PRESENT

浅倉優稀

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#2

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 ブリリアント社では、昼休みは12時から1時までの1時間だ。
 ブリリアント社の食堂は少し変わっていて、社員以外でも利用が可能だ。
 製薬会社の食堂という事もあり、カロリーや塩分などにも気を使っている健康食をメニューに取り入れているため界隈では有名になり、ワイドショーでも取り上げられた。
 そのため、お昼に限り、社外の人間にもサービスを行っている。
 フロアの人間も一斉に食堂へ流れるため、どの階のワーキングスペースもこの時間だけはシンとする。
 そんな中、桜井は部屋に残って書類を仕上げていた。
 昼食をとる暇なんかなかった。朝、出勤するなり聡樹から内線が来て、至急資料を作れと来たものだから、それにずっとかかりっきりだ。
 他の同僚や先輩社員から「ほかの業務も抱えているんだし、どだい無理だって」と口々に言われた。
 聡樹がこんなふうにいきなり仕事を頼むのは常で、そのたびに指示を受けた社員たちは、仕事の優先順位を見たうえで、早々に聡樹に「少し遅れます」と連絡を入れていた。
 実際、聡樹もその辺は現場の仕事量を予想し、自分がそれを飛び越えていきなり話を割り込ませた自覚があるようで、「だろうなぁ、難しいよな」と少しの遅延はあっさり容認してくれるのだ。
 先輩社員はせわしなく手を動かす桜井を見かね、缶コーヒーを手に桜井を見舞い「休めよ」と注意する。
「桜井、いいから飯を食って来いよ。昼休み終わっちゃうし、ここでいったんリフレッシュしないと仕事効率が落ちるぞ」
「お気遣いありがとうございます。でも2時までにこれを社長に届けないと」
「コーヒーを飲むくらいの時間はあるだろう? 5分でいいから休憩入れろ」
「この書類さえ出してしまえば、あとは少し余裕ができますので、その時にまとめて休憩を取らせていただきます」
 桜井は先輩社員にコーヒーと気遣いの礼を述べ、また作業へと戻る。
 あと少しで終わりそうだが、それでももう少しかかる。聡樹が提示した時間は午後2時。
(早く、早く終わらせないと)
 気ばかりが焦る。ぼやける目を必死に見開いて、目薬をさしながらディスプレイと格闘するも、肩が首が重怠く、頭痛まで現れた。
 いつものことだが、頭痛が出ると吐き気がしてくる。
(いけない、薬飲まないと)
 無意識に右手がディスプレイ脇に置いてある解熱鎮痛剤にのびる。
 だが、箱を掴んだその手が、誰かにがしりと捕まれた。
「え?」
 驚いて自分の手を掴んでいる人物を仰ぎ見ると、そこには相変わらず不機嫌そうな顔の綾樹が立っていた。
 鍛え抜かれた肩幅の広い体躯、高層ビルとか、日照権の侵害とか揶揄される身長、そして不機嫌が服を着て歩いているという仏頂面が、さらに眉間に皺を刻んでいる。
 いつにもまして機嫌が悪いようだ。
 こんな綾樹と出会い頭で目が合ったら、心臓が止まりそうな恐怖と、痛くもない腹を探られるどころか、捌かれる気分になるだろう。
「あや……いえ、副社長。どうしたんです?」
「副社長」と桜井が言ったのを機に、昼休みでダレ気味のフロアに一気に緊張が走り、全員の視線が桜井に集中する。
「副社長、何か御用でしょうか?」
「用がなければ来てはいけないか?」
 綾樹は地を這うような低い声で返事を返してきた。今日は声までなにやら不機嫌だ。
 入社2年目の副社長は、すでに社内で恐怖の対象となっている。
 当初は跡継ぎでそのポジションに着いただけの役立たずと陰口も叩かれていたが、文句を言う輩に対しては、仕事できっちり成果を出して黙らせてきたので、誰も綾樹のことを「ボンボン2世」などと言わなくなった。
 さらに綾樹は完璧主義だ。聡樹のように簡単に仕事の遅延を容認してはくれない。ついたあだ名は「鬼より怖い副社長」だ。
 それがリラックスタイムのワークスペースにご降臨あそばされているのである。
 まだ昼休みは終わっていないのに、そこにいた全員が姿勢と襟を正し、慌てて書類を見たり、PCを立ち上げたりと「仕事してますモード」に切り替わり、食堂から戻ってきた社員も緊迫したオフィスの雰囲気の原因を見るやいなや、さーっと自分のデスクに戻って姿勢を正しつつちらちらしている。
 社員達はみな『なんで鬼がここにいるんだ』『いったい桜井はなにをやらかしたのか』とビクビクしながら様子見だ。
 綾樹はオフィスをぐるりと見渡し、無理に仕事をする社員らに「私のことは気にするな。昼休みはまだ終わっていない。のんびりしていてくれ」と告げ、桜井の手からスッと鎮痛剤を取り上げた。
「あっ!」
 桜井は取り返そうと手を伸ばすも、綾樹が頭の上に手を挙げたものだから、桜井の手が届かない。
「鎮痛剤は薬だ。お菓子のように飲むものじゃない」
 その箱を桜井の耳元でからからと軽く振りながら、綾樹はため息をついた。
「なんて顔で仕事してるんだ。その様子では昼食も食べていないな?」
「聡樹社長からの急ぎの仕事です。2時までに終わらせないといけないので」
「あの人は物事を気軽に頼む癖がある。その仕事は、おまえが昼食をとるのも許さない程の業務なのか」
「時間が決められている以上、その時間内に終わらせるのが私の責任です」
「体調管理も仕事の内だ。そんな態で勤務させられない」
 綾樹はそういうと、桜井の腕を強く引っ張った。
「立て、桜井」
「……」
 機嫌の悪さもピークだ。まるで刑事ドラマの悪人が人質に脅しをかけるかのごとくの命令形。
 こんな時の綾樹は何も言っても聞いてくれはしない。
 桜井が渋々席を立つと、綾樹はオフィスの奥でこの様子をビクビクと見守っている課長に声をかける。
「桜井を暫く借りるぞ。構わないな?」
 よく通る低い声が、こそこそ様子を見守る課長を直撃し、彼はびくんっと体を震わせる。課長からすれば、綾樹など自分の息子くらいの年なのに。
 人間、年を取ると『守るもの』が多くなる。
 課長も次期社長相手に面倒ごとは避けたいのだろう。
「ええ、ええ、どうぞ。ほら桜井君、綾樹副社長の指示に従って」
 ほらほらさっさといけと、課長は両手で押し出すようなしぐさをする。
「桜井、付き合ってもらうぞ。来い」
 そのまま綾樹に手首を掴まれて、オフィスを引きずり出される。
 これで聡樹からの仕事は完全に間に合わない。
 しかし、綾樹に捕まれたこの手と、桜井を心配してくれている綾樹の気持ちが嬉しい。
 不謹慎にも、仕事を片付けられない申し訳なさよりも、綾樹と一緒にいられることで心が浮き立ってくる。
(しかたない、あとで社長に連絡を入れよう……)
 桜井は綾樹に引きずられるまま、黙ってついていった。

*****

「乗れ」とは言われたものの、綾樹は助手席のドアを自分で開けると、桜井の腕を掴んだまま、車の中に無理矢理おしこんだ。
 黒い高級車レクサスにエスコート…というよりは、誘拐か拉致に近い扱いみたいだと言おうとしてやめた。
 綾樹の機嫌がここ最近ないくらいに悪い。
 おそらくその原因は桜井なのだろうが、なぜ綾樹を怒らせたのかわからない。頭痛薬を飲み過ぎたのが理由か? 
 いや、それなら叱責されたから、すでに問題は解決されている。
 では、何が?
(ーーとはいえ、綾樹は教えてくれませんよね)
 桜井の心配をよそに、ばたんと綾樹は荒々しくドアを閉めた。桜井がシートベルトを締めるのを確認し、綾樹は運転席へと回る。
 シートに乗り込むと、綾樹は「ちょっと待ってろ」といい、エンジンをかけながらスマートフォンを取り出した。
 形のいい指が2、3回ディスプレイの上をすべり、いきなり車内に呼び出し音が響く。どうやら綾樹は電話のスピーカーをオンにしているようだった。
 わざわざ会話の相手を桜井に知らせなければならない必要があるのかと訝しんでいると、きっかり3回の呼び出し音の後、相手が電話に出た。
『綾樹、どうした』
 その声は綾樹の父で、社長の聡樹だ。
 桜井の心臓が驚きに跳ねた。しかも綾樹は怒っている。
(まさか鎮痛剤の件を、聡樹社長に言いつけるつもりですか、綾樹?)
 この状態で聡樹と会話なんて……もう険悪な状況しか想像できない。
「どうしたもこうしたもない。あなたは桜井に何の仕事を頼んだんですか」
 言葉こそ丁寧だが、綾樹が不機嫌を隠しもせずに聡樹にきつく当たる。
『あー、新製品に関する資料をまとめといてくれと頼んだぞ。進捗を知りたかったからな』
「それは2時までに上げないと困る案件か」
『いや、恭司君にも仕事があるだろうから、上がればラッキーくらいの希望的観測で時間を切った。もしかして恭司君は仕事が立て込んでいるのか? 遅れるなら遅れても別に――』
「そんな安易な考えで、忙しい桜井に適当なことを言うな!!」
 聡樹にすべて言わせず、ついに綾樹の怒りが爆発する。もともと機嫌が悪くなると、怒り出すまでは瞬間湯沸かし器よりも速い。怒りの千本ノックを言葉にして聡樹にバンバンぶつけていく。
「おかげで桜井はろくに休みもせずに仕事をしている。あなたが2時までなんていうから、昼食もとらずに業務をやっているぞ。だいたい資料なら私に頼んだらいいじゃないか。なんでいつも桜井に無理をさせる! あなたはいつもそうだ!」
 ひやひやするのは桜井の方だ。社長と次期社長が自分をめぐってケンカを始めた。
 聡樹と綾樹が些細なことでぶつかるのは常だが、そこの原因に自分がいるとなると、なんともいたたまれなくなってくる。
「副社長、そんな言い方は聡樹社長に失礼ですよ」
 桜井が小声で戒めると、綾樹はスマホを握ったまま、ランスのごとく鋭い視線で桜井を一瞥する。
 ああ、今日もその鋭い視線がたまらない。
 桜井にはその端正で険しい顔も、恋する心をひと突きにする甘い錯覚を覚えるのだが、おそらくほかの人間が見たらその場にへたり込むか、モーゼのように人の海が割れ、綾樹の前に道ができる。
 レッドカーペットのかわりに、怒りの炎で真っ赤に燃え盛る地獄の道が。
「桜井は黙ってろ。それに副社長と呼ぶなと言っただろう!」
 今は社外なんだから綾樹と呼べと、会話の合間に桜井への場外ホームランを打つことも忘れない。
 だが、今度は聡樹から攻撃が飛んでくる。
『おまえの今の立場は副社長だろう? 恭司君は間違ってないぞー。まだ勤務時間だし、適当なことでは困るなぁ。特に公私混同は。なあ? 綾樹ふ・く・しゃ・ちょ・う』
「ぬあっ……!」
 聡樹がくすくす笑いながらツッコミを入れてくる。肩書のところの言い草は大げさな音階とリズムをつけ、まるで生意気な小学生男子だ。
 聡樹は怒った綾樹をからかうのが好きらしく、よく社長室で綾樹が言い負かされて唇を噛んでいる光景を見る。
 聡樹ほど頭が柔らかくないので、「おまえのかーちゃん、でーべそー!」的な事を言われても、とっさに気の利いた言葉で言い返すことができないのだ。
「副社長……?」
「……うるさい桜井」
 桜井が呼び掛けるものの、綾樹は黙って身体を震わせ俯いた。
 まるで地獄の魔王が本性を現したかのごとく、怒りのオーラが噴き出しているのが、桜井には見えた。
 聡樹と綾樹は実の親子、顔は恐ろしいほどよく似ているのに、性格は驚くほど正反対だ。
 聡樹はユーモアのある考え方やフレキシブルな動きをするが、綾樹ときたら慎重に慎重を重ねる気難しいタイプだ。
 聡樹のように物事をあまり楽観的にはとらえないし、何事にも「適当」という事を嫌う。
 会社の実権を握る人物なのだから、すべてのことに正確を求めることは悪いことではないのだが、綾樹の場合は極端すぎる。
 聡樹が綾樹を飛び越して桜井に物を頼むのは、息子よりも柔軟性があるし、仕事が早いからに他ならない。もちろん、綾樹は綾樹で忙しいから、その負担の分散もあるのだろう。
 とはいえ、綾樹に任せていたら、新製品に関わる全部署に鬼レベルの途中経過チェックとダメ出しを入れ始める。
 結果、状況を知りたいだけなのに、無駄に時間がかかる。
 だが、一生懸命「副社長」であろうと必死の綾樹に、まだそんな心の余裕がないのも現実だ。
 綾樹は俯いたまま、背中が波打つほどの大きな深呼吸をしている。
 それが綾樹なりにささくれを通り越し、サボテンになってしまった心をリセットする方法なのだろう。
「とにかく、桜井はこれから私の用に帯同してもらう。桜井に頼んだ書類はあきらめてくれ」
『綾樹、どこに行くんだ。帰りにコンビニでシュークリームを――』
 聡樹がなにやら言っていたのを完全無視し、綾樹は電話をそのまま切る。
「時間が伸びてしまった。桜井、行くぞ」
「どこに行くんです?」
「……」
 綾樹に訊いたが、彼は黙したままだ。どこに行くのか、何をするのか。
 車が走り出す。暗いガレージから出ると、晴天の陽光が桜井の目を刺して、その眩しさに思わずぎゅっと目を閉じた。
 いつもなら自分の車なんて出さないし、どこかに行くときは運転手付きの社用車なのに、いったいどうしたことか。
 エンジン音よりもロードノイズが大きく響くだけの車内、FMラジオで流れている曲は「帰らせないよ、朝が来るまでは」なんて歌っている。
 まさか本当に朝まで帰らせない気ではないだろうが、それにしたってどこに行くのかくらい教えてくれてもいいじゃないか。
「副社長、いったいどこに」
「副社長はやめろ。今は会社じゃない。綾樹でいい」
「しかし勤務時間中ですよ。いくら私とあなたが友人とはいえ、特段用がなく職場を開けるのは……」
「用があるから付き合わせているんだ。おまえは黙ってこれでも食べてろ」
 綾樹はジャケットの内ポケットから小さな袋を桜井に投げてよこす。
 それはブリリアント社の食堂で売っている手作りのシナモンドーナツだ。
 食堂のお姉さん手作りのこのドーナツは、おからでできていて一口サイズ、甘さも控えめ、それなのに満腹感があるので、社員たちが仕事の合間のおやつによく食べている人気の逸品だ。好き嫌いが分かれるが、シナモンの香りは気分を爽快にさせるし、ほんのり甘い砂糖が絶妙の量でシナモンとよく合うから、桜井も好んで食べていた。
「副社長、これ……」
「おまえがそれをよく買っているのを知っている。好きなんだろう」
 わざわざ綾樹は桜井のためにドーナツを買いに行ってくれたのだろうか。だとしたら昼食タイムで人がごった返す食堂は、綾樹の登場でザアッと人の列が左右に割れ、リアルモーゼのごとくなっただろう。
「甘いものは気分をリラックスさせる。私に遠慮せずに食べなさい」
「でも車の中では……」
 黒で統一された、ごみひとつない車内にシナモンの香りと砂糖の欠片を落とすのはなんだか申し訳ない。
「あなたの車は特にきれいだから……お気持ちはありがたいのですが、これは帰社後にいただくとします」
「私がいつ戻るのか、わかっているのか?」
「え?」
「このままおまえと、あてのないドライブと洒落込んだらどうする? それまで空きっ腹を抱えているつもりか」
「ですが……」
「昼食を食べていないだろう。何も食べないのは良くない」
 綾樹の眉間の皺が深くなる。だがすぐに「あ、なるほどな」と何かに気付いたようだ。
「そうか、ドーナツなんだから、手が汚れるのがイヤなのか。……どれ」
 綾樹が左手をジャケットの内ポケットに入れ、なにやらごそごそしている。
 不意に前の車が急停止した。瞬間、ポケットの左手が瞬息で桜井の前にのび、ストッパーとなって桜井の身体をガードする。
 身体が前に飛び出るほどの衝撃ではないが、大切に扱われているようで、その気遣いがとてもうれしい。
 社内で恐れられる鬼の副社長は、こんな風に何気なくいろんなことを気遣ってくれるのだが、常に不機嫌が服を着て、隙あらばいらだちを弾にしたミサイルを発射してきそうなので、その優しさがなかなか伝わりにくい。
 加えて本人も不器用だから、思いを人に伝えるのがとてつもなく下手くそだ。
 子供のころからずっと綾樹と一緒にいたから知っている。その優しさに触れるたび、桜井は綾樹にときめいてしまうのだ。
 子どもだった二人も大人になった。
 綾樹は責任を任される立場になって、ますますその男ぶりに磨きがかかってきた。
 子どものころの感情は、いつしか大きくなり、綾樹のそばにいるほどに幸せを感じている。
 自分がともに歩いていくひとは綾樹だと決めた。
 心臓が感激に鼓動を速め、その分の血と熱が桜井の顔に集中する。
――好き。
 笑顔ひとつなく前を見据えるこの人は、隣にいる桜井の気持ちなんかきっと知りもしないのだろう。
 綾樹は何というだろうか。
 今ここで、桜井が綾樹のことを好きだと言ったら。
「……急停車とはあぶないな。桜井、大丈夫か」
「ええ、私は平気です」
「そうか、びっくりさせてすまなかったな」
 綾樹はふうと安堵の息をつくと、また左手でジャケットの内ポケットを探る。
「ああ、あった。ほら桜井。これを使うといい」
 ぽんと桜井の手に投げてよこしたのは、かわいいピンクのキルトで作られたケースだった。
 そのケースには、かわいいうさぎがにんじんを食べているアイロン圧着のワッペンが貼られていた。既製品なのはそこだけで、そのほかの部分は手作り感満載だ。
 ところどころ縫いあわせがずれていたり、縫い目が荒れているところもある。
 とはいえ、綾樹にしてはずいぶん女性らしいものを持っている。毎日顔を合わせているが、綾樹に女の影は感じなかったのに。
「綾樹、これは?」
 勇気を出して聞いてみる。綾樹は「ああ」と言ってそのケースを指さした。
「ウェットティッシュのケースだ。食べた後にちゃんと手指を拭けるだろう? いいから早くドーナツ食べてしまえ。目的地についてしまう」
 違う、そうじゃない。桜井が聞きたかったのは、このかわいいケースをどうやって手に入れたのかという事だ。
 ひっくり返したり、傾けたりしてケースを眺める桜井を、綾樹が咎める。
「そんなにケースばかり見るな、恥ずかしい」
「気になりますよ。こんな女性が好みそうなものをあなたが持っているなんて。しかもとてもかわいいデザイン。ちょっと意外に思ったもので」
 桜井が返すと、綾樹はその答えを教えてくれた。
「それは私が縫った。なかなかよくできているだろう? 手仕事をすると、夜よく眠れるんだ」
 最近は縫物が好きでなという、鬼の副社長の新しい一面に、また桜井の心がきゅんと震えた。
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