デーモンロード 〜強欲の悪魔、異世界へ征く〜

逸志てま

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第一章

第五話:導べの先に

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「────というように、このペンデュラムは星が終わるまでの全未来を観測・記憶し、その膨大な情報から望んだ未来を示してくれるのだよ」


 私が説明を終えると、イズはげんなりとした様子でジト目を私に向けてくる。
 小さくため息をついて、分かりましたと言わんばかりに首を縦に振る。


「……つまり、その宝石を使えば理想郷ディストピアの場所が分かるということですね?」

「簡潔に言うと、その通りだ」


 イズははぁ、と大きくため息をついて呆れた様子でこちらを見る。
 せっかく人が丁寧に説明してあげたというのに失礼な奴だ。
 本当なら数日かけて歴史的背景からじっくり講義するところだというのに……。
 ふむ……子供にはまだ難しい話だったか。


「……まったく……一時間も正座させられながら同じ内容の話を延々と聞かされるこっちの身にもなって下さいよ……まぁ貴重なお話しでしたが……」


 ブツブツと文句を言いながらも少し楽しそうにしているのは、目の前のアーティファクトへの好奇心か、知らないことを教えられて弟子の気持ちを味わったからか。

 このアーティファクト……神代の魔道具である『星黄泉ほしよみしるべ』は、望んだ未来へ進むためのナビゲーターだ。

 今後起こりうるあらゆる可能性の未来から、“私達が理想郷ディストピアへ辿り着く未来”に至るまでの道筋を教えてくれる。

 その道筋に沿って進めば間違いなく理想郷ディストピアへ辿り着くことができるのである。

 私は早速ペンデュラムを垂らし、望む未来をイメージする。
 するとゆっくりペンデュラムが動き、先頭にある装飾された宝石の結晶が北東を指し示した。


「向こうだな。いくぞ」

「あっ、待ってください────!」


 歩き出す私の後ろをトテトテとイズが付いて来る。
 その姿を後ろ目に見ながら私は思考にふける。
 思わず口にしてしまったが、いくぞ……か。
 久しぶりの人間界に気分が良くなっているのかもしれない。
 案内役はもう別にいらなくなったのだが……まぁ彼女の魂に免じて、もう少し付き合ってやるか。

 冷たい風が少女達を凪ぐ。
 細部に金と銀の装飾が施された美しい漆黒のローブが、風に揺られてたなびかれる。
 被っているシルクハットを手で押さえ、烏面の男が再び前を向く。

 その烏面の表情は、少し楽しそうであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 紛争地帯には基本的に人間国家が対魔王軍として結成した連合軍しかいなく、連合軍以外で訪れる人間は少ない。

 単純に魔族との争いが絶えない地であるという理由もあるが、アンデッドが大量発生する危険地帯であるという事実がこの地に人々が足を運ばない大半の理由を占めている。
 絶え間なく争いが起こるこの地では、それに比例して死者の数も多く強力なアンデッドが生まれやすい。

 アンデッドは生者の敵であり、人族魔族関係なく生きている者ならば見境なく襲ってくる厄介な存在だ。
 一度見つかれば地の果てまで追いかけられ、そのまま街にまで付いてくることだってある。
 出会ったら確実に倒さなければ、人族領に戻ることはできない。

 戻ったとしても、連合軍でない者がアンデッドの大軍を引き連れて来たら極刑は免れないだろう。
 本来、対魔王軍以外の紛争地帯立ち入りは禁じられているのである。

 そんな一般人にはリスクのある紛争地帯で、一組の冒険者パーティが森の中で腰を下ろし地図を広げていた。


「おいセシル、本当にこの近くなんだな?」

「ああ、間違いない。一月前、連合軍に従軍したとき俺はこの近くで取り残された。そこで俺は混血の魔族が何もないところに突然現れるのを見たんだ」


 手入れの行き届いた銀製のプレートメイルを着た中年の男、ハンクが疑わしげな目を向けながらセシルと呼ばれた青年に声をかける。

 短く整った金髪に片目に傷を負った、いかにもカタギには見えない傭兵風の容貌だ。
 重そうな銀の大槍と大盾を堂々と背負うその姿は、大柄で筋肉質な見た目と合いまさに歴戦の猛者を思い浮かばせる。

 ハンクの視線の先にいるのは、このパーティで唯一魔術が使えるセシルと呼ばれた青年だ。

 中央で分けられた黒髪の隙間から中性的な顔立ちが覗かせる。
 何かの魔獣の皮をあしらった高級そうな厚手のローブを羽織り、手に持った銀杖を地面に置いて持っている地図を睨む。


「でもさぁ、それが本当だったとしても理想郷ディストピアから現れたとは限らないじゃん?そういう能力スキル持ちなのかもしれないしー」


 セシルの向かいにいる軽装に身を包んだ赤髪の女性、シェリアが能天気な声をかける。
 腰に巻いた革のベルトにはいくつものポーチが付いており、複数のナイフを腰にぶら下げている。
 彼女は頭の後ろに手を組んで、ケラケラと笑いながら話を続ける。


「セシル~。あんた、サキュバスに幻覚でも見せられたんじゃないのー?」

「違う! 俺は確かに見た! 片翼だったからあれは間違いなく混血だ!」

「混血のサキュバスかもしれないじゃん?」

「シェリア! お前は俺がサキュバス程度に幻覚をかけられるようなヤワな魔術師に見えるのか!?」


 やり取りを見ていたハンクはカッとなって声を荒げるセシルの姿を見て、小さくため息を吐きながらシェリアに視線を移す。


「……シェリア、お前だってセシルの言葉を信じたからここまで来たんだろうが。からかうのもそこまでにしておけ」

「ハンクに怒られちった。セシルのせいだかんね」

「いやお前のせいだろ!」


 ケラケラと笑い出すシェリアと怒り心頭のセシルを見て、ハンクが再びため息をつく。

 しかし、そんな漫才のようないつもやり取りをしていたシェリアが唐突に鋭い視線を森の奥へ投げかける。


「………来る。アンデッドだ。数は………ひぃ、ふぅ、みぃ……っ!? ───数百はいる!!」

「───戦闘態勢に入れ! セシル! 魔力は大丈夫か!?」

「あ、ああ! 大丈夫だ!」


 槍を持ったハンクの掛け声に合わせ、他の二人がバッと立ち上がりすぐさま戦闘態勢へ移行する。
 森の奥からゾロゾロと骨だけの死者───骨人スケルトンが姿を現す。


「セシル! 範囲魔術の準備をしろ! シェリアは退路の確保だ! 俺はセシルを援護する!」


 熟練パーティ特有の流れるような動作で、まるで一つの生き物のように各々が行動を開始する。
 ハンクは大盾を構え、詠唱に入ったセシルを庇うように骨人達を倒していく。

 しかしそこで、退路を確保しに行ったはずのシェリアが棒立ちのまま動いていないことにハンクが気づいた。


「シェリア! どうした!? 何があった!?」


 ハンクが槍で骨人を薙ぎ払いながら怒号をあげる。
 シェリアは青ざめた顔で後方の森奥を見つめていた。


「………やばい……この気配は……『リッチ』だ……しかも複数いる………」


 シェリアの言葉にハンクが言葉を失う。
 リッチ。
 骨人から位階進化した先にある恐ろしいアンデッドとして有名だ。
 多様な魔術を操り、その身体は触れた者の生命エネルギーを奪う負のオーラを纏う。
 冒険者の間でも出会ったら死を覚悟しなければならない恐怖の象徴と言われている。

 それが複数いるという。


「シェリア! 後ろは捨てて前に行く! 手を貸せ! ────セシル!」

「………ああ! わかってるよ!」


 セシルが持つ銀杖の先端を、二つの輪になった術式が交差しながら回転する。
 やがて術式の回転速度が頂点に達し、銀杖が強烈な光を放ち始める。


「────熾天の翼。万象羽ばたき、ここに迎合せよ────ッ!」

詠唱を終え、銀杖から放たれる光が頂点に達する────

 「<閃光の熾炎フォトン・フレア>────!!」


 死者のみを襲う、白き爆発が周囲を覆う。
 セシル達の前にいた骨人の軍勢が白い爆発に呑まれ、消滅していく。
 ハンクとシェリアはその爆発に合わせて、消耗したセシルを抱えながら前へと駆け抜ける。


「────さっすがセシル!範囲魔法に関してはピカイチよね!」


 シェリアがハンクに抱えられながら気絶しているセシルを見て、喜色の声をあげる。
 珍しくシェリアに褒められているというのに、当のセシルは気絶して聞こえていない。


「ああ、セシルにはいつも助けられている────っ!?」

 ハンクが途中で言葉をつまらせる。
 シェリアも目の前の光景を見て顔を青ざめる。

「馬鹿な……『上位エルダーリッチ』だと……」


 目の前には、闇よりも深い漆黒のローブに身を包んだリッチが立っている。
 ボロボロのローブから覗かせる顔は、上位エルダーリッチの証である、腐食した人間の顔をしていた。
 骨だけの姿から、生前の姿を取り戻した証だ。


「無理無理……! セシルもいないのに上位エルダーリッチなんて倒せるわけがない……!」


 シェリアが絶望した表情でハンクを見る。
 ハンクの顔には玉のような汗が大量にうかんでいた。
 上位エルダーリッチが嫌らしい笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。
 周囲は既に複数のリッチが囲んでおり、退路はない。


「…………悪い。セシル、シェリア。……ここまでのようだ……」


 ハンクが下を向き、シェリアが恐怖に目を瞑る。
 上位エルダーリッチがこちらに手を伸ばし、魔法を放ってくる────





 ────ことは、なかった。


「ああ、悪いね。下位アンデッド風情が小生意気にも魔術を操ろうとするものだから、つい殺してしまった」


 目の前には粉々になった上位エルダーリッチらしき残骸と、黒ずくめの衣装にシルクハットを被った怪しげな烏面の男が立っていた。

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