6 / 21
第一章
第五話:導べの先に
しおりを挟む「────というように、このペンデュラムは星が終わるまでの全未来を観測・記憶し、その膨大な情報から望んだ未来を示してくれるのだよ」
私が説明を終えると、イズはげんなりとした様子でジト目を私に向けてくる。
小さくため息をついて、分かりましたと言わんばかりに首を縦に振る。
「……つまり、その宝石を使えば理想郷の場所が分かるということですね?」
「簡潔に言うと、その通りだ」
イズははぁ、と大きくため息をついて呆れた様子でこちらを見る。
せっかく人が丁寧に説明してあげたというのに失礼な奴だ。
本当なら数日かけて歴史的背景からじっくり講義するところだというのに……。
ふむ……子供にはまだ難しい話だったか。
「……まったく……一時間も正座させられながら同じ内容の話を延々と聞かされるこっちの身にもなって下さいよ……まぁ貴重なお話しでしたが……」
ブツブツと文句を言いながらも少し楽しそうにしているのは、目の前のアーティファクトへの好奇心か、知らないことを教えられて弟子の気持ちを味わったからか。
このアーティファクト……神代の魔道具である『星黄泉の導』は、望んだ未来へ進むためのナビゲーターだ。
今後起こりうるあらゆる可能性の未来から、“私達が理想郷へ辿り着く未来”に至るまでの道筋を教えてくれる。
その道筋に沿って進めば間違いなく理想郷へ辿り着くことができるのである。
私は早速ペンデュラムを垂らし、望む未来をイメージする。
するとゆっくりペンデュラムが動き、先頭にある装飾された宝石の結晶が北東を指し示した。
「向こうだな。いくぞ」
「あっ、待ってください────!」
歩き出す私の後ろをトテトテとイズが付いて来る。
その姿を後ろ目に見ながら私は思考にふける。
思わず口にしてしまったが、いくぞ……か。
久しぶりの人間界に気分が良くなっているのかもしれない。
案内役はもう別にいらなくなったのだが……まぁ彼女の魂に免じて、もう少し付き合ってやるか。
冷たい風が少女達を凪ぐ。
細部に金と銀の装飾が施された美しい漆黒のローブが、風に揺られてたなびかれる。
被っているシルクハットを手で押さえ、烏面の男が再び前を向く。
その烏面の表情は、少し楽しそうであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
紛争地帯には基本的に人間国家が対魔王軍として結成した連合軍しかいなく、連合軍以外で訪れる人間は少ない。
単純に魔族との争いが絶えない地であるという理由もあるが、アンデッドが大量発生する危険地帯であるという事実がこの地に人々が足を運ばない大半の理由を占めている。
絶え間なく争いが起こるこの地では、それに比例して死者の数も多く強力なアンデッドが生まれやすい。
アンデッドは生者の敵であり、人族魔族関係なく生きている者ならば見境なく襲ってくる厄介な存在だ。
一度見つかれば地の果てまで追いかけられ、そのまま街にまで付いてくることだってある。
出会ったら確実に倒さなければ、人族領に戻ることはできない。
戻ったとしても、連合軍でない者がアンデッドの大軍を引き連れて来たら極刑は免れないだろう。
本来、対魔王軍以外の紛争地帯立ち入りは禁じられているのである。
そんな一般人にはリスクのある紛争地帯で、一組の冒険者パーティが森の中で腰を下ろし地図を広げていた。
「おいセシル、本当にこの近くなんだな?」
「ああ、間違いない。一月前、連合軍に従軍したとき俺はこの近くで取り残された。そこで俺は混血の魔族が何もないところに突然現れるのを見たんだ」
手入れの行き届いた銀製のプレートメイルを着た中年の男、ハンクが疑わしげな目を向けながらセシルと呼ばれた青年に声をかける。
短く整った金髪に片目に傷を負った、いかにもカタギには見えない傭兵風の容貌だ。
重そうな銀の大槍と大盾を堂々と背負うその姿は、大柄で筋肉質な見た目と合いまさに歴戦の猛者を思い浮かばせる。
ハンクの視線の先にいるのは、このパーティで唯一魔術が使えるセシルと呼ばれた青年だ。
中央で分けられた黒髪の隙間から中性的な顔立ちが覗かせる。
何かの魔獣の皮をあしらった高級そうな厚手のローブを羽織り、手に持った銀杖を地面に置いて持っている地図を睨む。
「でもさぁ、それが本当だったとしても理想郷から現れたとは限らないじゃん?そういう能力持ちなのかもしれないしー」
セシルの向かいにいる軽装に身を包んだ赤髪の女性、シェリアが能天気な声をかける。
腰に巻いた革のベルトにはいくつものポーチが付いており、複数のナイフを腰にぶら下げている。
彼女は頭の後ろに手を組んで、ケラケラと笑いながら話を続ける。
「セシル~。あんた、サキュバスに幻覚でも見せられたんじゃないのー?」
「違う! 俺は確かに見た! 片翼だったからあれは間違いなく混血だ!」
「混血のサキュバスかもしれないじゃん?」
「シェリア! お前は俺がサキュバス程度に幻覚をかけられるようなヤワな魔術師に見えるのか!?」
やり取りを見ていたハンクはカッとなって声を荒げるセシルの姿を見て、小さくため息を吐きながらシェリアに視線を移す。
「……シェリア、お前だってセシルの言葉を信じたからここまで来たんだろうが。からかうのもそこまでにしておけ」
「ハンクに怒られちった。セシルのせいだかんね」
「いやお前のせいだろ!」
ケラケラと笑い出すシェリアと怒り心頭のセシルを見て、ハンクが再びため息をつく。
しかし、そんな漫才のようないつもやり取りをしていたシェリアが唐突に鋭い視線を森の奥へ投げかける。
「………来る。アンデッドだ。数は………ひぃ、ふぅ、みぃ……っ!? ───数百はいる!!」
「───戦闘態勢に入れ! セシル! 魔力は大丈夫か!?」
「あ、ああ! 大丈夫だ!」
槍を持ったハンクの掛け声に合わせ、他の二人がバッと立ち上がりすぐさま戦闘態勢へ移行する。
森の奥からゾロゾロと骨だけの死者───骨人が姿を現す。
「セシル! 範囲魔術の準備をしろ! シェリアは退路の確保だ! 俺はセシルを援護する!」
熟練パーティ特有の流れるような動作で、まるで一つの生き物のように各々が行動を開始する。
ハンクは大盾を構え、詠唱に入ったセシルを庇うように骨人達を倒していく。
しかしそこで、退路を確保しに行ったはずのシェリアが棒立ちのまま動いていないことにハンクが気づいた。
「シェリア! どうした!? 何があった!?」
ハンクが槍で骨人を薙ぎ払いながら怒号をあげる。
シェリアは青ざめた顔で後方の森奥を見つめていた。
「………やばい……この気配は……『リッチ』だ……しかも複数いる………」
シェリアの言葉にハンクが言葉を失う。
リッチ。
骨人から位階進化した先にある恐ろしいアンデッドとして有名だ。
多様な魔術を操り、その身体は触れた者の生命エネルギーを奪う負のオーラを纏う。
冒険者の間でも出会ったら死を覚悟しなければならない恐怖の象徴と言われている。
それが複数いるという。
「シェリア! 後ろは捨てて前に行く! 手を貸せ! ────セシル!」
「………ああ! わかってるよ!」
セシルが持つ銀杖の先端を、二つの輪になった術式が交差しながら回転する。
やがて術式の回転速度が頂点に達し、銀杖が強烈な光を放ち始める。
「────熾天の翼。万象羽ばたき、ここに迎合せよ────ッ!」
詠唱を終え、銀杖から放たれる光が頂点に達する────
「<閃光の熾炎>────!!」
死者のみを襲う、白き爆発が周囲を覆う。
セシル達の前にいた骨人の軍勢が白い爆発に呑まれ、消滅していく。
ハンクとシェリアはその爆発に合わせて、消耗したセシルを抱えながら前へと駆け抜ける。
「────さっすがセシル!範囲魔法に関してはピカイチよね!」
シェリアがハンクに抱えられながら気絶しているセシルを見て、喜色の声をあげる。
珍しくシェリアに褒められているというのに、当のセシルは気絶して聞こえていない。
「ああ、セシルにはいつも助けられている────っ!?」
ハンクが途中で言葉をつまらせる。
シェリアも目の前の光景を見て顔を青ざめる。
「馬鹿な……『上位リッチ』だと……」
目の前には、闇よりも深い漆黒のローブに身を包んだリッチが立っている。
ボロボロのローブから覗かせる顔は、上位リッチの証である、腐食した人間の顔をしていた。
骨だけの姿から、生前の姿を取り戻した証だ。
「無理無理……! セシルもいないのに上位リッチなんて倒せるわけがない……!」
シェリアが絶望した表情でハンクを見る。
ハンクの顔には玉のような汗が大量にうかんでいた。
上位リッチが嫌らしい笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。
周囲は既に複数のリッチが囲んでおり、退路はない。
「…………悪い。セシル、シェリア。……ここまでのようだ……」
ハンクが下を向き、シェリアが恐怖に目を瞑る。
上位リッチがこちらに手を伸ばし、魔法を放ってくる────
────ことは、なかった。
「ああ、悪いね。下位アンデッド風情が小生意気にも魔術を操ろうとするものだから、つい殺してしまった」
目の前には粉々になった上位リッチらしき残骸と、黒ずくめの衣装にシルクハットを被った怪しげな烏面の男が立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる