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 年末は仕事が忙しくって、仕事部屋の掃除まで手が回らなかった。
 もう年は越してしまったけれど、この部屋こそ一年の埃を落として新たな気持ちで仕事を始めたいと、私は遅ればせながら雑巾を手にする。
 まず本や小物が並ぶ棚を乾拭きで。
 黒々としたディルドを手に取って、私はそれを慎重に拭いていく。
 これはイラストを描く参考資料に購入したものだが、上下にコスコスと拭き上げているとなんだか変な気持ちになってきた。しかし変な気持ちになっている場合ではない。掃除だ、掃除。

 私は磨かれて艶やかに光るディルドを棚に戻すと、今度は本の整理を始めた。
 この棚にある本は主に私がイラストを手がけた小説や雑誌などである。
 本の高さに合わせて並べ替えていると、以前自分が手がけたイラストがつい気になって私は小説のページをめくってしまう。
 もちろん官能系イラストレーターである私が手がけた小説は大人向けだ。
 ページをめくったその瞬間から、私は団地妻を次々と誘惑していく巨チンのセールスマンの魅力にとりつかれ、小説を読みふけりだした。団地妻は二十歳の若妻から金髪外国人妻までバラエティーに富んでいて、ベランダでプチ青姦などはなかなか興味深い。
 なるほど、外国人女性は「ああん」という代わりに「オーイエス! シーハー」と言うのか関心していると、またまた変な気持ちになってきた。

 変な気持ちというか、はっきり言えばムラムラしてきた。
 掃除中だというのに奔放なスケベ魂が私の下半身を刺激し、奥から潤いが湧き上がってくる。
 こんな時に役立つのは私の専属エロピストであるキョウ君なのだが、彼は本日タガワFCの新年会に出かけておりまだ帰宅していない。
 もう、一人で悩ましい股間をモジモジさせて掃除に励まなくてはいけないなんて、お正月からとんだ災難だ。

(キョウ君早く帰ってこないかな……あ、でも帰ってきてもお酒飲んでるからエッチだめかも……)
 できないと思うとシたくて仕方がない。もう掃除どころではなくなった。
 この部屋には資料で集めた大人のおもちゃがたくさんあるのだ。
 時々キョウ君と二人で使うけれど・、本来はこういう時に一人で使う用途のはず……。
 私は引き出しを開けてると対戦相手を吟味しだした。
 ヤるかヤられるかの真剣勝負。
 私はパッションピンクの三点攻めバイブ氏を相手に選び抜き、除菌ティッシュで彼を清めるとスイッチを入れた。

 ヴゥー…ウィン…ウィン。
 高性能バイブの動きは卑猥でありながら滑稽で、なんだか笑いを誘う。
 しかし笑っては真剣勝負に申し訳ないと、私は顔を引き締めてショーツを潔く脱いだ。
 さっそくブルブルと震えるバイブ氏を秘丘の上に押し当てる。
 ブッ・・・・・・ブブッ・・・・・ブブブブッ
 私のアンダーヘアの中でもがき苦しむように、バイブ氏は体を震わせ続ける。
 敏感な部分が刺激され気持ちいいのだが、どうもさっき読んだ金髪人妻の喘ぎ声が頭に残っていて集中できない。外国人は本当にあんな風に喘ぐのだろうか? 
 確かにイエス!な感じはポジティブで、快感を受け止めるのに向いているのかもしれない。
 ものは試しだ。

「オーイエス! カモン、カモンベイビー! シーハー」
 
 それは一人で金髪美女風に乱れてみた時だった。
 玄関でドアを開錠した音がしたと思ったら、「ただいまー」と聞きなれた声。
 ここにただいまと帰ってくる人は一人しかいない。
 音速でパンツを上げ、高速でバイブを椅子のクッションの下に放り込んだ瞬間、キョウ君の可愛い顔が仕事部屋のドアから顔を出す。

「お、おっかぁえり!」
「……ただいま……」

 ヴゥー……ウィン……ウィン……ヴゥー
 椅子のクッションの下で3点攻めバイブ氏までキョウ君にご挨拶である。まったく無用な気遣いだ。
 スイッチ切り忘れた私が悪いのだけれど。

「タミちゃん、ヤっていたね」
「……えっと、動作確認をちょっと……ぁ」

 キョウ君は遠慮の無く私のスカートの中に手を入れると、股の間に長い指を差し込んで恥丘の奥を一撫でする。
 彼は指先にたっぷりと光る透明の液体を私の目の前に示すと、「タミちゃん、ヤっていたね」と再度確認してきた。
 下着を着けていないので、これで掃除をしていたら変態でしかない。
 私は頷くしかなかった。しかし金髪美女風に喘いでいたのは墓まで持っていく秘密だ。

「自分でするときは俺の前でヤって。もったいないじゃん」
「……はい」

 そうキョウ君に言われてちょっと意味が分からなかったけれど、罪悪感があった私は素直に返事をするしかなかった。
 そんな私を慰めるようにキスをくれたあと、彼は自分のTシャツを匂って「クッサ」と顔を顰めた。
 臭くはないけれど、確かに新年会は焼肉屋さんだったので焦げた肉の匂いがする。
 躊躇いなくTシャツを脱いだキョウ君は、盛り上がった背筋を曝しつつバスルームに向かって行く。
 私は彼の背中を反射的に抱きしめていた。体が勝手に動いたのだ。

「? ……一緒に入る?」
「ううん、ハグハグしたかっただけだから」
「あ、ハグハグ足りなかった?ごめん」

 キョウ君にギューっと抱きしめてもらいつつ、私は彼の匂いをクンカクンカ。
 焦げた肉の匂いとキョウ君の匂いが混じって、なかなか食欲をそそられる香りに仕上がっていた。

「そういえばタミちゃんの実家から送ってもらった“千代の光”ってまだ残っていたっけ?肉とビールばっかだったから、ちょっと飲み直したいかも」
「“千代の光”もあるしお正月用に買った“久保田”もあるよ。飲み直すなら、キョウ君がお風呂入ってるあいだにアテでも作ろうか?」
「うん、タミちゃん大好き」

 キョウ君はチュッと大きな音を立てて私にもう一度キスをくれると、バスルームへ消えていった。

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