞かされなく知らないだけでしょうが、その煌びやかなドレスを纏う以上、知らないと言う言い訳は聞きたくはありません」

 そう言って私は失礼しますと言って部屋を出ようとするもふと思い出す。

「今度の花の日は皆様お時間空いてますか?」

 聞けばよほど耳に痛い話だったようで余計にしょぼんとしてしまっていたけど、婚約者に指摘されて家族にも出かけず家で勉強する様にと言われたのか予定はないと言う。

「花の日には私と一緒にこちらの世界に来た方とお茶会をしています。
 よろしければ一度ご一緒してみませんか?」

 そんな私の誘いに皆さんは戸惑いを色を隠せずにいる。さんざん意地の悪い事をしておいてこうやって誘われる事は想像してなかったのだろう。

「天鳥様と仰ってとても素敵なお兄様なのです。
 一度お話してみませんか?きっと素敵な助言を頂けると思います。
 もちろんお断りされても構いません。私達そこまでの仲でもないので……」

 少しだけ悲しげな顔を見せれば

「そんな事!ただ私達はセイカ様の事を誤解していただけです!」
「そうですわ!私達はお話しする機会がなく、これを期に是非お話しさせてくださいませ!」
「宜しければ招待状を是非頂きたいと思います。お願いできましょうか?」
「私達はお友達にだってなれますわ!」

 あっという間に取り巻きの方達は陥落。これはゲームどおりなのでチョロイと歓喜する顔の裏でニヤリと笑ってしまうのは仕方がない。そして

「聖女様がそうおっしゃるのでしたらお断りするわけにはまいりませんわ。
 当日までにはお父様を説得して是非お茶会には参加させていただきます」

 王太子殿下の婚約者も陥落できた。
 節なんてない細く白い指先で黄金の巻気の毛先をくるくると遊び、少し恥らいながら毛先を唇に寄せる。顔は本棚の方に、でも視線だけはちらりちらりとせわしなく私の様子を見る。なんて、なんて……

『可愛いツンデレなのぉぉぉ!!!』

 友情エンド確定のこのシーンを手に入れる為のスチルを実体験何てなんて殺傷力!鼻血が出ないのが不思議なくらい可愛いエヴィリーナ様の本領発揮と言うかここから主人公顔負けの可愛い顔をバンバン披露する事から真のヒロインはエヴィリーナではないかと騒がれた時もあった。
 女の子キャラならエヴィリーナが一押しなのよね。そして続編ではそんな彼女とR-18的な百合百合も出来ると言うのに……

『お願い!そんなエヴィリーナ様を私に見せて!!!』

 心の中で血の涙を流す私はまだ知らない。

 既に天鳥さんがR-18に乗ってBLコース爆心中な事を。
 そうすると女の子は百合コースに乗っかるなんて情報がスクショの隅で切られていた事を、この世界の成人基準が十六歳で既に私達は成人だと言う事を、私はまだこの世界の強制力をナメていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

処理中です...