デーモンロード 〜強欲の悪魔、異世界へ征く〜

逸志てま

文字の大きさ
8 / 21
第一章

第七話:森の目覚め

しおりを挟む
 朝日の光が木漏れ日となりテントの中を照らす。
 小鳥がチチュンと囀り、木々が風に揺られ葉を鳴らす音色が自然豊かな音楽を奏でる。

 そんな気持ちの良い朝をむかえ、ゆっくりと身体を起こして眠そうにしているのは黒髪の優男、この俺セシルだ。
 テントの外に出て大きく伸びをしたところを、見知らぬ男から声をかけられる。


「───お目覚めかな。調子はどうだね? 朝食は用意してあるから好きに食べるといい」


 焚き火で鍋を囲んでいる怪しげな烏面の男が声をかけてくる。
 とっさに目の前の見知らぬ男を警戒し杖を向けるが、森の奥から兎を数匹捕まえて出てきたシェリアの明るげな声が間に割って入る。


「おっ、セシル起きた~? いつも思うけど魔力切れって辛そうだよねー。あっ、その人は警戒しなくても大丈夫。私達を助けてくれた恩人だから」


 シェリアの能天気な声を聞き、多少警戒しながらも俺はゆっくりと杖を下ろす。
 そうだ……たしか、骨人の群れに襲われて……それで……


「も~凄かったんだから! 上位エルダーリッチを一瞬で消滅しちゃってさー! 追ってきたリッチ達も魔法一つで木っ端微塵にドッカーンって!」


 どうやら俺が気絶したあと、仲間達のピンチを助けてくれたみたいだ。
 俺は杖を向けてしまった事を後悔しながら、慌てて謝罪をする。


「いきなり杖を向けてしまい、申し訳ない。俺達を窮地から助けてくれたとのこと、俺からも礼を言いたい。……ありがとうございます」

「いえ、気にしていただかなくて大丈夫ですよ、警戒するのは当然のことです。……病み上がりで立ち話もなんですし、朝食に獣骨を出汁にしたスープを作っていますので、どうぞ」

「すみません。いただきます」


 シェリアの隣に腰を下ろし、向かいにいる烏面の男から皿を受け取る。
 香ばしい山の幸の匂いが鼻腔をつつき、自然と涎が溢れてくる。
 受け取ったスープを嬉々としてすすっていると、烏面の男がゆっくりと口を開き、自己紹介をする。


「私の名はマモンという。この紛争地帯で魔術修行をしている魔術師だ。よろしく頼むよ。……たしか君も魔術師と聞いたが」

「俺はセシルと言います。聞いての通り、このパーティーで魔術師をしています。……こんな場所で魔術修行とは、何か事情が?」

「セシル!」


 シェリアが責めるような口調で遮る。
 しかし、マモンと名乗った男は特に気を害した様子もなくスープをすすりながら答える。


「私はただ静かに、魔術の研究に明け暮れていたいだけですよ。危険な魔術の場合、人里が近いと思わぬ被害が起きることもありますから」

「……たしかに、そうですね。大規模魔術の暴発で、街が一つ消えた話もありますし……」


 魔術師というのは希少な存在であり、一騎当千となり得る存在でもある。
 特に大規模魔術を行使できる者は、人族の中でもごく僅かだ。
 その危険性から、大規模魔術が使用できる魔術師は例外なく国によって管理されることとなる。


「……あなたは、大規模魔術が使用できるのですか?」

 恐る恐るといった様子で、目の前の男に問いかける。
 マモンは顎をさすりながら少し考え始めると、やがてゆっくりと口を開く。

「……その大規模魔術が街や都市を破壊する規模の魔術という意味でいいのなら、可能です」


 男の言葉にシェリアと二人で絶句する。
 大規模魔術を行使できる人なんて雲の上の存在だ。
 王国の式典で遠目に見たことはあっても、実際に会って話す機会なんてただの冒険者である自分達にあるわけがない。

 そんな天上の存在が、目の前にいた。


「……し、失礼しました。同じ魔術師として出会えたこと、光栄に思います」


 俺もある程度は名の通った魔術師だ。
 魔力量が少ないのが玉に瑕だが、範囲魔術も一通り使えるし、基本属性は全て修めている。
 魔術師の中でも上の方に位置していると自負していた。

 だがそんな俺だからこそ分かるが、大規模魔術を使える魔術師は明らかに別格の存在だった。
 いつか会話をしてみたいと思っていた憧れの存在を前に、緊張で声が震えた。


「わ、私はじめて見たよ~! 大規模魔術が使える人なんて! まさか英雄と呼ばれる存在に出会えるなんて、私達ラッキーだね!」


 シェリアが目を輝かせながら肩をバンバンと叩いてくる。
 病み上がりに肩を叩かれて嫌そうな顔を向けていると、さっきまで自分が寝ていたテントからハンクが重そうな腰を上げてこちらに近づいてきた。


「起きたか、セシル。調子はいいみたいだな」


 ハンクが隣に腰を下ろし、片膝をついて横目で様子を窺いながら言う。


「ハンク。ああ、もう大丈夫だよ。心配かけてすまなかったな」

「あ、ハンクおはよう~。ねぇ! それよりハンク聞いてよ! マモンさんって───」


 先程の会話をハンクに説明するシェリア。
 ハンクも目が覚めたように驚き、マモンの方を向いて恭しく挨拶をする。


「……そうだったのか。只者じゃないと思っていたが、まさか英雄殿だったとは。紛争地帯で生きていけるのも納得だ」

「ハンクは英雄に会ったことあるんだっけ? いいなぁ私も英雄になりたいよ~。あ、でもお国に縛られるのは嫌かな~」


 ケラケラと笑いながら言うシェリアにハンクが苦笑する。
 横目でマモンをのぞくと、おかわりのスープを装っているところだった。
 平和な朝食を迎えていると、奥のテントからゴソゴソと音を立てて、銀髪の少女が眠そうな目を擦りながらこちらへ歩いてきた。


「……ぉはようございますぅ……。……なんだか楽しそうですね……ふわぁ……」


 可愛らしく欠伸を手で押さえながら、マモンのすぐ隣にペタンと座り込んだ少女は、シェリアからスープを受け取ってモグモグと食べ始める。


「ん~! イズちゃんは可愛いなぁ。はい、朝ごはん」

「……ありがとうございますぅ……」


 一連のやり取りを黙って見ていた俺は、ふと思い出したように脳裏に衝撃が走る。





 イズと呼ばれた銀髪の少女の背には、片翼の翼がピコピコとはねていた。


「あーーー!!! この子だーーー!!!」 


 俺の絶叫が朝の森に響き渡った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

処理中です...