デーモンロード 〜強欲の悪魔、異世界へ征く〜

逸志てま

文字の大きさ
5 / 21
第一章

第四話:混血の地

しおりを挟む
「いーず♪ いーず♪ いーずいずいず~♪ いーずいずぅ~♪」


 朝日を浴びながら、スキップして隣を歩くのは銀髪の少女、イズだ。
 私が名前を付けてからずっとこの調子だ。

 彼女の中で蝕んでいた呪い(まじない)名は、私が命名すると同時に完全に破壊された。
 あの程度の粗末な呪いなど、命名せずとも造作もなく破壊できたが……今後彼女が他の呪いに掛からないとも限らない。

 私が名付けた『名』の格があれば、あらゆる呪いは効果をなさないだろう。

 そこには我が権能たる『強欲』の力も込めてある。
 最早神でさえ、彼女の魂を汚すことはできない。


「しーしょーと♪ いーずー♪ しーしょーはいーずがだーいすきー♪」


 おい。
 私がいつお前のことを大好きになった。
 私が好きなのはお前の魂だけだ。

 地面の中でスケルトンさんがカタカタ音を鳴らして震えている。
 もう少しで出てきそうだったので、杖を地面にコツンとつき、辺りに埋まっていたスケルトンを軒並み消滅させておく。
 断じて八つ当たりではない。


「あれ? 何かしましたか師匠?」

「いや、何でもない。それよりも街まであとどのくらいなんだ?」


 イズが鼻歌をやめてうーんと口に手を当てながら唸り声をあげる。
 しばらくして輝くような笑顔を見せて口を開く。


「迷ったのでよくわかりません!」

「ちょっとそこになおれ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 イズが目指している街は、行き場を失った混血達が最後に目指す理想郷とのことだ。
 混血の神竜が守護し、争いが絶えない紛争地帯で唯一存在する安全地帯らしい。
 この地が理想郷ディストピアと呼ばれる所以だ。

 吟遊詩人が唄うおとぎ話によく出てくる理想郷。
 その地では故郷を追われたすべての混血が安息の暮らしを約束される。
 人族、魔族、獣族………どの種族の混血でもそこでは等しく民として平等に受け入れられるのだ。

 かの地へと行く方法は諸説あるみたいだが、混血の中で古くから伝えられる話では、堕天使に導かれて行くものが有名なようだ。

 彼女も以前出会った混血の魔族からその話を聞いたらしい。
 その魔族は既に、私が殺したあの大ヤギの悪魔に殺されたと、少し寂しそうな顔をしながら答えてくれた。
 もう少し助けるのが早ければ、詳しい話を聞けたかもしれないが……仕方ない。

 最初に出会った際に私の翼を見て、堕天使だと勘違いしたのはそれが原因のようだ。
 しかし……理想郷ディストピア、か。

 神竜の住う神殿で、守護者たる堕天使に導かれて辿り着く混血の理想郷────。

 まさに物語の中の世界だ。
 真実かどうかは定かではないが、興味はある。


「その神竜様が住う神殿というのが、どこかにあるみたいなのですが………」


 おずおずといった様子で私を見上げるイズ。
 さっきまでと打って変わってしおらしくなっている。
 叩かれたお尻をさすりながら、チラチラとこちらを見てくる。
 そんな強く叩いたつもりはないのだが……。
 私の視線に気づいてか、彼女は嬉しそうな声をあげて手を振る。


「いえ、鞭で叩かれたこともあるのでこのくらい平気です。むしろ師匠にならもう少しして欲しいくらいです」

 さらっとかなりベビーなことを告白された。
 しかもこいつ私にお尻を叩かれた余韻を楽しんでいただけだった。
 ダメだこいつ色々手遅れだ。

 最早何を言っても無駄な気がしたため、話を続けるよう顎を突きつけて続きを促す。


「えっと、それでですね。その神竜様がおわす場所は、混血には何となく分かるんです。ある日夢に神竜様が出てきて、その日を境に神竜様の気配を感じるようになるんです」


 神竜様も同じ混血だからですかね、と少し嬉しそうな顔をしながら歩くイズ。

 居場所を人族や魔族に知られないように警戒しているのだろう。
 恐らく、こちらの動向はある程度把握しているはずだ。


「その気配が感じられなくなったんです。今までは一日に数度ほど、教えてくれるような感じで気配に気づくことができたのですが………今日は全く感じることができません」


 なるほど。
 その竜は定期的に自分の位置を教えることで誘導していたようだ。
 竜にしては、かなり慎重な性格をしている。


「………イズ、その神竜に君のまじない名を教えたか?」

「えっと、はい。教えました」


 まじない名は対象の居場所や思考を知ることができる。
 恐らく、その竜はイズが持っていたまじない名に、自身を主人として上書きしたのだろう。

 上書きの痕跡が見えなかったのは、私がいた元の世界の術式とは異なる術式だったから見逃したのだろうか。

 ────あるいは、この世界特有の法則を用いた“何か”を使ったか。


「恐らく、イズが気配を感じなくなったのは私が現れたからだろう。君へのマーキングを破壊してしまったからな」


 まぁ破壊しなかったとしても、私のような者が近くにいる状態で呼んでくれるとは思えないが。


「ということは師匠のせいじゃないですか! お尻を出して下さい! わたしも叩きます!」


 自分で言うのもなんだが、恐れ知らずだなこいつは。
 いや……私が危害を加えるとは微塵も思っていないのだろう。
 実際そのつもりはないが、仮にも悪魔の王だよ?私。
 万が一弟子だとしても、敬意というものが足りないんじゃないか?


「……そんな些事はさておき。他にあてはあるのか?」

「人間の街や魔族の街なら、紛争地帯を抜ければありますけど………」


 嫌々といった様子で、後ろに手を組みながらイズが答える。
 人間や魔族の街にも興味はあるが、やはり理想郷ディストピアは気になるところだ。
 竜は宝に目がないからな。
 混血の神竜などという珍しい存在なら、どんな財宝を持っているのか楽しみだ。
 うむ、コレクター魂がウズウズしてくる。


「やはり理想郷ディストピアを目指すべきだな。仕方ない、アレを使うか」


 私は虚空に手をかざし、『宝物庫』から瑠璃色に輝くペンデュラムを取り出す。
 中心には、素人目に見てもとんでもないほどの価値があると分かる巨大な結晶の宝石がはめ込まれている。
 その宝石の中では、まるでそこに小さな銀河が存在するかのように渦が巻いており、あまりの美しさに見る者を魅了させる。


「うわぁ……綺麗………。なんですか、それ!」


 イズが目をキラキラさせながらペンデュラムを覗いてくる。
 そこだけ見れば、宝石に目を輝かせる年相応の可愛らしい女の子だ。
 さきほどの変人っぷりは見る影もないのだが、その目にはやんごとなき期待がこもっている。
 私はその期待を無視してウキウキと説明を始める。


「よく聞いてくれたとも。これは《星黄泉ほしよみしるべ》というアーティファクトだ。第二銀河より飛来した隕石から採れた貴金属を、冥界の鍛治職人が加工し、神代の占星術士が付術したもので、かの冥王ハデスも────」




 そのまま小一時間ほど説明が続いた。
 イズは聞いたことを後悔した。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...