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第一章
第八話:彼らの理由
しおりを挟む「……話を整理しよう」
私が手に持った杖をクルクル回転させながらイズとセシルの話をまとめる。
イズは半年前、魔族領から紛争地帯にきてからの記憶が欠けているらしい。
一月前に、気付いたらアラスター大森林の中にいたようだ。
恐らくそのタイミングで、魔術師の青年────セシルといったか────に目撃されたのだろう。
それからイズは森の中でひっそりと暮らしていると、他の混血を見つけ、しばらく行動を共にしていたらしい。
しかしその混血を追っていた魔族軍に捕まり、そいつは殺され、逃げていたイズは私に助けられた。
「────流れとしてはこんな感じか」
「はい。そんな感じです師匠」
こんがり焼けた兎肉をもぐもぐと咀嚼しながら、イズが私の言葉に相槌をうつ。
その向かいで座っていたセシルが、腕を組んで考え込みながら、困惑した様子で声を上げる。
「…………となると、理想郷への手がかりがなくなってしまったな……」
セシル達はイズを手がかりに理想郷へ行く方法を探していた。
その本人が何も覚えていないとなると、振り出しに戻った形になる。
「……いや。恐らく、彼女が記憶を失っていることと理想郷には何か関係があるだろう」
私が顎に手を当てて思考に耽りながら言う。
その言葉に、ハンクが同意を示したように首を縦に振る。
「俺も同感だ。聞いていて思ったが、その子の状況に一つ心当たりがある」
ハンクの言葉に全員が彼の方を向く。
彼はその強面の顔をさらに険しくしながら、重々しく声を上げる。
「────転移陣だ。古代迷宮に罠として置かれることがある魔法陣の一種だな。一方にしか転移できない型の陣だと、転移先に突然現れた形になる。そして、幼い子供には副作用として、記憶の欠乏がしばしば見られるらしい」
なるほど、転移陣か。
こちらの世界と私が元いた世界では、術式も些か異なるだろうが原理は一緒だろう。
ましてや転移は高度な魔術────魔法だ。
魔術では行使できない格上の理を操るもの、それが魔法である。
私がいた元の世界でも、魔法が行使できるほどの者は僅かしかいない。
もしその神竜とやらがその転移陣を設置したのなら、厄介な相手なのは間違いない。
私が思考の渦に沈んでいると、シェリアが沈痛な面持ちで口を開く。
「古代遺跡って、金級以上しか入れない高難度ダンジョンだよね。もしかして理想郷って、古代遺跡と同じくらいヤバいダンジョンってこと?」
セシルが彼女の言葉に、重々しく首を振って答える。
「………いや。古代遺跡は主がいないのがほとんどだけど、今回は神竜がいるかもしれない。……もし神竜がダンジョンの主だとしたら、古代遺跡以上の難度なのは確実だ」
ハンクが沈黙をもってその言葉を肯定する。
シェリアはその言葉に、驚いた様子で荒々しく声をあげる。
「ちょっ! だったらヤバいじゃん! 私達銀級が行ける場所じゃないって!」
「……その通りだよ。だけど、今回行くのは俺達だけじゃない。英雄級の魔術師であるマモンさん達がいる」
セシルがキラキラした瞳で私を覗いてくる。
憧れを隠そうとしない若い瞳に、大仰な態度で頷き答える。
「ふむ。私も出来る限りのサポートはする。もしその神竜とやらが敵対してきたのなら、私が対処しよう」
竜にさえ恐れを知らない自信溢れるその態度に、安心した様子で胸を撫で下ろすシェリア達。
私は続けてかねてから疑問に思っていたことを口にする。
「……しかし、君達はなぜそこまでして理想郷に行きたいのだね? 金目当てにしても、リスクに見合っていないように思える」
私の言葉にしばらく考えこむ冒険者達だったが、やがてハンクが苦笑いしながら答える。
「……お宝目当てってのも本当だ。だが大きな理由は、昔一緒にパーティーを組んでいた混血の獣族がいてな。そいつが一年前に、兄弟を連れて理想郷に向かって行ったんで、元気でやっているか見に行きたかったんだ」
シェリアとセシルも昔を思い出したように優しい笑みを浮かべながら相槌をうつ。
彼らがイズに対して誠実な態度で接してくれるのも、かつての仲間が混血だったことに由来しているのだろう。
「そーそー。私達は冒険者だからね。仲間を様子を見に来たかったのが4割、お宝目当てで5割、残り1割が単純な好奇心ってわけ!」
セシルがそこは好奇心で5割って言えよ、とツッコミながら柔和な笑みを浮かべ、ハンクが苦笑する。
そんな仲睦まじいパーティーの様子を見て、私は小さく微笑みながら話を続ける。
「………君達の事情は分かった。そういうことなら、私が君達の無事を約束しよう。……そして、理想郷へ行く転移陣についてだが心当たりがある」
私はイズの方を見る。
きょとんとした顔でこちらを見返す彼女に、私は続ける。
「イズ。私と出会った祠の場所へ案内してくれ」
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