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第一章
第十七話:神竜③
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私が権能を発動させると同時に、地の底より滲み出てきた影の手が迫りくる不死者達を掴み奈落へと引き摺り込んだ。
周りを見渡すと、辺り一面が漆黒の泥に覆われており夜の理想郷が闇に呑み込まれている。
周囲の大森林からこの山に進軍していた大量の不死者達も、そして屋敷に迫っていた不死者達も、地の底から溢れ出る闇の泥の中に抵抗できず沈んでいく。
「この地下世界は広くて少々時間がかかってしまったが……ようやく全域を侵食することができたよ」
この地に転移してからずっと、私は自身の権能を発動させていた。
地下世界が予想以上に広くて時間がかかってしまったが……先ほどようやく全域まで権能を広げることができた。
こうなった以上、最早この地下世界は私のもの同然だ。
「グゥ……ァァァアアア……!!!」
私の真下にある湖もいつの間にか黒泥に呑み込まれ、かつての清涼な姿は闇に浸食されて見る影もない。
その黒泥に染まった湖から伸びてきた影の手が、周囲を取り囲んでいた不死者達全てを掴み、闇の中へと引き摺り込んでいく。
「私の兵士達との繋がりが……消えていく……? ……馬鹿な……一体なにがおきている…………?」
私の周りを包囲していた不死者の英雄達が軒並み影の手によって呑み込まれると、天蓋近くで構えていた黒竜が目を見開き、小さく声を漏らす。
何が起きたのか理解できていない黒竜に向けて、私は杖をクルクルと回し烏面を歪ませながら説明する。
「君達の間では能力と言うんだったかな?私のいた世界では、悪魔の力は別の言い方で伝えられていてね」
イズ達のいる屋敷以外の全てを黒泥が侵食したことを確認すると、私は悪魔の翼を羽ばたかせ、上空で震えるように佇む黒竜に近づき声をかける。
「罪禍────七つの罪として伝えられている」
その私の言葉に憎悪の表情を向け、敵意を剥き出しにしながらアメラが口を開く。
「悪魔風情が……ッ! これで私の【死者の楽園】を破ったつもりか!!」
アメラから溢れ出る負のオーラが私を襲う。
触れた対象を強制的にアンデッドへと生まれ変える凶悪なオーラが私の身体を覆い、魂をも蝕もうと蠢く。
しかし私を覆った負のオーラは私をアンデッドに変えることなく、そのまま無造作に霧散していく。
「な……っ!? 馬鹿な!! 何故私の能力が効かない!?」
無傷の私を見て驚愕の表情を浮かべるアメラが言う。
私は子供に教えるような丁寧な口調でゆっくりと説明する。
「私の罪禍────【強欲の左手】の権能は実にシンプルだ。“目的のものを対象から奪うこと”。これだけだ。…………今回私が君から奪ったものが何かわかるか?」
私の言葉にゾッとした顔でこちらを見つめるアメラ。
いい顔だ。自分の大事なものを奪われたとき、皆そういう顔をする。そう、その顔は────
────絶望の顔だ。
「────理想郷。この地下世界の支配権を、私は君から奪った。そしてそれは、君の能力でもある」
「ヴ……!? ヴォエエエエエエエエ!!!」
黒竜の口から黒泥が溢れ、影の手が私の方へ伸びていく。
そしてその手が止まり、私の前でゆっくりと掌を開く。
そこには能力と呼ばれる彼女の魂の一部が、宝玉のように美しく輝いていた。
「か……返せ……!! 私の……私の……力……ッ!!!」
口から泥を溢れながら、彼女は必死にこちらへ手を伸ばし近づこうとする。
しかし私は《神狼貪る縄》で彼女を拘束し、その動きを止める。
……既に彼女の能力は私が掌握しているのだが、私は悪魔だからね。
分かりやすい形で奪われたと教えることで、少しお灸を据えてやろう。
私は四肢を拘束され身動きが取れなくなった彼女にゆっくりと近づき、彼女の能力が込められた宝玉を右手に持ちながら声をかける。
「今まで君は何人の混血の命を、未来を奪ってきた?…………数百?数千?数万?……それ以上か?」
私の言葉に顔を青ざめながら震える黒竜。
絶対的な自信の表れであった能力を奪われ、身動きを奪われた彼女の心は絶望に染められていた。
「……君は少し奪いすぎた。“強欲の悪魔”に目をつけられるほどに、ね」
そして私は右手で掴んでいる宝玉を彼女の目の前で砕く。
破片はそのまま私の身体へと集約し、取り込まれていく。
その様子を見て悲痛な叫びをする彼女を前に、私はもう一つの権能を発動する。
「剥いで素材にしようと思ったが……やめてあげよう。君は少し、自身の能力で反省した方がいい」
私は震える彼女に向かい、悪魔の右手をゆっくりと近づけ言う。
「【強欲の右手】────【死者の楽園】」
強欲の右手。
左手で奪ったものを使用する権能だ。
私の身体から負のオーラが溢れ出し、黒竜の身体を包み込んでいく。
「やめろ……やめ……ぁぁ……ぁぁぁああああああああああ!!!」
アメラは必死に抵抗するも、その不死の身体は自身の凶悪な能力に蝕まれ、徐々に私の支配下へと落ちていく。
彼女が負のオーラに侵食されていく様子を眺めながら、私は屋敷で待っている少女のことを思い浮かべ、小さく呟く。
「…………同じ混血だ。殺したら、あの子が悲しむかもしれないからね」
黒竜を完全に支配下に置いたことを確認した私は、少女の待つ屋敷へと帰っていった。
周りを見渡すと、辺り一面が漆黒の泥に覆われており夜の理想郷が闇に呑み込まれている。
周囲の大森林からこの山に進軍していた大量の不死者達も、そして屋敷に迫っていた不死者達も、地の底から溢れ出る闇の泥の中に抵抗できず沈んでいく。
「この地下世界は広くて少々時間がかかってしまったが……ようやく全域を侵食することができたよ」
この地に転移してからずっと、私は自身の権能を発動させていた。
地下世界が予想以上に広くて時間がかかってしまったが……先ほどようやく全域まで権能を広げることができた。
こうなった以上、最早この地下世界は私のもの同然だ。
「グゥ……ァァァアアア……!!!」
私の真下にある湖もいつの間にか黒泥に呑み込まれ、かつての清涼な姿は闇に浸食されて見る影もない。
その黒泥に染まった湖から伸びてきた影の手が、周囲を取り囲んでいた不死者達全てを掴み、闇の中へと引き摺り込んでいく。
「私の兵士達との繋がりが……消えていく……? ……馬鹿な……一体なにがおきている…………?」
私の周りを包囲していた不死者の英雄達が軒並み影の手によって呑み込まれると、天蓋近くで構えていた黒竜が目を見開き、小さく声を漏らす。
何が起きたのか理解できていない黒竜に向けて、私は杖をクルクルと回し烏面を歪ませながら説明する。
「君達の間では能力と言うんだったかな?私のいた世界では、悪魔の力は別の言い方で伝えられていてね」
イズ達のいる屋敷以外の全てを黒泥が侵食したことを確認すると、私は悪魔の翼を羽ばたかせ、上空で震えるように佇む黒竜に近づき声をかける。
「罪禍────七つの罪として伝えられている」
その私の言葉に憎悪の表情を向け、敵意を剥き出しにしながらアメラが口を開く。
「悪魔風情が……ッ! これで私の【死者の楽園】を破ったつもりか!!」
アメラから溢れ出る負のオーラが私を襲う。
触れた対象を強制的にアンデッドへと生まれ変える凶悪なオーラが私の身体を覆い、魂をも蝕もうと蠢く。
しかし私を覆った負のオーラは私をアンデッドに変えることなく、そのまま無造作に霧散していく。
「な……っ!? 馬鹿な!! 何故私の能力が効かない!?」
無傷の私を見て驚愕の表情を浮かべるアメラが言う。
私は子供に教えるような丁寧な口調でゆっくりと説明する。
「私の罪禍────【強欲の左手】の権能は実にシンプルだ。“目的のものを対象から奪うこと”。これだけだ。…………今回私が君から奪ったものが何かわかるか?」
私の言葉にゾッとした顔でこちらを見つめるアメラ。
いい顔だ。自分の大事なものを奪われたとき、皆そういう顔をする。そう、その顔は────
────絶望の顔だ。
「────理想郷。この地下世界の支配権を、私は君から奪った。そしてそれは、君の能力でもある」
「ヴ……!? ヴォエエエエエエエエ!!!」
黒竜の口から黒泥が溢れ、影の手が私の方へ伸びていく。
そしてその手が止まり、私の前でゆっくりと掌を開く。
そこには能力と呼ばれる彼女の魂の一部が、宝玉のように美しく輝いていた。
「か……返せ……!! 私の……私の……力……ッ!!!」
口から泥を溢れながら、彼女は必死にこちらへ手を伸ばし近づこうとする。
しかし私は《神狼貪る縄》で彼女を拘束し、その動きを止める。
……既に彼女の能力は私が掌握しているのだが、私は悪魔だからね。
分かりやすい形で奪われたと教えることで、少しお灸を据えてやろう。
私は四肢を拘束され身動きが取れなくなった彼女にゆっくりと近づき、彼女の能力が込められた宝玉を右手に持ちながら声をかける。
「今まで君は何人の混血の命を、未来を奪ってきた?…………数百?数千?数万?……それ以上か?」
私の言葉に顔を青ざめながら震える黒竜。
絶対的な自信の表れであった能力を奪われ、身動きを奪われた彼女の心は絶望に染められていた。
「……君は少し奪いすぎた。“強欲の悪魔”に目をつけられるほどに、ね」
そして私は右手で掴んでいる宝玉を彼女の目の前で砕く。
破片はそのまま私の身体へと集約し、取り込まれていく。
その様子を見て悲痛な叫びをする彼女を前に、私はもう一つの権能を発動する。
「剥いで素材にしようと思ったが……やめてあげよう。君は少し、自身の能力で反省した方がいい」
私は震える彼女に向かい、悪魔の右手をゆっくりと近づけ言う。
「【強欲の右手】────【死者の楽園】」
強欲の右手。
左手で奪ったものを使用する権能だ。
私の身体から負のオーラが溢れ出し、黒竜の身体を包み込んでいく。
「やめろ……やめ……ぁぁ……ぁぁぁああああああああああ!!!」
アメラは必死に抵抗するも、その不死の身体は自身の凶悪な能力に蝕まれ、徐々に私の支配下へと落ちていく。
彼女が負のオーラに侵食されていく様子を眺めながら、私は屋敷で待っている少女のことを思い浮かべ、小さく呟く。
「…………同じ混血だ。殺したら、あの子が悲しむかもしれないからね」
黒竜を完全に支配下に置いたことを確認した私は、少女の待つ屋敷へと帰っていった。
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