何年経っても、『月がきれいだね』とは言えなくて

Miru

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第三話

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それからというもの、帰る時は基本的に昨日読んだ小説の話になった。

幸い、通っていた高校に毎朝30分の読書タイムなるものがあり、受験生ながらも読み進めることができた。

南『うぃー!最近竹内と仲良くね?なんかあったの?』

久しぶりに学校の廊下ですれ違いざま、南は興味深々だった。今日もテンションが高い。

僕『別に...なにも。一緒に勉強してるだけだけど。国立行くの僕と竹内しかいないし。お前、私立で数学と物理だけだろ。国語ねーじゃん』

南『受けたくないから戦略的に絞っていると言え!!!』

僕『はいはい、わかったわかった』

南『同じ大学行こーとか言うなよぉ~』

僕『んなわけ、、、じゃあまた夜な』

やけにニヤニヤしていた。
後から聞いたが、塾で噂になっていたらしい。

竹内『おーい!君!数列のここ教えて!』

僕『あー、はいはい』

竹内『今好きな女の子のこと考えてたでしょ!』

僕『うるせーよ...』

いつもファンタジーな竹内が、今日はいつにも増してテンションが高かった。

僕『なんかいいことあった?』

竹内『今日、日本史の授業で素敵な話を聞いたの』

僕『うん、なに?』

竹内『明治維新の時代にね、英語とかいろんな外国語が翻訳されたんだって。そしてね、当時の日本語では『愛』を動詞にできなかったみたいで。Loveが訳せなかったんだって。』

僕『あー、夏目漱石?』

竹内『えー、つまんない、なんで知ってるの!?えー、、、つまんない。。。うん。月が綺麗ですね。の話』

僕『I love youを今宵は月が綺麗ですねって訳したってね。ちなみに今夜は満月よ』

竹内『全然ロマンチックじゃないし、おもしろくない。』

意外とこういうところにキュンとくるのね。と感心した。

その日の帰り

竹内『問題です。』

僕『デデン!どうぞ』

竹内『さっきの流れで答えを先取りされていた竹内の気持ちを記述しなさい』

僕『知らねー、怒ってんの?』

竹内『ほら、だから国語点数取れないんだよ』

ふむ、まあ一理あるけどめんどくさい。

僕『でも今夜は本当に月綺麗だなあー』

竹内『え、なにそれ、意識してる?』

僕『してないわ、してたらおかしいだろ。じゃーな』

竹内『えー、つまんない。おやすみ!』

内心は少し、ドキドキしていた。

そうこうしている間にあっという間に試験まで100日を切り。
季節は早くも冬に入ろうとしていた。
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花雨
2021.08.09 花雨

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