3 / 21
第一章
第二話:銀髪の少女
しおりを挟む
ベルリッド大陸。
横に広げた瓢箪のようなこの大陸は、世界最大の広さを誇る大陸である。
瓢箪のくびれを中心として、西が人族領、東が魔族領と分断されており、有史以来、人族と魔族で日夜勢力争いが行われている戦国の地でもある。
そのまさに中心部。
紛争地帯と呼ばれている地に位置している一角が、ここアラスター大森林だ。
人族と魔族の争いが激化するこの紛争地帯は皮肉を込めて“理想郷”と呼ばれ、どこの国の領土としても当たらない。
厳密には違うのだが、奪い奪われを繰り返しているこの地は無法地帯なのである。
そんなところに住んでいるのは、基本的には両種族陣営から追い出された爪弾き者達しかいない。
忌み嫌われる理由として、その際たるものが混血だ。
混血とは人族・魔族・竜族・蟲人族・獣人族などが他の異なる種族と交わることで生まれる存在で、種族間の帰属意識が強いこの世界では爪弾き者とされる。
特に魔族と人族の混血など、両陣営で争いが絶えないこの大陸では忌むべき存在となるようだ。
そのような混血達が住処を追い出され、行き着く先がこの“理想郷”なのである。
私が助けたこの少女も混血児とのことだ。
混血は人権という文字が霞むような酷い扱いらしく、先程襲われていたのも“狩り”と称した魔族の遊びらしい。
まるで悪魔がするような遊びだ。
あぁ、あいつは悪魔だったか。
「あの……先程は助けていただきありがとうございます……。それで……あなた様は悪魔なのですか? ……堕天使様ではないのですか?」
ひとしきり私の質問に答えてくれた後に、彼女は改まって礼を言う。
そして、恐る恐るといった様子で烏面の私の顔を上目遣いに覗いてくる。
「堕天使と呼ばれるのは性格の悪い友人を思い出すので止めて欲しいところだね。先ほども言ったように、私は正真正銘の悪魔だよ」
堕天使と呼ばれるのだけは勘弁願いたい。
そのうちルー君が文句を言いに現れそうで嫌だ。
「まぁ、悪魔といってもそこに転がっているデクと一緒にされても困るけどね。ソレとは比較にならない程の大悪魔さ」
私は頭部と四肢を失った悪魔の死体を後ろ指で差しながら微笑する。
それに合わせて、烏面がまるで生きているかのように口元を歪ませる。
そんな私の紳士的な微笑みを見て、銀髪の少女は肩をビクッと震えさせながら、その小さな口を懸命に開きか細い声をあげる。
「……わたしを、殺さないんですか?」
「ん? 私が君を……? なぜかな? 君は私の知りたかったことを教えてくれた。恩を感じることはあれど、恨むようなことはないよ」
そんな礼儀知らずな訳がないじゃないか。
私はルー君じゃないんだぞ?
「だ、だって……わたしは……っ」
「混血だからかな? それとも、半悪魔だからかな? 珍しいとは思うが、それだけだとも。私は混血としての君ではなく、“今そこにいる君”にしか興味はない」
「────っ!」
少女が大きく目を開いてこちらを見つめてくる。
そこには驚きと戸惑い、そして染み込むような歓喜の情が覗ける。
少女は俯いたまま暫く黙っていた。
そこには様々な感情が見える。
小さな声で「気付いて…」と聞こえた。
そりゃ私も悪魔だからね。
特に同族の気配は間違えるはずもない。
それに私は人の機微に敏感だ。
彼女の反応を見れば、たとえ同族でなくとも分かっただろう。
「……なんで」
少女は独り言のようにポツリと呟く。
だがそれは間違いなく私に向けた言葉だ。
「なんで、か。一つだけ確かなのは、私は君のことが嫌いじゃない。……私は、たとえその者がどんな罪を背負っていたとしても、その人しか見ない」
どんな存在でも、魂の色が存在する。
魂の色とは、自身の在り方そのものだ。
絶対に偽ることができない在り方としての色。
それは犯罪や殺人を犯した程度で濁るようなチャチなものではない。
自身の在り方を否定したときに、濁る。
その在り方とは人それぞれで、移り変わることもままあるが、生まれた時から同じ在り方である者の魂は呆れるほど純粋な色をしている。
彼女の色は、純粋だった。
その突き通った在り方は、恐ろしいほど欲が深い。
少し、ブブ君を思い出すな。
「……わたしを、弟子にして下さい!」
「……え?」
彼女の背中からは、先程までなかったはずの悪魔の片翼がピコピコと犬の尻尾のように振っていた。
横に広げた瓢箪のようなこの大陸は、世界最大の広さを誇る大陸である。
瓢箪のくびれを中心として、西が人族領、東が魔族領と分断されており、有史以来、人族と魔族で日夜勢力争いが行われている戦国の地でもある。
そのまさに中心部。
紛争地帯と呼ばれている地に位置している一角が、ここアラスター大森林だ。
人族と魔族の争いが激化するこの紛争地帯は皮肉を込めて“理想郷”と呼ばれ、どこの国の領土としても当たらない。
厳密には違うのだが、奪い奪われを繰り返しているこの地は無法地帯なのである。
そんなところに住んでいるのは、基本的には両種族陣営から追い出された爪弾き者達しかいない。
忌み嫌われる理由として、その際たるものが混血だ。
混血とは人族・魔族・竜族・蟲人族・獣人族などが他の異なる種族と交わることで生まれる存在で、種族間の帰属意識が強いこの世界では爪弾き者とされる。
特に魔族と人族の混血など、両陣営で争いが絶えないこの大陸では忌むべき存在となるようだ。
そのような混血達が住処を追い出され、行き着く先がこの“理想郷”なのである。
私が助けたこの少女も混血児とのことだ。
混血は人権という文字が霞むような酷い扱いらしく、先程襲われていたのも“狩り”と称した魔族の遊びらしい。
まるで悪魔がするような遊びだ。
あぁ、あいつは悪魔だったか。
「あの……先程は助けていただきありがとうございます……。それで……あなた様は悪魔なのですか? ……堕天使様ではないのですか?」
ひとしきり私の質問に答えてくれた後に、彼女は改まって礼を言う。
そして、恐る恐るといった様子で烏面の私の顔を上目遣いに覗いてくる。
「堕天使と呼ばれるのは性格の悪い友人を思い出すので止めて欲しいところだね。先ほども言ったように、私は正真正銘の悪魔だよ」
堕天使と呼ばれるのだけは勘弁願いたい。
そのうちルー君が文句を言いに現れそうで嫌だ。
「まぁ、悪魔といってもそこに転がっているデクと一緒にされても困るけどね。ソレとは比較にならない程の大悪魔さ」
私は頭部と四肢を失った悪魔の死体を後ろ指で差しながら微笑する。
それに合わせて、烏面がまるで生きているかのように口元を歪ませる。
そんな私の紳士的な微笑みを見て、銀髪の少女は肩をビクッと震えさせながら、その小さな口を懸命に開きか細い声をあげる。
「……わたしを、殺さないんですか?」
「ん? 私が君を……? なぜかな? 君は私の知りたかったことを教えてくれた。恩を感じることはあれど、恨むようなことはないよ」
そんな礼儀知らずな訳がないじゃないか。
私はルー君じゃないんだぞ?
「だ、だって……わたしは……っ」
「混血だからかな? それとも、半悪魔だからかな? 珍しいとは思うが、それだけだとも。私は混血としての君ではなく、“今そこにいる君”にしか興味はない」
「────っ!」
少女が大きく目を開いてこちらを見つめてくる。
そこには驚きと戸惑い、そして染み込むような歓喜の情が覗ける。
少女は俯いたまま暫く黙っていた。
そこには様々な感情が見える。
小さな声で「気付いて…」と聞こえた。
そりゃ私も悪魔だからね。
特に同族の気配は間違えるはずもない。
それに私は人の機微に敏感だ。
彼女の反応を見れば、たとえ同族でなくとも分かっただろう。
「……なんで」
少女は独り言のようにポツリと呟く。
だがそれは間違いなく私に向けた言葉だ。
「なんで、か。一つだけ確かなのは、私は君のことが嫌いじゃない。……私は、たとえその者がどんな罪を背負っていたとしても、その人しか見ない」
どんな存在でも、魂の色が存在する。
魂の色とは、自身の在り方そのものだ。
絶対に偽ることができない在り方としての色。
それは犯罪や殺人を犯した程度で濁るようなチャチなものではない。
自身の在り方を否定したときに、濁る。
その在り方とは人それぞれで、移り変わることもままあるが、生まれた時から同じ在り方である者の魂は呆れるほど純粋な色をしている。
彼女の色は、純粋だった。
その突き通った在り方は、恐ろしいほど欲が深い。
少し、ブブ君を思い出すな。
「……わたしを、弟子にして下さい!」
「……え?」
彼女の背中からは、先程までなかったはずの悪魔の片翼がピコピコと犬の尻尾のように振っていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる